地元で圧倒する世論恐れ
安倍政府・経済産業省は洋上風力発電の建設を促進するため、昨年11月に成立した再生可能エネルギー海域利用法にもとづき、洋上風力発電促進区域の指定を準備している。そのために都道府県からの情報収集を進めてきたが、締め切りとなる15日までに山口県から国への情報提供はなく、山口県は促進区域の対象にならないことが明らかになった。
政府は洋上風力促進区域を全国に5カ所程度指定するため、候補地について都道府県からの情報提供を求めてきた。候補になれば地元の漁協を含めた協議会の設置、国による詳細調査の実施など、次の段階へ進む。
これについて山口県は、情報提供の締め切りとなる今月15日までに国への情報提供をしなかった。県商工労働部調整課によると、「県内の全市町に洋上風力促進区域への希望の有無を照会したが、どこからも手が上がらなかった」ためとしている。
山口県内では下関市安岡沖や川棚沖で、事業者が経産省お墨付きの大規模な洋上風力発電建設計画を動かしているが、これに対して健康被害や漁場破壊を危惧する住民の反対世論がいかに大きなものになっているかを示しており、下関市も山口県もこの住民の意志を無視できない力関係にあることを示した。
とくに安岡沖洋上風力発電をめぐっては、住民の反対署名が10万人をこえ、安岡自治連合会が反対決議をあげるとともに商工会や医師会、宅建協会など各団体が市長に反対の陳情に行き、1000人の大規模デモ行進を何度もおこなって住民は風力発電建設に同意していないことを示してきた。市議会も全会一致で反対決議を上げている。
とりわけ建設予定海域に漁業権を持つ山口県漁協ひびき支店の漁師たちが組合の総会で風力反対決議を上げ、建設阻止の態度を貫いていることが大きな力になっている。
また、再エネ海域利用法は事業者に30年間の海の占用を認めている。一般海域について各都道府県が認める占用期間は多くが3~5年と短く、これでは20年間海を占用する洋上風力は導入しにくいからで、海域利用法で初めて統一ルールを定めた。現在、山口県の条例では海の占用期間は最長5年であり、前田建設工業が主張する20年間という長期間の占用については何のお墨付きもない。
促進区域の対象からはずれたもとで、法的整備も進まないうちに強引に手続きを進めてきた事業者の姿勢は、改めて厳しく問われねばならない。
住民の一人は「促進区域候補からはずれたことは、住民の反対世論がいかに強いかということだ。とくに漁業権を持つ漁師さんたちが反対し、工事差し止めの裁判にもなっており、そこをクリアしないかぎり占用許可は出せないということだろう。地元同意がなく、海域利用の基準もないうちから、あまりにも先走って、一企業がもうけのために計画を進めてきたこと自体が問題だ。基準がないから進めるのではなく、基準がないからこそ進めないというのが、民間企業のモラルではないか」と語っている。
なお、商工労働部は「国は促進区域を毎年募集する可能性があると聞いている」といっており、これで終わったわけではないが、住民の同意がない現状は変えようがない。「前田建設が撤退するまで反対運動を続けよう」との声はますます高まっている。