沖縄で5日に県議会議員選挙の投開票がおこなわれ、辺野古基地建設反対を唱えて安倍政府と対決姿勢を強めてきた翁長県知事の支持派が、定数48議席のうち議席を改選前の24議席から27議席にのばして勝利した。直前には元海兵隊の軍属による女性強姦殺害事件が起き沖縄県民の積年の怒りが噴き上がっているなかでおこなわれた県議選は、翁長体制の切り崩しを企む自民党が国政選挙並に身を乗り出し、それに対して県政与党が過半数を維持できるかが最大の焦点となっていたが、「アメリカは基地を持って帰れ」の県民世論は崩れるどころか揺るぎない力を見せつけた。
足場を失う自民党 際立った公明党の組織激減
無投票だった名護市区をのぞく12選挙区のうち、11選挙区で与党の得票が野党を上回った。全体に占める得票率でも与党が52・5%、野党32・9%と大きく差をつけた。また有効投票数は無投票の名護市区を除く12選挙区で55万4517票となり、前回の2012年県議選より6万票増えた。
自民党としては夏の参議院選の前哨戦ということもあり、党本部から選挙対策委員長が沖縄入りし、沖縄の経済界関係者らと直接会合を持つなど、地方選挙としては異例なほどの力の入れようだった。
何としてでも辺野古に新基地を建設したいのが安倍政府で、基地建設反対で真っ向から対立する翁長県政の足下を揺さぶりたいというのがその眼目だった。13議席だった自民党の公認・推薦を20人に増やし、定数の3人区や5人区での勝利に力を入れたが、その3人区、5人区でことごとく敗北するものとなった。
最大の注目を集めていたのが定数3人の宜野湾市区だった。1月におこなわれた市長選では自民党推薦候補が大差で当選しており、県議会でも野党が2議席をもっていた。しかし、今回の選挙では保守系の現職と自民党が手厚く支援した公認の新人がそろって落選し、与党2、野党1と8年ぶりに基地反対派が2議席を獲得した。
那覇市・南部離島区では定数11人に対して18人が立候補する大混戦となった。結果、与党が5、中立3、野党3となった。自民党県連の幹事長で県議会のボスともいわれていた具志孝助の後継者として出馬した仲村家治が落選した。
沖縄市(定数5)では、自民党はわざわざ共産党現職の嘉陽宗儀の親戚筋にあたる新人の小渡良太郎を擁立して2議席を狙ったが落選し、与党3、中立1、野党1となった。
また、自民党の敗北だけではなく公明党の票も激減していることが注目されている。今回の選挙で公明党は現職3人、新人1人の公認候補を擁立した。那覇市・南部離島区の候補者は前回1万2463票だったのが今回は8663票となった。同じく那覇市・南部離島区の候補者は前回1万879票が今回8333票。沖縄市区の候補者は前回1万1067票が8440票となり、軒並み3000票ほど減らしている。
自民党に付き従って戦争政治を進める公明党に対し、支持者が激しく反発していることを伺わせた。公明党沖縄県本部は現在、普天間基地の辺野古移設には反対を唱え、参議院選の島尻安伊子の推薦にも難色を示している。支持者の離反とセットで中央との矛盾も大きいものにならざるをえない。県議選における得票激減がさらに組織を縛り上げるものとなっている。
自民党本部が乗り出した揺さぶりは撥ね付けられ、沖縄県民の力が翁長体制をして辺野古基地撤去を貫かせる結果となった。自民党としては選挙の度に現地の番頭役を失い、その支配の足場が揺らいでいることを物語った。
全ての根源は安保条約 噴上がる歴史的怒り
沖縄市に住む男性は「ここまできて自民党の票は崩れる一方になっているのに比べて、基地反対のオール沖縄の力がどんどん強まっている。浮動票も自民党に流れなくなっている。この度の凶悪事件で、改めてアメリカが日本や沖縄を守るわけがなく、いまだに植民地くらいにしか思っていないことがはっきりした。基地の返還地である那覇の新都心や北谷のハンビータウンが繁栄し、税収が何倍にもなっているが、基地があることで沖縄の経済が回っているという幻想も崩れ去ってきている。基地があるからこそ飴と鞭を利用して負担を押しつけられ、沖縄はあえて貧乏にさせられてきた。米軍がいなくなれば中国が攻めてくると宣伝もされているが、中国が攻めてくる前に米兵によって沖縄県民が殺されている。基地は撤去以外にない」と語った。
普天間基地のある宜野湾市の商店主は「あの事件以来、沖縄中が泣いている。事件が発生したときから米兵が関係しているのではないかと話されていたが、なんとか生きていてほしいと誰もが祈っていた。遺体が見つかったというニュースが流れてきたときに本当にショックだった。以前は経済面や防衛面で基地は仕方ないのかもしれない…と思う気持ちもあった。だが、ここまできて基地は絶対に撤去しなければならないと思うようになった。その後も飲酒の交通事故を起こしているし、沖縄県民をなめているとしか思えない。日本政府もアメリカも事件が起きるたびに遺憾を口にするが、改善されたためしがない。市長選では自民党に負けたが、あのときは本土から五億円もの金が流れてきたという噂もある。今回も自民党の力の入れようはすごかった。国会議員が来て応援演説をしたり、連日何回も選挙カーがまわってきていた。それでも基地反対派が二議席を獲得したのは大勝利だ」と話した。
