下関市の安岡沖洋上風力発電建設をめぐり、山口県漁協下関ひびき支店の運営委員長ら3人の漁業者が前田建設工業(東京)に工事の差し止めを求めた訴訟の控訴審判決が26日、広島高裁で下された。判決は一審判決を支持し、漁業者の控訴を棄却した。漁業者らは上告する方針を明らかにした。すると翌27日、前田建設工業は7月2日からボーリング調査を実施すると通告し、ひびき支店の全組合員に調査を妨害すれば数千万円の損害賠償請求と刑事告訴などの対応をとる旨の警告書を送りつけた。ひびき支店は調査の中止を求めるとともに、調査を実施すれば操業妨害になるため損害賠償請求などの法的措置をとるとの抗議文を同社に通知している。
控訴審で漁業者側は、洋上風力の建設が予定されている海域はアワビ、ウニ、サザエがよく獲れ、生活の多くを依存する重要な漁場であり、もし工事を実施すれば漁場が将来にわたって失われることによる損害は金銭に見積もることなどできず、事後の損害賠償によってつぐなわれるものではない、などとして工事差し止めを求めてきた。
広島高裁の金村敏彦裁判長は26日、一審同様、原告の漁業者らの裸もぐり漁(アマ漁)は法的保護に値する権利だとして認めたものの、この海域で漁業権管理委員会は結成されておらず、漁業権行使規則の手続きをへていないとして、工事を排除するほどの効力は認められないとした。また、前田建設工業が実施した環境アセス準備書のデータをもとに、漁業行使権を侵害する危険性は高くないとした。
漁業者の代理人弁護士は、近日中に最高裁に上告する方針であること、風車から出る低周波音による健康被害などを争う別の訴訟を準備していることを明らかにした。
この判決を受けて前田建設工業は翌27日、山口県漁協下関ひびき支店に対して、7月2日から31日までの期間、安岡沖の風力発電建設予定海域において、潜水士による海底の潜水調査と台船を使ってのボーリング調査(九カ所)をおこなうと通告してきた。
あわせて同社は県漁協下関外海共励会を通じて、ひびき支店の全組合員に対して「警告書」を送りつけてきた。警告書は、同社中国支店長と同社代理人弁護士吉田・木村法律事務所およびベーカー&マッケンジ―法律事務所の弁護士名によるもので、漁業者の調査差し止め訴訟と工事差し止め訴訟がいずれも裁判所によって棄却されたとしたうえで、「過去の貴支店組合員らの妨害行為によって、海の調査のための船舶の費用など、数千万円に及ぶ多額の損害を受けている」「今回の調査に対しても引き続き同様の妨害行為をおこなった者に対しては、これまでに被った全損害の賠償請求及び刑事告訴等の対応をせざるをえない」としている。
今回のボーリング調査をめぐっては、4月に前田建設工業が山口県に提出した一般海域占有許可申請書には、同意書として県漁協組合長・森友信、第39・40号共同漁業権管理委員会・廣田弘光の署名・押印があるのみだ。この時点で当該海域で操業するひびき支店には調査をやることは知らされておらず、情報を得た組合員が廣田氏に問い合わせたが廣田氏は「知らない」とのべている。
その後、ボーリング調査実施を知ったひびき支店は、前田建設工業に次のような抗議文を通知した。「下関ひびき支店組合員一同は、ボーリング調査を承諾していないし、今後も承諾することはなく、直ちに中止するよう求める。もし調査が実施された場合は、漁業者の操業妨害として損害賠償請求その他の法的措置をとる」。
今はひびき支店のアマ漁の最盛期で、調査によって漁ができなくなるといって漁業者たちが抗議している。漁業者たちは「陸の住民に対しても漁師に対しても脅してばっかりではないか」と怒っている。23日の前田建設工業の説明会では、400人近くの住民が安岡沖洋上風力の建設に同意していないという意志を突きつけ、ボーリング調査の中止と同社の下関からの撤退を求めた。「説明会は何回でもやります」といいながら、こうした住民の声を無視してボーリング調査を強行するのか、全市民が注視している。