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防衛省、沖縄県うるま市石川への陸自訓練場計画を断念 国策覆した住民の結束した力 「地元無視の基地化に抗う新たな出発点に」

自衛隊訓練場建設計画の断念を求めて1200人超が集まった市民集会(3月20日、うるま市石川)

 防衛省は昨年末にうち出した沖縄県うるま市石川のゴルフ場跡地への陸上自衛隊訓練場の整備計画について、地元の理解を得るのは難しいとして用地取得を含む同計画を白紙に戻すことを表明した。木原稔防衛相が11日、「とりやめることにした」と正式表明した。ただし「訓練の必要性は変わらない。沖縄本島のどこかで訓練場用地を準備しなければならない」(木原防衛相)として、沖縄県内の別の場所で訓練場用地を確保する姿勢を見せており、地元は「今後も油断はできない」とその動向を注視している。

 

一自治会から全市・全県に波及した運動

 

 11日夕刻、臨時記者会見をした木原防衛相は、うるま市石川のゴルフ場跡地への陸自訓練場整備計画について「現在の候補地では、住民生活と調和しながら、訓練所要等を十分に満たすことは不可能であると判断した」とのべ、「うるま市における訓練場の整備計画は取りやめる」と明言した。

 

 うるま市石川への陸上自衛隊訓練場計画は、昨年12月20日に突如、新聞報道で既定事実のように住民に告知された。計画候補地とされたゴルフ場跡地は、住宅地、老人介護施設、石川青少年の家(教育施設)とも隣接しており、地元では強い衝撃が走った。「住宅地に訓練場を作るな!」の反対決議は地元の旭区自治会から始まり、同市石川地区全域、市全域の自治会に波及。この住民運動のうねりが、政治的立場をこえた地元選出議員(市議、県議)、自治会、老人クラブなど諸団体による「自衛隊訓練場設置計画の断念を求める会」の結成に繋がり、市議会、県議会も全会一致で「白紙撤回」を決議。3月半ばには、うるま市長が国に白紙撤回を求める事態にまで発展した。

 

 3月20日の「住宅地への自衛隊訓練場計画の断念を求める市民集会」(うるま市石川会館)には1200人をこえる住民たちが集結し、「県民の総意」として国に計画断念を求める決議を採択。同28日には住民団体の代表らが上京し、防衛省の三宅伸吾政務官に決議を手渡し、「住民が動けば国は降りなければならない」と要請した。

 

 住民の強烈な反対世論が噴き上がるなか、木原防衛相は2日の衆院安全保障委員会で、「地元住民が懸念する教育施設(青少年の家)の近くでは、訓練場ではなく(住民にも開放する)“交流の場”とする」案を示すなど、用地取得後の利用方法を変更する素振りを見せてきたが、地元は「防衛省が土地を取得してしまえば、その後(国は)中身を変えてくる。地元に大臣の発言を信用する人はいない」(断念を求める会役員)として、あくまで用地取得を含む計画断念を要求。最終的には、ゴルフ場跡地の所有者が土地を売らない意向を示したといわれ、防衛省の訓練場用地取得は頓挫に追い込まれた。

 

 ただ国が2024年度予算に計上した訓練場の土地購入費(数十億円)は、場所を限定しておらず、国は「陸自第15旅団が師団に改編されるので訓練場が不足し、物資の集積など土地利用の所要が発生する。防衛省としてはそのための用地を取得したい」(木原防衛相)としており、沖縄本島で新たな候補地を探す動きを見せている。

 

 沖縄県の玉城デニー知事は、防衛省の計画断念方針について「大歓迎だ。住民の声に政府は真摯に向き合うという姿勢をこれからも堅持してもらいたい。県内のどこにも訓練施設はいらないという声があり、引き続きわれわれも住民の声、民意を尊重してもらうよう要望していく」とのべた。

 

住民「沖縄県民にとっては新しい出発点」

 

 「計画断念」の速報を受けて、地元うるま市石川地区では、当初は困難とも思われた白紙撤回を住民の力で勝ちとったことに確信を強めるとともに、「これを出発点に沖縄の軍事基地化に歯止めをかけなければいけない」「どんな場所でも住民無視の無謀な訓練場計画を強行させてはならない」と語られている。

 

