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「訴えるぞ!」のゲノム編集界隈 「名誉毀損」かざし市民恫喝 京大ベンチャー・リージョナルフィッシュ社 情報公開や対話は拒否

(2025年3月17日付掲載)

リージョナルフィッシュ株式会社が本社を置く京都大学(京都市左京区)

 京都大学発スタートアップ企業「リージョナルフィッシュ株式会社」がゲノム編集技術を使って開発した巨大トラフグや肉厚マダイの養殖場を京都府宮津市に設置し、同市がふるさと納税の返礼品に採用したことをめぐり、2021年から地元の女性たちが立ち上げた市民団体「麦のね宙ふねっとワーク」が、返礼品からの削除と海上養殖をおこなわないよう求める署名活動や、安全性が明確になるまで返礼品に採用しないよう求める請願を市議会に提出するなどして声を上げてきた。しかし、リージョナルフィッシュ社は情報公開や不安を持つ市民との対話に応じないままであるばかりか、一昨年末以降、弁護士を通じて「名誉毀損行為」「信用毀損行為」などの罪状をあげて、損害賠償請求や刑事告訴をほのめかす書面を複数回送付し、その声を抑え込もうとしている。「麦のね宙ふねっとワーク」と、食の問題にとりくむ全国組織「OKシードプロジェクト」は8日、宮津市で記者会見を開き、弁護士同席のもと、同社が送付した書面の内容について明らかにした。

 

食の安全求める市民団体が文書公開

 

 リージョナルフィッシュ社(代表取締役社長・梅川忠典、資本金1億円)は2019年4月に京都大学、近畿大学の研究成果をもとに設立されたスタートアップ企業で、本社を京都大学に置いている。同年10月に政府が「ゲノム編集」食品の流通にゴーサインを出したことを受け、21年からマダイ、トラフグ、ヒラメの全5系統のゲノム編集魚の届出をし、商業栽培をおこなっている。

 

 これには少なくとも37億円の公的助成が決定しており(実際の金額は定かではない)、昨年12月にはセブン-イレブン・ジャパン、大和ハウスベンチャーズ、Mizkanなどの新規株主を加えて総額30・2億円、金融機関からの融資も含め「シリーズCファイナンス」で40・7億円を調達したと発表している。市民に文書を送付してきたのは、こうして事業を拡大しつつあるなかのことである。

 

 「麦のね宙ふねっとワーク」共同代表の井口NOCO氏は記者会見の冒頭、「声を上げた人に対して法的手段をとる、訴訟をするという言葉をもちいて脅したといってもいいと思う。私たち『麦のね宙ふねっとワーク』は強い気持ちをもって挑んでいるが、今後、二度とこのような思いをする人が出ないように、私たちも萎縮しないように力をいただきたく、思い切って記者会見を開いた」と話した。

 

 井口氏に初めて届いた文書は2023年12月22日付で、差出人はリージョナルフィッシュ社代理人の弁護士法人SACI京都アカデミア法律事務所の弁護士2人である。京都大学内の国際科学イノベーション棟4階にオフィスを持つ弁護士事務所だ。文書では、①署名活動(2022年4月)、②記者会見(2023年2月)の内容、③「ゲノム編集魚を考える市民集会in京都」(2023年9月)に関するWEBサイトへの記載で、「名誉毀損行為」「信用毀損行為」「偽計業務妨害行為」「著作権侵害行為」をおこなっていると主張している。

 

 例えば、署名用紙のなかにある「遺伝子を破壊され、筋肉を無理矢理大きくし、太らせた魚は骨も脆く病気の状態の奇形の魚を人の手で作り出すことから、拷問養殖とも呼ばれている」「使い方を間違えれば痛みを感じず命尽きるまで戦う人間兵器を作ることも可能な、神の領域に迫るテクノロジー」という文言などについて、「煽動的な記載を当社業務に関して記載し、これを一万人を優に超える不特定多数に頒布し、閲覧に供した」ことが、リージョナルフィッシュ社の社会的評価等(名誉・信用)を大きく毀損する行為であり、「適切な署名活動として許容される限度を大きく逸脱」し、「署名に応じた善意の情報受領者をも誤導している」などとしている。署名が1万筆以上集まったということは、最低でも1万人が目にしており、「おそらくは数万人規模の人々に本件署名用紙が閲覧・頒布されたものと考えられる」ことから、重大かつ深刻な名誉毀損、信用毀損、偽計業務妨害行為ということだ。

