いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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高すぎるガソリン代 本体1000円+税金750円=代金1750円になるカラクリ

 国民生活に欠かせないガソリンや灯油をはじめとする石油製品が、乱高下をくり返しながら値上がりしている。1990年代は1㍑100円を切っていたガソリン代が、アメリカによるイラン制裁発動など中東情勢の緊張とも関連して1㍑150円代後半をこえた。ストーブで使う灯油などは1缶(18㍑)1800円に達した地域もあり、「なぜこんなに高いのか」という実感が渦巻いている。ガソリンや灯油がなぜ高騰し続けているのか、歴史的経緯ともあわせて見てみた。

 

 「朝晩が冷え込み始め灯油の注文が増えてきている」と切り出した商店主は、「先月中旬に卸屋から1㍑当り5円値上げの通知がきて、これまで82円だったのが87円まで上がった。去年は灯油1缶を1700円で配達していたが、今は1缶2000円で配達している。高くなったといわれるが仕入れ値が上がっているから仕方がない」と苦渋の思いを口にした。


 下関市の沿岸漁師は「どれだけ油が高くても、沖に出なければ魚がとれない。1回の操業で約150㍑ほど燃料を使うが、少しでも使う量を減らすために早起きして、1時間で着くところを1時間半かけて沖までいく。回転数を下げれば7~8割の燃料消費で済む。最大で20ノット出るが、大体10~11ノットで進むようにしている」と話す。これは10年前に油が急騰したときから続けているという。また「沖に行く漁師はスピードを落として漁に出かけるが、底引き漁や集魚灯を灯すイカ釣り船は船のスピードを落とせないから経営は厳しいと思う」と気遣いつつ、「安いときに輸入した油があるはずなのに中東で政変があれば元売りはすぐ値を上げてくる。でも原油の値段が下がっても“仕入れ値が高かったから”とすぐには下げない。油が上がっただけ魚の値も上がればいいが、そういうわけにはいかない」と話した。

 

 下関の基幹産業である以東底引き船は、年末にかけてアンコウなどの値が上がるためこれからが稼ぎ時だ。だが一週間かけて長崎県対馬の北側の海域で操業するため一度の漁で大量の燃料を消費する。水産会社の関係者は「燃料だけでなく、石油が原料の発泡スチロールや漁網などすべてが値上がりした。便乗値上げでワイヤーなどの鉄類も上がった」と話す。

 


 燃料は7月~8月にかけて1㍑当り60円台だったのが現在は85円で20円上がった。底引き船は2艘で網を引いて操業するため、1カ月にたく油は約12㎘にもなる。60円台のときは1カ月の燃料代が約750万円前後だったが、85円に上がると1000万~1100万円と、約250万円以上高くなった。「燃料代が水揚げの25%をこえると経営が厳しくなる。知り合いの運送業者は、荷主との契約があるから燃料代が上がった分をそのまま運賃に反映できず厳しいと話していた」といった。

 

長崎県対馬沖で操業する下関の以東底引き漁船

 国内貨物の配送にかかせないトラック輸送も燃料高騰が直撃している。下関市内の運送会社関係者は「トラック運送業界は人手不足に加えて燃料高騰が経営に大打撃を与えている。現状は軽油が1㍑120円台だが、このまま高止まりすれば年末年始を前後して廃業・倒産する業者が続出する」と危機感を語る。


 ガソリンにかかる税金について「ガソリンは税金の二重取りだ。暫定措置がいまだに続いていて、130円の軽油価格のうち半分が税金でとられる。運送業者は荷主から仕事を請けて全国に荷物を届けるのが仕事だ。それが国の規制緩和や働き方改革、税金の二重取りなどで本来の業務が厳しい状態に置かれている」と憤りを口にした。


 原油は製油所で精製され、ガソリン、灯油、軽油、重油、潤滑油、アスファルトなどになるが、関連商品の裾野は広い。天然ガスやプロパンガスなども石油製品の一つだ。石油関連の化学製品は、主なものだけ見てもプラスチック(自動車部品、住宅資材、ペットボトル、包装容器等)、繊維(衣服等)、ゴム(タイヤ、消しゴム等)、塗料(ペンキ類)、合成洗剤など生活に関連した商品ばかりだ。原油のほぼ全量を海外からの輸入に頼る日本にとって、原油の適正価格や安定供給を保障する外交政策がいかに重要かを示している。

 