 計画地近隣の自治会役員は、「正直ほっとしている。地主がもう防衛省には売らないと話しているので物理的に無理になった可能性がある。ただ“県内の別の場所へ”ともいわれているので、今後も注意深く動向を見守りたい」と語った。そのうえで「(うるま市)勝連へのミサイル基地建設も止められず、名護市の辺野古新基地建設も強行されており、“国を相手に勝つことは難しい”という声もあったなかで、断念まで追い込めたことは大きな勝利だ。なによりも計画地に隣接する旭区自治会が即座に反対を決議し、若い人たちが機敏に動き、うるま市全体の自治会が反対を決議したことが大きかった。みんなが立ち上がれば止めることができる。住宅地や介護施設、青少年の家もあるところに訓練場をつくるという前代未聞の計画はみんなを怒らせた。私は宮森小学校米軍ジェット機墜落事故のときに在学生だったので、黒焦げになって運ばれていった子どもたちの姿が蘇った」と話した。

 

 別の自治会役員は、「火がついた地元住民の運動は、いくら防衛省が火消しをしても、諦めを煽っても逆に広がった。それに連動して市議会、県議会が動いた。保守・革新いろいろ立場に違いはあるが、住民の声が統一した動きを促した。市長も2カ月間賛否を明らかにしなかったが、市民集会直前になって“白紙撤回を求める”と表明した。それだけ世論で外堀が埋められたということだ。だが本計画を断念させたからといって、これで決着ではない」とのべ、語気を強めて続けた。


 「運動はまさに途上にある。市民集会でも論議されたが、国土面積の1割に過ぎない沖縄に全国の米軍基地の7割が集中し、さらに自衛隊基地が加わるというのでは完全に『基地の島』になる。これ以上軍事的緊張が高まれば、住民生活は軍事作戦のなかに呑み込まれ、頼みの綱である観光収入も途絶えて沖縄の経済も成り立たなくなる。この訓練場計画の断念で終われるものではなく、これを契機に沖縄の基地を減らしていかなければいけない。そういう意味では出発点だ」。

 

断念を求める会が臨時会見 「住民が団結すれば勝てる」

 

臨時記者会見で勝利を喜び合う「断念を求める会」の共同代表ら(11日、うるま市石川)

 防衛相の断念表明をうけ、うるま市内の自治会や議員などでつくる「自衛隊訓練場設置計画の断念を求める会」は11日、石川部落事務所で緊急記者会見を開いた。会見した共同代表らは訓練場計画の断念を勝ちとったことへの喜びとともに、昨年12月20日から3カ月余りのたたかいをふり返り、「相手が国であっても住民の結束した力で覆すことができることを示した」「今後県内で同様の住民運動が起きれば、惜しみなく援助する」と表明した。

 

 記者会見に応じた共同代表の伊波常洋氏(元県議)は、「何の連絡も相談もなく、いきなり訓練場を設置するとしたことが、逆に私たち住民に火をつけた。防衛省の無謀な計画を断念させたことは、この会の原点である保革をこえた団結の力だと思う。地域住民、県民の怒りが大きく広がっていったことが計画断念につながった。これに防衛省も危機感をもったのだろう。住民が団結すれば、政府よりも強い力を発揮する。しかし防衛省は、(訓練場は)必要な施設だから県内のどこかにつくると明言している。県内のどこかの地域につくるとなった時、そこの住民が反対し、議会、自治体が反対するのであれば、われわれはそのまま見過ごすことはできない。住民の意志を無視して強行されることになれば、われわれはそこの住民と連帯し、共にたたかっていく」と力強くのべた。

 

 共同代表の山内末子県議は、「旭自治会から始まった反対運動が、市内の自治会全体に、うるま市全体に広がり、うるま市議会、うるま市長、県議会と知事も動かして、沖縄県全体の総意として断念を求めることにいたった。市民集会には、市内外から1200人もの市民県民が結集し大成功を収めた。圧倒的大多数の市民県民がこの問題を自分のこととして考え、断念に向けての大きな動きが波状効果のように県内に広がった結果だ。地域住民、沖縄県民の勝利だ」とのべた。

 