 

 同社は、自社の商品が「病気」であるという事実は存在せず、「奇形」ではなく「新品種」であるから「病気の状態の奇形の魚」という表現は虚偽事実の摘示にあたるとしたほか、「現在日本でゲノム編集による規制や法律はなく」という記載について、国が取扱要領を策定しているとし、同社の商品を「国が一切関与していない危険な製品であるとの誤解を情報受領者に与える」と主張している。

 

 また、井口氏がWEB上で「電気がひとたび止まれば生きていられないような魚を、ましてや遺伝子の操作をして造り出すことなど、やってはいけない。そのしっぺ返しは、何の罪もない人、子供や海の生き物達にも降りかかってきます」と書いていることについて、ゲノム編集でなくても陸上養殖は電気が止まれば生存に支障を来すと反論し、「関連規制を遵守し、環境汚染や健康被害等を指摘されたことのない当社水産物を原因として」、何の罪もない人や子供、海の生き物達にしっぺ返しが降りかかってくるという事実は存在せず、真実性を欠く記載で名誉や信用を毀損しているといった主張をしている。

 

 ただ、現時点で環境汚染や健康被害が指摘されていないのは登場して間もない技術だからであり、むしろ食品としての安全性を確認する動物実験などがなされていないことが問題視されているところだ。

 

 「著作権侵害」とは、記者会見で同社作成の資料やホームページを引用したことを指すようである。これについて井口氏は「私たちも素人で、『引用』と書いていなかったのが問題だったのではないかと思う」と話した。

 

 1回目の文書は、これらの情報の速やかな修正・削除を求めるもので、「万が一、今後も誤った事実認識に基づく情報の発信を続けられる場合は、誠に遺憾ではございますが、法的措置を検討せざるを得ません」と記載されている。

 

何を問題視しているのか 市民団体側の主張

 

宮津市に対して、ゲノム編集トラフグをふるさと納税返礼品から削除することや、海上養殖の禁止を求める1万筆の署名を提出(2023年2月)

満席となった「ゲノム編集魚を考える市民集会in京都」(2023年9月、京都市)

 「麦のね宙ふねっとワーク」は、翌24年7月にリージョナルフィッシュ社に返信した。そのなかでは、活動を開始した21年から同社に対話を求め、何度も面会や学習会などへの参加を打診してきたこと、同社が宮津市の助成を受けて入居しているクロスワークセンターにも何度も足を運んで直接話を聞くことを切望してきたが、一度も実現しなかったことを明確にしている。

 

 井口氏の立場は「対話によってお互いの理解が進むと思うし、それに応じて、私たち自身も、理解が誤っているところを認識し、是正するべきところは是正していきたい」というものであり、一貫して要望しているのは「直接対話する機会、市民に開かれた公平な説明会の開催」だ。リージョナルフィッシュ社が指摘した文言についての返信内容(要旨)をいくつかあげる。

 

「病気」について
 ゲノム編集された魚が、満腹中枢が健全に機能しない(食べ続けることが可能になる)、筋肉の増強を止められなくなる(体が肥大する)など、通常なら持っている性質を持たず、きわめて限られた環境下でしか生き延びることができない脆弱な体質を持っていることから、「健康体」であることの対比として「病気」という表現をもちいている。みずからの成長を制御できなくなる状態を「病気」と評価することは、なんら間違いではない。指摘は、事実の誤りを指摘するものではなく、たんなる意見論評の域にすぎない表現に対して修正を求めているものである。

 

「奇形」について
 日々天然の魚類を見ている私たちからすれば当然の評価になる。水産関係者の一般的な感想であり、これも事実云々ではなく、評価の問題である。

 

「拷問養殖」について
 想像や推測で書いたものではない。ゲノム編集について、動物福祉法のある国では認められない技術、「拷問養殖」であるとドイツの研究団体が指摘している。もし、「拷問」と評価することが見当違いであるような健全な育成方法をとっているなら、その方法を一般に公開することで評価を払拭することが可能であるから、育成の方法等の情報を公開していただきたい。

