石川県能登地方で1日、最大震度7(マグニチュード=M7・6)を記録する「令和6年能登半島地震」が発生した。県内での死者は200人以上を数え、交通網が壊滅的打撃を受けるなか、今も被害の全容は明らかになっていない。東日本大震災以後、日本列島は地震活動期に入っているといわれており、全国に2000あるとされる活断層がいつどこで動いてもおかしくないとの指摘を多くの専門家たちがくり返しおこなっている。加えて、南海トラフ地震も今後40年間の発生確率は90%といわれており、迫り来る地震被害への備えは急務となっている。列島直下で何が起きているのかについて専門家の指摘や警鐘に耳を傾け、日本列島が直面している現状を直視することが求められている。
今回地震が発生した石川県能登地方の地殻内では、2018年ごろから地震回数が増加傾向にあり、その動向は以前から注目されていた。さらに2020年12月から地震活動が活発化し、2021年7月頃からはより活発になっていた。
一連の地震活動において、2020年12月から2024年1月2日までの約4年間で震度3以上を観測する地震は160回も発生している。また、昨年5月5日にはM6・5の地震を観測するなど、地震活動がとくに活発化していた。
このように長い期間にわたって続く地震活動を「群発地震」と呼ぶ。日本国内で起こる典型は「本震―余震型」と呼ばれるもので、一度大きな地震が発生した後、時間の経過とともに余震の回数が少なくなっていく。これに対し、「群発地震」は、明確に本震と呼べる大きな地震がなく、長期間にわたって地震をくり返していく。全国各地の大学等の専門家が委員を務める政府の地震調査研究推進本部(地震本部)は、今回の地震発生後も能登地方において「これまでの地震活動および地殻変動の状況を踏まえると、一連の地震活動は当分続くと考えられる」と指摘している。
今回の能登半島地震の詳しい状況を見てみる。1月1日16時10分に、石川県能登地方の深さ16㌔㍍でM7・6の地震が発生し、同県志賀町で震度7を観測した。また、北陸地方を中心に北海道から九州地方と日本列島の広い範囲で震度6~1を観測した。
内陸型の地震は震源が浅いことが多い。今回の震源は深さ16㌔㍍で、2004年の新潟県中越地震(13㌔㍍)、1995年の阪神淡路大震災(16㌔㍍)と同じように浅かった。震源が浅いと揺れが地表に伝わりやすく、居住地に大きな被害を引き起こしやすい。さらに地震の規模を示すマグニチュードも7・6と、内陸型の地震では記録が残る1885年以降でもっとも大きかった。阪神淡路大震災の(M7・3)の約2・8倍ものエネルギーがあった計算になる。
地震の瞬間的な揺れの激しさを示す加速度の単位「ガル」は、石川県志賀町(震度7)で揺れの最大加速度が2828ガルを記録。これは東日本大震災で震度7を記録した宮城県栗原市の2934ガルに匹敵する。
東京大学地震研究所等は、4日に能登半島北西部の現地調査結果を公表している。このなかでは、石川県輪島市の鹿磯漁港で約3・9㍍の隆起が観測されたほか、その付近では隆起にともない海岸線が海側に250㍍も移動していたことが報告されている。その他にも、同市門前町の五十洲漁港では、港の海底が海面上まで隆起しており、貝や海藻の分布高度から4・1㍍の隆起があったと推定されている。能登半島北側では、こうした地盤の隆起によって海岸線総延長85㌔㍍にわたって海だった場所が陸地になっていることもわかっている。
この間、さまざまな研究者や専門家が能登半島地震発生のメカニズムやその性質についての指摘をおこなっている。今回の地震は津波が発生したため海で発生した地震と思われがちだが、実際は内陸型の直下型地震だ。能登半島の北側にある約150㌔㍍ほどの活断層が一気に動いたことがわかっており、内陸地震型の直下型地震としては過去最大級の規模だ。この活断層が陸から海にかけて伸びていることから津波が発生したと考えられている。
ただ、この地震について地震調査委員会は2日の会見で「地震の震源となった断層はあらかじめ知られていた断層ではない」とし、未知の断層による地震だったことを明らかにしている。また、これまでに知られている活断層との関係については「まだ検討が進んでいない」という。
能登地方での地震メカニズムについて、地震調査委は地表面の隆起や震源の移動が確認されていることから、水のような地下の流体の移動が関係している可能性を指摘している。この「流体」の存在については多くの研究者が指摘している。地下の水が上昇して断層に入り、滑りやすくなったため大規模な地震が発生した可能性が高いという。もともと深さ20~30㌔㍍のところに溜まっている水が、10~15㌔㍍付近まで上昇すると地震を引き起こす原因になると見られている。
この流体については、2011年の東日本大震災で海水が日本列島の下に潜り込み、約10年かけて上昇してきた可能性も指摘されている。地下深くにある流体を実際に採取するのは困難で、流体の正体が何なのかは明らかになっていない。だが、東日本大震災以後のこうした変化を捉え、1000年ぶりに「動く大地の時代」が始まり、日本列島全体が地震の活動期に入ったとの見方を示す専門家は少なくない。
