安倍政府が発足してから初の国政選挙となった参議院山口選挙区補欠選挙が28日に投開票を迎え、自民・公明が推薦した江島潔前下関市長が当選した。選挙は投票率が38・68%(前回61・91%)と戦後2番目に低かったことに示されるように、かつてなく低調なものに終わった。自民党本部、民主党本部だけでなく各政党が総掛かりで挑んだにもかかわらず、有権者の6割以上がそっぽを向き、どの陣営にも拒否反応を示した。このなかで、江島潔の全県での得票率は24・18%で、とりわけ安倍晋三、林芳正とともに七光りトリオのお膝元である下関での得票率(支持率)は21%にとどまった。「内閣支持率74%」(読売新聞)等等と持ち上げられている安倍代議士であるが、みずからの子分をゴリ押しして担いだ選挙で、安倍事務所が丸抱えで指揮棒を振るいながら、現実の支持率は極めて低いことを物語った。
自民党県連は45万票を目標に掲げていたが遠く及ばなかった。当日有権者数は118万9665人で投票者数は46万131人。江島潔の得票は28万7604票、民主党や野党連合が推した平岡秀夫が12万978四票、「日共」候補が2万5944票、幸福実現党候補が1万96票となった。
選挙の第一の特徴点は、投票率が異常なまでに低かったことだ。前回(平成22年)、前々回(平成19年)は60%を超えていた。それが今回の選挙では前回比で23・23も落ち込むという通常の選挙では考えられないような出来事が起こった。県下全域で同じ現象が起きており、民主党にせよ、自民党にせよ、その他の諸政党にせよ、政治に期待するものが何もない政治状況を端的に反映した。投票所に行くことすらバカバカしく思えるような心境が、広範な有権者のなかで渦巻いていることや、気持ちを代弁する政党がなく、受け皿のない空中選挙になっていることを示した。
下関での支持率は21%
地域ごとの特徴を見てみると、下関では投票率が34・27%と、これまでの国政、市政、県政にまつわるすべての選挙で経験したことがないような、記録的な低投票率を叩き出した。前回選挙における市単独の投票率が60・86%だったのから26・6も減少する異常現象となった。投票者数7万8938人に対して、棄権者数が15万1401人とおよそ2倍にも及んだ。
選挙期間中は「あんな男が国会議員に…」と市民の多くが共通の話題にし、市長時代の素行などに批判が集中していたが、最後は安倍事務所が引き締めに奔走して、かつがつ4万8802票をかき集めた。市長選の中尾市長以下の得票で、下関の有権者数から見た支持率は21%となった。なお、民主党陣営は2万906票と過去2回の選挙と比べても得票を半減させている。さらに「日共」陣営が5225票と、通常の国政選挙で基礎票としている1万2000票から7000票近く激減させている。市長選と同様に、江島与党のよしみで票を流したのか、あるいは余程支持を失っていることを物語った。
県下のその他の自治体でも、自民党陣営は大幅に得票を減らしている。これまでの岸信夫、林芳正の選挙では平均的に40万票以上は獲得してきたが、はるかに及ばなかった。ところがそれ以上に得票を減らしているのが民主党陣営で、前回選挙・原田大二郎の25万6000票、前々回・戸倉多香子の26万8000票と比べると、いかに有権者が離れていったかがわかる。宗教団体は泡沫で、「日共」陣営もこれまでの5万票台から半減させている。
批判が強いからといって、その票が民主党にも行かず、その他の陣営にも流れない。全般として、黙って選挙戦そのものを無視する有権者の行動になった。批判票の多くは民主党候補に注がれたのも事実だが、「批判勢力」の受け皿としての賞味期限は切れ、選択肢として見なす有権者が激減したのも特徴となった。政府与党ポストに就いたら消費税増税、原発再稼働、米軍再編など次次と公約破棄を連続し、有権者を裏切っていく姿に幻滅した有権者は多く、にわか仕立ての反原発、反TPPの訴えに胡散臭さだけが漂うものとなった。
いずれにしても過半数が参加せず、票を投じようと思う候補者がいない選挙であったことは疑いなく、有権者の意識を反映していないという点で、選挙そのものの無効が叫ばれてもおかしくない。これが住民投票(50%が分岐点)なら即無効扱いとなって開票すらされない、つまり「民意を反映している」とは見なされないが、国政選挙では有効扱いされ、24%の支持率しかない者が国会議員に選ばれるのだから笑えない。住民投票以下なのだ。
8時過ぎには当確が流れ、万歳をしたのが自民党・江島陣営だったが、野党勢力のおかげで辛勝することとなった。しかし選挙は、あれだけ自民党本部や県選出国会議員を動員しながら自民党の地盤も大きく崩壊をはじめていることを示した。
自民党県連内部の事情を見てみると、今回の選挙によって参議院の議席を下関が二つも欲張ることになった。7月には林芳正農水大臣の参議院選挙で、もともと補選に出馬願望があった田布施・北村教の子息は選挙区を持たない比例に回された。安倍首相誕生の過程で高村代議士は副総裁に、河村代議士は自民党本部の選対本部長にとり立てられ、首相の実弟である岸信夫元参議院議員も衆院2区を与えられ、各選挙区の親分たちが軒並み安倍体制で出世していった。その取引関係も反映して、この間の選挙では知事も衆院2区も、参院もみな安倍紐付きポストとして独占状態となり、批判世論が強すぎて下関市長を降板させられていた江島潔の擁立も安倍代議士の一声で決まった経緯がある。
補欠選挙は安倍政府が発足してから初の国政選挙で、いわば安倍内閣の信任を問うものとして全国的な注目を浴びた。本人自身が選挙区に乗り込み、山口市の事務所にも秘書たちが総動員ではりつくなど、メンツのかかったものだった。目下、支持率は「うなぎ登り」で商業メディアは70%台だと騒いでいるものの支持率の確かな数字は選挙で示される。安倍・林事務所があるお膝元の下関で支持率21%というザマで、これを安倍内閣の信任選挙というなら不信任を突きつけたことになる。「高支持率」のイカサマぶりを暴露すると同時に、地元で支持がない姿をさらしている。