 

「痛みを感じず命尽きるまで戦う人間兵器を作ることも可能な」について
 倫理的な問題を無視すれば可能であることは事実ではないか。これは多くの科学者らが指摘していることでもある。「人間兵器」とリージョナルフィッシュ社の業務が結びつけられる形で記載があることを問題視しているようだが、私たちは「使い方を間違えれば」「作ることも可能な」との表現を併記しており、文章の全体として、通常の市民であれば、ゲノム編集技術それ自体に対する評価を記載したものだと理解するはず。消費者運動のあり方として正当な表現方法であり、問題があると考えていない。

 

「神の領域に迫るテクノロジー」について
 NHK「ゲノム編集」取材班著『ゲノム編集の衝撃「神の領域」に迫るテクノロジー』(2016年発刊)でもちいられている表現である。本書の内容からも適切な署名活動として許容される限度を大きく逸脱しているとは考えられない。「署名に応じた善意の情報受領者をも誤導している」という指摘は適当ではない。表現の自由の範囲であり、署名を書いてくださった方の受けとり方の問題なので訂正の必要はないと判断する。

 

*      *

 

 また、2024年1月1日の能登半島地震で富山県射水市のプラントが半壊したものの、ゲノム編集魚の流出について詳細な発表がないことにふれ、「真実性を欠く記載」というのであれば、現状を公開し、安全性・健全性を証明することが必要であることを説いている。かりにプラントの損壊でゲノム編集魚が流出すれば、海の生態系に大きな影響が生じ、風評被害で天然の魚をとる漁業者や飲食店、海の生きものなど、それこそなんの罪もない人々に影響が出るとの懸念からだ。

 

 農林水産省からリージョナルフィッシュ社に出向し、同社の総括マネージャーを名乗っていた塩見氏が、ゲノム編集魚の届出後に退職してデジタル庁に配属されて以後、連絡をとることさえできない状況であることも、認識のギャップが広がった要因ではないかと投げかけ、「直接対話して、お互いの意見・認識の違いがどうして生まれるのか、相互の理解を図ることが不可欠なのではないか」と、対話・情報の公開による問題解決を提案している。

 

「品種改良や釣りと同等」 リージョナル社側の主張

 

ゲノム編集トラフグ(上)と通常のトラフグ

 これに対して2024年7月29日付で、リージョナル社側から返信があったが、「対話のための基礎が欠如している」として対話を拒む内容となっている。損害賠償請求の文言が入り始めたのもこの文書からだ。井口氏は「このころからすごく強い言葉を使われていると思う」とのべた。

 

 2回目の書面の特徴は、井口氏は漁業を営む「事業者」であり、漁業者・水産業者として、リージョナルフィッシュ社と「同業者である」ことを強調している点だ。要するに、「競争関係にある同業者が社会通念を逸脱した言辞をもちいた誹謗中傷を非常に多数の人に対して流布しているのは、競争相手を不利な立場に置き、自分が優位に立とうとする行為であり、不正競争防止法に違反する行為」という主張のようだ。

 

 ゲノム編集魚とその養殖に対する疑問や不安の声を「誹謗中傷」と位置づけ、「当該行為は、民事責任を生じさせるのみならず、刑事上の犯罪行為に該当し得る行為が含まれている」という文言が綴られている。井口氏は漁業権を持たず、産業分類上も漁業者ではないという。

 

 だが、この論法が通るなら、かりに漁業者が声を上げた場合、刑事責任を問われかねないと注意を喚起した。

 

 また井口氏が1度目の書面で黙することなく、SNSなどで発信を再開したことを指して、「事業者としての遵法精神の欠如に驚いている」などとし、「基本的な社会通念を共有できない状況で対話をすることは相互理解のための根本的な基礎が欠如しており、対話が実を結ばないことは明白」なため、これまでの発言・発信の謝罪・撤回、再発防止の誓約をしなければ対話はしないとしている。

 

 この書面では、返信を受けたリージョナルフィッシュ社側の見解とともに、井口氏に見解を求める項目がいくつもあげられている。

 

