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監視資本主義とネットの未来を考える「鎖国プロジェクト」 山口情報芸術センターで連続イベント開催

 山口市の山口情報芸術センター(YCAM)で11月12日(土)から、研究開発プロジェクト「鎖国〔Walled Garden]プロジェクト」の集大成である新作パフォーマンス「アンラーニング・ランゲージ」が公開される。インターネットの普及、AI(人工知能)の急速な進歩で便利になる一方で、フェイクニュースやサイバー攻撃、企業や国家による個人データの収集などさまざまな問題が浮上している。2020年度にスタートした「鎖国プロジェクト」は、これらの問題についてリサーチしながら、アートセンターとしてテクノロジーについて批評的な視点を持つこと、どう情報を得て、それを何に、誰に関連させてどんな行動をとるのか、情報の今後について意見をかわしながら考えていくプロジェクトだ。プロジェクト開始の一つの契機としてエドワード・スノーデンによるアメリカ政府の大量監視の告発があったという。

 

関連イベントとしておこなわれた小笠原みどり氏のトーク(10月30日、YCAM)

 「アンラーニング・ランゲージ」は、ローレン・リー・マッカーシーとカイル・マクドナルドという2人のアーティストとYCAMがコラボレーションした観客体験型のパフォーマンス作品となっている。観客は、カメラの設置された空間で、AIによってある実験への参加を促される。ここに登場する変わったAIは、「AIにはない人間らしさを見せてほしい」と要求する。語りかけてくるAIにこたえる形で、観客同士が協力しながらミッションをこなしていくが、AIは観客の表情、言葉、身体の動きを検出、分析しようとする。もしAIがそれを認識してしまうと、観客を妨害するため、AIに理解されないコミュニケーションの方法を他の観客とともに見つけ出さなければならない。

 

 今、一人一人の日常はデータ化され、分析され、個人に「最適化」された情報が与えられるようになっている。この作品は、「AIに認識されないコミュニケーション」を探し出すなかで、「AIにはない人間の資質とはなにか?」という問いを観客に投げかける。

 

 同プロジェクトでは2020年度に、インターネットが知っている自分たちの姿を体験的に知るワークショップ「私はネットでできている?」をおこなった。そのなかで、カイル・マクドナルドが「鎖国エクスプローラー」を開発した。これは参加者がグーグルやフェイスブックの利用履歴データをアップロードすると、これまでに企業が取得したカテゴリごとのデータが一覧で総括できたり、カレンダー形式に変換できるというもの。メールやSNS投稿、検索などインターネット上の活動の多くが収集され、分析されていることを再認識することで、今後の選択を考えるとりくみだ。参加者からは、「インターネットは私たちについて、むしろ自分よりも多く知っている。逆にインターネットが知っているデータ以外の自分があるのだろうか?」との意見が上がったという。2021年度は、低年齢層も参加可能なワークショップを開催した。

 

 個人データのトラッキングとプロファイリングは、個人の興味関心に合わせた情報が返ってくる便利なシステムだ。しかし、最適化した情報の提供は、過去におこなった行動によってその人を定義するような、可能性を狭めてしまう危険性もはらんでいる。プラットフォーマーと呼ばれるテクノロジー企業に情報を取得されない方法でコミュニケーションをとるとしたら、どのような方法があるのか――。

 

 そうしたプロジェクトの集大成として「アンラーニング・ランゲージ」が完成した。同作の公開日程は以下の通り。

 

・日時…2022年11月12日【土)~2023年1月29日(日)。休館日は毎週火曜日、年末年始(12月29日~1月3日)
・上演時間…土日祝日/午前10時30分から30分ごと。最終は午後5時30分から。平日/12時30分、午後1時30分、午後2時30分
・対象年齢…10歳以上
・定員…各回2~7人
・入場料…当日券のみ(一般500円)

 

関連イベント 小笠原みどり氏が講演

 

 会期中には、関連する展示やトークイベントが多数開催される。これまでに関連映画として「スノーデン」が10月26~30日に上映されたほか、「シチズンフォー スノーデンの暴露」は10月29日~11月4日まで上映されている。

 

 10月30日にはトークイベント「デジタル監視は社会をどう変えるのか スノーデンの告発から考える」がおこなわれ、日本で初めてスノーデンへの単独インタビューをおこなった監視研究者・ジャーナリストの小笠原みどり氏が監視資本主義について語った。

 

元CIA職員スノーデンが米政府の大規模諜報活動を告発した事件を追ったドキュメント映画「シチズンフォー」

 小笠原氏は、スノーデンの告発によって明らかになったアメリカ政府による大量無差別監視について、9・11以後アメリカ政府がそれまでの特定の容疑者に絞った監視から無差別な大量監視へと方針を転換したこと、同政府内でも長い間極秘とされてきたその手法について話した。海底ケーブルの陸揚げ局に設置したNSA(米国家安全保障局)のサーバーに情報を保存するほか、インターネット企業から直接顧客情報の提供を受けており、その「PRISMプログラム」には、マイクロソフト、ヤフー、グーグル、フェイスブック、パルトーク、ユーチューブ、スカイプ、AOL、アップルと、世界中にネットワークを持つ企業たちが参加し、秘密裏に情報を提供していたことなどが明らかになっている。小笠原氏は「現在、世界中の情報がいったんアメリカ国内の通信回線を通る割合は7割~8割といわれている。日本にいる私たちも遠いから関係ないということではなく、世界中の情報がなんらかの形でアメリカ政府が手に入れられるようになっている」と話した。

