安倍首相の「コントロール」宣言とは裏腹に、福島県内では原発事故による混乱が今も続いている。県民のあいだで「原発事故が収束している」との見方は皆無で、増え続ける汚染水問題や放射線量が高すぎて近づくことすらできない原子炉、さらには、被曝線量オーバーによる作業員不足からくるミスの多発など、課題山積の現場の実態が口口に語られている。それは数万人が暮らす周辺自治体の存亡を左右するだけでなく、福島県全体の復興を押しとどめる深刻なものとなっており、まして「再稼働や新規立地など正気の沙汰ではない」と語られている。
ベテラン抜け素人化する作業
原発敷地内で働いている原発作業員に話を聞くと、「東電やメーカー自身が原発に対する知識に乏しく、原発内は実験現場と同じ。肝心の原子炉にはまだだれも近づけない」「原発そのものがアメリカ東海岸を想定したGE製。はじめから地震も津波も想定しておらず、事故後の対処方法を知っている者が1人もいない」と混迷する現場の実態が語られる。
福島原発では約3000人の作業員が働いている。半分は被災した福島県民で、いわき市などの仮設住宅から通う人もいる。その他は、関電工など東電協力企業や、鹿島、清水、大成などのゼネコンが元請になって全国から集められた人人で広野町やいわき市内の旅館、ホテル、アパート、マンションに住み込み、最近では企業が立地したプレハブの単身寮が至る所に作られている。
原発作業員は、原発から20㌔離れた広野町のJビレッジに車で集合し、15分間隔に発車する大型バスに乗り換えて福島第1原発に向かう。原発構内では、新たにつくられたサービスビル(S/B)で、個人認証バーコードを入れ込んだ作業員証カード、アラーム付きの小型線量計、汚染水を扱う手にはめる指サックのような線量計などを身につけ、防護マスクと防護服(タイベック)、足にはシューズカバーをし、東電が調達してきた路線バスに乗ってそれぞれの作業現場へと向かっている。
東電の下請作業員として2年前から福島第1原発で働いている男性は、「汚染水の流入は事故当初から始まっていたことだが、東電の対応が遅すぎて処理できないほどに膨れあがった。建屋に流れ込む大量の地下水をどうにかしなければ炉心には手がつけられないが、効果的な方法はまだ見つかっていない」という。現場では、原子炉建屋の爆発など被曝線量が高かった初期対応に携わったベテラン作業員が年間被曝限度である50㍉シーベルトをこえて次次に現場を離脱したのをはじめ、全国の原発で再稼働のための工事が一斉にはじまって関連会社の作業員が引き抜かれていくため「だれも経験したことのない未知の事故処理にもかかわらず、素人集団ばかりになっている。ミスが起きない方がおかしい」と話した。
「清水や鹿島などが請け負っているガレキ処理は、建屋の屋上に上がったりするためとくに線量が高く下請の作業員たちは鉛の服を着て作業をしている。それでもγ線の威力はすさまじく、アラームが鳴ってすぐに免震棟から電話で別のグループを呼び出して交代だ。だから、原発の知識のない人たちや出稼ぎ感覚で集められた人が多くなり、現場でミスが続出している。さらに4号機と3号機のあいだや、メルトダウンした1号機と2号機のあいだにある配管付近では常時1万㍉シーベルトあって数分で致死量に達するため立ち入り禁止。取水口や汚染水タンク周辺でも1000㍉シーベルトをこえる高線量地帯があちこちにあるため下手に動くことはできないし外での作業時間は長くても3時間。原子炉建屋内の汚染水処理などになれば数分でアラームが鳴るため、ほとんど進まない」と話していた。
浄化装置も稼働できず 人員不足でミス多発
汚染水から放射性物質を除去する浄化装置アルプスの稼働作業に携わる男性は、「8系統も作られているが、タンクや配管の腐食や水漏れが連続して本格稼働にはほど遠く、あらゆる場所を点検して回るイタチごっこが続いている。そもそも稼働してもトリチウムは除去できないことがはじめからわかっていて、1㍑あたり32万ベクレルもの水を海に流せば国際問題になる。なぜもっと有効な方法が考えられないのだろうか」と疑問を語った。
