厚労省が1月22日、2024年度に改定する介護報酬を公表した。低賃金による人材不足の深刻化に加えて、施設系では光熱費の高騰などで経営の厳しさが増すなかで、全体としては1・59%の引き上げ(うち6割の0・98%は介護職員の処遇改善分)となったが、人材流出を食い止めるほどの賃上げにはならない微々たるものにとどまっている。さらに、訪問介護サービスは基本報酬が引き下げられており、「在宅」を推進する一方で、その主力を担う訪問介護の報酬引き下げに疑問が語られている。
事業継続危ぶまれる施設も
この間の物価高によって、介護施設からはとくに電気代の高騰に悲鳴が上がり、介護報酬のプラス改定を求める声があいついで上がってきた。
下関市内で昨年8月に市議会議長宛に提出された要望書を例にとると、
「老人福祉施設の運営財源は介護報酬や措置費などの公定価格であり、物価上昇分を利用者に転嫁できる仕組みではない。水道光熱費は当法人の定員100名の特別養護老人ホーム(+ショートステイ20床)において、令和4年度2900万円(令和3年度2300万円、令和2年度1900万円)であり、令和2年度と比較すると1000万円増の150%以上となっている」
「電気料金は令和3年度に比べ約40%以上上昇しており、エアコンの設定温度の見直し、休憩時間の消灯、職員のエレベーター利用制限など電気代の削減に取り組んでいるところだが、大きな効果は期待できない。利用率向上による収入増には限界があり、施設運営はますます厳しさを増している」
など、切実な状況が記載されている。物価高騰に対する支援策は講じられたが、コスト増を補う規模にはなり得ていないことを指摘する声も上がってきたところだ。
全国的にこうした状況が広がるなか、昨年10月、全国老人福祉施設協議会は、介護報酬の改定議論に向けた要望のなかで、2022年度の特養の経常増減差額比率(平均値)が調査開始以来、初めてマイナスに陥り、赤字施設の割合が半数をこえるに至ったことを明らかにし、「もはや法人(施設)の経営努力だけでは限界に来ており、危機的な状況にある。現況のままでは事業継続が危ぶまれ、今後、介護事業を休止・廃止する事業者の増加が危惧される。そうなれば地域での介護サービスの必要量を充足できない、いわば地域の介護崩壊ともいうべき緊急事態を招きかねない状況に陥ってしまう」と、介護事業者の事業継続が可能となる介護報酬の設定を求めていた。
在宅介護の主力の訪問介護
介護報酬全体としてはプラス改定となったものの、現場からはこうした切実な状況を補うにはほど遠いものであることが指摘されている。さらに問題視されているのが訪問介護が軒並みマイナス改定となったことだ【表参照】。もともとヘルパーの報酬は低く、昨年、休廃業・倒産した介護事業者のなかで訪問介護をおこなっていた事業者が最多となっており、利益の出ない在宅から手を引く動きも加速している。
どのくらいか見てみると、現行では45分以上(おおむね1時間程度)生活支援をした場合で225単位。1単位10円で、介護報酬は2250円程度だ。そこから事業所の経費などを差し引くため、ヘルパーの求人の多くが時給1000円程度と、最低賃金に近い水準だ。また、登録型のヘルパーが多いため、担当する高齢者が入院したり、亡くなったりすると、突然仕事がなくなって収入が減少するなど、収入が保証されない場合が多いという。
あるヘルパー経験者は、「多いときで1日10件持っていたが、各家庭への移動時間も必要なので、1人が持てる件数は限られるし、たとえば1日3回、身体介護に入っていた人が入院したりすると、その月の収入が大きく下がる。そうとう頑張って20万円をこえた月もあったが、たいていは12万~13万円くらいだった」と話した。
収入面で安定しないうえ、他のスタッフと相談などできる施設やデイサービスと違って1人で高齢者宅に行き、買い物や食事をつくったり、掃除をしたりといった内容を時間内に済ませるという仕事は経験やスキルが必要であり、さまざまな高齢者への対応力も求められる。需要が増加する一方で、訪問介護の人手不足は解消の見通しがなく、求人倍率15倍といわれるほどになっている。
近年、急増しているサービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームなどをめぐって、利益追求を目的として参入した事業者が、「効率的」に訪問介護を実施して収益を上げるビジネスモデルについて問題視する声が上がっているのは事実だ。しかし、すべての訪問介護の基本報酬が引き下げられており、むしろ地域の高齢者の生活を支えている事業者が厳しくなることが懸念されている。
なお、介護報酬のアップは高齢者の自己負担のアップと直結している。年金収入も減少するなかで自己負担が増加すれば、介護を受けられない高齢者も増加する。森喜朗が高級施設に入所したことが報じられているが、入居金が億単位、月々の支払いが30万~60万円程度でも入所できる高齢者は一握りであり、高齢者をはじめ国民の負担増に依存する介護保険制度が破綻しつつあることを、関係者の多くが感じている。