佐賀市川副町でノリ養殖を営んでいます。高校卒業後、父親のノリ養殖を手伝うようになり、南川副漁協の組合員の地位を受け継ぎました。佐賀の有明海ノリは河川から流れ込む豊富な栄養と干満差により海水と日光を交互に吸収することで美味しいノリが育ちます。
ノリ養殖は、そのときどきで自然の条件が必ず違うため、どれほど長く経験を積んでいても毎年1年生といわれるほど難しく繊細なものです。最近は海水温が下がらず、「赤腐れ病」が発生しやすくなります。赤腐れ病は酸処理や網の位置を高くして日光に当て乾かすことで殺菌しますが、ノリは海中で成長するため、網を上げすぎても海水に浸からず伸びないし、網が低くて海水に浸かる時間が長すぎても殺菌できません。これだけではないですが、自然条件と自分のノリ養殖技術が上手くかみあったときに美味しいノリがとれるのです。
これまで筑後大堰、諫早干拓など国策によって有明海が破壊されていくのを見てきました。かつての有明海は宝の海でした。豊富な魚介類がいてこその有明海でした。しかし今も続く大型公共事業によって自然破壊が進行しています。有明海から二枚貝はいなくなり、諫早干拓に近い西南部はノリすら育たなくなりました。
2014年に佐賀空港にオスプレイ配備計画が持ち上がったとき、私たち漁師はみな反対していました。しかし2018年に県知事が受け入れを表明し、そこから国のいうことを聞かなければ護岸工事や漁船購入等、補助金が受けられなくなるという噂話などが出回り始め、仕方がないという空気になってきました。しかしいくら立派な船があって立派な漁港ができても、ノリが育たない海になってしまえば何の意味もないのです。
さらに駐屯地の建設予定地は、私たち漁師一人一人のものでした。手続き上、名義は漁協となっていましたが所有者は間違いなく漁師です。防衛省もそれを認識していたからこそ地権者の家を一軒ずつ回り、土地を売るよう頭を下げていました。しかし防衛省と県漁協は「土地は漁師ではなく漁協のもの」と事実をねじ曲げて売買契約を結びました。
2022年、私たちが土地を売ることにも合意せず土地代も受けとっていないにもかかわらず、強引に駐屯地の建設工事が始まりました。農地だった土地には大型重機が並び、コンクリで埋め立てられ隊舎が建てられています。国造搦樋門の側も排水対策と称して4㍍も掘り下げ、7㌶もの巨大な貯水池が建設されています。さらに掘削した土砂を駐屯地の盛り土として使用するために1立方㍍当り50㌔もの消石灰が投入されました。ノリはアルカリ性に弱く、かつて川副にイオンが建設されたときも、コンクリの影響で不作となった経験があります。いつか必ずこの大工事によってノリ養殖に負の影響が出ると思っています。
国策であれば事実や法律までもねじ曲げて進めていく今の日本の政治は、かつての軍国主義と何も変わりません。現在、駐屯地建設中止を求める裁判をたたかっていますが、当初地権者4人だった裁判は多くの人々に支えられたものとなっています。戦争を経験した父たち世代の漁師は、「二度と戦争をくり返してはならない」との思いから、佐賀空港建設時に「自衛隊とは共用しない」とする公害防止協定を結びました。中国と戦争をして日本が勝てるわけもなく、だからこそ戦争にならないようにするのが政治の役割です。
日本政府はオスプレイを「安全だ」といい張って17機も購入し配備を強行しようとしています。いつ墜落するかもわからないオスプレイが私たちのノリ養殖場の上を飛ぶことに対して不安しかありません。事故原因すらわからないオスプレイのどこをどう見れば安全なのでしょうか。佐賀空港はオスプレイ配備以外にも滑走路延長などの計画も出ており、本当に一大自衛隊基地になるのではないかと心配です。そうなれば佐賀は良い攻撃目標になるでしょう。私たちだけでなく、子や孫まで影響は将来にわたります。
今はノリ養殖の技術や機械も進歩し、昔に比べノリを大量生産できるようになりました。しかしいくら技術が進歩しても、海が死んでしまえば意味がありません。自然は正直で、信用できます。人間が破壊すればそのまま返ってくるのが自然です。いくらお金を積んでも一度壊してしまった自然は元には戻りません。
諫早湾を開門しないことについて佐賀県有明海漁協の組合長が合意しましたが、これも組合長が勝手に決めたことで組合員には相談もありませんでした。開門調査をしなければ有明海の二枚貝やノリの不作についての原因究明はできませんし、原因がわからないままお金を積んでも再生しないものはしないのです。自然はそんな生やさしいものではありません。口先だけの「豊かな海」や形ばかりの再生ではメシは食えないのです。
これから先、少しでも長く有明海でノリ養殖ができるよう、この海を守るために頑張っていきたいと思います。