佐賀空港への陸上自衛隊オスプレイ配備計画をめぐって、予定地の地権者4人が8月29日に佐賀地方裁判所へ「佐賀空港自衛隊駐屯地建設工事差止仮処分命令申立書」を提出した。この予定地は共有地であり、地権者が全員同意をしていないにもかかわらず、現在防衛省九州防衛局は強引に建設工事を進めている。この間オスプレイ配備計画は地権者や漁業者のみの問題ではなく、佐賀市全体、そして日本全国の大きな平和問題であるとして、周辺地域を含めた住民運動が進められてきた。今回の仮処分申立書提出は、平和を守る住民運動の新たなスタートとなる。
裁判所への申立書提出には、「佐賀空港オスプレイ等配備に反対する裁判を支援し、地権者とともにたたかう市民の会」の住民など約170人が地権者や弁護士とともに裁判所までの道のりを行進して、地権者とともにたたかっていく姿勢をアピールした。
その後の報告集会では、同会事務局長の池上弁護士から佐賀地方裁判所に提出した「佐賀空港自衛隊駐屯地建設工事差止仮処分命令申立書」についての説明がおこなわれた。
今回の申立書は、仮処分という手続きになっており、通常の裁判である本裁判と異なって、地権者を債権者、国が債務者となる。
仮処分で申し立てたのは、現在公表されている二つの工事の差し止めで、「工事を続行してはならないという命令を出してほしい」というものだ。今後も九州防衛局から受注しているジョイントベンチャー(合弁企業)が引き続き次の段階の工事を受注していくことになると思われるが、仮処分の手続き中にそのことがわかれば、その工事の差し止めも追加して請求していくという。
そして、申し立ての理由として第一に公害防止協定付属資料に書かれた当時の「自衛隊と佐賀空港を共用しない」という平和を求める漁民・市民の思い、二つ目に被保全権利を挙げている。今回の仮処分は地権者の所有権に依拠してたたかっていくことが中心となる。地権者が共有・所有している土地に国が勝手に駐屯地を建設しており、その工事を止めろという仮処分の申し立てである。
今回登記が登記簿上は佐賀県有明海漁協ということになっているが、地権者の所有であり、所有権は地権者個々人にあるということを申立書では主張している。
地権者が所有権を取得した経緯として、もともとこの土地は国による国造干拓事業で造成されたものであり、今回の駐屯地の建設工事に提供されている土地は、240㌶ほどある国造搦(こくぞうからみ)と呼ばれる土地のなかの一部となっている。
1954年の国土造成計画に基づいて、翌年55年から72年にかけて食料の増産を目的とした国造干拓がおこなわれた場所だが、干拓が始まる前のこの海域はノリをはじめ、アサリやタイラギ、アカガイ、アゲマキ、ウミタケなどが豊富にとれる場所だった。ノリ漁に関しては53年から養殖が開始され、59年度からブームになっており、干拓前の海で漁業をしていた漁業者にとって大きな収入の柱になっていた。その場所で国造干拓が始まるということは漁業がとりあげられてしまうということであり、当然引き換えとなる生活の糧になる手段が必要になる。
このことから「昭和38年申し合わせ」がおこなわれた。佐賀県と旧南川副漁協(当時)の漁業者との間で、入植増反希望者に対して国造干拓の農地60㌶を配分するという申し合わせがされた。この申し合わせ自体は、すぐには実行されず少し時が経過するため、その間に国が1970年の減反政策を始める。そのため新規の開田ができなくなり、実際は入植増反希望者に対して配分するということになっていた土地の農地としての価値が著しく低下してしまうことになった。
その過程で佐賀空港の建設計画が出てくる。1969年に当時の佐賀県知事が佐賀空港の建設を表明し、佐賀県は建設予定地として国造搦とそれに隣接する平和搦の二つの干拓地を選定した。そして4年後の1973年に農林省から国造搦の干拓地の払い下げを受け、ここで国から佐賀県にこの土地の所有権が移る。
そこから昭和38年申し合わせの実現になっていくが、1988年に佐賀県と南川副漁協との間で土地の売買契約が締結され(「昭和63年売買契約」)、4月1日付で南川副漁協名義の所有権移転登記がされる。しかし漁協はあくまで便宜的に買受名義人(登記名義人)になったにすぎず、実質的な所有権者というのは土地の配分を受けた(あるいはその所有権を譲り受けた)個々の漁業者だということを申立書では主張している。
なぜ漁協名義で買受がされ、移転登記がされたのか。
一点目としては、国造搦の農地としての利用価値が低下したことで、個人でバラバラに土地を所有して利用するよりも、全体で農業をやった方が高い収益が見込めるのではないかということ。
二点目に、このように全体で農業をやろうとなったときに好き勝手にその農地を譲渡や売却して良いということになると、第三者が入り込んで全体での営農が阻害される恐れがあり、無関係の第三者の介入を防止する必要もあった。
