死者100人超 なお多数の安否不明者
活発な梅雨前線が停滞したことによる記録的な豪雨で、西日本を中心に日本列島の広範囲にわたって河川の氾濫や土砂崩れ、冠水などの被害があいついでいる。数十年に一度の重大な災害として、気象庁は大雨特別警報を発令。避難指示・勧告は全国23府県で約863万人にのぼった。すでに死者数は109人にのぼり、意識不明の重体が3人、少なくとも56人以上の安否が確認できていない(9日午後2時現在)。救助活動が続いているため、被災状況の全容はまだ判明しておらず、被害はまだ拡大する可能性がある。
気象庁は6日から7日にかけて数十年に一度の重大な災害が予想されるとして兵庫、広島、岡山、鳥取、福岡、佐賀、長崎、京都、岐阜、高知、愛媛の計11府県に大雨特別警報を発令した。各地で48時間の雨量が観測史上最大を更新し、多いところでは24時間で600㍉をこえるなど、かつてない豪雨となった。8日午後2時50分で、すべての特別警報は解除されたが、いまも孤立したまま救助を待っている人も少なくない。
死亡者(9日現在)は、広島県で43人(安否不明40人)、岡山県では真備町や笠岡市、総社市などで26人(同7人)、愛媛県では西予市や宇和島市、大洲市などであわせて23人(同3人)、山口県で3人、京都府で3人、福岡県で2人、鹿児島県で2人、兵庫県2人、滋賀県、岐阜県、高知県、佐賀県で各1人で、合計109人にのぼっている。
土砂崩れや河川の決壊
犠牲者最多の広島県
広島県内では、死者・行方不明者が83人(9日現在)にのぼり全国最多となった。降水量は県内33の観測所のうち22カ所で観測史上最多を記録し、広島市、海田町、坂町、熊野町、呉市、竹原市、東広島市、三原市、庄原市、福山市など県内全域で河川の決壊や土砂崩れなどの被害が同時多発的に起き、行政による被害状況の把握や救援もままならない事態となっている。
7日午前までの二四時間降水量は、各地で史上最多の300㍉前後を記録し、広島市の瀬野川(安芸区)、矢口川(安佐北区)、府中大川(府中町)、畑賀川(安芸区)、三篠川(安佐北区)、坂町の総頭川、海田町の尾崎川、三迫川、呉市の中畑川、竹原市の賀茂川など、県内約30の河川で危険水位を超過して越水。上流から激しい勢いで濁流が押し寄せ、隣接する道路や堤防が決壊し、住宅地を呑み込んだ。住宅では一部破損43、床上浸水416、床下浸水968棟など甚大な被害(9日現在、広島県発表)を及ぼしている。
多くの地域で、行政の予想をこえる早さで河川が危険水位を超過し、避難指示を出したものの間に合わず、家にとり残された年配者が犠牲になるケースが目立っている。集落そのものが家屋の一階部分が浸かるほど水没したり、土石流に呑まれ、東広島市で11人、呉市では8人、三原市で6人、広島市で7人、坂町で2人、福山市で2人など計43人が死亡し、いまだに安否不明者が多く、犠牲者はさらに増えると予想されている。
ライフラインでは、江田島市(2800戸)をはじめ、熊野町(2200戸)、坂町(1200戸)など県内で被害の大きい地域で停電。配水管の破損や流出などにより広島市(約1万3300戸)、呉市(約9万3000戸)、安芸高田市(約700戸)、東広島市(約1000戸)、三次市(約600戸)などで断水した。これに加え、浄水場や排水ポンプが停止した三原市、配水本管の破損による漏水などが発生した尾道市、本土から水の供給が停止した江田島市では全域でいまも断水が続いている。
また、JRは在来線全線が運行不能となり、芸備線や国道や県道など主要道路に加え、中国自動車道、山陽自動車道など高速道路も土砂崩れや崩落などで通行止めとなったため、移動手段がなく避難や救援ができない「陸の孤島」となる集落が続出している。
交通網の寸断によって物流もストップし、コンビニや大手スーパーなどのサプライチェーンが麻痺して、広島市内全域のコンビニでおにぎりやパン、弁当などの食品が枯渇した。呉市や三原市などの断水地域では、ペットボトル入りの水も品薄になり、限られた行政の給水活動なしにはライフラインが維持できない状態となっている。被災地域にはガソリンも供給できないため、ガソリンスタンドではレギュラー、ハイオクともに欠乏し、販売量を制限している。
