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佐賀空港オスプレイ配備計画めぐり住民訴訟提起へ 市民が原告となり工事差し止め請求 墜落くり返す欠陥機オスプレイ

住民訴訟にむけて準備会合をおこなう市民(13日、佐賀県小城市)

 佐賀空港への陸上自衛隊オスプレイ配備計画にともなう駐屯地建設が強行されている佐賀市では現在、地権者4人が原告となり工事差し止めを求める訴訟がおこなわれ、市民の中でも地権者を支えるだけでなく、みずから原告となって住民訴訟をたたかうための準備が進められている。14日には、地権者らが国を訴えた訴訟の第2回口頭弁論が佐賀地裁で開かれ、南川副地区のノリ養殖業者で駐屯地建設予定地の地権者である石尾義幸氏が、オスプレイの危険性や漁業への影響について意見陳述をおこなった【下別掲】。その後に開かれた報告集会では、集まった支援者に対し、100~200人の原告団を組織して住民訴訟を起こす旨の説明がおこなわれた。

 

 前日の13日には、佐賀市に隣接する小城市で住民訴訟についての説明会が開かれた。オスプレイ反対住民の会で古賀初次氏らとともに反対活動をおこなってきた小城市在住の会員らが知人や近隣住民などに呼びかけ、牛津公民館で会合をおこなった。

 

 初めにオスプレイ反対住民の会会長で地権者でもある古賀初次氏が挨拶をおこなった。古賀氏は「12日で駐屯地の工事が始まってちょうど1年がたった。ときどき私も現場に行っているが、数え切れないほどのクレーンが立っている。その他にもたくさんの大型トラックが空港道路を我が物顔で走っているのを見ると歯がゆい思いでいっぱいだ。空港横にはあっという間に8階建ての隊庁舎ができた。今までムツゴロウやワラスボがいた有明の潟だったあの土地に、まさか8階建てのビルができるなんて考えられないような状況だ。私たちはまだあの土地を売るなんていっていないのに、これからも格納庫などがどんどんできるのだろう」とやりきれない思いを語った。

 

 そして排水対策として建設されている貯水池の工事で、駐屯地の盛土にするために大量の消石灰を投入していることに関し、ノリに大きな影響を与えると指摘し、「やることなすことすべてやりたい放題の工事だ。なんとか止めたいという気持ちはあるが、手の出しようがない現状だ。今は私たち地権者4人が原告となってたたかっているが蟻のようなもので、防衛省の象の足から踏みつぶされそうになっている。4人の力だけでなく、市民のみなさんに原告になってもらって一緒にたたかっていきたい」と訴えた。

 

オスプレイ駐屯のための隊庁舎が建設されている佐賀空港隣接地(住民提供)

 弁護団長の東島浩幸弁護士は「このオスプレイ問題は、佐賀そして佐賀周辺、有明海周辺や北部九州のすべての住民に関係して大きな影響を及ぼす問題だ。しかし事業をする側は、できるだけ影響を及ぼす市民、国民の範囲を小さく設定し、反対が起こらないように、もしくは反対があってもできるだけ小さくして諦めさせていくという方策をとろうとする。玄海原発再稼働のさいに山口佐賀県知事は、“佐賀のことは佐賀で決める”といって全県民に対して市民説明会をおこなった。しかし、そんなことをすると説明会のたびに反対意見ばかり出てたいへんになることが身に染みたのではないか。このオスプレイの問題については、公害防止協定は漁協の問題、土地の問題は地権者の問題というように、漁協関係者以外はまったく関係がないというような問題設定をされ、それがマスコミ等を通じて流布されてきた。いかにも少数の人たちだけの問題という印象を与え、既成事実をつくっていく。既成事実をつくってしまえば諦める人も多くなるという、国に都合の良い舞台設定をされてきた」と問題を指摘した。

 

