佐賀空港へのオスプレイ配備計画をめぐって、空港所在地である佐賀市川副町で1月29日、九州防衛局による住民説明会が開催され、住民など約300人が参加した。昨年末に県民を対象として県民説明会が開催されたものの、地元川副町での住民説明会は2016年秋以来の6年半ぶりの開催となった。これまで地元自治会は説明会を開催するよう何度も防衛省や県に要請していたが、防衛省と県は「自衛隊との共用はしない」とする公害防止協定を結んでいた佐賀県有明海漁協幹部との協定見直し協議にのみ注力し、地元住民は置き去りにされてきた。説明会では、騒音や漁業への影響に対する懸念や、自治会からの要請があったにもかかわらず姿をあらわさなかった山口祥義佐賀県知事に対しても怒りの声が上がった。予定時間を1時間以上こえても質問が途絶えることはなく、今後もくり返し説明会をおこなうよう求める声があいついだ。
説明会の冒頭、九州防衛局の伊藤哲也局長は「昨年、県有明海漁協に公害防止協定の見直しという重い決定をしていただき、自治会からの要請を踏まえて本日の説明会開催となった。中国の軍事行動が活発化しているなかで、南西の島々を守るために、佐世保に水陸機動団という専門の部隊がある。この部隊がいち早く現場に駆けつけて侵略してくる国に対応するため、佐世保に近い佐賀空港にオスプレイを配備する必要がある。地元の方々の理解が必要だ」とのべた。
防衛省は、日本をとりまく安全保障環境が、戦後もっとも厳しい状況に直面しているとし、台湾有事など中国の軍事活動をあげ、「防衛力をもって、相手側に侵略を思いとどまらせる抑止力が必要である」とのべた。その一環としてのオスプレイ配備計画であり、現在、木更津駐屯地に暫定配備されている陸自オスプレイ17機と陸自目達原駐屯地からのヘリコプター約50機を加えた合計約70機、それにともなう隊員約700~800人が佐賀空港横に建設する駐屯地に配備する予定であり、自衛隊機の離着陸は1日当り最大で60回程度で、飛行ルートは住宅の上をさけ、南側(海側)でおこなうとした。そして駐屯地からの排水はノリ養殖に影響が出ないよう海水を混ぜる処理をおこなうとした。
「知事を連れてこい」 抗議する漁師
質疑応答では、住民からの厳しい意見があいついだ。
ある住民は、「オスプレイを実際に飛ばして、騒音状況などを確認してほしい。それと排水の問題だが、今は毎年尋常ではない大雨が降る。これはこういうものも想定しているのか」と疑問を投げつけた。
防衛省は「16年に米軍オスプレイの試験飛行をおこなっている。手元に配った資料は過去に飛行した際に取得したデータをもとにして示しているものであり、現時点でこれに追加で別途の調査をおこなう計画はない。排水にかかる施設については駐屯地の近傍にある最新のデータに基づいて十分な容量が確保できるように検討をすすめてまいりたい」とのべた。
別の住民は「うちの居住地は基地のできるところから約2㌔のところにある。私は騒音問題について質問したい。環境基準の57デシベルをこえる範囲に住宅地はないと書いてあるが、本当なのか。海の方を通って離着陸できないときは陸地の方を通るという話だが、相当な騒音がすると思う」とのべた。
防衛省は「飛行経路としては南側の海の方が場周経路だ。しかし、どうしても南側の気象条件がよくないときに、北側(陸側)の場周経路を使用することになる。その場合できるかぎり、住宅などを避けながら飛ばしていただく」と答えた。
南川副でノリ養殖を営む漁民は、「ご承知のとおり今年は今までにないようなノリの大不作だ。東与賀沖の地先から筑後川にかけて赤潮、プランクトンが大発生して今までに見たことのないような色落ちになっている。海に行ってみたが、見た瞬間悲しくて涙が出るような状態だった」とのべた。
