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日本の水産輸出額758億円減少 「ALPS処理水」の海洋放出から1年 政府は「需要喪失」の責任とり損失補填を

(2024年12月27日付掲載)

福島県小名浜港でのサバの水揚げ(2016年2月)

北海学園大学・濱田武士教授が報告

 

 第53回北日本漁業研究会が19日、北海学園大学(札幌市)でおこなわれ、オンラインでも配信された。そのなかで北海学園大学経済学部の濱田武士教授が、「ALPS処理水の海洋放出が水産業界に与えた影響」と題する報告をおこなった。

 

 東京電力は昨年8月24日から、福島第1原発の敷地内に貯蔵してきた原発汚染水の海洋放出を開始した。漁業者や地元住民からの強い抗議の声にもかかわらず、岸田政府が海洋放出方針を決定したことを受けてのことだった。

 

 政府や東電は、トリチウム等による汚染水を「人体や環境への影響を無視できる程度」にまで薄めたとして安全性を主張したが、あくまで1㍑当たりの濃度であり、放出総量を示さなかった。検査していないものも含めると、今後30年間でどれだけの放射線核種が海にたれ流されるのかは不明であり、世界的に警戒感が高まり、日本の水産物の輸入規制が始まった。

 

 これに対して政府は、海洋放出にともなう「新たな風評」については責任を持つとし、「風評被害」が出た場合、「その水産物の買取保管や販路拡大のための対策を講じ、損害については東京電力に補償させる」としてきた。

 

 これについて濱田氏は、そもそも販路が縮小したり「福島産」などの銘柄が買われなくなったとしても、それが「風評被害」によるものかどうかは断定することも否定することも不可能であること、しかし原因はともあれ海洋放出によって「需要喪失」が起きているかどうかは考察の余地があるとして、①2022年9月~2023年8月(海洋放出前の1年)と②2023年9月~2024年8月(海洋放出後の1年)を日本の水産物輸出額を比較し、需要喪失がどれほどの規模であったかを報告した。

 

北海道、青森、宮城の被害大

 

 日本の水産物輸出額の上位3国・地域は、中国、香港、アメリカだ。そして、海洋放出直後から、中国、香港、マカオは日本の水産物に対して禁輸措置をとった。

 

 濱田氏の調査によると、日本の水産物の輸出額は、放出前の1年が約3546億円、放出後の1年は約2789億円で、放出前に比べて約758億円も減少した(真珠などの水産宝飾品類は含まない)。幅広い魚種で海外需要が失われたことがわかった。

 

 国・地域別に見ると、中国がマイナス約810億円、香港がマイナス約110億円と、減少額のほとんどをこの2カ国(地域)が占めている。韓国、台湾、シンガポールもマイナスになった。

 

 品目別にみると、損失が大きかったのがホタテガイやナマコ、アワビで、ホタテガイ製品の輸出額がマイナス約340億円、ナマコ製品がマイナス約111億円となった。その他、養殖クロマグロ、ブリ、鮮魚類の損失も少なくなかった。

 

 産地別にみると、ホタテガイについては、北海道と青森県、宮城県の3道県で、被害額が300億円をこえている。

 

 また、福島県の沿岸漁業を見ると、原発事故後、試験操業を通じて生産量を伸ばし、2023年時点で水揚げを約40億円、6000㌧まで戻してきた(震災前に比べると金額で6割程度)。それが海洋放出後はマイナス3億6000万円となった。

 

小規模事業者は泣き寝入り

 

 この損失をめぐる政府への賠償請求だが、今年7月末時点で全国の事業者から賠償請求があったのは約1300件。このうち政府が支払いを決めたのは約3割にとどまっているという。漁協が請求した場合は決まりやすいが、個別の水産加工事業者が請求する場合、利益の損害の算定と根拠提示が難しく、賠償が進みにくいという。

 

 また、立証責任が事業者側にあり、賠償請求コスト・時間と賠償額が釣り合わないケースも少なくなく、多くの小規模事業者が泣き寝入り状態にあること、これをメディアもとりあげず、社会問題化しにくいと濱田氏は指摘した。

 

 農林水産物の輸出はアベノミクスの柱の一つとされ、政府が強く後押ししたし、水産業界もそのための投資を急拡大させてきた。その真っ最中の汚染水の海洋放出だったわけで、海洋放出だけが原因とはいえないものの、水産業界はこの間、大きな需要を失うことになった。「全責任を負う」といった政府は、被害額を調査し、被害者に対する救済策を立て、支援をおこなうことが緊急に求められている。

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