また、「アルプスは東芝製といわれているが、実際にはアメリカ大手のエナジー・ソリューション(ES)社が開発したもの。作業を指示する東芝社員でさえ扱い方をわかっていないから、現場では実験と失敗の繰り返し。汚染水から放射性物質を吸い込んだ吸着剤も樹脂製で腐食しやすく管理方法もわかっていない。葉町の倉庫にはアメリカから調達した一体数百万円ともいう吸着剤が膨大な量保管されている。GE製の原発と同じで、アメリカから押しつけられたものを断れずにやっている印象だが、現場にGEやESの技術者の姿は見当たらない」と話した。すでに設置されているキュリオン社(米)の浄化装置サリーは放射性物質の除去能力がなく、アレバ社(仏)製は配管が浸食されて使い物になっていないという。
「原子炉建屋にはまだだれも近づけない。一番不気味なのは2号機で、4基のうちで一番放射性物質をまき散らしている。原子炉建屋内も7万㍉シーベルト(即死する線量)をこえているが、建屋内部の調査もできず、原因がいまだにわかっていない」「線量が高い場所では、ねじ一つ締めて終わりだったり、計器を調べて終わりという作業もある。汚染水処理ができなければ炉心に手はつけられない。原子炉より手前の山側で地下水を汲み上げても、今度は地盤沈下したり、今度は海水が流れ込んでくる恐れがある。すでに河口付近や港湾内の海水はかなり高い放射線量だが、パニックになることを恐れて発表されない」と出口の見えない現場の実態を語った。
また、「仮に汚染水が処理できたとしても、放射性物質を遮断していたものがなくなるため放射線量は跳ね上がるし、放射能が再びまき散らされる恐れがある」ため、汚染水処理は廃炉工程の入り口に過ぎないことを指摘していた。
いわき市内の仮設住宅で暮らす元原発作業員の男性は、息子が事故当初から第1原発で働いていたことを明かし、「いまは被曝限度に達したので第2原発に変わって草取りなどをさせられている。東電でも原子力部門の社員が不足して、火力部門などの社員も原子力に配置転換されているようだ。東電工業、東電環境エンジニアリング、尾瀬林業など東電子会社も統合して業務をおこなっているが、七次、八次まである下請などへの日当不払いやピンハネで仕事のやる気を失くして辞める下請作業員も多い。危険手当も付かず、日当は1万6000円くらい払って線量オーバーすればポイ捨てされるから、さらに人員が不足する。こんな状態になっても原発を続けるのは正気の沙汰でないし、東電の対応はあまりにも被災者への誠意が感じられない」と憤りをぶつけた。
廃虚と化す周辺自治体 復興は足踏み状態
原発がコントロール不能状態にもかかわらず、政府の無責任な発言や汚染地域の放置政策が加わって、周辺自治体の復興は足踏み状態となっている。
原発から20㌔圏内にある南相馬市では、震災前には7万1000人いた人口が6万4000人に減少。そのうち市内居住者数は5万1000人で、高齢者(65歳以上)が83%を占めるなど若者不足が最大の問題となっている。避難区域が解除された小高区や隣の浪江町では、いまも居住が禁止されており、崩れた家やガレキなどの廃棄物は「放射線汚染物」となって運ぶ場所がなく、町は地震と津波に襲われた3・11以来手つかずのままの廃虚となっている。
自営業者の男性は、「町を復興させようにも高齢者ばかりで、5年後、10年後の展望が描けない。求人を出しても若者が帰ってこないので営業できない店がたくさんある。いくら除染作業をしても原発内部でまた元に戻ってしまう状態で、元請ゼネコンをもうけさせているだけだ。建設業者も人員不足なのに、オリンピックの工事が始まればさらに被災地の復興は遅れるのではないか」と話した。
別の市民は「放射能汚染が騒がれて、子連れの若い世代は市外に行ったまま戻らない。南相馬では医者がいなくなり、小児科がないので救急患者は隣の相馬市に搬送している。コメも作れず、魚もとれないままで、この地域の良さがすべて奪われてしまった。国も県も“帰還に向けて努力する”と口ではいっているが、除染は遅遅として進んでいないし、帰還の具体策がなにも示されていない。その一方で中間貯蔵施設を作るという矛盾したことをやっている。“たかだか6万人程度しかいない相双地域など眼中にない”というバカにした対応にしかみえない」と怒りを語った。