いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

オスプレイ駐屯地工事差し止め求め市民訴訟 住民危険にさらす前線基地化 佐賀空港へのオスプレイ配備計画

オスプレイ駐屯地建設工事の差し止めを求める「市民原告キックオフ集会」(7月28日、佐賀市弁護士会)

 佐賀空港へのオスプレイ配備計画にともなう駐屯地建設が強引に進められるなか、佐賀県をはじめとする九州北部4県を中心とした市民245人による、国を相手にした「佐賀空港自衛隊駐屯地建設工事差止・市民原告訴訟」が始まった。原告らは7月29日に佐賀地裁に訴状を提出し、会見をおこなった。現在、地権者4人による工事差し止めを求める裁判がたたかわれているが、佐賀駐屯地建設は漁師や地権者だけの問題ではなく、「佐賀をはじめとした九州全体、ひいては日本全国の問題だ」として、住民訴訟は提起された。同28日には、佐賀市弁護士会館で「市民原告訴訟キックオフ集会」が開催され、市民ら約100人が参加し、戦争へ向かう駐屯地建設を阻止しようと機運を高めた。

 

地権者や漁民だけに止まらぬ問題

 

訴状提出に向かう原告市民らによるデモ行進(7月29日、佐賀市)

 キックオフ集会では初めに、ノリ養殖漁師であり地権者の古賀初次氏(オスプレイ配備反対住民の会会長)らの反対運動を追った記録動画が上映された。

 

 3月に工事差止めを求める仮処分を却下した不当判決に対して古賀氏ら地権者は「土地を売らないといっているにもかかわらず、私たちの土地を不法に埋め立てることを認める裁判所は国の回し者でしかない。有明海の裁判もしかり、沖縄の裁判もしかり、この司法権が日本の裁判所はない。国からいわれるまま、何のための裁判所なのか」「私たちは現金で土地を買っている。それを自分の土地ではないというのはおかしいではないか」と怒りの声を上げた。

 

 また動画では、「地権者4人の裁判という言い方で報道されることが多いが、本当はみんなの裁判であるし、この裁判に100人以上の人たちが駆けつけるという状態がずっと続いている。そうであれば、地権者以外の市民、住民の人たちがみずから主体となり、原告となる裁判を起こし、みんなの問題だということをよりはっきりさせていった方がいいのではないか」と市民訴訟にいたる経過が紹介された。

 

「戦争と生活隣合わせに」 沖縄・加藤弁護士の講演

 

急ピッチで駐屯地建設工事が進められている佐賀空港隣接地(7月29日、佐賀市川副町)

 次に「オスプレイを配備させてはならない~沖縄から報告する“危険なオスプレイの実態”~」と題して、沖縄弁護士会の加藤裕弁護士が要旨次のように講演をおこなった。

 

 オスプレイには、固定翼モード、転換モード、垂直離着陸モードがあり、両翼のプロペラが垂直に立ったり水平になったりすることでモードが切り替わる。普通のヘリコプターは機体本体の上にプロペラがあるが、オスプレイは両翼の端についていることから、飛行を安定させるのが難しいという特徴がある。

 

 1980年、イランの米大使館人質事件でCH53ヘリによる救出作戦に失敗したことをきっかけに83年からオスプレイの開発が始まった。初飛行は89年だが、この後試験飛行中に次々と墜落事故を起こし、「未亡人製造機」と呼ばれるようになった。2000年のアリゾナでの事故では19人が死亡している。

 

 オスプレイの日本への配備はどのように進んできたのか。2012年10月、米軍が普天間基地にMV22を24機配備した。この当時沖縄では、死亡事故が多発するオスプレイの導入に反対して全県民を挙げて超党派のオスプレイ配備の反対集会がおこなわれた。オスプレイ配備の撤回を求めてオール沖縄で要請行動をおこなったが、政府、米軍は聞き入れずに配備を強行した。そして2018年には横田基地にCV22が導入(現在6機、今後10機を予定)され、その後自衛隊にV22が17機導入された。今後は米海軍が輸送艦に配備する後継機として、岩国基地にCMV22の年内導入を計画している。

 

 オスプレイは構造上、重心のバランスが非常に不安定という特徴がある。そして垂直離着陸をし、固定翼モードになることでエンジンナセルが回転して移動するという複雑な構造を持っていることなどから、さまざまな事故が発生している。2014年から現在までに墜落事故だけで8件。2014年10月にはペルシャ湾で強襲揚陸艦から離陸直後に失速して墜落、1人が行方不明になった。2015年にはオアフ島で着陸に失敗し2人が死亡し、多数の負傷者を出した。2016年には名護市安部で墜落事故が起きた。

 

