いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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宝塚市役所炎上事件 どこでも起こり得る事態 下関でも冷酷な差押え急増 

 下関市の中尾市政による市税滞納者への差押えが、市長就任から4年を経て更に容赦ないものになっている。ひどいケースになると家族の生活や人生そのものが破綻しかねないものまであり、なぜここまで問答無用に搾り上げていくのかと反発が強まっている。今月中旬には兵庫県の宝塚市役所に火炎瓶が投げ込まれ、役所が火の海になる事件があった。動機は差押えに対する不満だったことが明らかになったが、「同じようなことが下関でも起こりかねない…」と窓口職員が真顔で心配する事態になっている。地方交付税が毎年のように減額され、全国の地方自治体が財政難を理由に徴収率アップを競っている。国にもらえないなら、市民を打ち出の小槌にして叩き回すというものだ。大不況で下関市内の景気は“どん底”ともいわれているなかで、「税の公平性を保つ」といって税務署より厳しいとりたてをやり、生活破綻の悲劇を助長している。ところが「公平性」云云をいうのはとりたてる時だけで、その税を使う側、支出に際しては「税の公平性」は何ら問われず、国にせよ、安倍・林代理の中尾市政にせよ、公共投資や散財は無制限垂れ流しだから怒りは強い。
 
 支出では問わぬ「税の公平性」

 この間、差し押さえられてきた物件は土地、家屋、生命保険、自家用車、貯金、給与、年金、企業の売掛金など多岐に渡っている。カネが潤沢にあるのなら、だれも好きこのんでペナルティーを受けるような真似などしない。払おうにも払えないから、「少し待ってほしい…」「分割にして支払わせてほしい…」と役所担当者にお願いしている。ところが、工面できずに支払いが滞ったら、督促の赤紙が届き、期日までにどうにもならなければ、たちまち金目の財産から押さえられる。土地、建物があっても、現金があれば手っ取り早く現金を差し押さえるのが特徴になっている。
 今月中旬、市内某所でビルを所有していた男性が心不全で亡くなった。3年前に200万円を超える固定資産税が払えず、市役所の督促を受けて10分割にして払っていく約束をなんとかとりつけた。しかし、3回目の支払いがどうしても困難で滞ってしまった。およそ20万円近い金額を一1カ月近くの期間を挟みながらとはいえ、連続して用立てるのは少少ではなかった。すると、生命保険や子どものために積み立てておいた学資保険を差し押さえられ、なんの説明もなく一方的に解約されることとなった。
 以前から心臓を患っていたこともあり、男性にとって生命保険は仮に自分が亡くなった時に、残されるであろう家族への“最後の砦”だった。それが有無をいわさずとり上げられていた。小学生と中学生の2人の子どもと奥さんが残され、本来なら支給されるはずだった保険金は既に解約されて入らない。学資保険にしても、あるのとないのとでは、子育てにとっても大違いだったのは疑いないが、なにもない状態になった。
 知人男性の一人は「差し押さえられたときによく相談を受けていたし、必死でお金を工面していたから、痛いくらい気持ちがわかる。10分割の支払いで3回目が滞ったなら、3回目のお金を工面できればいい話なのに、まとめて200万円を市役所は持っていった。カネがあるうちに全部まとめて徴収してしまうやり方だった。足りない部分については会社の通帳を押さえるといわれたから、“それでは商売ができなくなってしまう…”と悩み、知り合いから借金して支払っていた。生命保険を解約までしなくても、保険料を払いながら保険会社からお金を借りたり、解決しようと思えばやり方はまだあったと思う。しかし本人の生活や事情にお構いなしに、懲罰みたいに奪っていった」と怒りを露わにした。
 「もう少し待ってほしい…」というお願いが聞いてもらえない。以前なら役所担当者との話し合いで事情を呑み込んでもらったりして、猶予期間についても市民の実情に即した案配ができていた。しかし最近は少し支払いが遅れただけで督促状が届き、間に合わなければ差押えという機械的なシステムに変わってきた。「角欲しさに後進国で片っ端から牛を殺していくのと同じ」といわれ、差押えの冷酷さが市民のなかで話題にされてきた。
 旧市内に暮らしている老婦人の一人は、年金を差し押さえられる経験をした。年金支給日の15日に銀行へ行って、初めて差し押さえられていることを知った。通帳に「差押え」と書かれ、2カ月分の年金のうち3分の2にあたる金額が引き出され、口座の残金は10万円になっていた。事前に市の担当者から一言あったわけでもなく、銀行の担当者に説明を求めたら、「今朝、市役所の方が来られて手続きをされたんです」といわれた。ご主人が亡くなって固定資産税が払えないので、弱り切っていた。
 失業して自宅の固定資産税が払えず、車を差し押さえられた経験がある男性は、その後、中古自転車を買って今の職場と自宅を行き来している。片道3㌔はあるが、ペダルを漕いで通っている毎日だ。「苦労して買った車をヤフーオークションなんかで叩き売りされたかと思うと悔しくてならない。固定資産税は失業しても支払いが免れるわけではない。自己破産したって追いかけてくる。今は手元にお金がなくても、仕事が見つかれば必ず払える時期がくると思う。私だって、今なら当時困っていた額は払えるくらいまで持ち直した。これだけ不況で大変なら、もっと市民一人一人の実情を理解した対応がいるのではないか。理解しようともせずに、罪人扱いで剥ぎとっていくから許しがたいんだ」と思いをぶつけた。
 企業経営者の男性は、従業員の給料を役所が差押えにきた経験を語った。「予定していた請負代金が取引先の都合で入らず、うちの会社でも遅配が続いていた。私自身の責任も感じたしさすがに応じることはできなかった。この何年かは、赤字続きで何のために会社をやっているのかすらわからない。税務署なら、企業が赤字なら税金が入らなくなるので大目に見てくれる。しかし市役所はそうはいかない。銀行の支店長をしている友人から“市役所は2000円しか残高がない口座でも押さえていく”と聞かされて驚いた。1000円、2000円で目の色を変えてとっていくのに、新庁舎や駅前開発など使うことばかりやっている。人のカネをなんと思っているのか」といった。
 企業関係者のなかでは、取引先に先回りして、売り掛けを押さえていくことも話題にされている。「資金繰りのタイミングで遅れたり、払えなかったりという状況は少なからずある。前触れもなくいきなり差し押さえるのがあたりまえみたいになっている」「それで取引先から信用を失って、仕事をもらえなくなったらだれが責任をとるのだろうか。従業員が失業者になったら、生活保護で市が面倒を見るのか」と話されている。
  