米国のイラン制裁 対米従属で国益を失う

 

 最近、原油が高騰した直接の引き金はアメリカによるイラン制裁だが、日本政府は世界でも稀な対米従属姿勢を見せつけている。


 もともとイランをめぐる核開発問題は2015年の「イラン核合意」に基づいて進行していた。それは「イランが核開発を制限し欧米が制裁を緩和する」という内容で、国際原子力機関(IAEA)も「イランは合意を守っている」と認めていた。それを今年5月、一方的に離脱したのはアメリカである。そして8月に鉄鋼やアルミなどの取引を停止する経済制裁を発動し、今月5日からイラン産原油の取引を停止する制裁を発動した。他国にまで「違反すれば罰金」と恫喝し同調することを迫った。国際合意を勝手に離脱した国が、合意順守国に制裁を加える異常さが露呈している。


 そのためイラン政府は国挙げて経済制裁に立ち向かう姿勢を明確にし、欧州委員会(EC)は欧州企業がアメリカの制裁に従うことを禁止し、イランと金融取引を続ける事業体を新設すると公表した。イランと取引量の多いインド、トルコ、中国などは取引を継続する姿勢を堅持している。


 ところが日本政府の対応は「注意深く分析し情勢を注視していく」(菅義偉官房長官の会見)とのべただけだ。そしてアメリカがイラン制裁の動きを見せると、制裁発動時期にも至っていない10月までに日本企業はイラン産原油の輸入を停止した。それが燃油高騰にも結びついている。


 もともと日本とイランとは友好関係が深い。2004年には世界最大級の埋蔵量を誇るアザデガン油田を安定的に採掘できる権利を日本企業が獲得していた。だが2010年にアメリカが「核開発疑惑」を掲げて圧力を加えると権益を放棄した。2016年の「イラン核合意」後に再参入を目指したが、これも今年5月以後のイラン敵視策に同調し手を引いた。イラン側が便宜を図っても日本側はいつもアメリカの指示を優先するため、結局、中国企業が参入する動きを見せている。この主権のない現実が国民生活全体に甚大な影響を及ぼしている。

 

燃料の内訳を見る 年々増える税金の部分

 

 また高騰を続ける燃料代のしくみをみると、年年、税金部分が拡大してきている。主な燃料の内訳を見ると、

 

 ガソリン(1ℓ=160円)の場合は
▼ガソリン税=53・8円
▼石油税(温暖化対策税)=2・8円
▼消費税=11・8円
▼本体=91・6円
となっている。ガソリンは、ガソリン税と石油税にも消費税がかかる税金の二重取りで、税金の合計は68・4円である。


 軽油(1ℓ=130円)の場合は
▼軽油引き取り税=32・1円
▼石油税(温暖化対策税)=2・8円
▼消費税=7・3円
▼本体=87・8円
となっている。軽油は軽油引き取り税に消費税がかからず、税金部分は42・2円である。


 灯油(1缶18ℓ=1800円)の場合は
▼石油税(温暖化対策税)=50・4円
▼消費税=133・6円
▼本体=1616円
で税金部分の合計は184円となっている。


 このうちガソリンを例に見ると、本体価格に対して約75%の税金がかかっている。1000円分の品物を持って精算レジに並び、「税込み1750円」を支払っているのが実状だ。ガソリンより税金部分が少ない軽油は税率=48%、灯油は税率=11%だ。

 

 もともと終戦直後のガソリン代は、税金が十数円だったため50円を切っていた。その後の増税を加味しても、1970年代前半までガソリン代は1㍑50円台を維持していた。しかし1956年に創設した軽油引取税(道路を使わない船やユンボ等は免除)や、1974年のガソリン税新設など「道路整備財源の確保」を掲げて増税策を次次にうち出していった。しかもガソリン税は「2007年までの暫定措置」だったが、08年度の国会で期間を定めず「当分の間延長」すると決定し、40年以上も「暫定」措置を継続している。


 そして2012年からは「環境対策」を掲げて、「温暖化対策税」(環境税)を創設した。これは当初、石油製品1㍑当り2・29円だったが、2014年4月から2・54円(1㍑あたり)、2016年4月から2・8円(1㍑あたり)に引き上げている。


 この上に消費税も加わる。消費税は1989年の3%から始まり、1997年から5%、2014年から8%と推移し、来年10月から10%に引き上げとなる。そうなればガソリン代にかかる税率は約80%に達する。また消費税はガソリン税や石油税に上乗せされるため、二重課税である。