 たとえば、イノシシを品種改良して成長が速く、肉付きがよく、人が飼いやすいブタになっていることや、品種改良された採卵鶏は、飛翔能力が抑えられてほぼ毎日産卵するのも自然界の特質ではないことをあげ、このように品種改良され「『自然界で通常の動物が有している』ものではない特質を有する家畜はすべて『病気』や『奇形』であるとの理解か」と問う内容や、フナに近い「ワキン(和金)」や丸い体形の「リュウキン」、目が大きく突き出た「デメキン」など多数の品種が作出されており、金魚とフナの形態の違いはリージョナルフィッシュ社の魚種と比べても大きいが、このような金魚の品種も「拷問」状態にあるとの認識なのか、といったものだ。

 

 さらに、魚釣りも動物保護団体が拷問的な側面を指摘しているとの論が記載されている。「釣りによって、水上に引き上げられた魚は窒息し、エラは崩壊し、急激な圧力変化によって浮き袋が破裂することもあり、世界中の多数の科学者が漁業によって魚が苦痛を感じていることを確認している」と世界最大規模の動物保護団体が指摘していると主張。「当社としては、いずれも等しく拷問ではないと考えている」が、「魚に釣り針を貫通させ海中から引き上げる貴殿の営利事業は拷問では無いとする一方で、当社の品種改良は拷問であると考えているのか」と見解を問うている。

 

 また、能登半島沖地震で被災した富山県射水市の養殖施設について、「男女の二人組が当社の養殖施設を訪れ、そのうち一名が無断で当社の養殖施設内に侵入し、敷地内施設の扉を無断で開扉するといった行為に及んだ」「建造物等侵入罪に該当するものなので、所管の射水警察署にも通報し相談している」との記載もある。「侵入者の容貌や侵入者が犯行の際に使用していた車両(特徴的なキャンピングカー)に関し、対応した従業員からの証言や写真等の証拠に基づき、当該事件について貴殿に御存じのことがあるのではないかと考えている」というものだ。

 

 井口氏は記者会見でこのことについて、能登半島沖地震のあと、リージョナルフィッシュ社が富山県射水市の養殖施設が半壊したとしてクラウドファンディングをしていたため、魚が逃げ出していたらどうするのかと心配して、被災地での炊き出しの帰りに立ち寄ったとのべた。「パートナーが近畿大学の受付を通して案内していただいたにもかかわらず、建造物侵入罪など、すごく怖く書いてあった。警察にも相談しているとのことだったが、これに関してはぜひともはっきりさせたいと思う。不法侵入したといわれるなら証拠を出してほしい」と訴えた。

 

法的手続きちらつかせ 「萎縮効果狙う圧力」

 

リージョナルフィッシュ社のゲノム編集トラフグ養殖場の前に広がる栗田湾。排水の水質検査の有無や結果は公開されていない(京都府宮津市)

 2度目の書面以後も、井口氏が登壇するイベント直前に「イベントで名誉等を毀損するような表現が確認されたら損害賠償請求などの対象に加える可能性がある」との文書が送られて来たり、共同代表の矢野めぐみ氏に対しては「法的手続きを一旦留保するが、井口氏と共同でさらなる誹謗中傷行為をおこなったら共同被告とする」といった分断を図るかのような内容の文書が届くなどしたという。

 

 「麦のね宙ふねっとワーク」は、24年11月1日付で最後の返信として、「食の安全、動物の福祉、生態系の維持、環境の保全など、私たちの身の回りに関する事柄については、市民間で情報を共有し合い、意見を表明し、議論をし、自分たちで自分たちの生活を守っていくプロセスが非常に大事」であること、「病気」「奇形」「拷問養殖」といったゲノム編集魚をめぐる評価については公開の討論の場で議論を進めていくべき事柄であることを指摘し、改めて討論会や勉強会の場をもうけることを要望。「私たちとしても、各界の専門家、水産関係者と議論を重ね、ゲノム編集食品の安全性、規制のあり方等について知識を深めているところだ。些細な事柄でも刑事事件にして、一市民としての消費者運動に萎縮効果をもたらそうという圧力に屈することなく、今後も、食べたくない、作ってほしくない、表示をしてほしい、という主張を続けていく」とのメッセージを伝えた。

 

 そうしたところ、24年12月13日に23㌻にわたる「ご連絡」と題する文書が内容証明郵便にて送られてきたという。

 

