鹿児島県日置市の東市来文化交流センターこけけホールで10月16日、吹上浜洋上風力発電に反対している「市民の命と暮らしを考える会」(堀浩一郎・代表世話人)が「巨大風車による健康影響の実態」と題する講演会を開催した。講師は北海道大学工学研究院・地域環境研究室助教の田鎖(たぐさり)順太氏で、風力発電の低周波音による健康被害についての科学的知見や、現地で計画されている洋上風力発電で予測される健康リスクなどについて詳しく語った。その内容を紹介する。
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最近、SDGsという言葉をいろんなところで見かける。その17の目標、地球を守っていくためにどういうことをしていけばいいのかというポリシーに関しては共鳴する部分があるが、しかし、今やろうとしている自然エネルギー、洋上風力発電がSDGsの「誰一人置き去りにしない」という理念に沿っているのかどうか、もう一度考えてみたい。「もうけるだけのSDGsはもういらない」、という声も上がっている。私からの問題提起も、それに近い内容になる。
今日の講演は、第一に、風車から発せられる音・低周波音・騒音・風車騒音について、それぞれどういう意味なのか。第二に、風車騒音や低周波音によってどういう健康影響があるのか。第三に、今計画されている吹上浜周辺の風力発電事業によってどのぐらいの健康リスクがあるのか、について話す。
風車が発する音 A特性評価の問題点
まず、音とはなにか? 音とは、空気を伝わるわずかな圧力変動の波のことだ。音で変動する空気の圧力は、0・00001~10パスカル(1ヘクトパスカル=100パスカル)程度で、ものすごく小さい。その小さい圧力変動の波をわれわれの耳というセンサーで感じているわけだ。
次に、音に関わる量について。音の圧力変動の大きさは音圧レベル(デシベル)であらわす。イメージとしては音の大きさのことだ。一方、圧力変動の回数は周波数(ヘルツ)であらわす。主観的には音の高さのことだ。
圧力変動は波であらわすことができる【グラフ①】。音の波の高さが大きいものは大きく聞こえ(左上)、小さいものは小さく聞こえる(左下)。また一定時間の波の回数が多いものは高く聞こえ(右の二つ。高い周波数)、回数が少なければ低く聞こえる(左の二つ。低い周波数)。
低周波音とは、周波数の低い音のこと、圧力変動の回数が少ない音のことだ。われわれが普段聞いている音は、20㌹から2万㌹の間くらいの音で、可聴音と呼ばれる。私が今しゃべっている音は100㌹から1000㌹の間ぐらいだと思う。100㌹より低いものを低周波音と呼び、そのなかで20㌹より低い音をとくに超低周波音と呼ぶ。他方、可聴音より高い音は超音波と呼ばれる。なお、可聴音以外の音も、音圧レベルが大きければ、ヒトは感じとることができる(詳細は後述)。
音は普通、滝の音やエンジンの音のように、さまざまな周波数成分を含む。それを複合音という。逆に、ある周波数成分のみを含む音を純音という。純音は自然界にはめったに存在しない。普通、自然界にある音は複合音で、いろんな周波数成分が含まれているがゆえに、それの音圧レベルを測るとき、どの周波数の音圧レベルを測ろうかと迷う。それでいろんな方法が用いられることになる。
よく使われるのがA特性音圧レベルだ。音の大きさの知覚にあわせて周波数ごとに重み付けをし、足し合わせたものだ(後に詳述)。また、オクターブバンドレベルは、ある周波数の範囲にどれぐらい大きさの音が含まれているのかを調べるときに使う。オクターブというのは周波数が倍になる範囲なので、たとえば100から200㌹を抜き出したときに音圧レベルがどのようになるのかを調べるときに使う。もっと狭い周波数帯域を見る場合には3分の1オクターブバンドレベルを使う。最近ではむしろこちらが主流である。
低周波音・超低周波音について、純音をとりあげて、ヒトがどれぐらい知覚できるかを見てみる。20㌹から2万㌹の可聴域では、ヒトは比較的小さい音圧レベルでも音を聞きとることができる。20㌹から低くなると、音圧レベルを上げないとヒトは感じとることができない。超低周波音はさらに上げないと感じとれない。健常なヒトの平均値で、100㌹の場合、30㌹で感じとることができるが、それ以下で聞こえる人もいる。