 現在おこなっている裁判は、所有権という現代で一番強い権利を有している地権者を原告としたものであり、多くの市民がそれを支えるという形で約500人が「支援市民の会」を結成して支援している。支援市民の会とオスプレイ反対住民の会がタイアップして運動をおこなってきたが、現在の裁判では、「地権者4人の訴訟」であり、その他多くの人々は当事者ではなく「応援団」として報道される。しかし支援市民の会を立ち上げるなかで「自分たちも原告になれないのか」との声が多くあがったという。

 

 東島弁護士は「オスプレイ問題を自分たちの問題だと思っている人がたくさんいたということだ。このようなことから多くの市民の問題だということをはっきりさせて、運動を大きく広げていき、市民生活、環境、戦争と平和という問題について正面から問うていくことが必要だという思いに至った。地権者である古賀さんたち4人だけの裁判ではなく、古賀さんたちを孤立させない。同じように反対している市民が大勢おり、市民も当事者の一人だ」と住民訴訟の意義についてのべた。

 

 この市民原告訴訟は、「佐賀駐屯地建設工事を続行してはならない。すべての工事を止めさせる」というのが請求の趣旨となり、人格権に基づく差止請求をおこなっていくという。

 

 東島弁護士は「オスプレイ基地が建設されて配備されれば、個人の生命、身体、精神、生活、そして生活環境などに関する利益、これが侵害されることになる。戦争に巻き込まれる切迫した危険、そして戦争は起こらなくても平常時の被害という2つが大きな柱となる」としたうえで以下のように説明した。

 

 戦争に巻き込まれる切迫した危険性については、現在中国軍における急速な軍備拡大と活発化、尖閣諸島問題や台湾危機などどんどんエスカレートしている。それに対し、日本は敵基地能力、反撃能力を備えるということで与那国から奄美大島までの南西諸島においてミサイル基地を配備しようとしている。そのミサイルの飛行距離は1000㌔以上など、中国本土に到達できるようなものだ。そして飛行距離が1600㌔のトマホークも大量購入するなど、アメリカの武器の爆買いが進んでいる。この軍備の急激な増大に対して、煽るばかりで平和構想はまったく進んでいない。麻生元首相が台湾に行き、中国とたたかう覚悟をしなければならないというくだらない煽りばかりやっている。

 

 平常時においても、オスプレイ墜落や部品落下の危険性がある。危険だということは昨年11月に屋久島沖での墜落事件で身に染みたはずだ。機体のある箇所が墜落の原因だとはいうが、そのある箇所というのがなぜ駄目になったのかは全然公表しない。それなのに飛行を再開させている。『沖縄タイムス』などの報道によると、現在は基地から飛行半径30㌔以内でしか運用させないという。落ちたら危ないからすぐ戻れるところでしか飛行させないのだ。これはオスプレイは危険だといっているようなものであり、こんな状態では佐賀空港から南西諸島まで人や武器を運ぶこともできない。オスプレイが任務も果たせないような欠陥機であることは明らかだ。

 

 墜落原因も不明なままオスプレイが佐賀に配備されると、佐賀周辺で墜落することも当然想定される。水陸機動団は一個中隊でオスプレイ8機、普通のヘリコプターが4機の12機で編成される。それが二個中隊あり、中隊単位で昼夜いつでも緊急出動できるように訓練をする。1機のオスプレイが飛んで、その音がうるさいとかではなく、何機もいっぺんに飛ぶようになるのだ。古賀さんたちが心配しているように冬の夜、有明海にはたくさんの舟がいる。そのときに落ちたらどうするのか。また海に落ちるとも限らない。陸地に落ちるかもしれないという危険性がある。

 

*    *

 