全国に2000もの活断層 能登地震も内陸型
日本列島で発生する地震のタイプは3つに分類される【図1】。日本海溝では、太平洋プレートが年間おおよそ10㌢ずつ沈み込みながら、日本列島を乗せる北米プレートを押している。このとき、プレートの境界で岩盤が跳ね上がるようにして起きるのが「①プレート境界型地震」だ。東日本大震災もこれと同じ地震だった。
このプレートが日本列島を押す力が働くことで、内陸にある活断層に力が加わって起きるのが、今回の能登半島地震や阪神淡路大震災のような「②内陸型地震」だ。他にも、プレートそのものにある割れ目で起こる「③プレート(スラブ)内地震」もある。どのタイプの地震にしても、周期に違いはあるが、ひずみが溜まって開放されるというのが基本的なメカニズムだといわれている。
日本列島周辺では、ユーラシアプレートが東へ進み、東北地方沖の日本海溝では太平洋プレートが年間10㌢の速度で潜り込んでいる。また、四国沖では南海トラフでフィリピン海プレートが年間5㌢潜り込んでいる。3つのプレートによる力が組み合わさって日本列島に力を加えており、列島内にひずみが溜まり、地震が起きる。日本列島はこれまで地震を起こし、火山を噴火させながら今の土地が盛り上がってできている。
日本にある活断層の数は約2000ともいわれている【地図参照】。さらに今回の能登半島地震のように、あらかじめ知られていなかった断層が大規模な地震を起こすこともある。活断層というのは、断層のずれが地表にあらわれているものだが、日本列島にはそれ以外にも地表にあらわれていない断層が数多く存在すると考えられている。こうした未知の断層も含めると、約6000あるともいわれている。
プレートによる海溝型の地震、内陸部で発生する活断層型の地震、さらに目に見えない断層による地震発生のリスクまである。その活断層がいつ地震を起こしてもおかしくない。さらに、火山地帯では火山内のマグマの動きによって生じる地震もある。
地震の原因は異なるが、元をたどればすべてプレートの動きに由来するものだ。日本列島にぶつかるプレートが動いている限り、どこかで地震も火山噴火も起きる。日本はその確率が非常に高い地域であり、日本が「地震・火山列島」と呼ばれるゆえんだ
一つ一つの活断層は数千~1万年という長い周期で動くため、以前に起きた地震を観測できていないものがほとんどだ。そのため、研究者は地層や地形、さらに歴史を遡って古文書などからヒントを得て活断層の危険度を予測している。
また最近では、GPSを用いて地盤の動きを観測する調査も進んでいる。国は全国約1300カ所に「電子基準点」と呼ばれる観測機器を設置し、各地の位置情報から地盤の動きを捉え、地震を発生させる「ひずみ」がどこに集中しているかを可視化している。
実際にこのGPSを用いた観測で、今回の能登半島地震の発生リスクが以前から顕著にあらわれていたことも分かっている。石川県珠洲市周辺の地盤では、2020年末頃から1年間で約3㌢の「謎の隆起」が起きていた。これは能登半島のような火山のない地域では、通常では考えられない数値だという。この現象からニュースでも「大地震の足音」「直下型地震に警戒が必要」などと警鐘が鳴らされていたが、その懸念が今回的中した。地震の発生時期を特定することは現代における科学の力では困難といわれているが、専門家による調査では、地震発生の「危険度」予測はかなり精度が高まっていることがうかがえる。
南海トラフ地震に警鐘 プレート境界型
そして近年、とくに発生リスクが迫っているといわれるのが「南海トラフ地震」だ。政府の地震調査委員会は、南海トラフ沿いでM8~9クラスの巨大地震が、20年以内に起こる確率は60%程度、30年では70~80%、40年であれば90%程度になると発表している。
南海トラフ地震は、プレート境界型の地震だ。この型の地震は数十~数百年という短い周期で発生する。そのため過去の記録からも比較的発生時期が予測しやすい。そして多くの地震学者が、南海地震は「近い将来確実に起きる」と指摘している。
ここで、元山口大学教授の金折裕司氏(構造地質学)が2016年に岩国市でおこなった講演で語った内容を、以下引用する。金折氏は、過去の活動期の記録から見ても南海地震が迫っていることを指摘している。
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昭和の活動期や安政の活動期など“活動期”といわれる時期には、西日本西部の活断層地震と、安芸灘―伊予灘におけるスラブ(プレート)内地震、南海トラフでの海溝型地震という3つの地震が、活動期の間に関連しあってそれぞれ発生している。平成の活動期では、1997年の阿東町でのM6・6の活断層地震、2001年の芸予地震と2014年の伊予灘の地震がスラブ内地震と、2つの種類の地震がすでに発生していることを見ても、南海地震の発生はそう遠くない。
