学校の歯科検診で虫歯が見つかった子どものうち過半数が歯医者で治療をしておらず、虫歯が10本以上ある「口腔崩壊」の子どもがいる学校は3割をこえていたとの調査結果が明らかとなった。口腔崩壊とは、未治療の虫歯が10本以上あるなどの理由で咀嚼が困難な状態をさす。健康な歯が少なければその分噛む力が弱くなり、栄養を充分に摂取できず、発育にも影響が出る。このような子どもの現状は親の生活や貧困問題も背景にあり、養護教諭や子ども食堂などに携わる人人も問題意識を持っている。
全国保険医団体連合会が、小・中・高校と特別支援学校を対象におこなった調査(児童・生徒数は計約147万人)によると、小学校(21都府県)で「要治療」と診断されながら、歯医者を受診しなかった子どもは52・1%いた。中学校(21都府県)ではさらに状況が悪化し、未受診の生徒は66・6%に上った。高校(3府県)は84・1%、特別支援学校(5県)は55・8%だった。さらに「口腔崩壊」している子どもがいた小学校は39・7%、中学校は32・7%、高校は50・3%、特別支援学校は45・1%に及んだ。
子どもと接する機会の多い養護教諭に複数回答で未受診の理由を尋ねたところ「乳歯の虫歯は生え変わるから治療しなくてもいい」と誤解している親や、長時間労働で仕事が休めず受診につながらなかったり、受診費用を払えず受診をためらったりする家庭もあった。
このような傾向は下関でも共通している。市内の養護教諭は、「学校では年に1度歯科健診があるが、治療した形跡のない子どもは注意して見ておくようにしている。歯の治療に限らず、学校で急な骨折や発熱などで病院に連れて行かなければならない場合も、お母さん方が仕事で抜けられないので、教師が家に送っていったり、保健室で寝かせておくこともある。生活のために子どもに関われない親が増えている」という。
中学校の教師は、年度初めの歯科検診で、虫歯があり治療が必要と診断された生徒の1人が何度促しても病院に行った様子がないことを心配していた。「病院に行かないのか、それとも行くことができないのか。私たちは家庭のことには踏みこめない。だがその子はいつも暗い顔をしている」と語っていた。国民健康保険料が払えず保険証を持たない家庭でも、18歳までは3割負担で医療を受けることができるものの、その医療費を払うことができない家庭が少なからず存在する。
下関市が3月に発表した「子ども生活実態調査」(5歳児、小5の児童と保護者、中2の生徒と保護者、17歳の子どもと保護者それぞれ1175世帯を住民基本台帳から無作為に抽出し調査用紙を郵送。1771世帯から回答を得た)のなかで、「過去1年間に、お子さんを医療機関で受診させた方がよいと思ったが、実際には受診させなかったことがありましたか」という問いに対して、17・7%が「あった」と回答した。世帯類型別に見ると、母子世帯の27・6%、父子世帯の46・2%が「受診をさせなかった」と回答。その理由として「公的医療保険に加入していたが、医療機関で自己負担金を払うことができないため」が全回答者の5・7%、「多忙で医療機関に連れて行く時間がなかったため」が同18・5%となった。また詳しい分析のなかで生活困窮層ほど、「医療費の自己負担金が支払えない」「公的医療保険に加入しておらず、医療費の支払いができなかったため」の割合が増加傾向にある。
また経済的に余裕がない家庭ほど炭水化物中心の食事が増え、糖質が多く含まれているため、こうした食生活が虫歯を誘発しているのではという見方もある。虫歯を持つ子どもは1970年代前半をピークに減少傾向にあるというが、一方で虫歯が極端に多い子どもたちがいることが浮き彫りになっている。歯科医のなかで「子どもの口の中の状態が家庭生活を知る手がかりになる」と論議になっている。