複合音の評価方法のところでのべたA特性音圧レベルを見てみる【グラフ②参照】。ヒトは低い周波数に対する感度が低く、高い周波数に対する感度が高い。それを踏まえて、いろんな周波数が入っている音に対して、高い周波数の方を大きく重み付けし、低い周波数を小さく重み付けしようというアイデアで生まれたのがA特性だ。ヒトの聴覚は2~3㌔㌹の高い音に感度が高いので重み付けが大きく、周波数が低くなればなるほど重み付けは小さくなる。
このグラフを使って、たとえば周波数32㌹、音圧レベル80デシベルの純音なら、重み付けはマイナス40デシベルなので、80から40を引いて、A特性で測った音圧レベルは40デシベルとなる。周波数1㌔㌹(1000㌹)で、音圧レベルが40デシベルの場合でも、重み付けはゼロなので、A特性の音圧レベルは同じ40デシベルだ。低い周波数の方が、物理的な音の大きさを上げても、A特性のレベルは上がりにくい。
環境音は複合音なので、周波数毎の音圧レベルにA特性をかけ、それらを足し合わせることになるが、多くの場合、低周波音のレベルは無視できるほど小さくなる。多くの場合、このようにして測られたレベルは「音の大きさ」の感覚とよく一致し、A特性音圧レベルは非常に便利である。だが、どのような場合でもA特性が適切なのか。
「低周波成分が卓越する場合、A特性による評価は不適切である」と、1999年にWHO(世界保健機関)の環境騒音ガイドラインが指摘している。風車騒音の特徴は、周波数が低いほど音圧レベルが大きいことだ【グラフ③参照】。しかし、これにA特性をかけると低い周波数のレベルは大きく下がってしまい、ほとんど無視されることになる。よい睡眠のためには、寝室でのA特性レベルは30デシベルをこえないことが求められるが、低周波音が卓越する騒音ではより低いレベルでも影響を生じる可能性がある、とガイドラインではのべられている。
低周波音は、室外機(ヒートポンプ)や変圧器、送風機、燃焼装置、鉄道トンネル、航空機(回転翼機)などあらゆる音源から生じるが、とくに風力発電や高架道路では低周波音が卓越する。
低周波音には、次のような困った特性がある。まず、距離減衰しにくい。普通の音と違って空気による吸収の影響が少なく、遠距離まで到達する。
次に、回折によって減衰しにくい。障害物があっても、回り込んで音が届くということだ。
第三に、遮音されにくく、室内へ透過しやすい。低周波音は屋根や壁、窓などの障害物を透過しやすいし、窓を閉めても遮音効果は薄い。
第四に、室内で共鳴を生じることがある。部屋の大きさが低周波音の波長(数㍍)と一致した場合、共鳴し、屋外よりも室内の方が高レベルとなる場合がある。
低周波音の健康被害 耳の構造から見ると…
では、低周波音が卓越する風車音は、どのような健康影響と関係しているのか。
風車の近傍ではさまざまな健康影響が報告されている。有名なのは米国の医師ピアポント氏のインタビュー調査だ。風力発電のそばに住んでいる住民のなかで、睡眠障害や頭痛、めまい、耳鳴りなどの類似の症状が見られた。その症状は転居したことによって改善した。そこからピアポント氏は「風車騒音が原因ではないか」と推察している。
日本国内、海外問わず、同様の報告が複数あがっている。たとえば秋田県由利本荘市では大規模な洋上風力発電が計画されているが、すでに陸上ではたくさんの風車が稼働しており、地元の人たちがヒアリング調査をしたところ、「音が気になって寝付けない」「頭が痛い」「音が不快で、頭の中でゴーンとなっている」と近隣住民たちが訴えているとの報告があがっている。
これは「風車病」「風車症候群」と呼ばれている。それは科学的に認められ病名がきちんとついたものではないが、全世界で同様の報告があるということは、風力発電の低周波音と健康影響との間に因果関係があるということの有力な根拠を与えている。
多く見られる健康影響のなかに睡眠障害がある。環境省主導のもとおこなわれた全国の疫学調査では、風車騒音と睡眠障害(不眠症)の有意な関連性があることが示されている。2010~12年、大分県立看護科学大学の影山教授らの研究グループが風力発電近傍の全国50カ所、約1000人を対象に不眠症の有病率を調査したところ、風車騒音の曝露地域において不眠症リスクに有意な上昇が示された。
また、低周波音を原因とする過去の公害事件では、睡眠障害に加えて頭痛やめまいが生じていたことがわかっている。1977年、西名阪自動車道の奈良県北葛城郡香芝町(現・大和高田市)にある高架橋周辺で、かなりの数の住民が頭痛や不眠を訴えて裁判になった。そのときの調査結果だが、道路に近ければ近いほど、頭痛や不眠、いらいらする、肩こり・痛み、めまいなどの症状発生率が高くなっていた。頭痛やめまいなどの健康影響は通常の騒音ではなかなかあらわれない。低周波音でそうした症状が起こっているのではないかと予測される。