 内容はこれまでと基本的に同じだが、井口氏は「“社会通念を共有できない状況では、相互理解のための建設的な対話が成立しない”など、ものすごくバカにされていると思った。また、“誹謗中傷は社会通念を逸脱した行為ではないとの御主張があるようにお見受けいたします”とあるが、そもそも誹謗中傷などではなく、私たちが願っていることを話している。対話してくれればインターネットで書く必要もなかった。まずその根本のところに戻っていただきたい」と話した。

 

 リージョナルフィッシュ社が利用しているゲノム編集技術「クリスパー・キャス9(ナイン)」を開発したジェニファー・ダウドナ氏(米カリフォルニア大バークレー校教授)が2018年に『毎日新聞』のインタビューのなかで、「原子力とゲノム編集は、開発に携わった科学者がこの世界の仕組みを理解したいという、根源的な知識への欲求に駆り立てられていた点で共通している。ゲノム編集も生物兵器の開発などに利用される可能性があり、原子力と同様にひとたび技術を手にした時、恩恵ばかりか、現実的な危険も生じうることが直ちに明らかになった。そのため、科学者自身がどのようにその危険性に向き合うか、自らに問いかけなければならない」と指摘し、解決する方法の一つとして「科学者だけではなく、この技術に対し意見を持ち議論に参加したいと思う一般の市民と開かれた議論を積み重ねる」こと、それを倫理的、社会的な規制につなげることを提案していることを紹介。「沈黙は加担であると思ってきた。国は反対といわなければ賛成していることにしてしまうので、ぜひ今後とも知って、発信していただきたい」と呼びかけた。

 

 矢野めぐみ氏も「36億年前に命が地球上になぜ生まれたのか解明できていないのに、クリスパー・キャス9という新しい技術を使って操作し、儲けたり、食べ物をつくろうというのは不遜だと思っている。リージョナルフィッシュ社が営業するのであれば、消費者に誠実に答えていただきたい。それが企業倫理として当たり前のことだと思う」とのべ、「“NOCOさんと仲良くしたらもっといじめるよ”というような話だったので、私はいじめられて結構という感じでこれからも一緒にやっていこうと心を新たにしている」と話した。

 

市民の活発な論議は必須 食の安心・安全のため

 

 会見に同席した上林弁護士は、今回の問題が言論の自由や市民活動がどうあるべきかということにつながるものであるとの見解を示した。ただ、かなり手前の段階で問題にされている感覚だという。

 

 「日本では民主主義は選挙を通じて達成されるものだと考えられているが、最近の選挙結果を見ても、これが本当に民主主義なのかと思うことは多いと思う」とのべ、韓国の弁護士の「本当の民主主義は選挙を通じてなされるものではなく、各自の生活現場でみずからの権利をみずからがとり戻すことだ」という言葉を紹介し、「日々、自分の意見をいい、相手の意見を受けて消化させ、それが投票行動につながる。その結果が民主主義だ」と指摘した。

 

 「麦のね宙ふねっとワーク」がおこなった署名活動や議員への働きかけ、集会を開いて問題を広く伝えるといった活動は、市民がどう自分たちの声を政治に反映させ、社会に伝えていくかといったときにとる典型的な市民の活動方法であること、乗り込んで暴れたり、怪我を負わせたというものではないことを指摘。そうした活動のなかでも、事実かどうか、表現がどうかという問題が発生するものの、「裁判官はマクロな視点からもこれがどう社会的に意味を持つのかという点を見て判断してもらいたいと思っている」とのべた。

 

 リージョナルフィッシュ社のさまざまな通知は「萎縮効果が生じることを目的としたいのではないかと感じざるを得ない」とし、「白か黒かの限界は、最終的に法的判断が来るまでわからないが、グレーゾーンでたたかい続けるのが市民活動として大切なことだ。そして、市民の注目がそれを守るのだと思う。このような権利や自由、社会がどうあるべきかなど、物申す闘争を守ることの必要性を裁判所にもわかってもらいたいし、社会にもわかってもらいたい」と話した。萎縮しないためには、グレーゾーンでたたかい続ける人をサポートし、世論を広げていくことが重要だと指摘した。

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