いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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政府の進める東北「復興」計画 外資が収奪する全国モデル

 東日本大震災で被災した東北地方の復興路線をめぐって、政府・財界・アメリカと国民との矛盾が先鋭化している。もうじき3カ月がたとうかというのに、10万人もの人人が難民のような避難所暮らしを強いられ、故郷で再び働き、家族を養い、暮らしていく足がかりすらつかめない状態に置かれている。一方では、津波で押し流された地域を真っ白な地図に見立て、そこに色を塗るようにして、財界や金融機関、外資ファンドなどが復興ビジネスに色めき立っている姿が露呈している。震災を突破口にして、TPP体制ともいうべき新自由主義施策をごり押しする攻撃があらわれており、資本力を失った現地から土地や農地、漁業権を取り上げて企業化し、ファンドの投機市場にすること、大量の低賃金労働者をつくりだして外来資本がビジネスチャンスに転換する動きが顕在化している。モデル地域にされようとしている東北地方だけでなく、社会構造の変化とかかわった重大問題であり、全国的な共通問題としてあらわれている。
 政府の復興構想会議は5月29日、首相官邸で7回目の会合を開き、これまでの委員たちの意見を整理して「復興構想七原則と五つの論点」と題した文書を公表した。会合では、東北地方を太陽光など再生可能エネルギーの拠点とする方向で一致し、五百旗頭真議長は被災地で土地利用などの規制を緩和し、税制や金融の特例で産業を振興する「特区制度」を積極的に活用するべきと主張した。6月末をメドに第一次提言をまとめる作業に入っている。
 この日公表された文書は「審議過程で出された主な意見」を列挙したもので、①構想検討の視座(震災の特徴、産業・経済・国民生活に与えた影響)②地域づくり(土地利用をめぐる諸課題、先駆的な地域づくり)③地域経済社会の再生(産業再生、雇用、社会保障)④原発事故による被災への対応⑤新しい国づくりに向けて(復興のための資金確保、エネルギー環境政策、社会保障政策)の5分野に整理したもの。
 復興財源については、「全国民レベルでの負担の分かち合いが必要(復興連帯税)」「将来世代に負担を先送りしない」などと増税の必要性を説いている。国や県による津波浸水地の買い取り案が示されたり、高台移住によって住民を転居させる案、農地の集約化を求める案が示されるなど、とりわけ土地に執着していることに特徴がある。いま住んでいる被災民をどう救済するかがまったく念頭にないだけでなく、むしろ土地や農地、沿岸から追い立てて、それを企業が乗っ取る形で「復興」を進めようとしている。
 沿岸の被災地では、既存の家屋や建物がみな津波で流され、丸裸の土地・平地が出現している。このなかで、新たな「まちづくり」については市街地のコンパクト化を掲げ、産業振興ともかかわって「大規模な土地利用の転換が必要になる」としている。そのためには市街地、農地など利用形態ごとに所管官庁が異なっている用途変更手続きを、特例で一本化すべきだとの認識で復興構想会議は一致しており、土地関連法の改正を検討する必要性があるとしている。
 文書のなかでは、「土地利用の転換については利害対立を克服するため、例えば4分の3の合意で事業ができるといった、ある程度の強権的な手法も検討すべき」「土地の所有と利用を分離し、所有権にかかわらず土地を地域全体で活用できるような仕組みとして、例えば“まちづくり会社”などの活用が考えられる」「復興に当たっては、例えば、産業区と居住区とに分けてはどうか」「まちづくり会社を設立し、これを共助の発想で運営していくこと。そこに大学研究者等の専門家やコンサルタント等の民間実務者など多様な人材を活用することが考えられる」「まちづくりについては、民間資金、ノウハウを活用しつつ、その支援措置を行うため、規制緩和、税制、財政、金融上の支援措置を一定期間、一定区域に限ってパッケージで行えるような“復興特区制度”を検討すべき」といった記述が並んでいる。
 また、被災地は農漁業を中心とした第一次産業が基幹産業になっているなかで、農業分野については農地の大規模集約化や六次産業化(食品加工・流通販売にも業務展開する経営形態)、バイオマス導入といった企業化の方向性を打ち出している。そのために農地の所有と利用の分離を検討すべきとしている。
 水産業では漁港の再編整備、集約化を進めること、「水産業復興特区」を創設して水産・流通・加工業の一体的整備や六次産業化、漁業の株式会社化や共同事業化を進めるべきとしている。そして、「漁業権を外部の者に開放するなど、日本独特の漁業権や漁協中心の仕組みを見直す必要がある」と記述している。
 さらに、「被災地域の生活コストの低さは企業にとって魅力的」であるとして、「研究開発投資の促進による技術革新(イノベーション)等を通じて、成長の核となる新たな産業を創出する必要がある」「東北地域において、太陽光、風力、地熱、水力、バイオマス等の再生可能エネルギーを活用した地域づくり(エコタウン化)や産業振興を図っていく必要がある」としている。
 こうしたインフラ整備にかかる復興財源については、復興連帯税のほかに「公的資金だけではなく、PFI等の民間資金を組込んだ制度設計が必要である」として、ファンド投機を呼び込む青写真を思い描いている。
 五百旗頭氏は会合後の記者会見で「積極的に特区制度を活用することになった」と表明し、土地利用の規制緩和や、産業振興を目的とした税制優遇などを検討すると要点をのべている。