それでは、低周波音でなぜ頭痛やめまいが起こるのか? 耳の中の構造に目を向けると【図①参照】、鼓膜があり、その先に槌骨(つちこつ)・砧(きぬた)骨・鐙(あぶみ)骨と骨が三つつながって、それに続く内耳は骨に覆われ、中は水で満たされている。音の振動で鼓膜が震えると骨三つで振動が増幅され、内耳の中の水を揺らし、渦巻き状になっている蝸牛の中の細胞がそれに反応して音を感じる。また、振動や頭の動きを感じる前庭器官や、頭の傾きを感じる半規管も内耳で、水でつながっている。つまり低周波音による振動は、蝸牛だけでなく、頭の動きや傾きを感じる前庭や半規管も刺激し、頭痛やめまいが起こるのではないかと推測される。周波数が低いほどこれらの器官に振動が伝わりやすいという研究もある。
低周波音による健康影響は、次のように分類できるのではないか。まず、「音が気になる」という心理的な要因で睡眠障害が起こる。これもそのまま放置できない。次に、物理的に圧迫感や振動感を感じることによって起こる睡眠障害がある。さらには内耳の前庭や半規管が刺激されることによる頭痛やめまいなどの健康影響(風車病)があると考えられる。
そのほか、内耳の中の一部の骨が欠損している高感受性群(上半規管裂隙症候群)という障害のある人が全人口の数パーセントおり、低周波音で健康障害が起こりやすいと推測される。
環境省の指針 健康への影響を否定
さて、低周波音は日本や世界のガイドラインでどのように扱われているか。
環境省は2004年、「低周波音による苦情に関する参照値」を出した。これは「低周波音が苦情の原因かどうかを判断するための目安」という名目で出したもので、この値を上回ったから影響があるとか、下回ったから影響がないというものではない。
そのなかの「心身に関する苦情」は、実験で10人に1人の被験者が「寝室で気になる」と回答した音圧レベルだ。個人差が大きく、下回れば影響がなくなるわけではない。また、実験にはレベル一定の純音が用いられており、参照値は室外機など定常的・連続的な低周波音が対象となる。風車騒音のように広帯域(周波数が低いものから高いものまでを含む)かつレベルが変動する騒音では、より低いレベルで影響が出ることが確実である。
一方、消費者庁は2014年、聴覚閾値(環境省が示した参照値よりも低い)以下でも低周波音による影響があることを認める判断を示した。これは群馬県在住の夫婦が、隣家に設置された家庭用ヒートポンプ式給湯器「エコキュート」の発する低周波音で不眠や頭痛の症状が出たとして訴えたもの。調査の結果、音圧レベルは聴覚閾値以下(環境省の参照値以下)だったが、消費者庁は低周波音と睡眠障害との因果関係を認めた。それ以降、ヒートポンプ式給湯器については各メーカーが設置の仕方の手引きを出している。
ところが、以上のことをすべてひっくり返すような指針を環境省が出した。2017年のことだ。この年、環境省が出した「風車騒音に関する指針」では、風車騒音の扱いについてで「風車騒音は(低周波音ではなく)通常の騒音と同様に扱ってよい」とした。しかし、風車騒音は低周波音が卓越しているのは明らかだ。また、「音の大きさの評価にはA特性が適している」としたが、これは1999年のWHOのガイドラインに反している。
健康影響については、「風車騒音が直接的に健康影響を生じる可能性は低い」とのべている。2010~12年の環境省の調査でも風車騒音が大きくなれば睡眠障害の有病率が上昇するということが示されているのに、それをみずから否定しているのは変だ。
さらに指針値については、科学的な根拠がまったくない。環境省は「残留騒音(地域で定常的に生じている騒音)+5デシベルを風車騒音の指針値とする」としているが、風車騒音による影響が残留騒音+5デシベル以内であれば生じないとする科学的知見は見受けられない。また、この指針値について、「下限値は35デシベルもしくは40デシベルとする」としている。騒音の上限が存在するならわかるが、下限値が存在するというのは健康保護の観点からたいへん疑問だ。なお、35デシベルの下限値は、学校や病院など「とくに静穏を求められる地域」に適用される。
風車騒音について、事業者がまず最初に使うのがこの環境省の指針だ。ところがその内容は、うなずけないことが多く書いてある。