 海上に墜落し大破しているにもかかわらず、米軍は「不時着」と表現した。名護市安部の海岸沿いから数百㍍くらいのところに墜落をしたのだが、一歩間違えれば集落に落ちていた。この事故は、夜間に空中給油訓練をおこなっていたさいの事故だ。オスプレイの航続可能距離は3600㌔だが、それをさらに伸ばすために空中給油訓練をしていた。給油機からホースを空中で伸ばしてオスプレイに接続するのだが、そのホースがプロペラに接触してプロペラが破損、航行が困難になり墜落した。この危険な訓練を沖縄のすぐそばの海でおこなっていたのだ。

 

 それ以降も数々の事故が発生している。17年にはオーストラリアで墜落事故を起こし、乗組員3人が不明。22年にはノルウェーで墜落し乗員4人が死亡。そして同年カリフォルニアで墜落し、乗員5人が亡くなっている。去年もオーストラリアで墜落事故があり乗員が3人死亡している。毎年のように墜落事故が起きており、緊急着陸に至っては、数知れずという状態だ。

 

名護沿岸に墜落した米軍オスプレイ(2019年12月、沖縄県)

 昨年11月に屋久島沖で墜落事故を起こしたのは、横田基地のCV22だ。このオスプレイが墜落した後、1週間経ってから米軍は全オスプレイの飛行を停止する。日本政府は墜落事故が起きた後も、「ただちにオスプレイの飛行停止をして点検をしろ」「事故原因を解明しろ」というようなことは一切要求せずに米軍まかせだった。そのために米軍は屋久島の事故の直後も普天間基地周辺でずっと訓練を続けていた。1週間が経って米軍の側から全機の飛行停止を命じたが、日本政府はこういった措置を米軍に要求することができないのだ。

 

 そして一旦飛行を停止したオスプレイだが、3月初めに飛行を再開した。事故原因については当初さまざまな推測がされ、機体の不具合、部品の問題、構造上の問題などがいわれていたが、飛行を再開したときの米軍の声明は、「機器の故障に対応するための整備と手順を変更し、飛行再開が可能となった」であった。何らかの部品を交換するわけでもなく、整備と手順の確認をするのが事故対策というのだ。このため、米下院でもこの安全性に関する調査結果の報告を怠ったと軍を厳しく批判し、調査を継続するよう求めている。

 

 結局、何が原因でこんな重大事故が起きたのかという説明はまったくされておらず、またいつ同じような事故が起こるかわからない状況だ。事故原因を公表しないことについて木原防衛大臣は直後の会見で、「米軍側が事故原因を公表するとアメリカで訴訟が起こる。訴訟の対策ために公表をしないのだ」と、本末転倒な理由を説明している。一昨年のカリフォルニア州での事故で5人の兵士が亡くなっているが、そのうち4人について遺族が提訴したことが最近の報道で明らかになっている。屋久島の事故でも八人が亡くなっており訴訟が起こる可能性は十分ある。それは米軍側が遺族に対してきちんと対応するべきものだ。その訴訟対策といって日本でも事故原因の詳細が伏せられている。

 

 そして飛行を再開して3カ月ほど経ってから、実は米軍が飛行範囲を制限し、緊急着陸などの対応が可能な飛行場から30分の範囲でしか訓練をしていないことが明らかとなった。整備と手順を確認すれば大丈夫だといいながら、米軍そのものが飛行に不安を抱えながら飛んでいるということだ。なぜこんなものを飛ばすのか。

 

 米国はオスプレイ製造終了

 

 ほかにもオスプレイについては、飛行再開前に米国防総省が海軍仕様のCMV22には氷の付着を防ぐ防氷装置などに多数の不具合があり運用に不適合だと報告している。

 

 そして墜落だけでなく、部品落下事故もくり返されている。2015年にアルミ部品が落下しているが、2012年に普天間基地にオスプレイが配備されてから2年半の間に3件目の落下事故だ。2018年には伊計島の海岸で重さ13㌔ものエンジン吸気口の一部が発見された。海上に落下してそれが流れ着いたのだろうと思われる。

 

 20年には横田基地のCV22のサーチライトドームが遺失。21年8月には1・8㌔の機体パネルが落下し、結局どこに落ちたのか探してもわからないという事故が発生している。同年に宜野湾市の民家先に水筒が落下。23年には東京湾で自衛隊オスプレイのエンジンの留め具ナット等が落下していたことが今年になって明らかになった。その他にもエンジンからの出火や草地等に着陸するときに熱い排気ガスが真下に流れることで、草地が火事になるということも報告されている。

 

 オスプレイは2026年で機体の生産が終了する。もともとオスプレイは海外に売却して多数つくることで単価を下げようという目論見があったが、結局オスプレイの安全性に懸念があることから、米軍以外でオスプレイを購入したのは日本だけだった。イスラエルなどもオスプレイの購入は断念しており、海外での販売実績は日本の17機だけだ。

 

