米軍の浮沈空母と化す日本列島
米トランプ大統領が北朝鮮のミサイル問題をめぐって「迎撃するべきだ」と露骨な圧力をかけるなか、安倍政府が最新ミサイルシステム「イージス・アショア」設置を進めている。イージス・アショアは米イージス艦のミサイル発射装置を陸上配備するもので、最大射程には北朝鮮だけでなく中国やロシアも含む。設置候補地として萩市と秋田市を名指しし、19日にも閣議決定する方針を明らかにした。このイージス艦ミサイル発射装置の陸上配備は、周辺国から見た時には「防衛」を隠れ蓑にした攻撃拠点化にほかならず、新たな緊張関係をうみだす要因となっている。
安倍政府がイージス・アショア設置候補地としたのは、陸上自衛隊のむつみ演習場(萩市)と新屋(あらや)演習場(秋田市)の2カ所。イージス・アショアには日米が共同開発した新型迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」を導入する方向だ。現在、海自イージス艦に搭載するミサイルの射程は約1200㌔㍍だが、SM3ブロック2Aの射程は約2000㌔㍍で、中国やロシアなども攻撃射程圏内に入ることになる。
1基の設置費は当初約800億円としていたが、来年度予算案の決定時期が近づくと「1000億円弱になる」と大幅に値上げした。アメリカから購入するためさらに値段がはね上がる可能性もある。システム運営に必要な兵員は約100~300人規模で、今年度補正予算案に調査費約30億円を盛り込んでいる。萩市や秋田市では今月中にも電波環境の「適地調査」を開始する方向になっている。
現在、日本の「ミサイル防衛」は海上のイージス艦が大気圏外でミサイル弾頭を迎撃し、陸上からは「パトリオット」(PAC3)が迎撃する二段構えの体制である。すでにPAC3は千歳(北海道)、車力(青森)、入間(埼玉)、霞ヶ浦(茨城)、習志野(千葉)、武山(神奈川)、岐阜(岐阜)、饗庭野(滋賀)、白山(三重)、芦屋(福岡)、築城(福岡)、高良台(福岡)、那覇(沖縄)、知念(沖縄)の一四カ所に配備している。そして、ミサイルを監視するFPS5レーダー(ガメラレーダー)は大湊(青森)、佐渡(新潟)、下甑島(鹿児島)、与座岳(沖縄)の4カ所に配備している。だがミサイル落下時を狙うPAC3の射程距離は15~20㌔㍍にとどまり、射程が短い。このなかで「PAC3より射程距離の長いミサイルが必要」と主張し、長射程のミサイル配備計画が動き出した。
PAC3配備が始まった翌年の2008年には、イージス艦搭載のSM3配備を開始した。当初、導入が検討された移動式のTHAAD(高高度ミサイル迎撃システム)は射程距離(約200㌔㍍)で短いため却下となり、早い段階でイージス・アショア導入が決まった。このミサイルシステムの調査・開発に要した費用は04~17年で約1兆8450億円に及び、イージス・アショア2基の導入費が加われば2兆円をこす。
問題は、イージス・アショアが戦闘を任務とするイージス艦のミサイル装置を陸上に移した攻撃兵器なことだ。イージス艦は米軍が特攻攻撃を受けた経験から、十数機の特攻攻撃に対抗する先制ミサイル攻撃兵器として開発された。それが「神の盾(イージス)」と名付けられる由来にもなった。遠方より複数の標的を発見し、それに見合ったミサイルを装填し、艦対空、艦対艦、艦対地のあらゆる「攻撃」を迅速におこなうことが任務である。米軍が今年4月、シリアを攻撃したが、トマホークを59発撃ち込んだのは米軍のイージス艦2隻だった。こうした事実を隠蔽し、付随的な「迎撃」能力ばかり過大に宣伝するのは、イージス・アショア配備がもつ真の意味合いを覆い隠すためにほかならない。
実際にアメリカが2013年、「イランのミサイルの脅威」を口実にしてルーマニアとポーランドへイージス・アショア建設を開始したとき、ロシアが猛反発し、イージス・アショアから「迎撃」以外のミサイル発射機能を除去した。それでもロシア側は「いつでも改造することができる」と警戒し、対抗措置でイージス・アショアを射程圏内に収めたミサイルを配備した。アメリカが主導するミサイル配備で、ポーランドもルーマニアも国全体がミサイル攻撃の危険にさらされている関係だ。
