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「拙速な開発やめ科学的な影響調査を」 防災や環境工学の専門家が宇久島メガソーラー計画地を視察 大規模災害誘発の可能性も

宇久島メガソーラー事業計画の現地視察後に見解をのべる島谷幸宏氏と鈴木猛康氏(5月29日)

 宇久島の生活を守る会(佐々木浄榮会長)は5月29、30日、防災推進機構理事長で山梨大学名誉教授の鈴木猛康氏(地震工学、地域防災)、豪雨被災地などで「流域治水」にとりくむ熊本県立大学特別教授の島谷幸宏氏(環境工学)とともに、宇久島メガソーラー事業計画地の現地調査をおこなった。両氏は専門家の見地から、島の4分の1におよぶ面積で森林を伐採し、太陽光パネルを敷設することは、自然環境が持つ保水力を奪い、地下水の枯渇、土砂崩れや洪水の増加、海の生態系変化など取り返しのつかない複合的影響をおよぼす可能性があると指摘。環境アセスもなく拙速に大規模開発を進めるのではなく、環境への影響について科学的な調査の実施を求めた。

 

◇        ◇

 

 現地調査は主に河川を中心におこなわれ、2日間かけて島を一周した。宇久島は島中央にそびえる城ヶ岳から豊富な水が流れ、島の大部分を占める丘陵地では豊富な湧水や溜池を利用して農業がおこなわれている。二級河川が1本あるだけで、その他は自然と調和した水路が田畑や集落を縫うように流れている。

 

集落を流れる川は幅が狭く豪雨で水かさが増すと氾濫の危険性が高い(宇久島・下山)

住宅地や田畑の間を流れる水路(宇久島・野方)

 沿岸部の集落は低地が多く、3年に1度の豪雨でも川や水路が氾濫し、宅地や畑が浸水することもあるという。田畑や点在する耕作放棄地が遊水池の役割を果たしているため、上流の森林を伐採し、耕地にも太陽光パネルを敷き詰めると、表層を流れる水量はこれまでよりも大幅に増え、幅の狭い川や水路は耐えきれず氾濫して住宅を押し流すほどの大規模災害を招く危険性が増す。

 

 防災の専門家である鈴木氏は「豪雨は水だけでなく、土を一緒に運ぶ。その流量は河川の1・5倍、場合によっては2倍にもなる。それが酷くなったのが土石流だ。だから開発の結果として雨水を河川に流すのであれば、水路を広げたり、深くする必要がある。だが、現在までにそのような計画は事業者からは一つも出ていない」「森林が伐採されると、短時間豪雨では雨水はほとんど土壌中に浸透することなく、地表を削って流出し、河川を氾濫させる。最悪の場合には表土がすべて流されて、溶岩の露出する黒い島になる可能性もある。河川氾濫にとどまらず、集落が流されるほどの土石流が発生する可能性が高い」と指摘。

 

 本事業では、250㌶(島面積の12%)もパネルを敷設するにもかかわらず、「30㌶の土地改変はない(パネルは浮いている)」という理由で県環境影響評価条例に基づく環境アセスがおこなわれていない。また、島の4分の1におよぶ面積の森林を伐採しても、事業者は「抜根も整地もしない」から問題ないとし、林地開発許可を出した長崎県と佐世保市も、パネル設置部は「優良草地」であり伐採前と変わらないという驚きの認識を示している。

 

島の環境大きく変わる 森林伐採の甚大な影響

 

田畑や休耕地が自然の遊水池となって治水機能を果たしていると指摘する島谷教授(宇久島)

 治水の専門家である島谷教授は、「災害を防ぐための保水力は土壌だけでなく、森林構造も大きく関係する。見る限りこの島の森林は、高層、中層、低層と階層的に木が繁っているため高い保水力を持っているはずだ。大雨時には相当量が地面に直接降り注がず、それを葉が受け止めることで遮断蒸発(樹木からの蒸発)が起きている。そのことが気温を一定に保ち、上昇気流の発生を防いでいる。伐採でこれが失われると、直下流で洪水などの局所的な問題が起きるだけでなく、上昇気流が一気に起こりやすい状態になり、常に島上空に雷雲が発生し、大雨の頻度が増すことも想定され得る」という。

 

 「かつて『イースター島の悲劇』では、島に巨大なモアイ像を建設するために多くの森林を伐採したため、人口1万人いた島に500人ほどしか収容できなくなった。これほど豊かな森林を広範囲にわたって一気になくすことは、それだけ深刻な影響を島全体に与えるというのが過去の悲劇から得られる教訓だ。後に“宇久島の悲劇”といわれるような事態を生じさせないためにも、学術機関と提携して科学的調査をおこない、影響評価とその低減策を考えるべきだと思う」とのべた。

 

 そのうえで「日本で島全体の12%が太陽光パネルで覆われた例はないため正確な情報にもとづく予測はできないが、これほどの開発をおこなえば、地下水の涵養量が減り、沿岸域の湧水の量も減り、生態系が変わって漁業にも影響が出ることは過去の経験からも予想できる。少なくとも一気に開発するのではなく、限定的に始めて影響を科学的に検証し、それに応じてやり方を見直すなど順応的管理が必要だ。SDGsとは持続可能な開発目標であり、持続的な社会を破壊する開発を進めることではない」とのべた。

 

 鈴木氏は「土壌への雨水の浸透が大幅に減ると、沿岸部住民の生活用水でもある地下水が枯渇する。海では、海底から湧き出すミネラル豊富な地下水が減って栄養素が失われ、濁水が流出するため海藻類は光合成ができなくなって死滅する。たとえば日本全体の四分の一の森林が失われたらどうなるか想像してみてほしい。エネルギー政策や国土開発など国策による開発が地域に大きな禍根を残すことを『増災』という。それを防ぐためにも専門家を入れて調査し、島の将来予測をしてからでも遅くないはずだ。メガソーラー事業は2、30年で終わったとしても、開発による禍根は100年、200年、500年後も残る。後から人工的に植林しても壊されたものは簡単には元に戻らない」と指摘した。

 

 宇久島の生活を守る会は今後、専門家から学術的見地を集めた意見書を佐世保市や長崎県に提出することにしている。

 

市の天然記念物に指定されている樹齢数百年のアコウの巨樹(宇久島下山)

メガソーラーを敷設した宇久島北部・野方方面のイメージ図(事業者HPより)

 

(6月3日付)

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