いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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重度者以外の介護を放棄  まるで詐欺の制度改悪

 安倍政府が要支援1、2の介護予防サービスを市町村へ丸投げし、要介護1、2への家事援助の保険外しを進めている。これは小泉以来の介護保険改悪と比べても異次元の制度改変を企むもので、重度者だけを対象とした介護保険への転換となる。介護保険創設時に叫んだ「介護の社会化」「選べる福祉」など見る影もなく、保険金をとるだけとって福祉サービスは切り捨てるものとなっている。超高齢化社会が到来している下で、介護の問題は個別家庭にとって避けることのできない重荷となり、いまや長寿を素直に喜べない家庭も多い。追い詰められた挙げ句に起きる親殺しなどの悲しい事件も後を絶たない。このなかで政府として福祉に費やすべき金額をさらに削減する方向に舵を切っている。
 
 炊事・買い物支援等なくす方向

 2015年4月から着手し、17年度までの3年間で全国150万人といわれる要支援1、2の要介護認定者への自立支援・介護予防のサービスを市町村事業に丸投げしている。下関市で見ると要支援1が3557人、要支援2が2736人、要支援認定者は合計6293人(2015年3月)で、要介護認定者全体1万8517人の34%を占めている。
 これらの人人が2017年4月から下関市の介護予防事業に移行することになる。下関市は全市を12地区に分け、これまで22地区にあった在宅介護支援センターを12地区の地域包括支援センターに再編する計画を立てそれぞれ担当する医療法人や社会福祉法人を決めている。
 政府が机上で計画したボランティアもNPOも実際にはなく、各法人である事業者が担えるだけの介護報酬が保障できるかどうかにかかっている。下関市介護保険課に聞くと、その報酬額水準はまだ決まっていない。
 安倍政府は各市区町村に対し、要支援へのサービス提供の介護報酬を現行より抑えるよう提案している。現行の介護報酬そのものが2015年4月の改定で大幅に引き下げられている。隣接する北九州市ではこの七割程度の水準とする方針が出されている。下関市内の介護関係者は「低くして業者が引き受けなければ最初から破たんする」と指摘する。
 具体的に見ると昨年の介護報酬改定が、要介護1、2を対象とした介護予防訪問介護では、ホームヘルパー派遣を週1回利用した場合、月1万2260円であったものが月1万1680円と580円(4・73%)引き下げられた。週2回利用の場合は月2万4520円であったものが月2万3350円、1170円(4・77%)引き下げられた。この7割と仮定すると、週1回で月8176円、週2回で1万6345円となり、「とても成り立たない。全国で市区町村への移行が完了するかどうかも未知数」といわれている。
 下関市内の12の地域包括支援センター担当地点を見ても、効率的に大きな格差がある。東部、西部、北部と3事業者が担当する本庁地域は17・10平方㌔㍍に要支援者1916人、菊川・豊田圏域は247・25平方㌔㍍に要支援者256人となっている。
 介護関係者のなかでは「ヘルパー派遣の効率の面から見ても、現行以下にせよという要支援介護報酬で成り立つわけがない。要支援1、2を介護保険から切り離し、経済的にも社会的にも千差万別の格差がある市町村に丸投げし、自立支援を破たんさせて重度化必至の状況にしておいて、どうして“介護離職ゼロ”が実現するのか」と指摘する。
 2月に始める社会保障審議会で議論を開始するのが、要介護1、2の要介護認定者に対する家事援助を介護保険給付の対象から外す方針である。今年中に改変計画をまとめ、2017年度の実施をめざすとしている。
 下関市で見ると、要介護1が3976人、要介護2が2601人、合わせて6577人、要介護認定者全体1万8517人の35・5%におよんでいる(2015年3月)。
 これらの人人がヘルパーの訪問介護による家事援助を受けられなくなる。家事援助は炊事、洗濯、掃除、買い物など日常生活の自立を支援する不可欠なものである。日常生活を自立して送るうえで介助が必要だから要介護認定を受けた人人である。政府・厚生労働省はまず、このうち利用の多い炊事、買い物のサービスから切ろうとしている。
 下関市内で在宅介護サービス部門を持つ介護事業所の施設長は「安倍首相は、“一億総活躍社会”に向けて“介護離職ゼロ”にするといっているが、やっていることは逆だ。要支援対策の市町村への丸投げ、要介護1、2から家事援助を奪えば、介護離職は必ず激増する」と指摘した。
 そして「親が病で倒れて介護が必要になる。最初から要介護4、5という重度になることはほとんどなく、医療の努力によって要介護1や2となる。現状ならヘルパーの自立支援で要介護1、2の状況で頑張れる。とくに重要な炊事や買い物が保険から外されると、自立支援を奪われる。政府は、“宅配給食がある”とか“家政婦代わりに利用する”などとキャンペーンを張っているが、富裕層の発想とは次元が違う。慣れたヘルパーさんが好みの食材を好みの味付けで調理してくれる。一時的な病院入院とは違って、介護は生涯続く。給食があれば済むというものではない。また高齢者には低所得者が多い。だれもが利用できるものでもない。介護が必要になった親が、家事援助の自立の支えを奪われれば、嫁や息子が帰ってきて自立を支えなければならなくなるのは必至だ。全国で約30万人の要介護1、2の利用者が対象になるというが、介護離職者が増えることはだれでもわかることだ」と語った。

