【上関】 山口県漁協東和町支店の伊保田地区では、ゴチ網の操業禁止区域が一般組合員の知らぬうちに変更されていたことが大きな問題となっている。漁業者のなかでは、小田貞利組合長(当時)によるペテンのようなやり口に憤りが語られるのと同時に、漁協合併により、漁業権が国や県、大企業の好き勝手にされていく先例だと指摘されている。
金も漁業権も奪う合併
今月初め伊保田の漁業者は、ゴチ網漁船が禁止区域内で堂堂と操業をしているのを見つけビックリした。急いで山口県や県漁協などへ問い合わせをしたところ、「当該域は、禁止区域ではありません。解除されました」との返答。関係する伊保田と情島の一般組合員には、何の連絡もなかったことで問題となった。
禁止区域は従来、松ヶ鼻(伊保田)から倉橋島(広島県)を見通した線と、浮島から剣の鼻(愛媛県・津和地島)を見通した線の陸側だった。昔から一本釣りのさかんな海域で、伊保田と情島の湾内は全面的に保護されていた。それが、「沿岸1000㍍を基本として変更」されると、湾内までゴチ網が大きく切りこんでくるようになる。さらに漁業者からは、「線で引いたようには操業できないため、区域はもっと広がる」と指摘されている。
変更までの経緯を漁業者が調べたところ、昨年8月の合併直前に「ゴチ網の禁止区域の変更について」という要望書が伊保田地区ゴチ網代表から、東和町漁業協同組合へ提出され、事態が動き出していったことがわかった。
要望書では、伊保田地区の正組合員集会により「ゴチ網の禁止区域を沿岸1000㍍を基本として変更することが認められた」ので、役員会にはかり県知事に陳情するように、とされているが、漁業者は「誰も認めたことがない」。ただ伊保田地区の会合のなかで、禁止区域ではあるが、少しぐらい中に食いこむことは地元のよしみで黙認するという話はあったという。
漁業者の1人は「以前から禁漁区で操業することが多かった。1000㍍まで入ってもいいが、捕まっても知らないよという程度。禁漁区の変更など決定されておらずとんでもない」と説明する。ちなみに、伊保田地区でゴチ網漁をしているのは、小田貞利運営委員長(当時組合長)ら3隻だけ。すぐ隣の情島では、そのような話すらされていなかったため、勝手な変更に漁業者が怒っている。
正式な文書を公開しない県
要望書の提出以後の正確な経緯や県への陳情の内容は、漁業者が請求しても、東和町支店や県が、正式な文書を公開しないため判明していない。
伊保田地区の70代の漁業者は、「ゴチ網は、許可された区域なら県内のどこにいってもよく、タイがよくとれる伊保田に押し掛けてくれば大ごとになる。でも、漁場のことより私らが問題にしているのは、組合員の正式な同意がなく勝手に漁業権の変更などがなぜやられるようになったかだ。地位をもった一部のものが、好き放題をするようになってはいけない」と語る。
別の漁師は、「合併してから、漁師の声は漁協に届かなくなったが、従来通り、地元の漁業者の3分の2の同意とされていた漁業権まで奪われていく。“県や支店は法律に則った変更”というが、法律などは向こうが自由に操る。この付近では、岩国基地や上関原発があるが、結局合併は、金も取られたが漁業権を取ることが目的だったんだ」といった。