二井県政は県1漁協合併をごり押ししたが、その結果山口県の沿岸では、漁業破壊が一気に進んだ。県漁協支店とされた旧漁協は財産を巻き上げられた上に軒並み赤字を計上、漁業権の売り飛ばしが広がっている。問題は自民党林派による信漁連の預金食いつぶしであったが、県一漁協合併はそのような問題のない全国各県でもやっている。県一漁協合併をすすめた力は、ヤクザも顔負けの権力の力であったが、それは水産国としての歴史をともなってつくられた漁業権制度を、外国並みになくしてしまえという外資、大資本が要求する規制緩和・自由化の政治であることを教えている。小泉政府は、農業とともに漁業もつぶしてしまう政治を意図的に実行しているのである。それは農漁民の生活の問題だけではなく、食糧生産を破壊してしまって、飢餓になりたくなければアメリカのいうことは何でも聞かせるという飢餓作戦であり、日本民族全体の問題である。山口県の漁協合併問題は終わったわけではなく、問題山積となって矛盾はますます鋭いものとなっている。漁業を守る漁民のたたかいは全民族的な支持と共感を得て第二段階にはいっている。
参加漁協の浜は無惨な荒廃
「経営基盤強化」といって誕生した山口県漁協だが、発表された決算は赤字続出で、漁業どころでない状況に直面している。浜では、先行きの厳しさに恐怖して逃げ出す役員もいる。県東部では旧漁協が所有していた土地を売却したところもある。響灘は砂を売って海底にはヘドロが堆積し、元も子もない方向へ突っ走りはじめた。
死亡した組合員の出資金払い戻しにまで本店から待ったがかかった状態で、県漁協の体質は「漁民の金はオレのもの」状態。80万~100万円もの増資を強要され、途方に暮れる組合員が山ほどいる。応じないなら漁業許可を取り上げるといった圧力まで加える始末だ。次に負担がくるなら暴動すら起きかねない怒りが、狭い漁村のなかに充満することとなった。
2、3年前と比較して組合員が半減した支店(旧漁協)は一つや二つではない。平成14年末の段階で正組合員が188人いた宇部市床波では、ばっさり減って60人程度になった。隣接の東岐波支店は正組合員が19人になった(平成14年末は43人)。旧妻崎漁協を吸収した藤曲浦(平成14年末は39人)も20人割れ寸前。阿知須や山陽小野田市の厚狭、周防大島町の日良居も20人程度。豊北町は966人いたのが350人程度にまで激減。東和町では298人いたのが180人になった。
漁港には片隅でロープを垂れ、放置されている漁船が少なくない。脱退した組合員の漁船がたくさん売りに出されている。豊北町では怒った老人が木製の小型船をたたき壊して燃やした。FRP船になると解体費用に20万~30万円はかかるため、ローラーや漁具などをセットにして、無料で引き取ってもらっている。
大島海域のゴチ網漁師は、3000万円かけてつくった船を150万円で売った。1250万円したローラーをつけても、その値段にしかならなかった。一本釣りをしている父親は1000万円かけた船を75万円で売った。別の一本釣り漁師は800万円かかった船を38万円で売った。「売れる船はまし。ほとんどが売れないのだ」という。仲間漁師から「売って欲しい」と依頼されるが、2、3隻売れずにいる。
宇部市床波の漁師は、北九州苅田の漁師にただ同然で譲った。オート機械やローラー、潜水機まで一式を「くれてやった」。それぞれ愛着と思い入れのある「○○丸」を手放すのは、漁業との決別を意味するものだ。家が一軒建つほどの投資をして、いざ処分するときになると二束三文にしかならないことに、悔しさをにじませた。まだまだ働ける人人、漁業技術をもったベテランが、信漁連の尻拭いに耐えかねて陸へ上がったのである。
参加漁協の浜の無惨な荒廃は、罪深い漁業破壊政策の姿そのものである。有明海をつぶし、瀬戸内海をつぶし、漁業者が悲鳴を上げるまで輸入魚介類を溢れさせた挙げ句に、最後的にギロチンする攻撃が加わったことを物語っている。
経済障壁崩す体制 漁民食いつぶす漁協出現
県の強権で発足した県漁協は、漁民の協同組合ではなく、組合員が負担倒れしても容赦しない、漁民を食いつぶす漁協の出現となった。采配を振るうのは従来の信漁連・県漁連の幹部職員であって、役員人事も二井県政がイニシアティブを持つ。漁業者の声はいっさい届かないのだと、浜のみんながいっている。
ところが県一漁協合併は、全国まれに見る信漁連問題を抱える山口県だけではなく、その後、日本全国で県一漁協構想が動きはじめている。県内の関係者にも相談の電話がかかってくるほどだ。信漁連の欠損金問題は合併させるための道具であり、本当の目的は別のところにあったわけである。