サイパンから引き揚げてきた宜野湾市の女性は「若い人を見ると、殺された女の子が笑顔で写っていた写真を思い出して涙が出る。この事件は氷山の一角だ。私の周りだけでも被害にあって黙っている女性が五、六人いる。終戦直後は食べる物が何もないから、みなで食料工作隊でイモなどをつくらされていた。その作業に行く途中に草むらから米兵が飛び出してきて女の人をさらっていく。当時は復帰もしていないから事件にもされない。犯されてハーフの子を産んだ女の人がたくさんいた。なかにはハーフの子を産んで殺したこともあった。70年間ずっとアメリカの好き勝手にされ続け、人間扱いすらされていない。アメリカは図に乗っている。あの殺人事件を起こした直後に今度は飲酒事故だ。70年もたって日本はいまだにアメリカに占領されている。基地が全面撤去されない限り、沖縄の平和は戻ってこない」と涙を浮かべて話した。
県内で教師をしている女性は、自身も米兵の事故に巻き込まれた経験を語った。「まだ車を買ったばかりの若い米兵で、ものすごいスピードを出して走っているYナンバーがあると思ったら、止まりきれなかったらしく急にぶつかってきた。お互いに停車して“けがはない?”と心配して声をかけ、警察に連絡しようとしたときに突然逃げていった。走り去っていく車を見て、基地に逃げ込めば大丈夫と思っていることを実感した。ナンバーを控えていたから犯人は捕まったが、ナンバーがなければ沖縄の警察は捜査もすることができない。それが沖縄の現状だ。いまだに支配下に置かれている。女性殺害事件が明らかになったが、これは氷山の一角で、一つ事件が明るみに出たにすぎない。その下には埋もれたままの事件が何十、何百とある。女の子は被害にあっても“お嫁に行けない”などの理由で黙ったままの人が何人もいる。死んだおじい、おばあは“昔は自転車で基地に仕事に行ってそのまま帰って来なかった人が何人もいる”といっていた」と語った。
そして「普天間の危険除去をいっているが、アメリカには1967年の時点で辺野古に基地を建設するという青写真があった。普天間が危険だから辺野古に持っていくのではなく、ただ単にアメリカが辺野古に基地をつくりたいだけだ。辺野古に基地を建設しても普天間を返還するかどうかもあやしい。教えている子どもたちのなかには親が基地で働いている人もいれば、軍用地代で莫大な金を持っている人もいる。だから基地に文句がいえないような雰囲気がつくられていた。基地があることで産業が育たず、生きていくために基地で働かざるをえない状況がつくられている。自分たちの命を危険にさらす基地に反対を叫ぶことの何がいけないのか。近所に住むアメリカ人は陽気でいい人もいる。米兵もみんながみんな悪人ではないが、根底には日本に対する占領者意識がある。“イノシシと間違えた”といって人を銃で撃ち殺しても無罪、軍用車両でひき殺しても無罪。こんなことがくり返されてはならない」と話した。
那覇市内に住む男性は「米兵が事件を起こすたびに県民は何度も怒りの声を上げてきた。それがとうとう“基地の全面撤去”にまで発展している。これほど凶悪な事件を起こしてなお、辺野古に基地をつくろうとする者への怒り、またそれを支持する者に対する怒りが今回の選挙結果だと思う」といった。また「自民党は盛んに普天間の危険除去をいうが、本当の沖縄人の心はそんなものではない。“自分たちが味わっている危険を辺野古の人に味わわせてはいけない”というのが沖縄の心だ。だから本土にも基地はいらない。移設の場所の問題ではない。基地があることでの経済効果もいわれているが、平和があってこその経済だ。政治の一番根本である“国民の生命・安全を守る”を踏みにじり、命が危険にさらされる戦争で豊かになって何になるのか。今回の事件で地位協定の見直しも俎上にのぼったが、本当にアメリカのやりたい放題にとりきめてある。事件後も日米両政府ともに地位協定の改定には一切ふれなかったが、あれほど好き放題できる特権をアメリカが手放すわけがない。今度の参議院選では、基地問題に触れれば負けることがわかっているから、向こうはまた経済問題で目くらましをしてくるだろう。しかし沖縄は絶対に金で平和を売らない。県民の思いはここまで高まってきている」と確信を語った。
そして「基地問題の根本は安保だ。安保があるから日本に米軍基地があるのであって、米軍基地があるから事件も起こる。今の植民地状態から脱却するためにも安保を破棄しなければならない。基地撤去にとどまらず、安保がすべての問題の根源であるということがはっきりすればこの運動は発展する」と話した。