今回のイージス・アショア導入でも、カムチャツカ半島周辺を「対米防衛線」と位置づけているロシアが「この装備(イージス・アショア)は米軍が管理している。そのことについて心配がある」と懸念を示した。小野寺防衛相は「米軍ではなく、日本の自衛隊が自ら運用する」と説明したが、ロシアは来年、千島列島に地対艦ミサイルを配備する計画を明らかにした。
イージス・アショアで発射するトマホークは通常1200~2500㌔㍍の射程を持つが、飛距離の長いものは3000㌔㍍に及ぶ。山口県から平壌までの距離が約1000㌔㍍であり、約2000㌔㍍離れた北京も射程圏内に入る。秋田県からはウラジオストク(約800㌔㍍)や、オホーツク(約2000㌔㍍)なども射程圏内である。イージス・アショアの配備は「迎撃」や「防衛」を口実にした攻撃態勢をとることにあり、このような兵器を常時陸上に配備すること自体が近隣諸国に対する軍事挑発となる。
また、候補地が萩と秋田になったのは、萩が北朝鮮からグアム向けに飛ぶミサイルの軌道線上にあり、秋田はハワイ向けの軌道線上にあったからだ。イージス・アショアが守る対象は、米太平洋軍司令部があるハワイと在沖海兵隊の移転先であるグアムであって、日本列島ではない。そのシステムの防衛機能は「日本を守る」ためというより、グアムとハワイを守るための最前線の盾という意味合いが大きい。
日本版海兵隊の創設も 離島奪回の夜間訓練
こうした先制攻撃態勢の強化と連動して、日本国内では自衛隊を巻きこんだ着上陸演習や夜間演習が活発化している。今月8日から陸上自衛隊と米海兵隊の計750人が陸自大矢野原演習場(熊本県)でオスプレイを使った訓練を強行したが、これも離島奪回を想定した夜間訓練だった。オスプレイ4機を動員し、兵員を空から地上に展開するヘリボーン訓練、実弾射撃訓練などを実施した。
オスプレイの夜間演習は九州初で、夜陰にまぎれて侵攻作戦をおこなう実戦形式の訓練が増えている。しかも普天間基地所属のオスプレイは直接、熊本に飛来して訓練するのではなく、訓練期間中は岩国基地を拠点にし、岩国と熊本のあいだを何度も行き来した。これも訓練のうちで、日本本土側へのオスプレイ配備を先取りした地ならしにほかならない。
先月16日深夜には、陸上自衛隊西部方面隊が種子島で着上陸訓練を実施した。海上自衛隊のヘリ空母や軍艦、LCACなどを多数動員し、小型偵察ボートを使った夜間潜入訓練、軍用ヘリで空から攻撃しながら上陸する訓練、水陸両用のLCACを使った着上陸訓練などが中身である。人口3万人近くの種子島を丸ごと戦場に見立てて着上陸訓練をおこなうのは初めてだ。先月7~9日には、在日米海軍が地元との「夜間や早朝は訓練しない」という協定を一方的に破り、横瀬駐機場(長崎県西海市)に配備したLCACの夜間航行訓練を強行している。
こうした夜間急襲や島嶼侵攻を専門とする「日本版海兵隊」の創設に動き出している。陸上自衛隊から選りすぐりのメンバーを集めて水陸機動団(日本版海兵隊)を作り、来年3月に相浦駐屯地(佐世保市)に2100人配備し、司令部も配置する。2020年代前半には沖縄の米軍基地キャンプハンセンに水陸機動連隊(約600人規模)を配置する計画も動いている。
数年前までは自衛隊の訓練も装備も「専守防衛」が建前で、空中給油機の導入にも厳しい規制がかかっていた。その基本姿勢を公然と覆して、他国を攻撃できるイージス・アショアの配備を急ぎ、自衛隊を攻撃専門部隊へ変貌させ、戦闘の最前線に立たせる動きが加速している。相浦駐屯地に近い佐賀空港(佐賀県)にオスプレイ配備を計画するのも、キャンプハンセンに近い辺野古にオスプレイが使う新型ヘリ基地建設を進めるのも、日本版海兵隊の配備を先取りした動きだ。
自衛隊は米軍指揮下に 後方に下がる米軍