 同じく久高政治氏(石川・宮森630会)は、「65年前の宮森小学校ジェット機墜落事件の当事者として、この運動に参加してきた。今、沖縄の空で訓練が激しくなってジェット機が毎日のように飛び交っていることにとても危機感を持っている。自衛隊の訓練場が私たちの身近な地域につくられることになれば、ますます危険度が高まる。住民、県民の力で訓練場設置計画をはね返すことができたということは、住民を無視したやり方は成り立たないということを実証したと思う。住民の同意を得ず、反対を押し切ってやる強権的なやり方はもう通用しない。この石川におけるたたかいは、沖縄全地域の人たちに勇気と激励を与えたと思う。計画断念の報道に接して大変嬉しく思っている」と、たたかいの教訓を込めてのべた。

 

 事務局次長の安田公氏(旭区自治会評議員)は、「当初からこれだけ平穏な住宅地、教育施設に隣接した場所にいきなり訓練場というのはまったくダメだといってきた。人がとるべき道義としてわれわれの意見が伝わったと考えている」とのべた。

 

 真壁朝弘うるま市議は、「旭地区は石川のなかでも生活・自然環境のいい場所だ。石川青少年の家の所長が“皆さんここに訓練場をつくらせたらいけない”と口酸っぱくいっていた。私たちの地域は、住民みんなが家族のような親しい関係だ。ここに住んで30年、子育てしてきた。年寄りから子どもまでいろんなイベントを楽しんでいる。子ども、孫の世代までずっとこのいい環境を守っていかないといけない。このことが僕たち世代の責任、使命である」と区民の思いを話した。

 

 事務局長の伊波洋正氏(旭区自治会評議員)は「今回の運動が保革をこえて、住民訓練場をつくることに絶対反対していこうという一点で団結するよう、絶対にブレないようにやってきた。これがかなり大きな力になって政府を動かす力になった。計画断念は、当たり前の結論が出たといえる。旭区での最初の反対決議から始まって、それが市町村、県、そして最後は国までしっかり伝えることができた。やはり伝えることが大事だ」とのべた。

 

 翌12日に旭区公民館で開かれた緊急幹事会には約30人が参加し、会の当初の目的を達成したことを確認し、全会一致で勝利宣言【別掲】をおこなった。同時に、今後同じように住民の頭越しに訓練場設置計画が強行された場合は、その地域の住民と連帯してたたかっていく決意がのべられた。

 

【勝利宣言】

 

 4月11日、木原防衛大臣は臨時記者会見で、うるま市石川のゴルフ場跡地への自衛隊訓練場整備計画を巡り、土地取得も含めて「取りやめる」ことを明らかにした。これまで「計画の見直しはしない」「土地取得後の利用の在り方について検討する」と頑なな姿勢をとり続けてきた防衛省が、ここに来て遂に計画そのものの断念を表明したのである。このことは、計画の白紙撤回のみならず、土地取得そのものの断念まで求めてきた私たちからすれば、この運動の勝利を勝ちとったものとして、率直に喜びたい。たとえ国が相手でも、主権者たる住民がイデオロギーや立場を超えて団結し、闘っていけば、国の政策決定をも揺るがすことができるのだということ。このことを、私たちは今回の問題の大きな教訓として確認したい。

 

 しかも、朗報はそれだけではない。4月11日付琉球新報は「土地の所有者が防衛省へ土地を売却しない意向」であることを報じている。私たち住民の切実な粘り強い闘いが、地主の心にも大きな影響を与えているのである。防衛大臣は「(地主の意向は)取りやめる材料になったとは思わない」とのべているが、地主が売らないと言っている以上、防衛省としては購入することはできないのであり、「取りやめる材料」にならないはずはない。

 

 運動は勝ったとはいえ、防衛省は「訓練場の必要性」を強調し、本島内の別の場所を確保する意向を明らかにしている。今回、訓練場の新設によって日常生活が根底から脅かされるであろうことを「自分事」として身に染みて感じ、反対運動に汗を流してきた私たちとしては、今後、本島内のどこであろうが、そこの住民が反対し、運動を展開することがあれば、惜しみなく連帯の意思を表明し、支援していくのが道義的に問われると考える。

 

 今回の運動の勝利は、県民に大きな希望を与えたことは疑いない。この自負を肝に銘じつつ、私たちは今後も県民とともに、ふるさと沖縄を想う肝ぐくるを大切にし、前に向かっていきたい。

 

2024年4月12日

自衛隊訓練場設置計画の断念を求める会

 

石川青少年の家(手前)のすぐ裏にあるのが陸上自衛隊訓練場計画地となったゴルフ場跡地(うるま市石川)

計画地と隣接する旭区公民館前に掲げられた横断幕(3月20日、うるま市石川)

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