一方、WHO欧州地域事務局は2018年、科学的知見にもとづき、自動車、鉄道、航空機などさまざまな騒音曝露から健康を保護するためのガイドラインを示した。そのなかで風車騒音をめぐって、「高度の不快感」と評価される勧告値についてはすでに科学的知見があるとしたが、「高度の睡眠障害」や「風車病」については、「現在の科学的知見では勧告値について結論を下すことができない」と慎重な態度をとった。そこから見ても、日本の環境省の指針は勇み足だったのではないか。
今、国や地方自治体は風力発電に前のめりだ。2021年、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)ができ、2019年には再エネ海域利用法と呼ばれる、日本の海に洋上風力発電を建設するしくみを決めた法律ができた。翌2020年には秋田県由利本荘市沖などが洋上風力発電の促進区域に指定され、昨年は秋田県由利本荘市沖、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、千葉県銚子市沖の三つの海域で、いずれも三菱商事を中心とする企業連合が事業者に選定された。風力発電が国策として進められるなかで、環境省の「風車騒音に関する指針」も使われているわけだ。
風車の低周波音による健康影響が懸念されるなか、「予防原則」は守られているか? に注目してもらいたい。予防原則とは、社会の諸問題について科学による全容の解明には時間がかかるので、危険性が科学的に示唆されたとき、たとえリスクが不確かであっても、重大な影響を回避することを原則として行動すべきである、という考え方のことだ。予防原則に従わなかった過去の教訓は水俣病だ。熊本大は初期から有機水銀の影響を指摘していたが、通産省は「原因は厳密には特定できない」としてチッソの操業を止めなかった。それゆえ大きな被害が出た。
風力発電は過去の「悪例」と類似の状況になっていないか、ということだ。
吹上浜沖風力 健康リスクを想定する
最後に、鹿児島県吹上浜周辺地域における風車騒音の健康リスクについて話す。
現在、鹿児島県の吹上浜沖には複数の洋上風力発電が計画されている。まず、吹上浜沖洋上風力発電(最大102基、総出力96万9000㌔㍗)、次に薩摩洋上風力発電(最大75基、同60万㌔㍗)、そして鹿児島県洋上風力発電(150基程度、同150万㌔㍗)の三つの事業だ【図②参照】。
現在、洋上風力発電の建設のためには、国が再エネ海域利用法にもとづいてその海域を促進区域に指定するのが最初のプロセスだ。その後、県・市や漁協、有識者などが入った協議会が立ち上がり、1年あまりの協議の後、公募で事業者が選定される。ただ、促進区域の指定を待たず、それに先行して事業者が環境アセスを進めているのが現状だ。現時点では風車の配置はまったく不明だ。
ここで風車騒音のリスクを評価するわけだが、比較的大きな影響が出るであろうシナリオとして、洋上風力発電が吹上浜の沿岸に沿って100基建った場合と、150基建った場合を想定した。風車一基あたりの音の大きさは、過去の研究を参考に、発電能力9500㌔㍗で想定される値を用いた。そして風車からの低周波音については、40㌹と80㌹を中心周波数とした3分の1オクターブバンドレベルの音圧を計算し、環境省の「参照値」(10人に1人が就寝時に音が気になるとした値)と比較した。
A特性はよくないといってきたが、環境省の過去の疫学調査結果と比較するため、ここではあえてA特性も利用した。
また、この地域は沿岸に沿って数万人が居住しているので、その人口分布を踏まえて、どの程度の数の住民が、どの程度の低周波音の曝露を受けて、どの程度の健康影響があるのかの試算をおこなった。ちなみに、いちき串木野市の人口は約2万6000人、日置市は約4万7000人、南さつま市は約3万3000人である。
その他の計算の詳細についてはこの場では割愛するが、興味があれば配布した資料やウェブサイトを確認いただきたい。https://gitlab.com/jtagusari/fukiage-wtn
▼風車100基建てた場合
まず、吹上浜沖にて現在示されている計画で最も浜に近い線に沿って100基、一列に建設されたと想定した場合を見てみる。風車の列と沿岸との距離は約2㌔である。
①A特性音圧レベルで、過去の疫学調査で不眠症のリスクが増大した40・5デシベルの範囲を調べた。すると、いちき串木野市の戸崎漁港周辺などがこの範囲に入った。推定居住人口は約150人。風車が建てば、少なくとも150人について睡眠障害のリスクが増大する科学的な証拠があるということだ。