 オスプレイは後継機の開発も進められており、2050年代まで運用されると思われていたが、米軍は機体改良をほどこして60年代から70年代まで運用することを検討しているという。オスプレイ自体が生産を終了するような段階にあり、安全性に疑念があるにもかかわらず、佐賀に配備されるオスプレイについても数十年は運用され、その間危険が続くことになる。

 

 オスプレイの騒音の問題について、沖縄県がこの数年間調査をおこなっている。そこで出てきた特徴として、オスプレイは他の航空機に比べて低周波音の発生が大きい機体だという結果が出ている。沖縄では第三次の普天間基地爆音訴訟をおこなっているが、オスプレイの配備で住民の爆音騒音に対する被害感覚は非常に強くなっている。オスプレイが配備されたことによって、「イライラ感が増した」「眠れなくなった」という声が非常に多くなっている。低周波の振動によって住宅へも影響が出ており、「家の振動がひどくなった」「テレビの画面が以前より乱れる」などが起きている。そして配備後の被害の変化については「不眠の悪化」「動悸」「不安感の増大」「イライラ感の増大」などが挙げられており、オスプレイの騒音被害と同時に、墜落の不安に襲われ続けるというのが普天間地区の人々の実感だ。

 

 そしてオスプレイが危険で怖い機体だということ以上に、私たちはオスプレイ配備が日本の平和と安全のために必要なものではなく、自衛隊が海兵隊と一緒になって遠征前進基地作戦や島嶼戦争などの軍事作戦をおこなうことによって何をもたらすのかということを考える必要がある。南西諸島だけでなく、九州、日本中が戦争の被害に巻き込まれていく。基地になることによって佐賀空港を含めた九州の基地も攻撃対象になるということを考えていかないといけない。

 

住民の人格権を侵すな 市民245人が提訴

 

 次に弁護団の池上遊弁護士から、訴状の要旨について説明がおこなわれた。池上氏は「当初の100~200人の想定をこえてこれだけたくさんの方が、4人の地権者と一緒に立ち上がってくれることになった」とのべ、「現在、漁業者らが所有権(共有持分権)及び人格権に基づいて駐屯地建設の中止を求める提訴をおこなっているが、漁業者のみなさんと連帯して市民が政府に対し建設工事を一刻も早く中止させるべく提起する、というのがこの裁判の中心の目的になる」とのべた。

 

 市民訴訟は、原告である市民の人格権を根拠にしてたたかわれる。訴状では、駐屯地建設及び自衛隊配備によって生じる被害として「戦争に巻き込まれる切迫した危険性」を指摘している。

 

 現在国は、集団的自衛権の容認や安保3文書改定による反撃能力の保有を進め、南西諸島をはじめ日本各地でミサイル配備をおこなっている。そして台湾有事の危険性を叫んで日米の軍事的一体化を進め、一般の空港や港湾を「特定利用空港」「特定利用港湾」として選定し、平時から自衛隊による利用を想定した整備を進めている。すでに選定された一六カ所の大半が九州・沖縄に集中しており、国は九州・沖縄を中心に戦争準備を進めていることから、佐賀駐屯地が完成すれば重要な軍事拠点となることは明らかだ。

 

 そして長崎の水陸機動団を島嶼に輸送するための「極めて重要な役割を果たす」ものとして佐賀空港へのオスプレイ配備計画を位置づけており、訴状では「戦争になれば、たとえ駐屯地が建設途中であっても、『島嶼防衛の要となる部隊』が利用する施設として、相手国の攻撃目標となることは容易に想定できる」とし、「近隣地域に居住する市民にとって戦争に巻き込まれる被害が切迫している」としている。

 

 そして平時であっても、「オスプレイ等の墜落、部品落下等の事故」による危険性、そして燃料など油の流出による環境被害、農漁業など生業にも甚大な影響を与え、騒音や低周波など多大な被害が生じることを指摘した。これらのことから「原告らの生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるといえる」として駐屯地建設工事の差し止めを求めている。

 

 質疑応答では、日本各地の基地で流出している有害物質の危険性やオスプレイ墜落などの危険性以上に日本が戦争へ進むことを阻止するためのたたかいであるという声が多数あがった。

 

 最後に地権者であり漁師の石尾義幸氏が、「今まで支援してくださり、ありがとうございます。今もイスラエルとガザ地区、ウクライナとロシアが戦争をしているが、一般市民や子ども、女性をターゲットにするような攻撃がされている。それに日本が近づいているのではないかという危機感がある。私の父も戦争でソビエトに抑留された。戦争というのは見ていられないような惨状になると聞いている。だから絶対にオスプレイや駐屯地は来てもらいたくない。これによって地区住民が戦争に巻き込まれることになる。戦争というのが一番非人間的であり、非生産的だ。自然破壊にも繋がる。だからぜひ力を合わせて、みなさんと一緒に進めていければと思う」と語った。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。