信漁連の赤字を引き継いだ山口県漁協は、単年度の赤字と引き継がれた累積赤字を消すために、「雑収入(補償金)を手に入れるためならなんでもする」構図が強いられた。剰余金まで奪われたから、なおさらである。困窮した経営につけこんで海を売り飛ばさせる。しかも浜の発言権は抑えこまれ、紙切れ一枚で漁業権放棄などの案件が容易に決められていく体制ができた。
瀬戸内海側の漁協役員は「この海はわたしら漁協が頭を縦に振らなかったら、大企業などは何もできない。だから企業の担当者が組合に足を運んで、頭を下げて、迷惑料を支払ってきた。合併の狙いは、アメリカなりよその国のように、漁業権を好きなようにしたいという願望が背景にあると思う」と語る。長年企業と渡り合ってきた経験から、ヒシヒシと感じるのだ。
企業との間でなにか問題が起こると、必ず補償金問題が発生する。沿岸開発をする側からすれば、そこで漁民が操業し、生活していること、結束して抵抗してくる協同組合の存在が煩わしくて邪魔なのである。上関原発計画などは典型例だ。まさに漁業権開放論者の側(大企業が歴史的に主張してきた)から漁業法を外国並みに規制緩和、構造改革することを国策として実行しているのである。
瀬戸内海側の関係者のなかでは、とりわけ漁業権への危機感が大きく、チョコレート色の海や、温泉海域の拡大が懸念されている。「経済障壁はグローバルスタンダード(国際基準)に習って、取っ払ってしまえ」の空気を肌身で感じるからだ。中国への企業進出が流行っているが、現地では、ある日突然ロープを張って建設工事がはじまるとかの例が、大企業担当者を経由して真顔で語られる。有明海のように没収された海は二度と元には戻らない。
拍車かかる魚価安 国内生産破壊し輸入増やす
漁業は歴史的に安い魚価、高い燃費や資材や金利などでさんざんに破壊されてきたが、現在の漁協合併、協同組合解体は、漁業権制度を突き崩し、漁場を二度と回復できないよう最後的につぶしてしまうというものである。
漁民を苦しめている要因の一つは安い魚価である。それは政府によって意図的に引き下げられてきた。
今春、世界貿易機関(WTO)閣僚会議において、農産物の関税率を75%以下に抑える上限関税導入がクローズアップされたが、水産物になると日本に入ってくる魚介類に対する関税率は極めて低く、平均四%。物価などまったく違う他国の漁業と競わせて「国際競争」といっている。自国漁業生産者を保護するための関税をかけさせず、自由貿易などといって、「低関税にせよ」とか、「撤廃せよ」などというのは、関税自主権を放棄せよというのに等しい。
さらに流通が構造的に変化したことが響いている。規制緩和でぞくぞくと出店した量販店が商社とつながって輸入魚を売り捌くシカケとなった。大店法撤廃が追い打ちとなった90年代に入って、産地価格は大暴落してきた。下関の仲買に聞くと、東京・築地市場には㌔250円の養殖鯛が出てきているという。かつては1000円はしたものだ。高級魚だったオコゼは、一昔前にはトロ箱一杯2万円していたものが、いまは3000~5000円程度。
日本中の行政がナショナルチェーン・量販店の要望にこたえて市場統合をすすめるなどして、浜値は10年前の3分の1以下に押し下げられた。輸入魚が関税もかけられずに野放しで入っている一方で、漁師はいくら魚をとってきても安く買いたたかれて経営が立ちゆかず、中小の仲卸や小売鮮魚店は、地場流通の大激変に直面して淘汰されていくばかりとなった。
ちなみに、欧米などでは生産者の所得保障をし、手厚く自国の生産活動を保護している。アメリカでは年間3兆円もの助成金を出して、市場価格が目標価格(基準額)よりも落ちた場合、不足分を税金で補って第一次産業を保護するやり方をとっている。このような保護政策は日本国内ではいっさいやられていないし、知らされていないのが現状。
政府は意図的に輸入魚を増やして国内漁業を破壊する政策をとってきた。世界最大の水産物輸出国であった日本は、為替変動相場制(外貨の通貨交換レートが自由に変化する)に移行した1971年を境に輸入国に転じ、急速に輸入拡大を進行させてきた【図参照】。70年代後半の二〇〇カイリ体制への移行によって、国内市場を食い荒らした商社などは日本の設備、資材、技術や資本を輸出して、諸外国の安価な労働力で魚を捕らせ、逆輸入の拡大をすすめた。円高などの影響も加わっていっそうの輸入拡大が進行した。
極めつけとなったのは、1994年のGATT(関税と貿易にかんする一般協定)ウルグアイ・ラウンドの決定によってWTO(世界貿易機関)が設立されたことで、自由貿易体制の推進に拍車がかかったことだ。94年以後の水産物輸入量は、国内消費の限界300万㌧を超える集中豪雨的な数値を示す。国内の漁業生産物がなくなっても足りる量だ。金額にすると原油につづいて輸入規模第2位に位置するほど、とんでもない“ビジネス”になってきたのである。工業製品輸出による貿易黒字の代償も農水産物輸入であった。世界の水産物輸入総額の3分の1を買い占めてわざわざ国内生産をぶっ壊し、魚価安はひどくなったのである。
