ゼネコンや大手ディベロッパーによる強引な土地取り上げが問題になっていたJR広島駅南口の再開発地(広島市南区)とかかわって、27日に立ち退きに応じていない店舗に対して広島地裁による強制執行の仮処分決定がいい渡され、執行官が監視する物物しい雰囲気のなかで強制的に私財の運び出しがおこなわれた。これで再開発区域内にあった260店舗すべての立ち退きが完結することとなった。原爆被災からの復興を象徴する広島有数の市場は地元住民によって70年近く支えられてきたが、「広島市の玄関口にふさわしい開発」をするのだといって県外の大手企業が乗り込み、ブルドーザー方式で一等地を奪い取るという、常軌を逸した横暴な開発をくり広げている。アベノミクスによって不動産・都市開発バブルに火が付き、大手企業がまるで東南アジアかどこかの後進国で開発を手がけるのと同じ調子で、地元資本・住民を蹴散らしていくことに批判が高まっている。全国各地で進められる略奪型の再開発を象徴する問題として注目されている。
大企業天国で私権を強奪
27日朝、立ち退きに応じていない精肉店前では、店主を心配して周辺住民たちが集まっていたが、これまで開かれていた出入口がバリケードで固められていることに驚いていた。さらに目隠しのため数台のトラックが横付けされ、報道機関もシャットアウトされ、完全に周囲から見えない形で強制執行の仮処分決定がいい渡された。
親の代からの地権者であり、60年余にわたってこの地で店を営んできた70代の男性店主一人に対して、裁判所の執行官、県警の刑事、開発組合理事長、事務局長(広銀OB)、施行者の戸田建設社員、地上げにかかわったコンサル会社RIA社員、弁護士、運送業者など総勢30人あまりが取り囲み、「強制執行」か「和解」かを迫るという異様な光景がくり広げられた。
主な内容は、他の店主に通告されたのと同様に、「強制執行にかかる数十万円の費用負担をしてもらう!」「明け渡さなければさらなる損害金の支払いを要求する!」「あくまで和解を拒んで強制執行をすれば、あなたは開発後のビルには戻ることはできなくなりますよ!」というもので、官民一体となった威圧のなかで、店主はやむなく「和解」を選ぶことになった。
「和解」といっても店主の要求が聞き入れられたわけではなく、「和解」の体裁をとりつくろった実質の強制執行であった。その後、執行官の監督の下で、組合執行部が用意した運送業者によって家の中から次次と荷物が運び出されていった。「和解」の判を押させたことによって、強制執行による開発事業のイメージダウンを避けたい開発組合役員らが「和解成立による円満解決」と外に向かってアナウンスし、耳障りの良い言葉だけを切り取ってメディアが一斉に報じた。「裁判所や警察など30人がかりで精肉店の店主を取り囲んだ」と報道するところはどこもなかった。
裁判所から強制執行の仮処分決定が通告されたのは2月18日。その後、立ち退きに応じない5店舗に対しては、「執行日まであくまで抵抗を続けるなら、もう二度とこの場所では商売ができなくなるかもしれない」「1日55万円の損害金を支払ってもらう」など弁護士を通じた恫喝がやられ、裁判所からも連日のように「和解」を進める電話がかかるなどした。その結果、精肉店を除く四店舗はやむなく「和解」に応じることとなった。「仮処分の調停でやっと裁判所が第三者として中立公正に話を聞いてくれると思ったら、問答無用の強制執行だった」「裁判所も市役所も同じで、結局はゼネコンや開発業者とみんな通じあっていた」「零細業者は大手に黙って従えというのが公正な判断なのか」と語られている。
味方する裁判所や警察
広島駅南口市街地再開発Cブロックは、戦前から「荒神市場」と呼ばれる商店街が連なっていたが、原爆投下で壊滅した。終戦後は、市内最大のヤミ市となり、鮮魚、精肉、乾物、調味料などの食品や日用雑貨の卸業や小売店、飲食店などが軒を連ねた市場に発展した。被爆の苦しみを乗りこえてきた戦後復興を象徴する市民の台所として親しまれ、市内で唯一市場の形態が残る独特の情緒をつくり出していた。
だが、90年代を境に郊外にイオンやイズミなどの大型量販店が進出して市内の小売業が衰退していくのに合わせて、卸専門店が傾き、人の流れも変化して次第に小売店街にもシャッターが目立つようになり、2000年頃から町内会長を頭に「市場の活性化を!」をスローガンにした再開発の動きが起こっていた。
一部有志が準備組合を設立後、「六本木ヒルズ」の再開発で名をはせた森ビル企画(東京)を筆頭に、戸田建設(大阪)、コンサル企業RIA(大阪)などが開発母体として契約し、2011年に市が第一種再開発事業として都市計画を決定。リーマン・ショックで不動産事業が低迷するなかでしおれかけていたが、アベノミクスによるバブル景気が騒がれはじめた昨年から一気に動きはじめた。
開発内容を見てみると、9680平方㍍の敷地に地上11階建ての商業ビルと46階建ての高層タワーマンションがセットになった巨大なビルを建設するというもので総事業費は300億円。そのうち市が150億円もの補助金を出して民間事業を支え、国の補助金も合わせると膨大な公費がつぎ込まれる。「市場の活性化」とは別次元のハコモノづくりに変貌していた。
同時に、隣接するBブロックでも、同じように古い商店街を立ち退かせて、353億円(市負担121億円)かけて地上52階(中四国最大)の高層マンションとテナントビルを建て、住友不動産を核に家電大手のビックカメラが入居する計画が進行中で、すでに完成した駅北口の若草再開発、さらにイズミ本社や医療施設が建設される二葉の里再開発も含めて、JR広島駅周辺の「副都心」構想に基づいた商店街のスクラップ化とハコモノ開発ラッシュがたけなわとなっている。