 構造改革促進の「特区」 経団連のプラン

 復興会議に先立つ5月27日には、日本経団連が「復興・創生マスタープラン」を公表している。このなかで東北地方を構造改革路線を推し進める「復興特区」に指定することを求め、「単に震災前の状態に戻すのではなく、我が国の産業を牽引できるよう新たな視点で復興策を考えていくことが不可欠」「(復興特区のもとで)税、予算、規制改革など政策運営をおこなっていくとともに、道州制を視野に入れた広域の産業施策の実施」を提言した。農林水産業については「複合経営体として企業的農業経営をおこなう民間事業主体を確立」「大規模・先進的経営を実践」するよう求めている。そして消費税増税のための「社会保障・税の一体改革」推進とTPP参加を「後退させることなく推進せよ」と尻を叩いた。

 野村総研等が深く関与 先取りで動く宮城県

 こうした政府の復興構想会議路線をさらに先取りして動いているのが宮城県で、5月30日には「東日本復興特区」として政府の復興構想会議に提案した内容の詳細を明らかにした。特区の創設期間は10年間で、漁業権の民間開放や養殖業への民間投資を掲げた「水産業復興特区」のほかに、農地の集約化を加速させる特区、新規に進出してくる企業を想定して法人税・固定資産税を免除する特区など、八特区を求める内容になっている。
 「農業・農村モデル創出特区」の詳細を見てみると、農地所有者や賃借者の個別の土地利用を制限し、被災市町などが一定の期間にわたって農地を一括管理して基盤整備をおこない、所有者らに再配分する「復興基盤整備事業」を創設するとしている。そのために土地改良法の規制を緩和し、所有者が行方不明だったり、農地以外の所有者の同意が得られなかったりする場合も事業着手できるようにするというもの。農地は「野菜団地」「畜産団地」などに集約し、稲作からの転換を図ることをうたっている。
 「クリーンエネルギー活用特区」では、国が津波浸水地を買い上げ、大規模な太陽光発電施設を設置する民間企業に無償貸与できるようにすることを求めるなど、これまでよりも踏み込んだ内容になっている。
 この間、東北の被災県のなかでも宮城県知事の露出機会が突出し、果敢に新自由主義施策を求める動きを見せてきた。国の復興会議とは別に、宮城県では6月3日に開催する2回目の「県震災復興会議」に復興計画第一次案の事務局原案を提出し、意見聴取する予定になっている。松下政経塾出身の村井知事もさることながら、4月11日に発表している「震災復興基本方針(素案)」や、現在進めている1次案の作成に深く関与しているのが野村総研で、県と共同で原案作成にあたり、同社が全面支援・アドバイスすることで宮城県と合意している。これまでに野村総研は震災復興について独自に11回の提言を発表し、積極的に復興需要への食い込みをはかってきた。
 岩手県の「津波復興委員会」が県内在住の19人によって構成されているのと比較して、宮城県では、「県復興会議」のメンバーが県外人で占められている。同会議の「震災復興プロジェクトリーダー」は山田沢明・野村総研顧問で、議長には小宮山宏・三菱総研理事長(元東京大学学長)、副議長には寺島実郎・日本総研理事長、さらに議員には藻谷浩介・日本政策投資銀行参事といったメンバーが勢揃いし、12人の委員のうち宮城県在住の人間がわずか2人という異様なものになっている。