歴史的に幾度も水害に見舞われてきた広島県は、国が指定する土砂災害警戒区域数の推計は約4万9500カ所と全国で最も多い。2014年8月20日に広島市北部で発生した豪雨土砂災害では、74人が死亡し、133戸の家屋が全壊した。山間部から流れる急峻な河川が多いことに加え、花崗岩が風化してできた「真砂」と呼ばれる砂が堆積した地質が水害に対して脆弱であり、高度成長期に山を切り拓いて売却された造成宅地の危険性が指摘されてきた。
4年前の豪雨が一局集中型だったのに対し、今回は広範囲に長時間、強い雨が続いたことによって県内全域で同時に災害が発生したのが大きな特徴で、河川流域の護岸や堤防の老朽化、山林の整備などの防災インフラの不備、過疎化による山間部の地域コミュニティの維持、公共施設の民営化、「コンパクトシティ」による行政の人員不足や広域化など、自然現象の変化がもたらす災害に対応すべき社会の在り方について見直しが迫られている。
県職員らは「河川は危険水位をこえ、ダムは試験湛水時には二度とないといわれていたサーチャージ水位を超過した。道路のいたるところで土砂崩れによる通行不能状態となり交通が麻痺した。トレーラーなどの立ち往生があったが、危険な状況のために業者に現場対応をお願いすることも難しい」「職員のなかでも高速道路の通行止めで家までのルートが分からないものや、実際に自宅が浸水等の被害に遭ったり、その恐れがあり家族が避難しているものもあり、公務職場におけるマンパワー不足、非常時における各種電子システムの不具合発生、過酷な労働環境下での被害拡大など、見直すべき問題がたくさんある」と現場の混乱状態を語っている。
交通網断絶し孤立化も
倉敷や愛媛でも深刻な被害
岡山県では倉敷市真備町で小田川の堤防が約100㍍にわたって決壊し、同町の約4分の1が冠水した。多くの住民が病院や建物の屋上などにとり残された。同町に住む約9000戸のうちほぼ半数が被災したとみられているが全容は把握できていない。一時的に1850人が孤立状態に置かれ、現在も消防や自衛隊のヘリやボートによる救助活動が続いている。9日の捜索で、水没した家の中からあらたに11人の遺体が見つかった。
倉敷市内も大規模に冠水し交通網が遮断されたため、コンビニの商品配送や郵便物の配送も止まった。倉敷市内の住民によると、倉敷市内も主要道路が通行止めとなり、地下道やアンダーパスが完全に水没するなどしたほか、トイレの汚水が逆流して溢れるなどの被害も起きている。
また、総社市では浸水したアルミ工場が爆発・炎上し、付近の民家が燃えたほか、爆風で周辺の民家や商店の窓ガラスが割れ、複数の住民がケガをするなどの被害も誘発した。
梅雨前線が停滞した四国の被害も甚大で、愛媛県では、肘川の氾濫で大洲市や西予市野村町などが大規模に被災した。山間部の野村町では、集落全体が水に浸かり、川に流されたとみられる59歳から82歳の男女計5人の遺体が見つかったほか、電気や水道も止まり、孤立した住民から救援要請が続いている。
宇和島市吉田町でも土砂に巻き込まれた3人が死亡。土砂で道路が寸断され集落が孤立した。
確認されている住宅の全半壊や床上・床下浸水などの住宅被害は、愛媛県で1033棟、福岡県981棟、岡山県588棟などとなっており、20府県の避難所に計3万259人が避難している。いずれも8日午後3時時点のもので、さらに増えると見込まれている。
交通網の遮断もあいついぎ、佐賀県唐津市でJR筑肥線の電車が土砂と接触して脱線したほか、JR芸備線の鉄橋が流されるなど、JR西日本をはじめ鉄道各社の23路線で橋の流出や線路への土砂流入、冠水などの被害が確認されている。運休は16事業者58路線にのぼった。
早急な人命の救出、被災者の保護と生活支援などの必要な援助が求められており、国の災害対応が問われている。