 処分中心の体制に8年前に転換 給与・貯金・保健まで差押え

 下関市では、小泉政府時代に全国的に始まった行財政改革に沿って、江島市長時代の平成17年度(8年前)に「集中改革プラン」が策定され、税金の徴収強化がうち出された。同年に包括外部監査がおこなわれ、「“三位一体改革”に伴う税源移譲に向けた適切な対応を図る必要があり、そのためには市税の収納が適正に執行されることがきわめて重要である」と取立て強化を迫り、担当職員の増員を要求したこともきっかけとなった。
 それまでは市職員が滞納者のところに出向いて集金したり、相談に乗るなど、納付を促すことを中心にしてきたが、「それでは収納率が上がらない」と議会などがはっぱをかけ、17年度からは処分中心の方針に転換した。市職員が出向くのは差押えにあたっての財産調査が中心となった。当時の町田課長の下で、「これまでのように、職員が相手の事情に耳を傾けていては成果が上がらないので、情を挟まず法律通りに淡淡と処分する今の体制をつくった」といわれている。市民から「職員の質が変わった」といわれはじめるきっかけとなった。
 このなかで差押え件数は、平成17年度には739件だったのが、18年度は884件、19年度1191件、20年度1634件、21年度1742件、22年度2655件、23年度2732件、24年度には3395件と3000件を突破するなど、毎年のように過去最高の差押えがやられ、おかげで4階窓口には怒鳴り込んでくる市民が増え、宝塚の二の舞を本気で心配しなければならないような事態になっている。
 19年度以降は不動産や自動車よりも換金が早い給与の差押えに力を入れ始め、17年度に38件だったのが24年度には442件と約11・6倍の件数になっている。近年では預貯金の差押えに力を入れており、平成17年度の約8倍の1767件(平成24年度)。保険の差押えにいたっては、平成17年度は〇件だったのが462件となっている。中尾市政になってから、とくに尻を叩かれてひどくなっている。
 中尾市長就任後、滞納者に納付を促すコール・センターを設置して民間企業に業務委託し、2010年からは市税以外の国保料や保育料などを滞納者から取り立てるための「債権回収指導室」も設置。「早期着手班」を設置して対応にあたってきたほか、未納者への督促状や催告書の発送業務なども民間委託をはかり、さらに税務署OBなどを非常勤職員として雇って差押えや財産の捜索に当たるプランを進めてきた。
 旧郡部四町の税金の滞納処分をおこなうため、本庁の納税課が管轄する「収納対策室」も設置。旧町ではほとんど差押えをおこなっていなかったため、件数急増の要因ともなっている。
 3年前には「徴収を強化してさらに5億円を捻出する」と目標額を引き上げた。財源不足の話題になるといつも箱物イエスマン揃いの市議会議員たちが「滞納分の30億円があるではないか」と援護射撃する始末で、市民が払えずに滞納している未納金は、自分たち政治ゴロたちが使い果たすべき資産くらいに見なしている。そして徴収係に配置された若い職員たちはサラ金まがいのとりたてに追われて、ノイローゼになっていく。
 平成27年度からは合併特例期間が終了し、普通交付税がその後5年間にかけて毎年20%ずつ減額され、最終的には35億円も減額となる。財政的に厳しい状況に直面することが明らかになっており、その対策として、今年度からの3年間を集中取組期間に設定して滞納者への差押えをさらに強化することや、新たな税金の設置などを盛り込んだ「下関市財政健全化プロジェクト」一期計画を策定し、余計にでも差押えの嵐に拍車がかかっている。
 「税の公平性」を掲げてとりたてが強化されるが、下関市政を見てみるとその税が公平に使われているとはだれも思っていない。箱物がこらえきれない安倍・林代理市政が、“差押え魔”になってとりたてるばかりで、端から使い果たしていくおかげで市財政は借金だらけである。国政では消費税増税や国民負担を極限まで増やして、法人税減税や大企業天下にする国作りが進められ、下関市政では山口銀行を喜ばせたり、JR西日本や代議士お墨付きのゼネコンがつかみどりしていくような公共工事がやられ、「財政難」などどこ吹く風である。
 サラ金もどきの追い立て係をさせられ、火炎瓶を投げつけられかねない職員にとってもたまったものではない。いくら新庁舎をつくっても、さっそく火事になる可能性すら心配しなければならない。「第二の宝塚」が懸念されているなかで、3階や4階の職員に怒鳴られ役をさせて逃げるのではなく、大きな声で抗議に来る市民はみな5階市長室に直接足を運ぶよう、徴収強化の号令をかけている中尾市長自身が市報で徹底したらどうかと話題になっている。

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