そして「平和搦(がらみ)と国造搦と二つに分けて駐屯地からの排水をするということだが、平和搦の周辺には昔カキの漁場があった。子どものころはノリ漁が終わったらそれをとりに行くのが楽しみだった。それが平和搦からの排水で全滅した。かたや国造搦樋門のあたりは、昔は空港ができる前にはウミタケ、タイラギ、アサリ、魚ではムツゴロウ、ワラスボ、ハゼなどなんでもいた。これも空港ができていなくなった。何かをつくってしまえば全部漁業に悪影響が出ている。バリカン症といって、ノリが髪の毛をバリカンでそぎ落としたような状態になる。今年は空港近くの潟下の漁場は放棄した。かといって沖に漁場を拡張すれば今度は沖合から色落ちになって、漁場が全部潰されてしまう恐れすらある状況だ。そこにもってきて駐屯地建設のセメントのアルカリ性はノリに大影響を与える。夏の間に工事をするというが、10月になればノリの種付けだ。セメントのアクがどんどん下に沈殿して、雨によって攪拌(かくはん)され、もしそれが種付けの時期に流れてきたら、ノリは全滅だ。今年は栄養不足で有明海一番という美味しいノリはとれなかった」とのべた。
続けて「私たちの川副町は農業、漁業で生計を立ててきた。この自然の恵みに助けられて守られてきた。それがなぜ佐賀空港に基地をつくるのか。この公害防止協定の見直しも漁業者は賛成などしていない。組合の上層部の人間だけで防衛省と県との3者の非公開協議で勝手に決めただけだ。そんなことは絶対に許されない。生活が、命がかかっている。子どもや孫にまだ飯を食わしていかなければいけない。ノリの仕事も今は子どもが加勢している。孫にもさせたい。そういう私たちの大事な仕事を奪ってしまうなんて、お前たちは人殺しと一緒ではないか。少しは住民のことを考えろ。そして今日は山口知事が来ていない。山口知事を連れてこい。佐賀のことは佐賀県民で決めるなどといっておいて、大事な場には来ない。川副町の者をなめすぎではないか」と怒りをぶつけた。
大詫間地区の住民は、「オスプレイの飛行訓練のときに農家に被害はないのか。被害があった場合にはどのような補償があるのか聞きたい」と質問した。
また別の住民は、「県の説明会にも参加したが、やはり理解できないところがある。格納庫の問題だ。20~30機程度を格納庫に入れて、残りは外に駐機するという。オスプレイも含めて70機が配備されるが、そのうち40~50機が外に野ざらしにされることになる。佐賀空港は潮風の強い場所だ。1機100億円とも200億円ともいわれる、私たち国民の税金で購入したものがさび付き、事故の危険性もはるかに増えると思う。民間のヘリコプターの整備士に話を聞いても、屋外に駐機することはなく、必ず格納するという話も聞いている。だから40~50機を屋外に駐機するという防衛省の説明は信じられない。佐賀空港で70機を全部格納しようと思えば、少なくとも4万6000平方㍍ほどの面積がいる。そうなれば用地を広げざるを得ないのではないか。そうなると33㌶をはるかにこえて環境アセスメントなどにかかってくる恐れがあり、逆にいえばアセス逃れのためのごまかしではないのかという気さえする」と指摘した。
佐賀市長にもただす 米軍常駐化させぬ
ある住民は「6年半前に説明会があったときに、防衛省の局長さんが“誠意を持って対応します”といわれていた。しかし誠意を持ってというのはどういうことなのか。説明会が開かれてから6年半も何にもなかった。昔佐賀空港をつくるときは佐賀県が川副町民に対して130回をこえる説明会をしている。今回6年半ぶりだが、今回も一人一問で時間を考慮して質問してほしいという。では次はいつあるのか? 前回防衛省の説明を聞いて20くらい質問が出てきて書き出していたのだが、そのまま6年半がたった。今回の説明会もとりあえず川副町内で一回やったという実績作りにしか思えない」と指摘した。
続けて「6年半前には事故件数や他の機体と比べて事故率がどれくらいあるかを示していた。あれからまたオスプレイの事故なども起きている。“飛行に重要な各種機能は補完性が幾重にも確保されており、万が一のさいもバックアップ可能”と書いているが、実際には去年も墜落している。どれだけ緊急着陸したことか。そのデータをなぜ出さないのか。事故率と緊急着陸した件数を最新の数字を教えてほしい」とのべた。
