辺野古への新基地建設阻止と普天間基地の撤去が最大の争点となる宜野湾市長選(17日告示、24日投開票)が迫り、7月の参院選に向けた端緒を切り開く選挙として全国的な注目が高まっている。今回の選挙は安倍政府が国政選挙なみに金力・権力を総動員してテコ入れし、辺野古と普天間の対立を煽るなかで、これと真っ向から対決する形で沖縄県民が迎え撃っている。この数年来、沖縄では衆議院選、名護市長選、県知事選とことごとく日米政府の代理人を落選させ、金力、権力による謀略をうち負かしてきた。ことは宜野湾市長選であり、沖縄県内にある一地方自治体の市長に誰がなるか? であるが、普天間基地を抱える自治体を舞台にして、基地撤去を望む島ぐるみの県民の力をいかに示すかが注目され、全国のたたかいの突破口になろうとしている。 主権奪い沖縄差し出す安倍政府 現在、宜野湾市長選には自民党本部が支援する佐喜真淳・現市長と、新人でオール沖縄が擁立した志村恵一郎氏(元県土木幹部職員)の2人が立候補を表明している。 志村陣営についてはオール沖縄の候補として翁長県政が支援し、本人も圧倒的な辺野古新基地建設阻止の県民世論の高揚を受けて立候補を決めたとされている。辺野古新基地建設反対を表明し、普天間基地問題に対しては、「無条件返還こそ危険性の除去と固定化阻止にもっとも現実的で具体的な方策だ」とのべている。そして政策方針として、「基地をなくし、雇用の拡大、経済の発展、活気ある国際色豊かなまちづくり」を掲げ、産業振興、教育、医療の拡充などをうち出している。翁長知事を支持する県内の経済界が支援を表明しているほか、元県議会議長だった父親の支持者や一定の保守層、基地建設に反対して全県・全国から集結したボランティアが市内にくり出して宣伝をおこなっている。知事選同様に党派をこえた動きとなっている。 一方の佐喜真陣営側は、1昨年の名護市長選や県知事選と同様、自民党・安倍政府が国政選挙なみに力を注ぎ込み、選挙人員、宣伝カーも含めて本土から投入する態勢をとるなど、なりふり構わぬ選挙を展開している。これまで態度を表面化しなかった公明党が、今回はムキになって佐喜真陣営を支援しているのも特徴となっている。今月5日には山口那津男代表みずからが沖縄に乗り込んで檄を飛ばし、信者を動員している。公明党沖縄県本部はこれまで「辺野古反対」の看板を掲げてきたが、いまや体裁など気にしておれず、自民党の最大の基盤として蠢いている。 佐喜真陣営は、これまでの任期のなかで辺野古への新基地建設推進を表明していたが、選挙前の公開討論会などでは辺野古問題について明確な意思表示を避けてきた。そして「一番大切なのは市民の生命・財産だ。普天間基地の固定化を絶対に避けなければならない」と主張している。さらに「ディズニーリゾートの誘致」「鉄軌道を普天間跡地へ」等等、自民党政府の後ろ盾をもとに経済的利害を強調しているのも特徴だ。本土から若い男女が宜野湾市内に投入され、「佐喜真後援会」として後援会カードへの記名を求めている姿も話題になっている。いったいだれが動員して指揮しているのか? 衣食住の面倒含めて支えているスポンサーは誰なのか? と語られている。また右翼の街宣車が志村陣営の街宣を妨害したり、沖縄の選挙ではお馴染みの誹謗中傷も飛び交いはじめている。本戦が近づくにつれて激しさを増していく趨勢だ。 全県全国の斗いと連動 宜野湾市内の商店主の男性は、「市長選は今までになく盛り上がっているし、市民世論は圧倒的に辺野古反対が多い気がする。今回の選挙は、普天間基地や宜野湾市だけの問題ではなく、沖縄、日本全国の将来がかかったたたかいだ。ここまできて負けるわけにはいかない。自民党が普天間基地の跡地にディズニーランドの建設などという計画をうち出したが、今更そんなもので沖縄県民が振り回されるはずがない。あまりにもバカにしている」と憤りをのべた。 市内で商店を営む80代の婦人は、「佐喜真側は青年を動員しているが、今度の市長選は志村候補が勝たないといけない。辺野古に基地をつくらせたらまた戦争になる。沖縄戦のときには壕に隠れて命拾いしたが、今度戦争になったら沖縄は全滅する。子や孫の将来のためにも基地は反対だ。翁長知事も頑張っているし、志村候補を応援している」と語った。 70代の男性は、県外移設を主張していた仲井真元知事が裏切って埋め立て承認にサインして県民が怒ったことを語り、「政府は基地の整理縮小といっているが、やっていることは不要になった軍用地を細切れに返還しているだけで、基地の返還とはいえない。辺野古に基地をつくらせたら、100年、200年も米軍は居座るつもりだ」と語った。 また普天間基地は米軍が強制的に土地をとりあげ、琉球松の森林を切り倒してつくったものだと語り、「普天間基地を撤去させ、嘉手納基地も撤去させるとの声も上がっている。翁長知事を支持している市長候補に勝ってほしい」とのべた。 市内に住む60代の婦人は、「アメリカはいつまで日本に基地を負わせるのか。