日本全土はすでに米軍再編計画にもとづいて全土が米軍下請の出撃拠点と化している。キャンプ座間(神奈川県)には、ワシントンにあった米第1軍団司令部を陸軍以外の軍隊も指揮できる新司令部・UEXとして移転させ、そこに陸自「中央即応集団」司令部を同居させた。陸上自衛隊部隊はまるごと米陸軍の下請・傭兵となった。在日米軍司令部と第5空軍司令部のある横田基地には、航空自衛隊の航空総隊司令部とミサイル発射情報などを扱う日米共同統合運用調整所を組み込んだ。米第7艦隊司令部、在日米海軍司令部がある横須賀基地はすでに海上自衛隊の自衛艦隊司令部があり一体化している。陸・海・空自衛隊に指令を出す中枢司令部はアメリカであり、米軍再編の第一の目的は自衛隊を米軍指揮下に収める指令体制を作ることだった。
その次なる段階として「北朝鮮の脅威」を煽りながら、在日米軍基地や自衛隊基地を軸にした日本全土の出撃拠点化を推し進めている。とくに朝鮮半島に近い岩国、佐世保など中国・九州地方の軍備増強が段階を画している。
厚木の空母艦載機が移転する米軍岩国基地は、米軍再編にともなって普天間基地から空中給油機15機が2014年までに移転し、沖合拡張による大滑走路2本体制を整え、空母接岸可能な軍港機能も備えている。愛宕山に260戸もの米軍住宅を整備して4000人規模の米兵や家族を受け入れる体制を作っており、戦闘機が130機を超す極東最大の出撃拠点となる。さらに岩国基地には佐世保基地配備の超大型強襲揚陸艦ワスプ(長さ257㍍、幅32㍍)の艦載機であるF35B16機も配備している。ワスプは輸送機や攻撃ヘリなど軍用機を31機搭載でき、兵員約2200人を輸送する小型空母といっても過言ではない。岩国基地は空母複数体制も想定した増強が動いている。
岩国と連動して米海軍佐世保基地一帯の増強も加速している。佐世保基地は強襲揚陸艦と水陸両用攻撃部隊で構成する急襲部隊で、1991年の湾岸戦争で出動した。佐世保の米軍部隊は小回りの効く急襲部隊として、太平洋・インド洋の監視にあたっている。この近くの陸上自衛隊相浦駐屯地で水陸機動団発足の準備が進み、海兵隊仕様と同じ水陸両用強襲輸送車AAV7を約20両配備する方向になっている。それは米軍の急襲上陸作戦を肩代わりする自衛隊部隊の育成が最終段階に入ったことを意味する。
そして近年目立っているのはミサイル攻撃力の増強だ。与那国島に自衛隊が沿岸監視部隊を150人配置したが、今後は地対空、地対艦ミサイルを運用する陸自ミサイル部隊を宮古島(800人)、石垣島(550人)、奄美大島(550人)に配置する計画になっている。海上自衛隊も日本が現在6隻保有するイージス艦を8隻に増やす計画を進めている。
来年度予算案には長距離巡航ミサイルの調査費を計上する。導入を目指すのはアメリカ製の「JASM(ジャズム)―ER」(射程900㌔㍍)とノルウェー製の「JSM」(射程300㌔㍍)で、ジャズムはF15戦闘機に搭載し、JSMはF35に搭載する方向。戦闘機は他国の近くまで飛んでいけるため、世界のどの国にもミサイルを撃ち込める体制となる。
この間、アメリカは原子力空母3隻を動員し、その後も戦闘機約230機を集結させ、朝鮮半島付近で執拗な軍事挑発を続けてきた。しかし、朝鮮やアジア諸国で一触即発の事態が起きれば、アメリカはハワイやグアムなどの後方に引き下がり、日本列島をミサイル発射基地にし、自衛隊を戦争の前面に押し立て、アジア人同士での戦争へ誘導するのが一貫した戦略だ。朝鮮半島近辺で大規模かつ好戦的な軍事演習に熱を上げ、「北の脅威から守る」といって攻撃を意図した訓練を活発化させると同時に、せっせと米軍需産業が生産する武器を日本に売りつけている。
こうした一連の動きはアメリカが日本をミサイル発射拠点や兵員補給拠点、すなわち最前線の浮沈空母としか見ていないことをよく示している。「防衛のため」といって進めていることは、他国から見た時には「攻撃の拠点化」であり、軍事的な緊張を高めるものにしかならない。その過程で、米軍需産業のカモにされていることも見過ごせない。