 

 日本は大量監視の主要拠点であり、台湾、韓国、中国など他のアジア諸国の沿岸部を通った国際ケーブルの中継地としても多くの通信が入ってきている。また、米軍は第二次世界大戦で日本が敗戦した直後から、米軍基地を設置して監視拠点を築いており、NSA日本本部は米軍横田基地内の「国防省日本特別代表部」であることがスノーデンによって明らかにされた。小笠原氏は横田基地に飛来したグローバルホークの写真なども示しながら、これらスパイ技術によって収集された情報が「対テロ戦争」の最前線で使用され、「標的を殺害・捕獲することに成功」というその先に、アフガニスタンやイラク、パキスタンの人々がいることに想像力を巡らせてほしいと語った。

 

 さらに日本政府も2012年から「マラード」という監視プログラムを開始しており、自衛隊大刀洗通信所にある巨大なドーム型のアンテナが最初に使用されたことも明らかにし、安倍政府の下で公安出身の警察官僚が重用されるなかでインターネット監視が始まっていることを話した。

 

 政府による大量監視を踏まえたうえで、「監視が資本主義の利益を生み出す構造のなかにデジタル技術の発達によって組み込まれた状態」である監視資本主義の実態を語った。企業は消費行動の増大と消費者の行動変容を促すために、大量の個人情報を収集し、ターゲットを特定して広告を打つ。その情報を広告主に販売するのがグーグルなどインターネット企業だ。そしてその心理や予測される行動をアルゴリズムで解析する。情報を収集するためには人々をオンライン上に長くとどめる必要がある。だから猫のショートビデオやおもしろ動画も含めてあきさせないよう刺激を送り続けるのだという。

 

 その人に「最適化」された情報が送られ続けることによって、個人個人のループの中に入り込んでいく「フィルターバブル」にもふれ、他者がどう考えるのか、世界の人がどう感じているのか、違う立場で生きている他者と出会う機会が減っていく現象が民主主義にとって心配な状況になってきていると話した。また、マイクロターゲティング広告によって消費行動だけでなく、トランプ大統領の当選など政治的な意志も操作されることが明らかになったという。

 

 日本政府がマイナンバーカードを普及させようとしているのも、政府が国民の情報を把握する意図だけでなく、インターネット企業をはじめ民間企業が望んでいることにも注意を喚起し、この問題に関心を持ち、考えていくことを呼びかけた。

 

今後のイベント日程

 

▼11月12日(土)
・オープニングパフォーマンス(午後1時~)
 「アンラーニング・ランゲージ」の作品空間を舞台に、作品のバックストーリーを演じる。定員90人。
・オープニングトーク「マシンと見る・聴く」(午後2時~)
 情報学研究者ドミニク・チェン、ローレン・リー・マッカーシー、カイル・マクドナルドが登壇し、マシンとの出会いが示唆する人間のコミュニケーションや想像力、これからのAIやインターネットについて語る。定員80人。
・トークイベント「クリティカル・エンジニアリングとは」(午後5時~)
 「ザ・クリティカル・エンジニアリング・ワーキング・グループ」として、批評者としてのエンジニア像をリードしてきたダーニャ・バシリエフ、ベンクト・ショーレンと、同グループで1年間にわたり研修を重ねたYCAMの三浦陽平氏が登壇し、同グループの活動をひもとく。定員80人。

 

▼12月3日(土)
・トークイベント「日本のインターネットの変遷といま」(午後2時~)
 評論家・漫画原作者のさやわか氏が、インターネットの日本での登場から今日まで、多彩なカルチャー事象からインターネット受容史を語る。定員80人。

 

▼12月4日(日)
・トークイベント「ことばのラーニングとアンラーニング 人とAIはどう違うのか」(午後2時~)
 言語学者で作家の川添愛氏が、言葉はどう学ばれ、また「アンラーニング」できるのか、マシンと人間の違いについて語る。定員80人。

 

▼2023年1月28日(土)
・クロージングトーク「監視資本主義のその先へ――インターネットの未来」(午後一時~)
 「鎖国プロジェクト」のアドバイザーを務めたスリヤ・マトゥ(アーティスト、エンジニア、ジャーナリスト)とチェ・テユン(アーティスト、エデュケーター、オーガナイザー)がオンラインで登壇し、インターネットの未来について語る。

 

 そのほかワークショップやギャラリーツアーも開催される。いずれも参加無料・要申込。詳しい内容や申し込みは山口情報芸術センターウェブサイトまで。

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