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「米軍川上弾薬庫に由来」 広島県東広島市の井戸水から暫定目標値300倍のPFAS(有機フッ素化合物)を検出 市が調査結果公表

米軍川上弾薬庫の入口(広島県東広島市八本松宗吉)

 広島県東広島市では、市内の井戸(地下水)から人体に有害とされる有機フッ素化合物(総称PFAS=ピーファス)が国の暫定目標値(1㍑当り50㌨㌘)の300倍にあたる濃度で検出されたほか、河川からも暫定目標値の数十倍の濃度で検出されて大問題になっている。3月14日、市はPFASの排出源を調査した結果、市内にある「米軍川上弾薬庫の敷地に由来する可能性が高い」として、県とともに防衛省に対して弾薬庫敷地内の実態調査をおこなうことを求める要望書を提出した。

 

 東広島市は、昨年11月に市内の米軍川上弾薬庫付近を流れる瀬野川下流で目標値をこえる濃度のPFASが検出されたことを受け、今年1月に付近計58地点の井戸で地下水を調査。その結果、15地点の井戸水から目標値をこえる濃度のPFASが検出された。そのうち、米軍川上弾薬庫に隣接する同市八本松町宗吉地区の井戸水から目標値の300倍にのぼる1㍑当り1万5000㌨㌘の値が出た。これらの井戸水は飲用されている。

 

 2月22日に調査結果の公表とともに記者会見した高垣広徳市長は、市として専門家による調査検討委員会を立ち上げて汚染範囲の特定を進める方針とともに、数値が高かった井戸を利用する世帯の希望者には健康診断実施や上水道の設置を助成するなどの方針を示した。

 

 さらに市は3月14日、汚染範囲の特定のために2月下旬から3月上旬にかけておこなった調査の結果を新たに公表。とくに河川の調査では、米軍川上弾薬庫に近い瀬野川水系で、調査結果が出た4地点のうち2地点で目標値の30倍と72倍の濃度でPFASが検出された。一方、弾薬庫の上流では検出されず、弾薬庫を経由しない黒瀬川水系では河川と地下水のいずれからも暫定目標値をこえる値は検出されなかった。

 

 これらを踏まえ、高垣市長は「原因が弾薬庫の敷地に由来する可能性が高い」と結論づけ、国を通じて米軍に対し、敷地内における水質調査および土壌調査を実施するなどの原因究明をおこなうことを要請。「瀬野川水系付近の市民、事業者の皆様方は、大変なご苦労をされているところであり、本市としては1日も早く通常の暮らしを取り戻せるよう、広島県をはじめ関係機関と連携して最善を尽くしていく」との決意を示している。

 

弾薬庫敷地の調査と除染対策は急務

 

 PFAS(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)は、1930年代にアメリカで開発された合成化学物質の総称で、代表的なものにPFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)等がある。自然界で分解されにくく、耐水性や耐油性にすぐれているため、幅広い用途で使用されてきたが、体内に入ると代謝されにくく蓄積して健康被害を生み出す。アメリカで癌や甲状腺疾患などの健康被害が社会問題化し、現在、欧米等では販売・輸入・使用が禁止されている。

 

 PFASを広く普及させた用途のなかに、燃料や可燃物化合物を原因とする火災を抑える消火剤がある。1960年代、米軍はPFASを使って酸素を遮断することで火災をすばやく鎮火できる泡消火剤(水成膜消火剤)を開発し、ペンタゴンの司令で米軍のすべての艦船、陸上の格納庫、燃料貯蔵地、緊急車両等に設置された。そのため日本では在日米軍基地の7割が集中する沖縄県内や、米軍横田基地の下流域の東京都国分寺市や立川市などで地下水や河川から暫定目標値を大幅に上回る濃度のPFASが検出され、市民団体による住民の血液検査でも血中濃度の高さが問題になっている。

 

 米軍川上弾薬庫(総面積約260㌶)は、約4万㌧の弾薬を貯蔵でき、弾薬庫としては極東最大規模。最新の弾薬整備システムや補修工場も備えており、ベトナム戦争や湾岸戦争でもここから弾薬を供給した。周辺の秋月弾薬庫(江田島市)、広弾薬庫(呉市)とともに秋月弾薬廠を形成し、最大で計約7万5000㌧の弾薬が貯蔵できるとされている。貯蔵されている弾薬の種類や量などについては、日米地位協定上、日本側は知ることができない。

 

 深刻なPFAS汚染が確認された瀬野川は、東広島市八本松町の曽場ケ城山を源にして瀬戸内海側に向かって流れ、最終的には海田町と広島市安芸区の境界から海田湾に注ぐ二級河川。比較的上流で川上弾薬庫の敷地を東西に貫くように流れており、下流域は広島市のベッドタウンでもあるため、多くの住民が暮らしている。

 

 東広島市は2月8日にも中国四国防衛局に対して、川上弾薬庫におけるPFAS含有の泡消火剤の使用の有無、漏洩事例の有無、処分方法、水質検査の実施歴と数値などについて米軍から情報を得るよう申し入れたが、防衛局からの回答は「(広島県内の米陸軍施設では)これまで泡消火薬剤を如何なる消火活動及び訓練においても使用したことがない」「基地内外においてPFOS等の漏出を確認したことがない」「泡消火薬剤については、2020年に約2200ガロン(約8300㍑)処分した」「泡消火薬剤は一切保有していない」というのみ。

 

 これを受けて市は、防衛局に対して、川上弾薬庫内での水質調査の実施と結果の公表、弾薬庫に原因があると考えられる場合の対応方針の公表をするよう米軍に求めることを再度要請。また防衛相や環境相に対して、国として汚染が判明した地域を対象にした実態調査を実施し、住民の健康や農作物等への影響調査と対策の検討、発生源特定のための調査と汚染除去の具体的対策を示すことなどを要求している。

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