 介護離職ゼロとは裏腹

 一方、介護離職者の激増が貧困化に拍車をかける。明治安田生命福祉研究所と公益法人・ダイヤ高齢社会研究財団がおこなった調査によると、介護離職者の離職後の平均年収は男性が四割、女性が五割低下している。また介護離職後、正社員に転職できたのは男性が34・5%、女性が21・9%にとどまっている。転職できなかったケースも少なくなく、介護者と重なって社会的悲劇に追い込まれるケースも頻発している。
 安倍政府がやっている介護制度の改悪は、介護保険制度の様相を一変させる姥捨てにほかならない。要支援1、2の認定者への介護予防サービスを市町村に丸投げしているのに続き、要介護1、2の認定者に対する家事援助を介護保険給付の対象から外す。そこにあるのは介護保険を要介護3以上の重度者だけを対象としたものにすることである。
 下関市を例に見ると、2015年3月時点で、要介護認定者1万8517人のうち、要支援1、2の6293人(全体の34%)、要介護1、2の6577人(同36%)、合わせて1万2870人(同70%)を介護保険から外そうとしている。そして、要介護3、4、5の残りの約3割の重度者だけを対象とする保険にしようと企んでいることが浮かび上がっている。
 下関市内の特別養護老人ホーム施設長は、「安倍政府は、昨年の介護報酬改定で基本報酬を4~7%も引き下げた。介護職不足はますます深刻化している。団塊の世代がすべて75歳以上となる2015年には、厚生労働省の試算で約38万人の介護人材が不足する。このうえ、安倍首相が特別養護老人ホームをはじめ受皿を50万人分増やすと発言した。さらに大規模な不足が問題になっているが、解決のめどはまったくない。このため“限られた人材を重度の要介護者に集中させたい”などといい始めている。介護保険を要介護3以上の重度者を対象としたものにする策動は財界いいなりで始まっている。要支援を市町村に丸投げし、要介護1、2の家事援助を保険の対象から外すのはその突破口だ」と説明する。
 そして「これは“介護の社会化”“選べる福祉”を掲げて介護保険を創設し、40歳以上のすべての国民から高い保険料をとってきた理念から見て国家的な詐欺だ。今日の日本をつくってきた世代の労に報い、老後の安心を保証することが、国としての最大の責務ではないか」と強調した。
 要介護1、2の家事援助を保険の対象から外すとどうなるのか。現在どのような家事援助がやられているのか。

 ヘルパーの重要な役割

 下関在住のヘルパーによると、炊事、洗濯、掃除、買い物などのサービスが実費でしか受けられなくなるだけでは済まない。要介護高齢者が自宅で自立して生活できるよう支援するヘルパーの仕事は、宅配配食や商店配送とは質的に異なる。
 一人暮らしの要介護高齢者は増えている。要介護1、2の高齢者宅に2日に1回訪問するケースは多い。まず、在宅高齢者の健康状態のチェックから始まる。次に着ている着物は季節や気温から見て適切であるか。さらに寝具は適切か。認知症でなくても高齢による感覚の衰えから適切でない場合も少なくない。このチェックがなければ体調を崩し病気になる。
 さらに病院を退院して自宅に帰った要介護高齢者の家事援助には高血圧、糖尿病、肝臓病、腎臓病などに対応した食事指導が必要である。一般的に自宅に帰るとわがままになり、必要な食事規制をしない例が多い。炊事や買い物の支援でわがままをさせないことも大切だ。さらに正しい薬服用の支援もする。医師、看護師、薬剤師と連携して1回に飲む薬を1袋にまとめてもらい、正確な服用を支援する。
 また、エアコン、電子レンジ、洗濯機、電気調理器と「便利」さが競われているが、高齢者には危険なケースも少なくない。例えば冬なのにエアコンは冷房が入っており、あわてて止めて使い方を教えても、何週間かたつと同じことがくり返される。これらの安全管理も訪問するヘルパーが心を配っている点だ。
 要介護1、2への訪問介護ヘルパー派遣で、家事援助(炊事、洗濯、掃除、買い物など)を保険給付の対象から外すことは、単にこれらのサービスが利用できなくなるだけでは済まない。「30分以上~1時間未満の家事援助」というだけでは、要介護高齢者に寄りそうことは困難なのが現実だ。「多くの要介護1、2の高齢者が介護難民化する」とヘルパーとしての実感が語られている。
 政府は、要介護1、2への炊事、買い物の支援を保険から外すことで約1100億円の介護費削減をもくろんでいるが、その結果は「一億総活躍」とは真反対の社会を招くことは歴然としている。外遊で何兆円というODAをばらまいてくる者が、超高齢化に見舞われた日本社会からはさらに福祉サービスを剥奪し、国民を介護地獄に叩き込もうとしている。これに対して、介護事業者だけの抵抗では如何ともし難いのが現状だ。高齢者を抱える家族やさらに外側の広範囲な国民に実態を知らせ、国や地域社会の在り方と関わった社会的問題として論議を広げ、世論と運動を強めることが急務になっている。

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