防衛省は、「事故率は安全性の一つの指標ではあるが、事故率という数字のみがその機体の安全性等を示すものではない」「過去六年余り地元での説明がなかったということは、佐賀空港について佐賀県と地元のみなさまとの公害防止協定のなかに“自衛隊と共用しない”という文言があり、その部分の見直しに第一に注力をして一定の時間がたってしまった」などとのべた。
別の住民は、「この問題はいろんな考え方の人がいる。自衛隊についての意見はさまざまあるが、アメリカ軍に対しての批判はかなり強い。常駐的にアメリカ軍の基地ができるようなことを容認するという町民の意見を私は聞いたことがない。時代が変わってもアメリカの常駐的な基地になることがないような覚書を結んでいただきたい。それがわれわれが次の世代に何を残すのか、今生きている世代に問われている責任だと思う。これは佐賀市民、川副町民にとって大きな問題だ。佐賀市長さんの口で自分の言葉で語っていただきたい」と問いただした。
坂井英隆・佐賀市長は「このオスプレイの問題は非常に重要な問題だと認識している。私もこの問題にしっかりと向き合いたいと日々とりくんでいる。今日みなさんの声を直接お聞きした。懸念もさまざまあることを改めて感じている。そのうえでしっかりと対応していきたい」とのべた。
防衛省は「米軍の常駐について県からも昨年の10月31日に有明海漁協との間で公害防止協定の見直し協議が大詰めというところで防衛省の方に要望があり、九州防衛局長名で公文書で“常駐の計画はない”と答えている」とのべた。
県の担当者も「米軍の常駐について懸念の声があることは強く認識している。県としては米軍の常駐については厳しく対応しているところだ。最後に漁協のみなさんと確認をするさいにも防衛省の方に米軍の常駐がないことを確認し、さらにそれを文書にして確約してほしいということで公文書をいただいている」とのべた。
さらに住民は、「山口知事の答えは本当に誠意がない。佐賀空港ができるときは県が130回をこえる説明会をしたというが、それに近い説明会を開くべきだ。知事は12月の県民説明会に少しだけ出席していた。そして今日は姿を見せない。県民説明会のときに県政を進めていくには代表者が決めなければ県政は前に進めないといわれたが、私たちにとってこれほど重要な問題を説明会もなしに進めるのか。有明海漁協の西久保組合長もなにか勘違いをしているのではないか。県民説明会でも若い漁業者の方が手をあげて“私たちは何も聞いていません”といわれていて驚いた」とのべた。
続けて「佐賀市長に質問だが、米軍の件だが米軍の訓練は全国横並びとなっている。もし配備が決まれば、佐賀にも訓練としてやってくることがあると思う。佐賀県が防衛省に要望書を出しているが、そのなかに“佐賀駐屯地には米軍が常駐しないこと”というものに対して防衛局は“佐賀駐屯地には米軍の常駐の計画はない”という。これは“計画はない”という言葉のすり替えではないか。配備が決まって計画ができたら米軍が駐留することになるのではないか」と問うた。
さらに「沖縄や横田基地などで有害物質である有機フッ素化合物の流出が問題になっている。佐賀空港が軍事基地になれば、この問題が生じると思う。これがもし有明海に流れるようなことがあればノリは深刻な被害を受ける。有明海は内海で、外海ではないからだ。一度汚染水が排出されればずっと蓄積されてしまう。基地になればいろんな問題が起きると思う。私は佐賀の町が大好きで軍事基地というのは本当にやめてもらいたい」とのべた。
坂井市長は「米軍基地化になるということの懸念は私たちとしても強く持っている。そこには厳しく対応していきたいと思っている。地元のみなさまの懸念をしっかりと受け止めて対応していきたい」と答えた。