 おかげで宮城県の復興を決定付ける会議なのに村井知事が東京まで上京して「会議」を開催するなど、まさに被災地とかけ離れた場所・人物の意志によって復興が進められる異様な関係が明らかになっている。4月25日の記者会見で村井知事は「あえて地元の方はほとんど入っていただかないことにした」「地球規模で物事を考えているような方に入っていただいて、大所高所から見ていただきたいと考えた」と説明。開き直って推進する姿勢を見せている。
 産業分野ではこれまでに「漁業権の民間開放」が漁業者の猛烈な反発を受けてきたが、農業についても従来の生産形態からまるで別物にしようとしていることが明らかになっている。村井知事は「斬新なアグリビジネスの展開」を掲げ、「民間投資によって活性化を図る」ことを志向している。
 アグリビジネスというのは、米国の経済学者R・A・ゴールドバーグが提唱したもので「農業の資材供給・生産・流通・加工の各段階からなる垂直的な統合体」と説明されている。食品関係の産業、農業関係のあらゆる農産物加工や貯蔵、農業機具、流通、肥料製造などすべてを網羅した「昔ながらの農業の枠にとらわれないスタイル」の農業というもの。食品業界や商社が参入する傾向で、震災以前から財界が推奨し力を入れてきたものだ。
 例えば世界的には“アグリビジネスの巨人”といわれるのが米国のモンサントで、ハイチ地震の復興では「救済」の格好をしてハイチの農業を乗っ取った実績がある。震災後、同社はハイチ農民に大量の遺伝子組み換え種子を無料提供したが、いったんその種子を導入すれば継続して遺伝子組み換え種子と関連肥料、農薬を購入しなければならなくなる仕組みになっており、現地農業をモンサントの呪縛から逃れられないよう組み込んだ。主力商品である「ラウンドアップ」という農薬や、その強力な除草剤に強い性質を持つ遺伝子組み換え種子の販売をテコに世界の農業ビジネスを席巻してきたことで知られるモンサントだが、こうしたアグリビジネス、六次産業創出の方向性を鮮明にしている。

 日本の将来かかる問題 産業の復活が要

 この間、大手商業メディアなどが「オールクリアで復興にあたるべきだ」「従来の規制や制度にとらわれていては復旧も復興も進まないことは明らか」「日本の土地利用は都市計画法や農業振興地域整備法、漁港漁場整備法など様様な法律で規制されている。地域を一体で再生するためには個別法の枠をこえた仕組みが要る」「現在の漁業法を見直さない限り、漁業権の開放も幅広く民間資金を集めることもできない」などと書き立て、財界が唱える復興路線の太鼓持ちをしてきた。
 東北で人人が暮らしていくために、真っ先に生活を立て直さなければならず、産業の復活が要になっている。そのなかで資本力勝負で放置するなら、すべてを失った東北現地の企業や生産者は大資本によってなぎ倒されることが目に見えている。義援金が届かない、宅地規制をかけて住む場所すら与えない残酷さの背景に、震災をきっかけにして規制緩和・新自由主義政治のモデル地域にしようとする狙いがあること、16兆~25兆円ともいわれる復興需要に外来資本が目の色を変え、その資金を増税によって国民生活から巻き上げようとしていることとあわせて、復興路線の正体を問題にしないわけにはいかない。先駆けとなる東北地方だけでなく、日本社会全体の行方とかかわった重大問題になっている。

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