沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設工事をめぐり、安倍政府は17日、沖縄県の埋め立て承認撤回の効力を失わせる措置として、沖縄防衛局を通じて行政不服審査法に基づく執行停止などの申し立てをおこなった。先月末の県知事選で示された圧倒的な民意を無視し、ふたたび権力で地方自治の権限を握り潰す強硬策におよんだ安倍政府に対して、143万県民の民意を背にする沖縄県は徹底抗戦の構えを強めており、新基地建設阻止を求める島ぐるみのたたかいはさらに熱気を増す趨勢にある。
沖縄防衛局は17日、公有水面埋立法を所管する石井国交相に対し、辺野古基地建設事業にかかる埋立承認の撤回について行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止の申し立てをおこなった。行政不服審査法は、「国民の権利利益の救済」(第1条)を目的としており、行政庁や公権力によって権利を脅かされた国民が不服を申し立てる手段として審査請求がある。申し立てる側が「私人」であることが前提であり、脅かしている政府機関の権利を守るための制度ではない。
ところが、2015年10月に翁長雄志前知事が埋立承認の取り消しをおこなったさいも、政府は同じ手法で執行停止を求め、石井国交相は「身内」の行政庁である防衛省を「私人」と見なして申し立ての正当性を認め、13日後には沖縄県が講じた承認取り消しの執行を停止。その2日後に防衛省は工事を再開した。地方自治を脅かし、県民の生命と財産を脅かす問題について、工事を進めるのもそれを審査するのも国であり、しかも国民の権利を守るために定められている法制度を、逆に地方自治体の権利を奪うために利用するという本末転倒ぶりを見せつけた。
安倍政府は知事選での大敗を受け、那覇市長選(21日投開票)を待たずに同じ強硬手段に踏み切った。翌18日には国交相が沖縄県に、防衛省による申し立てを通知し、申し立てに対する意見書を25日以内に提出するよう求めた。
また同日、岩屋防衛相はマルティネス在日米軍司令官の表敬訪問を受け、名護市辺野古への新基地建設を「着実に進めることに揺るぎはない」との考えを伝えたうえで、沖縄県による埋立承認撤回への対抗措置を取ったことも報告するなど、日米政府の露骨な主従関係を見せつけた。
迎え撃つ島ぐるみの力は拡大
これに対し、辺野古新基地建設阻止を公約に掲げ、過去最多得票で知事選に勝利した玉城デニー沖縄県知事は17日、「対話による解決策」を求めたはずの安倍首相、菅官房長官との会談から「わずか五日後に対抗措置を講じた国の姿勢は、県知事選挙で改めて示された民意を踏みにじるものであり、到底認められるものではない」と怒りの声を発した。
さらに「行政不服審査法は、国民(私人)の権利利益の簡易迅速な救済を図ることを目的とするものである。一方、公有水面埋立法の規定上、国と私人は明確に区別され、今回は国がおこなう埋め立てであることから、私人に対する『免許』ではなく『承認』の手続きがなされたものだ。そのため、本件において、国が行政不服審査制度を用いることは、当該制度の趣旨をねじ曲げた、違法で、法治国家においてあるまじき行為と断じざるを得ない」と批判。
また同法では「重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるとき」が執行停止の要件とされているが、承認撤回から1カ月以上経過した後の申し立てに「緊急の必要がある」とは認められず、「仮に、国交相により執行停止決定がなされるなら、内閣の内部における、自作自演の極めて不当な決定といわざるを得ない」と牽制した。
そして「これまで日本の安全保障のために大きな役割を果たしてきた沖縄県において、辺野古新基地建設反対の圧倒的な民意が示されたにもかかわらず、その民意に対する現在の政権の向き合い方があまりにも強権的であるという、この現実のあるがままを見ていただきたい。私は、辺野古に新基地はつくらせないという公約の実現に向けて、全身全霊でとりくんでいく」と全国民に向かって呼びかけた。
県による埋立承認撤回は、国が「全体の実施設計や環境保全対策を示すこともなく公有水面埋め立て工事に着工」し、「承認を得ないで環境保全図書の記載等と異なる方法で工事を実施している」こと、防衛局の土質調査によって一部の護岸設計箇所が「軟弱地盤であり護岸の倒壊などの危険性があることが判明した」こと、「辺野古の既存の建物等が辺野古新基地が完成した場合には米国防総省が定める高さ制限に抵触している」ことなど15項目の法的瑕疵(かし)と、承認当時にはなかった「公益を損なう新たな事由」が発生したことから講じた措置だ。この効力を停止させるには国がこの一つ一つについて正当性を立証しなければ誰も納得しない。
総力を挙げて介入した知事選で大敗した安倍政府は、那覇市長選への影響すら無視して工事の早期再開に向けた手続きに入ったが、県民の頭越しに超法規的な手続きを進めれば進めるほど、島ぐるみの怒りはさらに強まる以外にない。政府の側の行き詰まりを露呈しており、「アメとムチ」による欺瞞的な支配が完全に破たんしたことを意味している。
辺野古問題を争点にした知事選で過去最多得票で断固たる反対意志を示した島ぐるみの力は、さらに10万人の請求署名による県民投票の実現に向けて動き出しており、明確な民意を突きつけようとしている。県内各地の首長選もオセロのようにひっくり返されていくことは必至で、力関係は逆転している。
今後、防衛省の執行停止申し立てに対する国交相の判断と同時に、国が県知事を被告として代執行訴訟を起こすことが予想されるが、法廷の外側での島ぐるみのたたかいをさらに盛り上げていくこと、法治国家の建前すら放棄した対米従属国家の姿について全国的な論議と行動を起こしていくことが求められている。