 東島弁護士は、騒音や低周波音の被害にも触れ、「現在低周波の影響などは沖縄ではかなり問題となっており、弁護団としてもこれから研究を突っ込んでいかなければならない。騒音や低周波で体調不良などが起きる恐れもある。生活環境の問題としては、漁業に関係するのは水質悪化の危険性だ。現在貯水池の建設において大量の石灰を投入している。石灰はノリの成長に大きな影響を及ぼすアルカリ性であり、アスファルトを敷いても雨は浸透するため、強いアルカリ性が海に流れ出す可能性がある」とのべた。「以上のようなことを根拠として訴えを起こす」と説明し、「ぜひ市民のみなさんも当事者に加わっていただきたい」と訴えた。

 

 集会参加者からは次々に原告に加わる意志が示された。最後に古賀氏が「駐屯地ができれば絶対に米軍がついてくる。まだ佐賀空港横の西側に土地はどっさりある。今は33㌶の駐屯地だが、今後どんどん大きくなるはずだ。駐屯地のためなら防衛省はいくらでも金を出す。米軍と一緒になった戦争の準備だ。このままでは佐賀だけでなく日本の国が危うくなるという心配だ。だからオスプレイも他の軍用機もこの佐賀空港に持ってこさせないために頑張っていく。私たちは海のことも心配だが、平和という二文字が一番大事な言葉だと思ってこの裁判をたたかっていきたい」と力を込めて訴えた。

 

 市民原告訴訟の提訴は7月29日。九州以外の住民でも原告団に加わることができる。7月28日午後2時から佐賀県弁護士会館で「市民原告訴訟キックオフ集会」が開催される。

 

2018年4月に開催されたオスプレイ配備反対の住民集会(佐賀市川副町)

■ノリ漁師・石尾義幸氏が意見陳述から

 

1 はじめに

 

石尾義幸氏

 私は、昭和25年に生まれ、高校卒業後から父の海苔養殖業を手伝うようになりました。そして、昭和60年頃には、父から海苔養殖業を承継するとともに、南川副漁協の組合員の地位を受け継ぎました。それから現在に至るまで、有明海を漁場としてのり養殖業を続けています。

 

 今回問題となっている土地に関しては、当初、私の父である石尾幸八名義で持分証券が発行されましたが、その後平成19年頃に南川副漁業協同組合が合併して有明海漁業協同組合となったタイミングで持分証券が再発行され、その際に私の名義に書き換えられました。それ以降、名実ともに私が本件土地の権利者となっています。

 

2 南川副漁協の顧問弁護士が作成した書面について

 

 本訴訟において南川副漁協の顧問弁護士が作成した書面を提出いたしました。これは、私が長年保管していた大量の漁業関係資料の中から発見されたものです。(漁協合併当時に、南川副漁協の顧問弁護士が漁協に対して「国造搦60㌶については、南川副漁協は登記名義面における管理であり、実体上の所有権者ではない」との覚書を結ぶよう助言したもの)

 

 平成19年の漁協合併当時、私は漁協の組合員でしたが、特に役職を務めていたわけでもないため、先ほどの文書は組合員一般に配付されたものだと思います。そのため、この書面に書かれた内容は、一部の限られた人間のみが把握していたものではなく、南川副漁協全体が認識していた事柄だと思います。

 

3 有明海や海苔養殖業への影響

 

 本件工事の施工面積は35㌶を超えているため、本件工事に先だって環境アセスメントを実施する必要があることは明らかですが、国は環境アセスメントを実施していません。これについて、国は工事対象から排水設備等を除外すれば工事面積を34・1㌶になるため環境アセスメントは不要であると詭弁を繰り広げています。しかし、本裁判の差止対象となっている工事目録4の工事概要には「二つの樋門からの排水施設 一式」と明記されており、本工事対象に排水設備が含まれることは明らかで、それは「佐賀(5)駐屯地新設土木その他工事(その4)」として駐屯地新設工事の一部をなしています。

 

 先日、佐賀空港の滑走路延長について説明会が開かれ、環境アセスメントを実施するとの説明がありました。そうであるにもかかわらず、本件の自衛隊駐屯地建設工事では頑なに環境アセスメントを拒んでいることが不思議でなりません。