強制執行を突きつけられた男性店主は、「親の代から60年以上もやってきた商売をやめるつもりはないので、商売のできる環境をつくってくれといったら、組合は“立ち退きにあたっては代替地を用意する”といっていたので安心していた。だが昨年8月、市が事業認可してからは態度が一変した。“都市再開発法にはそんな決まりはない”といわれ、一昨年時点の路線価で勝手に決められた土地代と引き替えに“移転先を自分で探せ”といわれた。しかし、すでに周辺の地価は2~3倍に跳ね上がって手がつけられない。一人で店をやっているので身動きもとれず、あっという間に2カ月後に立ち退き期限が設定され、“不法占拠”の烙印が押され、“出て行かなければ22億円の損失が出る”“二倍の家賃を払え”と脅される。まともな事業者がやることではない」と憤りを語った。
口をそろえて語られているのが、都市再開発法の抜け穴を利用して住民を排除した、事業の進め方だ。一部の地権者(5人以上)が準備組合を作り、外資コンサルやゼネコンと提携して事業計画や金の流れを決め、その後は地権者は「飾り」となって、地上げのプロ集団を集めた森ビルや戸田建設やコンサルなどが全面に出て交渉ごとをおこなう。「組合に加入しなければ情報が入らず、船に乗り遅れる」の誘い文句で組合に加入させ、市の都市計画決定まで持ち込まれたら、所有者であっても区域内の建物を建て替えることはできなくなる。
肝心の権利変換(開発後のビル)で取得する床の広さや場所、間取り、ビルの管理費、修繕積立金、火災保険料、固定資産税、都市計画税などの負担金、そして事業採算も黒字か赤字かの採算のビジョンを知らされることすらないまま、大手企業のネームバリューだけの口約束で高齢者を信じ込ませ、計画への同意を迫り、地上げによって取得した土地を分割して組合員を増やし、本組合認可に必要な3分の2の票数を確保していったという。
市役所も大企業の番頭
そして、準備組合を市が本組合として認可すると、それまでノータッチだった区域内のすべての地権者、借地・借家人は詳細な計画内容も知らされぬまま強制的に組合員に入れられ、指揮棒を振るう開発業者の一方的な要求を飲まざるを得なくなる。
あとは、いかに理不尽な進め方をされても訴えるところはなく、「半公共事業」といって補助金を出す市役所も「組合は権利者みなさんの総体であり100%の民間団体。行政としては全員の合意を願っているが、組合内部の問題に介入することはできない」と第三者を決め込んで監督・指導義務を放棄。今回も、30軒あまりの権利者が「考え直す会」を立ち上げ、五度も市当局や議会に陳情に行ったが、門前払いでまともに取り合われることはなかったという。
「市役所は、市民の公僕ではなく、ゼネコンや外資の番頭でしかないことを痛感した」「組合から一方的に補償金が法務局に供託されたら、受け取っていなくても行政からも“不法占拠”で処罰される。こうやって、一度も判を押したこともなければ、一銭も受け取っていないのに、市民の財産が簡単に他人の手に渡り、外資が乗っ取っていく。略奪以外のなにものでもない」と口口に語られている。
やむなく立ち退きに応じた商店主は、「開発業者は意図的に商売を廃業に追い込んでいく。出て行く人には退職金代わりになっても、これからも商売を続けたいと望んでいる店舗ほど不利な条件で、自分の土地であっても自分の意志ではなにも決められない。説明もされず、まるで闇鍋を食べろ! といわれ続けているようなものだった。最後には強制執行で根こそぎさらっていくというのなら、いったい誰が市民の利益を守るのか。“地域のため”“駅前のため”という耳障りの良い言葉で住民を動かし、ゼネコンやディベロッパーが住民の犠牲でもうけていくのがこの再開発だ。民主主義国家とはいえない国の姿を見せつけられた」と憤りを語った。
別の地権者は、「開発工事が完了する三年後には再開発組合は解散し、新しい入居者でつくる管理組合に移行するので、口約束は全部反古にされる。さも開発によってもうかるような話をしているが、実際には駅前ではすでに第三セクターで運営するエールエール(福屋百貨店)でさえ赤字続きで、最近も空調設備の修理費八億円を市が負担している。広島県内では福山駅前でも駅ビルが倒産、呉駅前でもそごうが撤退。広島市でもマンション需要も商業施設も飽和状態だ。見てくれだけは立派になるが、最終的にはこの開発ビルも証券化されて、広島とは縁もゆかりもない企業に売却されることになるのでは」と危惧を漏らした。
関係者の間では、「本丸のJR広島駅の建て替えのためのお膳立て」といわれており、一連の開発の中心で多額の税金を湯水のように注がれるJR西日本、その指定金融機関である三井住友グループによる不動産利権と、それに群がる外資企業が広島の一等地を買い占めるためやくざ的なやり方で市民を追い出していくことに憤りが渦巻いている。勝手に後から乗り込んできた者が、資本があるといってわがもの顔で他人の財産をむしりとり、それが黙認されていく社会の有り様とも重ねて、思いが語られている。私権などあってないようなもので、「社会のものはすべて大手企業のもの」といわんばかりの強欲極まりない姿を見せつけている。
原爆投下によって焼け野原にされてから70年を迎える広島で、血のにじむような努力によって市民は復興を成し遂げていった。その築き上げた土地財産を半強制的に奪い取り、有無もいわさず広島経済を牛耳っていく様は、対米従属のもとで民主主義の建前も投げ捨てて「大企業の天国、国民には地獄」を押しつける政治の在り方ともつながっている。これらの強奪企業どもを調子付かせたのはまぎれもなく「アベノミクス」で、ろくでもない経済政策であることが浮き彫りになっている。