米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の移設を巡って焦点になってきた名護市辺野古の沖合で14日、埋め立て工事の前提となる海底ボーリング調査を実施するために立ち入り禁止範囲を示すブイの設置が強行された。世間が盆休みに入った直後を狙い撃ちしたもので、防衛省は埋立予定地とされる広い海域にブイと連なったフロート(浮具)を浮かべ、反対派などがボート等で進入した場合は、海上保安庁が日米地位協定に基づいて刑事特別措置法を適用して検挙すると発表するなど、きわめて強権的な手法でごり押しをはかっている。昨年の名護市長選では、政府・自民党本部あげて介入したものの移設反対派が圧勝し、11月には自民党の惨敗が予想される沖縄県知事選も控えている。このなかで、沖縄の民意がどう転ぼうが強行するのだから諦めろ! という挑戦的なメッセージを込めた強攻策がやられている。
戦後69年経て更に最新鋭基地
普天間基地の辺野古移設を巡っては、「県外移設」を叫んで沖縄県民を愚弄した民主党政府が自爆した後、自民党政府が再び米国政府の要求に基づいて辺野古移設の強行をはかりはじめ、四月の日米首脳会談で安倍晋三が「強い意志をもって早期かつ着実に(辺野古移設を)進めていく」とオバマと約束して今回の強攻策に至っている。アメリカの為なら俄然張り切る安倍政府の姿を暴露している。
普天間基地については97年に「返還合意」が日米両政府の間で交わされたとされている。しかし辺野古に新基地を建設することが条件となり、返還が確約されたわけではない。「返還」時期についても今のところ2022年度以降とされ、「合意」の実態についてはきわめて曖昧なものである。新基地をつくったが、情勢の変化により基地拡大という結果になることも十分に想定されている。
同じような経験をした岩国では「滑走路の沖合移設」といって、まるで基地手前部分が市街地として返還されるようなことを吹聴していたが、20年経った結果どうなったかを見てみると、基地を1・5倍に拡張して極東最大の要塞を築き上げ、市街地を見下ろす愛宕山まで米軍住宅として奪っていこうとしている。大嘘で人騙しをやる手口が米軍基地絡みでは早くから常套手段として用いられてきた。こうした米軍再編なり新基地の建設は日本政府から要求したものではなく、すべて米国の利害から進められてきた。
今回のボーリング調査開始の強攻策は、名護市長選で惨敗し、11月の知事選でも仲井真批判が吹き荒れているなかで、あくまで沖縄の民意とか選挙結果に関係なく進めていくし、「国の専権事項に何を言ってもムダなのだ」と諦めを誘いたい政府側の意図が丸出しとなっている。戦争も始まっていないうちから、まるで戦時下の強権発動のような真似事をして民主主義を否定していく、為政者の思い上がりを同時にあらわしている。仲井真が知事選で敗北しても国がごり押しするという意味合いの他に、新知事が「国が強行するから仕方がない…」「それなら振興策を」と裏切っていく布石にもなるという、姑息な意味合いを諸々含んだパフォーマンスとなっている。
先の名護市長選では500億円の振興策をエサにして利益誘導をやりまくったのが自民党本部及び安倍政府であった。ところが、沖縄全県民の基地撤去を求める力が揺るぎないことを示した。安倍政府登場によって特定秘密保護法や安保基本法の改悪、集団的自衛権の行使など戦時国家体制作りが強まり、尖閣では武力衝突すら起きかねない緊張が激化するなかで、沖縄の米軍基地が直接ミサイルの標的にされかねないという切迫した戦争情勢のなかで、米軍基地の存在が大きく問われるものだった。単に辺野古移転に賛成か反対かという問題以上に安倍戦争政治を覆す全沖縄の意志を鮮明にあらわす痛快な勝利であった。
すると今度は敗北を織り込んで選挙前から「民意にかかわらず進めていく」という政府対応となった。選挙に勝てば「地元の意志を尊重して進める」といい、敗北すれば「国の専権事項なので、結果に左右されるものではない」という大インチキは、安倍首相のお膝元である山口県では、上関原発計画や米軍基地を抱える上関、岩国で何度も経験してきた。沖縄に対する対応も共通で、民意とか選挙結果が尊重される世の中かと思っていたら逆で、もっぱら尊重されるのは米国の意志のみという、民主主義を根本から否定する売国政治の姿を、浮き彫りにしている。名護市長選で辛酸をなめた今回、選挙前から早くも予防線を張っているのだから、挑戦的であると同時に為政者としては姑息すぎる連中といわなければならない。
普天間基地を巡って、長年にわたって商業メディアが騒ぎ立てているのが「県外移設」か「県内移設」かという二元的構図である。それを「沖縄の負担軽減」というインチキじみたフレーズに乗せてキャンペーンをはってきた。問題は米軍基地が「県外」に移設して岩国基地はじめ全国の米軍基地が拡大するか、沖縄が辛抱を強いられるかという欺瞞的な二者択一ではなく、普天間や辺野古、岩国をはじめ日本国内から米軍基地をみな撤去するかどうか、独立と平和を巡る課題が最大の争点である。
今や「米軍が日本を守ってくれている」どころか、米軍の鉄砲玉になって自衛隊が戦地に駆り出され、アフリカであれ、イラクをはじめとした中東、ウクライナといった紛争地帯であれ、生身で乗り込んでいく役割を背負わされるところまできた。米国の海外権益を守るために日本の若者が安倍晋三に「死んでこい」と命令され、戦地に赴かなければならない。その安倍晋三に命令するのがアメリカ政府で、四月の日米首脳会談では早速「アフリカ行ってこい」とオバマにいわれていたことも暴露された。
集団的自衛権行使といったときの「集団」は米軍以外にはいない。その米軍のために新たに基地を作ってやるのが辺野古移設なり、岩国基地の大増強にほかならない。戦地の肉弾として日本の若者が米軍の身代わりになり、米軍が日本国内の基地を最前線の出撃基地にするおかげで報復攻撃の対象にされ、日本全土が核ミサイル攻撃の標的にされかねない事態が真顔で実行されている。米軍基地は「抑止力」ではなく標的以外のなにものでもないことは、とりわけ沖縄や岩国など基地の街の実感となっている。
戦後69年も経ちながら他国の軍隊が占領状態を続けているような国は世界的に例がない。香港でも第2次大戦後から継続されたイギリスによる植民地支配は97年までで終止符が打たれた。第2次大戦の敗北から70年近くも経過したなかで、さらに国内に最新鋭の米軍基地をつくり、いったいこの先何十年居座るつもりなのか、である。
辺野古現地ではカヤック隊など様様な勢力が乗り込んで運動をくり広げてきたが、ここまできていえることはカヤックを漕いでどうこうなる代物ではなく、いわんや「ジュゴンを守れ」「貴重な生態系を守れ」以上に人間の命を守れが現実課題である。民意でどのような結果が突きつけられようが米国の意志のみを貫いていく傀儡政府の横暴に対しては、全国的な政治斗争によってしか打ち破ることはできない。辺野古のみ、あるいは沖縄だけの問題ではなく、岩国をはじめとした全国が連帯して植民地支配を打ち破る斗争を発展させること、米軍基地を撤去し、独立と平和、民主主義を勝ちとるたたかいを無限に発展させ、思い上がった安倍政府もろとも表舞台から退場させることが切迫した課題となっている。
そのなかで、為政者が「選挙結果にかかわらず」といったところで注目されるのが沖縄県知事選で、傀儡政府を叩きつぶす斗争の突破口として全国を激励する重要な位置を占めている。