基地があるとテロに狙われる。これが一番恐ろしい。沖縄だけでなく日本全体から基地をなくすことが理想だ」と語った。 選挙は「佐喜真志村」という候補者同士の対決という範ちゅうをこえて、島ぐるみのオール沖縄でたたかう県民と、安倍政府、アメリカとの全面対決の様相を呈している。戦後71年経ってなお、街のど真ん中に広大な米軍基地が居座り、基地労働者や周辺地域の経済を含めて米軍が支配する宜野湾市にあって、これと真っ向からたたかって、沖縄県民の世論を突きつけようという思いが強まっている。 県民愚弄する人質交渉 この間、普天間基地といえば「辺野古への移設が唯一の解決策」「世界一危険な普天間基地の固定化は許さない」と自民党政府はもっともらしく主張してきた。「普天間が危険だから辺野古基地建設が必要」で「辺野古基地建設が進まなければ、普天間は返還されない」というものだ。それは辺野古基地建設に反対する者は普天間を危険に晒す者といわんばかりの響きをともない、辺野古と普天間のどっちを優先させるかという別問題にすり替えて、両地域の住民利害を対立させるインチキ論法として意図的に持ち込まれてきた。普天間を人質にした強盗が老朽化して使い古した基地よりも新品の「辺野古よこせ!」といっているだけなのに、さも良いことをするような振る舞いで「危険除去」などといってきた。 はっきりしていることはもともと普天間基地も米軍が銃剣とブルドーザーで奪ったものでありその代替用地を提供しなければならない義理など何もないことだ。普天間を返せ! 辺野古もやらない! 基地はアメリカに持って帰れ! が沖縄県民の要求であり、はじめから「普天間か、辺野古か」などという問題ではない。 ちなみに、米国防総省が1968年に作成した文書「日本と沖縄の米軍基地・部隊」の中では、すでに普天間基地は閉鎖候補にあがっており、当時から米軍は使い勝手の悪い基地と見なしていた。それをもったいぶって「普天間を危険に晒したくなければ辺野古をよこせ」と人質交渉しているのである。 70年前の沖縄戦で沖縄を焼き尽くし、殺し尽くして基地として奪っていったのが米軍だった。辺野古基地建設は、戦後71年を迎えながら、この期に及んで新しい基地を整備し、その耐用年数も加えると100年以上居座ろうというものである。沖縄県内には普天間に限らずいたるところに米軍基地が置かれ、そのうち1カ所だけ危険がなくなればよいと見なしている者はいない。というより、この基地がベトナム戦争やイラク・アフガン戦争など、米国が戦争を引き起こす度に出撃拠点として利用され、米国の軍事的・戦略的配置の都合から置いてきたこと、米軍にとって日本人は守る対象ではなく、犯したり好き勝手に振る舞ってきたし、植民地従属国の劣等人種くらいにしか見なしていないことは、沖縄県民が70年かけて肌身に感じてきたことである。守るどころか身内を殺して力づくで奪った基地にほかならない。 安倍政府になってから集団的自衛権の行使を盛り込んだ安保法制を強行し、今度は米軍になりかわって日本の若者が戦斗地域に放り込まれる法整備が進み、沖縄をはじめとした日本列島は米国本土防衛の盾としてミサイル攻撃の標的になることが現実問題となっている。ディズニーランドをつくったところで、いざ戦争になれば最前線基地が真っ先に攻撃にさらされ、「地獄の沙汰もカネ次第」で得た経済的利害や諸諸の建物など、みな吹き飛んでいく関係だ。デラックスな遊戯施設を電源3法交付金でつくった挙げ句、原発事故でゴーストタウンと化した福島と同じで、目先の経済的利害で郷土を売り飛ばすことなどできない。 沖縄では近年、名護市長選、県知事選と幾度も日米政府の圧力をはねのけて、明確な意志を突きつけてきた。しかし、その後も何もなかったような顔をして辺野古基地建設の手続きを進め、ボーリング調査を強行したり、抵抗する沖縄県を訴えたり恫喝を加え、県民がどれだけ抵抗してもムダなのだと聞く耳のない姿勢を貫いてきた。しかし、それに対してあきらめるどころか、むしろ斗争は島ぐるみに発展し、民意を無視すればするほど沖縄の為政者たち、すなわち日米両政府の番頭たちは袋叩きにされて力を失い、今日のような全面対決の局面を作り出した。 米軍基地撤去を望む県民世論は、翁長知事をして基地反対を表明させ、その後もひるむことなく全国世論と連帯しながら発展してきた。沖縄の経験は、大衆運動によって候補者を締め上げながらいうことを聞かせ、裏切り者は叩き落とし、その力関係を圧倒的なものにすることでしか、政治を揺り動かすことなどできないことを示してきた。宜野湾市長選もそうした島ぐるみ斗争の力を示すものとして全国から注目を浴びている。政府や国家機構あげて襲いかかっている選挙で、金力や権力をはねのけて世論を統一し、完全勝利するのは生半可な事ではないが、年明け早早に、安倍戦争政治に鉄槌を加える斗争の端緒を切り開くものとして期待が高まっている。 |