現在は南海トラフでの地震が起こる前の時期であるため、活動期といえる。東西方向から圧縮を受けている西日本地域では、北東―南西方向と北西―南東方向の断層が動きやすく岩国断層帯もそこに含まれている。地形や地質を理解し、断層と地震の正しい知識を身につけることで、災害リスクを把握し、災害軽減のための準備をすることが求められている。
四国沖で南海地震が起きると、山口県では90~100分後に津波が到達すると想定されている。山口県のすべての地域が震度5弱~6弱の揺れを受け、津波は瀬戸内海の沿岸では3㍍以上のものが押し寄せる。「南海地震が発生すれば、津波や強い地震動が自分の住んでいる地域でも起こる」ということを知っておかないといけない。
昭和の南海地震が1946年。今年は2016年なので前回の南海地震から70年が経過している。南海トラフに沿った海溝型巨大地震は、これまで90年~150年の間隔でくり返されており、最短で20年後に起きると推測することができる。平安の活動期の貞観地震と南海地震の周期で計算した場合が18年後。こんなに単純な話ではないが、「それほど遠くはない」ことは確かだ。
地震列島に大量の原発 自殺行為の再稼働
もはや日本中どこにも「安全」な土地などなく、地震発生のリスクを専門家がくり返し指摘してきたが、日本政府は経団連の要望を受け入れるようにして原発再稼働を強行してきた。
今回の能登半島地震でも、停止中の志賀原発では地震によって使用済み核燃料プールの水がこぼれ、1号機では冷却ポンプが一時停止した。また、北陸電力は5日におこなった会見で、志賀原発2号機で外部電源を受けるために必要な変圧器から漏れた油の量について、当初発表の5倍超にあたる約1万9800㍑であったと訂正した。2日の発表では3500㍑と発表していた。
さらに北陸電力は4日、志賀原発2号機で、海水をためる水槽の水位が津波の影響によって、一時的に約3㍍上昇していたと発表した。北陸電力は当初、「津波による水位変動はない」と説明していたが、「関係者間の情報共有が不十分だった」と釈明している。
現時点では、北陸電力の会見でしか現場の状況が明らかにされない状態が続いている。原発内部やその周辺の映像などはまったく表に出ておらず、周辺にも立ち入れないため原発の被害や現状について客観的評価ができていない。また、6日夜には志賀原発がある志賀町で震度6弱の揺れが観測されている。1日の地震発生から断続的に揺れが続いており、さらなるダメージの蓄積も懸念される。
停止中であったことが不幸中の幸いであったが、昨年3月に原子力規制委員会は、志賀原発直下に走る断層について、「活断層ではない」と結論づけ、有識者チームによる「活断層の可能性は否定できない」とする2016年の調査報告を覆し、再稼働に道を開いていた。
全国の他の地域を見ても、現在再稼働中の川内原発(鹿児島県)をめぐっては、2016年に福岡高裁宮崎支部で運転差し止めの仮処分が却下されている。阿蘇山のカルデラ噴火等の影響も危惧されるなか、高裁は判決のなかで「巨大な火山噴火のように影響は極めて深刻でも発生の可能性が低い災害は“社会通念上”無視し得る」との考えを示した。要するに、「いつ起こるかも分からないものについては、考えても仕方がない」という考え方である。これに対し日本火山学会は「疑問がある」と声明を出した。
一方、2020年1月におこなわれた伊方原発3号機(愛媛県伊方町)について、広島高裁は運転を認めない仮処分の決定を出している。このなかでは、原発周辺の断層帯が活断層である可能性が否定できないことや、約130㌔㍍離れた阿蘇カルデラの噴火の影響も考慮すべきとしている。
日本列島の土台となった「付加体」が形成されはじめたのが、今からおよそ6億年前。そして約3000万年前、プレートの運動で付加体が大陸から離れ、もともと湖だったところが太平洋とつながって日本海となった。その間、地震や火山噴火がくり返されながら日本列島の原型が形成されたといわれている。縄文時代の始まりは、わずか1万年前である。
地震や火山の記録が残されているものは直近1000~2000年といわれており、プレートや活断層群が地震をくり返してきた時間のスケールに比べて、人間の時間のスケールはあまりに短い。2021年2月に宮城県と福島県で震度6強を記録する地震が発生したが、この地震はその10年前に起きた東日本大震災の余震だった。人類は、地球の運動とその歴史をまだ把握できいないことを認め、万が一を想定した予防原則にたつことが誠実かつ科学的な対応といえる。
わずか10年前の福島原発事故で多大な犠牲を払って「安全神話」の呪縛が否定されたにもかかわらず、いつまたどこで地震が発生するかも分からない地震列島日本で、原発を再稼働を強行しようとすることがどれほどばかげたことか、被災地の惨状を目の当たりにして考えないわけにはいかない。