電力需要に対して発電量が大きく上回ると予想されたとき、需要と供給のバランスをとるために大手電力会社の送配電会社がエリア内の再生可能エネルギーで発電した電気の買取を一時的にストップする「出力制御」が全国的に増加している。これまでは「再エネ先進地」といわれてきた九州電力エリアでしかおこなわれていなかったが、昨年以降次々と出力制御の対象となるエリアが拡大している。
1回で原発5基分の発電抑制
電力システムを安定させるためには、電気の需要と供給を一致させる必要がある。送電線や変圧器に流すことができる電気の量には上限があり、供給が需要を上回ると周波数が一定に保てず上昇してしまう。周波数がぶれると電気の供給を正常におこなうことができなくなり、安全装置の作動によって発電所が停止し、場合によっては大規模停電(ブラックアウト)を引き起こす危険性がある。
出力制御はこうしたリスクを回避するため、とくに春や秋など電力使用が少なくなる時期に実施されることが多い。制御をおこなう発電施設には優先順位があり、国のルールでは、まず二酸化炭素の排出量が多く、出力を調整しやすい火力発電の発電量を限度まで減らし、余った電気を他の地域に送る。次にバイオマス発電、太陽光発電・風力発電の順で再エネ出力を抑える。出力を簡単に調整できない原発は順番としては最後だ。
ここ数年は、全国的に太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが急増しており電力供給体制は過剰となっている。そして2018年に九州電力が全国で初めて出力制御を実施し、以降毎年何度も出力制御を発動して電気を棄て続けてきた。さらに昨年には東北電力、中国電力、四国電力、北海道電力があいついで初の出力制御に踏み切り、今年は沖縄電力、中部電力、北陸電力、関西電力も初の出力制御を実施した。
未実施は東京電力のみとなっており、余った電力を棄てなければ安定供給を守ることができないのは全国共通の問題となっている。そして残った東京電力エリアでも、最近になって各発電事業者に対し「東京エリアにおける再エネ電源の出力制御実施に関する重要なお知らせ」が配布され、出力制御の実施を想定しているとの内要が知らされている。
全国で電力の不安定化を招くほど太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーが供給過多となっている。なかでも九州電力管内は深刻だ。今年3~5月に同管内では原発5基分に相当する500万㌔㍗超えの出力制御を実施した日が9日もあった。そして今年4~6月の同エリアにおける太陽光・風力発電の出力制御量は、前年同期比7・4倍にまで増加している。
こうしたなか資源エネルギー庁は6日、火力・バイオマス発電事業者に対し、需給バランス制約による出力制御時に各発電設備の最低出力をさらに引き下げるよう協力を求める文書を発出した。
これによると、新設火力発電の最低出力を現行の50%から30%に、新設バイオマス発電の最低出力も将来的には火力発電と同等の水準とするとした。そして、既設火力電源等についても、「出力制御時に発電停止できない設備に対しては、基本的に新設の場合と同様の基準の順守について協力を求める」と要請している。
つまり、太陽光や風力発電が増えすぎて出力制御が頻発しているため、出力制御時に火力発電の出力をさらに下げることで再エネ発電のために枠を空けさせるというものだ。電力の安定化には需要と供給を一定に保つための「同時同量」が絶対条件だ。再エネ急増で不安定化が進むなか、出力を調整しながら需給バランスを保ち安定供給を下支えしてきたのが火力発電だが、再エネ普及という口実のもとで、さらなる電力供給不安定化を招く危険性が高まっている。