最後的につぶす攻撃 工業の「魚」にしたうえに
漁民が怒るのは、魚価は下がるのに、船や漁具、油などの工業製品の値は上がるばかりで、ますます借金に追われて首をしめるばかりとなり、漁師同士の競争は熾烈を極め、資源を枯渇させるばかりになっていることだ。船は木船からプラスチック船へ、網は綿からナイロンへ、エンジンは焼き玉からディーゼルへ、ディーゼルも低速から高速へ、ローラーも自動操舵機も魚探も、ロランもレーダーもといった調子で大企業は新商品を売りこむ。沖合で魚の奪い合いをする漁師は、先を争って重装備をくり返して魚を追い、陸の上では企業の工業製品の「魚」になった。
魚価が半値に落ちこめば二倍魚を獲らなければ元の収入にならず、重装備することが生存の条件となった。それによる経費増がまた数倍魚を捕らなければ首が回らなくさせ、資源先取り合戦を強めさせた。
こうして果てしもなく設備投資による借金に追われながら身をすり減らし、ヤンマーや古野電気や繊維メーカー、信漁連や銀行などを養ってきた。寝る間もないほどの過重な労働の上に、これらの企業や機関が養われ、利息や手数料などむさぼる関係であった。自民党林派はそのようにして稼いだ漁民の預金を食いつぶしたのである。こうして、漁協合併と称する漁協解体は、最後的に漁業をつぶそうというものにほかならない。政府は大企業がもうけさえすれば国は滅びてもいいのだ。
進行する飢餓作戦 米国の対日政策に根
漁業がつぶされているが、農業もつぶされ、日本の第一次産業は惨憺たる状況に置かれている。日本の食糧自給率は40%という、独立国とはいえない他国依存状態である。アメリカのブッシュは「食料を自給できない国は国ではない」と発言しているが、ブッシュは日本を「国」とは見なしていないのである。
世界各国と比較すると、異常な食糧状況は歴然と浮かび上がる。2005年のカロリーベースの食糧自給率を見てみると
フランス130%
アメリカ119%
ドイツ 91%
イギリス 74%
スイス 60%
韓国 49%
日本 40%
1965年に73%だった日本の自給率はぐんぐん落ちて、いまでは6割を輸入に依存している状況だ。世界173カ国のうち130番目。食糧危機のときに重要になってくる主要食糧の「穀物自給率」を見ると、さらにひどい実態が露呈する。人口1億人以上の主な国の穀物自給率【図参照】を比べると、ナイジェリア八四%、パキスタン九七%、バングラデシュ九七%と比較しても、日本の28%は世界の最後進国というべき状態である。
国連の調べによると、1950年に25億人だった世界人口は2000年に61億人に膨らみ、50年後には91億人になると推測されている。深刻な食糧危機が現実問題になりはじめている。何かことあれば、日本人がマネーを握りしめて世界中を食糧買い付けに奔走するほかないが、売ってもらえなかったら餓死するしかない。国を滅ぼす政治をしているのである。
この飢餓追いこみ状態は、意図的にやられているものである。それは戦時中、戦後にもやられたアメリカの食糧戦略・飢餓作戦である。意図的に食糧自給ができないようにさせ、食いたければ言いなりになれというアメリカの対日政策によるものであり、日本の独占資本集団がそれにしたがって国を売っているからである。
「クジラを食べるな」といって、イワシ、アジ、サバなどの青物を鯨のえさにさせ、狂牛病牛を売りつけるのはその典型である。「コメを食ったらバカになる」などと宣伝して食文化は欧米調の油脂系にすり替えられ、200カイリ規制で遠洋漁場を閉め出され、WTOの自由貿易拡大によって世界最大の水産物輸入国に転じ、国内漁業も農業も、その犠牲でつぶされてきた。
食料を外国、アメリカに頼るようにして、言いなりになるというのが、日本全土を米軍の核攻撃基地にしてアメリカの防波堤にされても文句をいわず、金融も経済も外資に乗っ取られるようにしていくのも、教育もグチャグチャにされるのも、食い物を握られてアメリカの言いなりになるのと深く関係している。
漁業破壊は漁民生活を破壊するという問題だけではなく、日本民族全体がアメリカに売り飛ばされるという全民族的な問題である。
山口県漁民の漁業を守るたたかいは、県漁協の発足で一応の収まりがついたというものではなく、今から矛盾は噴出しようとしており、たたかいははじまったばかりといえる。漁民のたたかいが、農業とともに日本の食糧自給を守り、民族主権を守るたたかいとして、より全国民的な問題として広がりを持って強まることは疑いない。「しっかり聞いてしっかり実行」などといってきた二井県知事が、「国のいうことだけしっかり聞いて、県民に聞く耳をもたない独裁だけしっかりやる男」として暴露されたが、県民の懲罰を受けることは疑いない。