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広島高裁が伊方3号機の運転差止め判断 阿蘇噴火の危険性指摘

 広島市と松山市の住民が原告となって四国電力伊方原発3号機(昨年8月再稼働、現在定期検査中)の運転差し止めを求めた仮処分申請の即時抗告審で、広島高裁(野々上友之裁判長)は13日、運転差し止めを命じる決定を出した。

 

 野々上友之裁判長は「阿蘇の過去の噴火で火砕流が到達した可能性は十分小さいと評価できず、原発の立地は認められない」と判断し、来年9月末までの運転差し止めを命じた。福島第一原発事故の後、高裁段階で運転差し止めを命じた司法判断は初めて。

 

 今回の高裁判決に先立つ三月、広島地裁は、原子力規制委員会が定めた新規制基準は「不合理とはいえない」として、住民側の仮処分申請を却下していた。高裁の野々上裁判長は、伊方原発から約130㌔離れた阿蘇カルデラ(熊本県)で約9万年前に起きた巨大噴火を検討した結果、四国電が伊方原発周辺で実施した地質調査やシミュレーションでは火砕流が敷地に到達した可能性が小さいといえず「原発の立地は認められない」と判断した。伊方原発は瀬戸内海を挟み広島市から約100㌔の距離にある。3号機は昨年8月に再稼働し、定期検査のため今年10月に停止。四国電は来年1月22日の発送電再開を目指していた。

 

広島高裁の決定要旨

 

 仮処分を申し立てた住民は、伊方原発から約100㌔の広島市、約60㌔の松山市に住むなど、放射性物質が放出されるような事故が起きたさい、重大な被害を受ける地域に住む。そのため被害を受ける具体的危険がないことは、四国電力が立証する必要がある。

 

 原発の立地評価について、規制委が策定した「火山影響評価ガイド」は①原発から半径160㌔圏内の活動可能性のある火山が、原発の運用期間中に活動する可能性が十分小さいかどうかを判断、②十分小さいと判断できない場合、運用期間中に起きる噴火規模を推定、③推定できない場合、過去最大の噴火規模を想定し、火砕流が原発に到達する可能性が十分小さいかどうかを評価、④十分小さいと評価できない場合、原発の立地は不適となり、当該敷地に立地することは認められないと定める。

 

 伊方原発から約130㌔離れ、活動可能性のある火山の熊本県・阿蘇カルデラは、現在の火山学の知見では、伊方原発の運用期間中に活動可能性が十分に小さいと判断できず、噴火規模を推定することもできない。約9万年前に発生した過去最大の噴火規模を想定すると、四国電力がおこなった伊方原発周辺の地質調査や火砕流シミュレーションでは、火砕流が伊方原発の敷地に到達した可能性が十分小さいと評価できない。立地は不適で、敷地内に原発を立地することは認められない。

 

 広島地裁決定は、破局的噴火については、原発の運用期間に発生する可能性が根拠をもって示されない限り、安全性に欠けないと示した。確かに現在の火山学の知見では、破局的噴火の発生頻度は国内で1万年に1回程度とされ、仮に阿蘇で起きた場合、周辺100㌔程度が火砕流で壊滅状態になり、国土の大半が10㌢以上の火山灰で覆われるなどと予測されているが、そのような災害を想定した法規制はない。発生頻度が著しく小さく、破局的被害をもたらす噴火で生じるリスクは容認するのが日本の社会通念とも考えられる。しかし、高裁の考える社会通念に関する評価と、火山ガイドの立地評価の方法・考え方の一部に開きがあることを理由に、地裁決定のように、火山ガイドが考慮すべきだと定めた自然災害について、限定解釈をして判断基準の枠組みを変更することは原子炉等規制法と新規制基準の趣旨に反し、許されない。

 

 〈結論

 

 火山の影響による危険性について伊方原発が新規制基準に適合するとした規制委の判断は不合理で、申立人らの生命、身体に具体的危険があることが事実上推定されるから、申し立ては立証されたといえる。

 

 本件は仮処分であり、現在係争中の本訴訟で広島地裁が異なる判断をする可能性を考慮し、運転停止期間は18年9月30日までとする。以上である。

 

電力側に安全性の立証責任

 

 福島原発事故の原因は解明されておらず、事故の収束もままならない。そして、10万人余の住民がいまだに避難生活をよぎなくされている。こうした重大な被害を住民に強いたにもかかわらず、事故の責任は誰一人とらないまま、国は原発の再稼働にかじを切った。だが、国民世論は再稼働反対が圧倒的であり、今回の広島高裁の運転差し止め判断もこうした世論を無視できないことを示している。

 

 司法における原発運転差し止め判断は、2014年5月に福井地裁において大井原発3、4号機の運転差し止めが決定された。「福島事故のような事態を招く具体的な危険性が万が一にもあるかと考えると、原発の安全技術と設備は脆弱」とした。2015年4月にも福井地裁は高浜原発3、4号機の運転差し止めを命じた。「新基準は緩やかにすぎ、合理性を欠く。再稼働で人格権が侵害される危険がある」とした。2016年3月には大津地裁が高浜3、4号機の運転差し止めを決定した。「福島の事故原因が未解明ななか、電力会社の安全対策の説明は不十分。規制委の姿勢にも非常に不安を覚える」とした。そして今回の広島高裁の差し止め決定となった。

 

 過去の原発裁判では、原告・住民側が主に立証責任を求められてきたが、今回の広島高裁は電力側に安全性についての立証責任があるとした。情報を独占している側の責任を重視し、製造物責任の観点に立ったものだ。

 

 また、2015年1月に、高浜原発から約30~70㌔圏内に住む滋賀県の住民29人が関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止めを求めた裁判では、大津地裁が昨年3月に関電側に運転差し止めを命じている。今回、広島高裁は原発から約100㌔離れた広島市の住民が訴える被害可能性を認めたことも注目されている。

 

 伊方原発は「日本一細長い」といわれる佐田岬半島の付け根にある。中央構造線断層帯が近くを走り、南海トラフ巨大地震の震源域に入る。阿蘇の噴火が断層に影響するという指摘もある。原発事故時の避難では内陸に向かうか船で大分県に避難するしかないが、訓練は想定通りに進んでいない。各地でも避難計画の有効性が問われている。

 

 巨大噴火の影響は伊方原発にとどまらない。九州では阿蘇カルデラから160㌔以内に稼働中の川内原発1、2号機、来春にも再稼働予定の玄海原発3、4号機がある。 地震列島、火山列島である日本における原発建設の危険性は明白で、伊方3号機に限らず、すべての原発を停止させることが求められている。

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