三点目に費用や分配の公平性の問題がある。個人名義で移転登記してしまうと、登記手続きをその数だけやらなければならず、その都度登記費用がかかることになる。そういった費用や手続きの負担の問題、また場所ごとに農地としての地力、収益力に差が出てくるのではないかということもあった。このことから漁協全体で農業をしようということで漁協名義で買受がされ登記がされた、という経緯が申立書で説明されている。
所有権は各地権者に 漁協との売買契約は違法
池上弁護士は「これらのことから、地権者には所有権、共有権があるため、勝手にそこに踏み込んでくることはできず、またそれを誰かが売ったからといって買った人がそこに入り込んでくることもできない」とのべた。仮処分ではこの点が大きな争点になることから「国が土地を購入し所有権を持っている」と主張・反論してくることが想定されるため、あらかじめ国への再反論がされている。
まず地権者に所有権があることの裏付けとして、昭和38年の申し合わせ時における覚書等で、「入植増反希望者に対して配分する」と書かれている。漁協に対して配分すると書かれているわけではない。入植増反希望者という個人に配分するということが申し合わせではっきり書かれており、その後1981(昭和56)年の覚書や1985(昭和60)年の協定書のなかでも、その覚書を履行することが確認されている。このことから、個々人に持分権があるということが前提での協定となっている。
また二点目として、土地の配分を受けた地権者で構成される「国造搦60㌶管理運営協議会」と各地権者との間で締結している協定書も地権者に所有権があることを裏付けている。協定書のなかには「土地は一括登記をし、会員に持分を配分する」と記載されており、個々の会員に持分権があるということがはっきり確認される。
三点目は管理運営協議会の規約の第二条柱書の記載で、こちらでも「組合員に配分された国造搦60㌶の有効適正、且つ、円滑な管理運営を行う」と記載されている。
そして、そもそも防衛省自身が地権者個々人に対して土地の売却に賛成するか否かのアンケートを送付したり、地権者宅を訪問して売却の交渉をするなど、地権者個々人が所有権、持分権を持っているということを前提の売却交渉をおこなっている。売買が漁協との間で成立させられるのであれば、漁協に対してだけアプローチをすればいいはずである。さらには最終的な売却代金の支払いについても個々の地権者が直接支払いを受けるという形をとっていることから、個々の地権者に持分権があるということを防衛省自身も認識していた。
また、土地が協議会会員の共有地であるため、今なお債権者(地権者)が持分権を有している理由を次のように明示している。
地権者の共有の土地であることから、漁協自身に所有権はなくそもそも売却するという権限がない。さらに5月1日の協議会臨時総会で49名の地権者が反対していることから、共有者全員が同意してこの土地を売却したのではなく、一部が不同意になっているということは明らかであり、勝手にこれを処分して所有権を移すという効力は生じない。
そもそも国造搦60㌶管理運営協議会は、規約2条にもあるように60㌶の管理運営をすることが目的であり、処分する権限はない。協議会がこの土地の処分権限を持っているわけではないのだから、有明海漁協による処分に対して同意・追認するようなこともできない。このことから5月1日付の売却決議自体が無効であり、これに依拠した有明海漁協と国との間の売買契約についても同意(追認)したということはできない。
最後の保全の必要性として、直ちに工事を差し止めなければいけない理由をのべている。防衛省は2025年の6月末までにオスプレイ等の移駐に最低限必要な施設の工事を完了するといっており、本裁判を待っている間に工事が完了してしまう。この間に駐屯地建設が原状回復困難なほどに進行し、著しい損害が生じることから、仮処分の申し立てをして認めてもらうことが何より必要だとしている。
また今回の仮処分申立書のなかでは人格権に基づく妨害排除、妨害予防も請求している。駐屯地が建設されることによって、戦争に巻き込まれるという切迫した危険性が迫っていること、そして仮に戦争が起きなくても、墜落事故をくり返しているオスプレイを配備することによってそこで訓練する隊員はもちろん、周辺で暮らす地権者や住民が被害を受ける危険性がある。このことから人格権侵害に基づいての差し止めも認められてしかるべき、として申立書に記載したという。
池上弁護士は「今回の申し立ては債権者の方が4名になっている。大事なことは今日ここにこれだけ集まった方々と債権者の人たちが力を合わせるということだ。せっかく所有権という武器を得たわけだからこの武器を振る手を大きくしなければならない。仮処分の相手は国ということで強大だが、必ず勝ち抜こう」と訴えた。
原告団の古賀初次氏 国の戦争準備に抗して
次にオスプレイ裁判支援市民の会より駐屯地建設の状況について報告がされた。
現在駐屯地建設は、連日おびただしい数のダンプカーが出入りし、クレーンやセメントプラントが立っている。また地盤改良や現場事務所と思われる3階建てのプレハブなども建設され、急ピッチで工事がおこなわれている様子が見える。6月19日からダンプカーによる土砂運搬が始まったが、九州防衛局は現在、夜間の運搬はおこなわないでくれという市民や市議会、佐賀市からの要望を受け、夜間を減らすかわりに日中のダンプの運搬台数を当初計画の360台から480台と大幅に増やして工事を続けている。