全川副町民の同意必要 協定見直しは無効
次に発言に立った自治会長は「皆さん方はこの公害防止協定のなかに“自衛隊と共用しない”と明記されているのはなぜか知っているのか。この一文がなければ佐賀空港はできていない。県は幹部だけの意見で見直しができたといっているが、私からいわせれば見直しなどできていない。組合は見直しをしたかもしれないが、あと50%は川副町民の同意が必要だ。この公害防止協定に自衛隊との共用を否定する旨を入れた理由は、当時佐賀空港をつくるにあたり反対運動があり、佐賀空港が赤字になったときに最終的に自衛隊基地になるのではないかという話になった。うちの親父は明治43年生まれで、19歳のときに志願して出征し、満州、ノモンハンでロシア軍から攻められてほとんど全滅寸前で生き延びて帰ってきている。その親父が“自衛隊の基地ができれば戦争になったら川副町は火の海になる”といった。その当時の組合長さんたちはみな戦争体験者で、これではいけないと“自衛隊と共用しない”ということを明記させることになった。だからあの一筆は漁業協同組合だけのものではない。川副町民1万5000人の同意が必要だ。だから見直しはまだできていない。知事がこちらにきて議論しよう。このことを山口知事に伝えてほしい」とのべた。
また国民保護法について、「都道府県及び市町村は国民保護の計画を作成するように義務づけられている。オスプレイを導入することに対しての保護計画を策定しなければならないのではないか。私たちが“自衛隊と共用しない”という一筆を入れているにもかかわらず、自衛隊が来たとき、戦争になりミサイルが撃たれたときに、われわれ1万5000人の町民、佐賀市23万人、佐賀県80万人はどこに避難すればいいのか。今のウクライナなどの情勢のなかで、国民を守る、命を守るということができていない。全員が入れるくらいのシェルターをつくってもらいたい。自治会としてまだいろいろと意見があるので、もう一度知事が出席しての説明会を要請したい」とのべた。
「ノリの一番忙しい時期で、私の友人や親戚もノリ漁の真っ最中だ」と話し出した住民は、「夜中にノリ摘みにいって寝る間を惜しんでいる真っ最中にこの会議を開いて頂いてありがとうございます。たぶんこの場にはほとんどノリ師がいないのではないか。この資料のなかには、風による被害がなにも載っていない。ノリ師が一番心配するのは風だ。北風が強いときには海に行かない。海に落ちてしまえば助からないからだ。友人も親戚も何人も亡くなっている。オスプレイやヘリコプターは、その風を持ってくる。音とか排水も大切だが、風を侮ると大変なことになる。海の方で訓練をすると書いているが、そこで低空飛行を1回でもすれば何十人という人が亡くなる。海の中で作業をしているのだ。それを知っているのか。山口知事も知っているのか。日本一の有明海のノリが一瞬にしてなくなる。200億円も稼いでいるノリ師たちの宝の海が一瞬でなくなる。その危険性をオスプレイやヘリコプターは持ってくるのだ。事故が起きてから“想定外でした”というが、想定外ではない。わかりきったことだ。霞ヶ関や福岡にいる人たちは知らないかもしれないが川副の人たちはみんな知っている。箱船という小さい船で作業しているのだ。上をヘリコプターが飛んだらイチコロだ。冬の海に落ちたら10分も持たない。そういうところで作業をしている。そういうところにオスプレイやヘリコプターを持ってこようとしている。日本で一番来てはいけない場所にあなたたちは来ようとしている。そのうえで来るのだったら“想定外”という言葉は聞きたくないし、それを税金で賄おうとするような考え方だけはしてほしくない」とのべた。
そのほか住民から「先ほど米軍は来ないといっていたが、それは地位協定、安保条約6条にもとづいて日本の自衛隊基地を共同使用ができると書いてある。これは日本政府に決定権はないがどうなのか」などの質問も出された。