 

乱高下する価格 原油に投機して儲ける

 

 そして近年顕著なのが原油市場構造の変化である。以前は上下40㌦前後の振れ幅で推移していた原油価格が、2000年代以後、上下130㌦前後の振れ幅で乱高下している(図参照)。


 1900年代初期はエクソン、BP、シェル、テキサコ、ガルフ、モービル、アトランティックの石油大手七社(セブン・シスターズ)が世界の石油市場を牛耳っていた。これに対して産油国が石油輸出国機構(OPEC)を作り、結束して国際石油資本に対峙するようになった。そのたびにアメリカがイスラエルにテコ入れして中東戦争を引き起こすが、産油国側も石油産業の国有化や採掘権料引き上げで大資本を縛り上げていった。1970年代初頭にニクソン大統領がイスラエル支援策を発表すると、サウジアラビアが米国向け石油の禁輸を発表し、OPECが価格の2倍引上げで対抗し、欧米資本は後退をよぎなくされた。


 欧米石油メジャーの支配が後退するなか、アメリカが1970年代初頭から進めたのは石油を投機の具に変えることだった。アメリカは第二次世界大戦後、金本位制を堅持し、金1オンス(31㌘)=35㌦の比率で各国の通貨と結びつく固定相場制(ブレトン・ウッズ体制)をとっていたが、1971年に金ドル交換停止(ニクソン・ショック)を宣言した。このとき、ドルが金との結びつきを絶つ代わりに結びついたのが石油だった。具体的には世界で取引する石油はみなドル決済にするという内容だった。


 石油の対価をドルで支払うシステムは、めぐりめぐってみなアメリカにドルが環流するしくみだった。アメリカ以外の国は石油を買うために、自国で作った商品を売ってドルを手に入れる。それで石油を買うと、産油国の空港・道路などのインフラ開発や武器購入費に使われ、そのドルはアメリカの軍産複合体の懐に収まるしくみだ。同時に「金ドル交換停止」の縛りがなくなったため、これまでのようにドルが過剰に流れ出せばドルを買い戻して、金準備と釣り合うよう調整することも不要になった。つまり実際の商品の裏付けもないまま無制限にドルを刷り、実態のともなわない投機を本格化させていく地ならしとなった。


 そして1980年代にニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)にWTI原油(米国テキサス州の原油)の先物市場を創設し、ロンドン国際石油取引所(IPE)に北海ブレント原油の先物市場を創設した。


 さらに1990年代以後、アメリカは国債、社債など「借金」で日本や新興国から商品を買い、借金の利息以上のハイリターンを得る金融商品の開発を加速した。金融商品で巨利を得る投資銀行やヘッジファンドが急増した。そして、国民が銀行に預けた預金まで投機にみなつぎ込む体制整備へ突き進んだ。この頃から原油市場の振れ幅も周期も変化していった。


 2007年頃、原油先物市場をバブルが直撃した。2000年代に入るとゴールドマン・サックスなどが商品ファンドをくみあわせ、年金マネーが流入する仕組みを整備していたからだ。当時の原油先物市場は数百㌦規模だったが、世界最大のカルフォルニア州職員退職年金基金(カルバース)の運用規模だけで数千億㌦に及び、世界の年金基金の運用規模は数十兆㌦に達していた。この運用資金の数%が買いに入るだけで一気に価格を押し上げるのは当然だった。当時は原油在庫が増えており、石油不足の状態ではなかった。それでも1バレル147㌦という過去最高額まで急騰した。


 こうした原油を投機の具とする欧米の投機資本がどっとなだれ込んで値段をつり上げ、先物市場を攪乱しながら、ばく大な利益をつかみどりしていく構造が、際限のない原油高騰を何度も引き起こしている。


 原油高騰の直接的原因としては、中東情勢の緊張、増税、原油市場の変化、円安の影響、石油輸出国機構(OPEC)の協調減産、世界的な在庫減少、日本国内における石油元売りの業界再編、シェールガスの生産減少、再生エネルギーへの転換など、多様な要因が絡んでいる。


 このなかで日本国民が高い燃油に困らなければならないのは、アメリカのいいなりになって中東諸国と対立し、燃料に破格の税金をかけて国民から搾りとる構造に原因がある。ガソリンの本体価格はすでに100円を切っており、ガソリンも軽油も大幅に引き下げることは十分可能といえる。

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