そして18時30分から22時の夜間運搬も始まって1日のべ518台のダンプカーが運行しており、市民の会の調査によると、空港に一番近い道路では、1時間に54台(1分に1台)ものダンプが通ったという。市民の会の女性は、「工事が始まってしまったからといって諦めるわけにはいかない。今後もみなさんと一緒に頑張っていくという思いで調査を続けていく」とのべた。
市民の会共同代表の吉岡剛彦・佐賀大教育学部教授は、「これだけの人が集まって大行進ができたというのは、地権者の方のバックに非常に大きな力があるということを裁判所にも防衛局にも、そしてマスコミを通じて佐賀県内、市民のみなさんにも十分にアピールすることができたと確信している。福島原発の汚染水の問題なども報じられているが、オスプレイの問題が二重写しになる。漁業者の反対を押し切って、放水しないといっていたにもかかわらず手前勝手な解釈で汚染水を放出した。それは公害防止協定で自衛隊と共有しないという約束があったにもかかわらず、工事を強行する国の強権的な姿と重なるのではないかと思っている。今後市民の会の力をさらに拡大強化して法廷の外からしっかり支えていく活動をやっていきたい」と決意をのべた。
そして市民の会から、基地建設阻止行動として毎月1回のスタンディング行動をおこなうことや、現在320人の個人・団体が参加している市民の会の会員拡大が呼びかけられた。
地権者であり、原告団の古賀初次氏は「今日佐賀地方裁判所に仮処分の申し立てをし、本当に身の引き締まる思いだ。これまで9年間、国、防衛省に対して何度となく申し入れなどをおこなってきたが、国は私たちの声は聞くことなく工事を進めている。駐屯地建設が進められている様子を見ると歯がゆい思いでいっぱいだ。今の国のやり方はまさに戦争の準備に突入したように思う。沖縄の石垣、与那国、宮古に続いて馬毛島、その次は佐賀空港と台湾有事に引っかけてどんどん戦争の準備を進めている。中国と平和外交でやっていこうという心構えを国から感じとることができない。私たちの声を国に届けるのは裁判しかない。この裁判にかけていく思いだ」と力強く語った。
そしてオーストラリアでのオスプレイ墜落事故にも触れ、「私も現役でノリ養殖をやっているが、海で作業をしている漁業者の上をあんな危険な物体が飛ぶというのは安心して作業もできない。米軍が発表したようにオスプレイは機体そのものが不具合でいつ落ちてもおかしくない。そんなものは佐賀の空だけでなく、木更津にも日本のどこの空にも飛んで欲しくない」とのべた。
続けて「防衛省はオスプレイ配備は国の防衛のため、沖縄の基地負担軽減のためといっていたが、最近は米軍の殴り込み部隊である海兵隊と一緒になって水陸機動団が共同訓練をしたり、米軍からいいようにこき使われている気がしてならない。川副町民も佐賀空港に米軍が来ることを心配している。静かな川副の町をずっと残していきたい。だから佐賀空港には自衛隊もオスプレイもいらないというのが私の思いだ。私たちは地権者として、最後まで土地を売らないという決意で、正義が勝つことを信じて頑張っていく。今後ともよろしくお願いします」と集まった人々に訴えた。
最後に弁護団長である東島弁護士は「建設工事差止仮処分の根拠となる権利は、古賀さんたち地権者の土地の共有持分、所有権だ。しかしこのオスプレイの佐賀空港配備、軍用空港化という問題は漁業者や地権者だけではなく、みんなの問題だ。それにもかかわらず国や県知事は漁協との公害防止協定さえ変えれば良い、地権者さえ同意すれば良いという形で、一部の人たちだけの問題として扱ってきた。それは少ない人を相手にした方が自分たちの意志に従わせることができやすいからだ。しかしこれは、戦争になったときに佐賀が攻撃されるのではないかというあらゆる人たちを巻き込んだ戦争と平和の問題だ。だとすれば古賀さんたちの土地所有権を根拠とした裁判を起こすにしても、古賀さんたちのバックにたくさんの市民がいるというたたかいをしていかなければ、勝つことはできない。当事者が少なければ国は簡単にこれを押しつぶすことができる。裁判であれば、力ではなく理性で決まるはずだと多くの国民は思っているが、理屈が正しければ必ず勝つというものでもない」と語った。
そして「現在工事が始まり、周辺住民の人たちの生活そっちのけで昼夜突貫工事をやっており、防衛省の都合を優先するという態度をずっと貫徹している。そういったなかで佐賀空港の軍事空港化、オスプレイ配備という問題についてどれだけ自分の問題として感じるのか、民主主義や国民主権、人権の尊重など関係なしに進んでいくやり方に対しさまざまな観点から反対の声を上げていかなければならないと思っている。みなさんの感じるところを集約していくのが市民の会の役割だと思っているし、それが原告団、弁護団と繋がって大きな動き、うねりになっていくことを期待している」とのべた。