 

 他にも、国は、自衛隊駐屯地からの排水対策について、数年にわたって判然としない説明を続けており、その実効性については疑問が多く残ったままです。

 

 防衛省との取り決めには、単に海苔漁の時期に当たる9月から翌年4月まで水質基準を満たすようにするとされています。しかし、海洋環境は1年を通して作られます。年間を通しての取り組みがなされなければ、真の意味での有明海の環境保全にはなりません。あまりに杜撰な考えです。

 

 なおわたくしごとですが、私は今年度から川副町の南六区東地区の自治会長を務めています。立場が変われば何らかの説明もあるかと思いましたが、自治会長会での説明も、自治会長向けの説明も一切ありませんでした。結局、国はまともな排水対策をそもそも講じていないのです。

 

 さらに、本件駐屯地造成のための盛土の約45%に相当する36万立方㍍の土砂に対して、土壌改良のために1立方㍍当たり50㌔㌘もの生石灰を混合させているとの情報が開示されています。石灰は周辺水質のpH(ペーハー)を上昇させると言われており、先ほどの1立方平方㍍当たりの石灰量は、一般的に雨によって酸化した土壌の改良のために使われる石灰量の数倍にも該当します。

 

 佐賀県有明水産試験場の研究結果によれば、pH値が8・6を超えた場合に海苔の生長に影響が生じ始め、pH値が10以上では全く生長が見られないとされており、pH8・5が海苔の生理に悪影響を与えない上限であると結論付けられています。現に私たちは、過去に有明海の近辺に大型スーパーが建設された際、海苔の不作に苦しんだ経験があります。これもセメント工事に伴い、海水のpHが上昇したことに起因するものと思われます。
 国も県も、漁業者に対し、この点に関する説明を何ら行っていません。

 

 以上述べてきたとおり、本件工事には多くの疑問点が残されたままです。今後、有明海や私たちの生業である海苔養殖業に影響がでないかと心配でなりません。

 

4 オスプレイの飛行再開について

 

 米軍は、オスプレイ機に関する相次ぐ事故を受けて飛行停止の措置をとっていましたが、令和6年3月には根本的な事故原因が明らかにされないままに飛行再開の判断を行いました。もっとも、その運用に関しては、飛行範囲を緊急着陸などの対応が可能な飛行場から30分以内の範囲に制限していることが明らかとなりました。これは、米軍自身がオスプレイ機の危険性を認識し、事故再発への不安を拭い切れてないことの表れです。

 

 もし佐賀空港で同じような運用がなされた場合、わずか30分圏内と言えども私たちの生活圏内が含まれかねません。このような危険な機体が私たちの頭上を飛び交うのかと思うとゾッとします。そもそもオスプレイは南西諸島防衛のための輸送手段として運用されると聞いていますが、わずか30分の飛行で何ができるのでしょうか。私は、配備の意義を問われるような機体について、リスクを冒してまで飛ばすことに意味を見出すことが出来ません。

 

5 県有地の無償貸与について

 

 佐賀県は排水施設の工事のために県有地を無償貸与し、掘削土砂についても無償で贈与したことが明らかとなりました。国を相手としたとき、私たち佐賀県民の大事な財産がこんなにも安易に手放されているさまを見て、佐賀県民として情けなくてなりません。

 

6 最後に

 

 私は、これまで「獲る漁業」ではなく「育てる漁業」を心がけてきました。漁業は決して私たち一世代の問題ではなく、未来に受け継いでいくべき生業です。それが昨今では有明海の漁業は衰退の一途を辿っています。このような状況下では、本件工事を推し進めたとき、有明海の環境が悪化するのは目に見えています。佐賀地方裁判所には、一刻も早く、本件工事を差し止める判断を出して頂きたいということを申し上げまして、私の意見陳述を終わります。

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