陸上自衛隊むつみ演習場へのイージス・アショア配備計画をめぐり、防衛省による住民説明会が14日から阿武町福賀地区を皮切りに始まった。この日、むつみ演習場に隣接する福賀地区(のうそんセンター)での説明会には、地元住民約150人が駆けつけた。住民のなかには移住者である30、40代の姿も多く見られた。福賀地区は住民の7割以上が「配備に反対する町民の会」の会員となっている地域でもある。説明会では防衛省が昨年10月からの調査の結果を報告し、「イージス・アショアを安全に配備できる」「人体にも動物にも影響はない」とくり返したが、住民たちは配備ありきの説明に対し、「計画を白紙撤回にすべき」「住民の理解はまったく得られていない」と防衛省や国に対する不信感と怒りをあらわにした。説明会は予定時刻を超過して3時間に及んだが、住民の切実な思いを煙にまくような防衛省の答弁で、終始話がかみ合わず、最後は防衛省が無理矢理打ち切った。
防衛省は冒頭、秋田県の新屋演習場に配備する調査データに誤りがあったことなどを謝罪したあと、むつみ演習場周辺を調査した結果「安全に配備できる」とする数値的根拠などを1時間にわたって説明した。また阿武町が力を入れる町づくりへの影響については、「イージス・アショア配備に伴い、配置される自衛隊員も地域のコミュニティの一員となり、町づくりに貢献できる」などとのべ、まったく的外れな回答で住民をあきれさせた。説明後の住民からの質疑応答は2時間に及び、防衛省や国に対する不信感、また配備反対への強い思いが溢れた。
「配備に反対する阿武町民の会」の副会長を務める40代の農業者は、まず「秋田県の資料データの誤りや担当職員の居眠りなど、地元を軽視した国の姿勢について完全に信頼を失っている。先ほどから“安全です”と連呼しているが、信頼がないうえに地元の理解が深まるわけがない」とのべた。
むつみ演習場が一望できる西台で24年間、野菜を栽培してきたといい、「ちょっと頭を上げたらレーダーに引っかかるのではないか、ブースターが落ちてくるのではないかという不安がある。また警備の問題もあり西台の耕作に利用制限がかけられるのではないか、山林の所有者や林業従事者に入山規制などがかかるのではないかという不安もある」と切実に訴えた。そして「周りに民家がない、レーダー照射する前方に人が住んでいないというのを大前提に考えてほしい。したがって今の計画を即座に白紙撤回することを望む」とのべ、周囲から拍手が起こった。
下笹尾自治会の男性は、防衛省が「イージス・アショアは迎撃のためのシステムであるから攻撃される可能性は低い」とのべていることについて、「一番いいたいのは、一度基地をつくってしまえば次次と施設が拡充される可能性があることだ。沖縄はあのような基地の町になってしまった。むつみ演習場に配備されれば迎撃基地だけでなく、総合的な基地になることも危惧(ぐ)している」とのべた。またイージス・アショア配備によって農作物やI・Uターン者の受け入れに風評被害が出ることにも強い危惧を示し、「防衛省は“影響はありません”の一点張りだが、もし風評被害が出た場合、“阿武町に魅力がないからだ”“それは(農産物)品質の問題だ”といってすり替えるのか。私たちは町民の会をつくって会員を募ったが、阿武町の有権者の半数以上が反対の意志を示した。“住民の理解”というのをどう認識しているのか」とのべた。
続いて下笹尾自治会の別の男性は、「この調査報告書は国(防衛省)に都合のいいことしか書かれていない。もっとも欠けているのは、調査の元データがまったく公開されていないことだ」と追及した。そして「イージス・アショアは防衛専用といっているが、場合によってはすぐに攻撃用にもなり得る装備であることを諸外国も危惧している。戦後日本が長きにわたって平和を保ってきたのは日本国憲法あってのことであり、それによって他国からも安全な国と見なされてきた。憲法は戦力の保持を禁止している。時の政権によって憲法の解釈が変えられ、自衛隊が持つ戦力の範囲が変わるのはおかしい。護身用のピストルであっても相手を撃てば殺せる。猟銃だからといってイノシシしか撃てないわけではない。いつでも兵器になりうるのと同じだ。ただいたずらに北朝鮮の危機だけを煽り、基地をつくって危険を増すことだけが安全に対する努力とはいえない。むしろ基地などない方がはるかに安全だ」とのべた。
そして集まった報道陣に対しても「湯水のように税金を注ぎながら効果もはっきりしないイージス・アショアを配備する計画が、ほとんど国会でも国民的な論議もないまま進んでいる。日本中を巻き込んだ論議を起こしてほしい」と訴えた。
福賀の女性は、「なぜむつみ演習場なのかと思う。防衛省は地元の理解が大前提といっているが、地元の理解とは一体何なのか。昨今、沖縄の石垣島や宮古島、奄美大島などでは住民への説明がないままに“貯蔵庫”といって自衛隊の弾薬庫が建設されたりしている。そういうことをしている防衛省に私たちは信頼をおくことができない」とのべた。そして「地元の理解が大前提」といいながら昨年11月の時点でアメリカとイージス・アショアの契約をかわしていると指摘し、「防衛省がいう地元の理解とは一体何なのか」と不信感をあらわにした。
宇生賀中央自治会の男性は、「防衛省の説明はむつみありきで、住民側の意見を受け止めようとする姿勢が見られない。配備に反対する阿武町民の会の会員は1600人をこえ、有権者の55%に達した。阿武町全体にレーダーの全面照射がかかるため、人体に影響が出るのではないか、子どもたちが帰ってこないのではないかなどの不安がある。このままでは地域を守ることはできないと感じている」とのべ、配備計画の変更を強く要求した。
防衛省は、ブースターが落下する危険性が「100%ないといえるのか?」と住民が迫ると「数学的な話で100%ということはあり得ない…」といってはぐらかした。まったく別物を用いたデータや机上の計算を持って「安全です」「不安は理解するが、今後も丁寧に説明していく」「我が国の防衛上必要だ」とくり返す役人たちの姿勢に対して、説明会の時間が経過するにつれ住民たちの怒りが募っていった。
最後に発言した阿武町民の会の吉岡勝会長は、「以前の防衛省主催の説明会で専門家の方が、“イージス・アショアは日本にないので電磁波はわからない”といわれた。わからないものをどうやって安全に運用するというのか。私は、そのあたりから防衛省を信頼ができない。そのうえ、“万全な運用”といいながら自衛隊の飛行機やヘリが墜落する事故が多発している。秋田県での調査データのミスがなぜ起こるのか。防衛省の体制がどうなっているのか。われわれ町民は、安全、安心を求めてこの会を立ち上げ本気でやっている。防衛省は本当に本気で考えているのかといいたい」と強い口調でのべた。そして「住民のなかで不安が強く、防衛省への不信が募っているなかで、いくら“住民の理解を得て進める”といってもそれは無理がある。今日ずっと説明会を聞いていて住民の理解は得られていないと判断した。したがってむつみ演習場への配備はやめてほしい」と発言した。
住民からの質問はやむことはなく、最後は防衛省が説明会を打ち切った。住民たちは「ますます防衛省への不信が募るばかり」「信頼関係がまったくないなかで、何度説明会をしてもダメだ。自分たちは人生をかけて必死で反対している。そのような思いをまったく理解していない」と口口に語っていた。