国の指針値(の下限値)35デシベルを上回った地域は沿岸の広い範囲にわたり、推定居住人口は約4万人となった。ただ、国の指針値は健康影響との関係は不明だ。
②風車から出る低周波音の中心周波数が40デシベルの場合で、家屋遮音量を0デシベル(家屋の中でも低周波音の減衰がゼロ)と仮定すると、戸崎漁港周辺など(約200人)について曝露量が環境省の参照値(57デシベル)を上回った。したがってその1割の住民が「寝室で気になる」レベルになることになる。
③中心周波数が80㌹の場合で、家屋遮音量を0デシベルと仮定すると、沿岸部全域で曝露量が環境省の参照値(41デシベル)を上回った【図③参照】。風車から20㌔ぐらいの範囲がその中に入ることになるが、そこには約20万人が住んでいる。家屋遮音量を10デシベルと仮定しても、約2万人の曝露量が参照値を上回り、その1割の約2000人の住民が「寝室で気になる」レベルになると予想される。もちろん参照値より低くても影響がないわけではない。
▼風車150基建てた場合
次に、150基建ったと想定した場合を見てみる。先ほどの風車に加え、いちき串木野市沖、さらに沿岸に近い範囲(ただしこれも別の洋上風力発電事業の計画エリアである)に50基追加された場合を想定した。
①A特性音圧レベルで、不眠症リスクが増大する40・4デシベルの範囲を調べてみると、いちき串木野市のかなり広い範囲が入り、そこに住んでいるのは約3万人と推定される【図④参照】。環境省の疫学研究では、40・5デシベルでは不眠症の有病率が2・4%上昇すると示されていたので、これを利用して単純計算すると683人が風車騒音によって不眠症になることになる。とても許容できない、というのが私の意見だ。
②中心周波数が80㌹で、家屋遮音量が10デシベルと仮定しても、約4万人の曝露量が参照値を上回り、その1割の約4000人が「寝室で気になる」状態になると予想される。
ここで、リスクがある=影響がある、ではない。確率が80%でも影響がない人がおり、確率が1%でも影響が出る人はいる。風車を建設するならリスク(確率)はゼロにはならない。子どもや高齢者、持病のある人を地域としてどう守るのかを考える必要がある。科学では、どの程度のリスクまで許容できるのかを決めることはできない。決めるのは住民だ。
欧州の洋上風力 低周波規制数十㌔離す
ここでヨーロッパの例を見てみる。既に洋上風力発電が多くおこなわれており、学ぶことは多いと思われる。
デンマークで8000㌔㍗の風車を20基、洋上に建設しようとした。そのさい、メーカー報告値にもとづき、騒音レベルを計算した。デンマークでは44デシベル、39デシベルなどの低周波音の規制基準が決められている。それに対して15デシベル低い値を設定し、それをこえていないかどうかを評価した。結局、人が住んでいる海岸から15㌔㍍離すことが決まった。
ヨーロッパでは、洋上風力発電は海岸からの離岸距離を数十㌔㍍確保するのが「普通」となっている。日本のように1~2㌔㍍というものはない。ドイツにおける洋上風力発電(稼働中・計画中)を見てみても、海岸から20~60㌔㍍離して建てている。それだけ離しても水深は20~30㍍だ。遠浅の海という地理的条件によって、欧州では洋上風力発電が成功している。
日本国内で洋上風車を建てる場合、海岸から20~30㌔離して水深が20~30㍍でおさまるような海域はほとんどない。日本国内で洋上風力発電はそんなにポテンシャルがあるのか疑問だ。非常に限られたエリアでしか建てられないのではないかと思っている。
最後に、風車の音による健康リスクは科学的に未解明な部分が多く、確かなリスク推定は現時点では困難だ。ただし、沿岸からわずか2~4㌔㍍程度のところにズラーッと風車を建てて、住民への大きな健康影響が生じる可能性は否定できない。
科学の限界を理解したうえで、「予防原則」から学ぶべきではないか。国の指針や基準であっても科学的に十分といえるわけではなく、それを満たしているから進めてよいということにはならない。今、「洋上風力発電はSDGsの観点から進めるべきだ」という声が大きいが、われわれの世界の未来への持続可能性を考えたとき、洋上風力発電を今そこに建てることが本当にいいのかどうか、考えていく必要があると思う。
こちらは奈良県の太陽光発電の乱開発のお話です。御参考にお聴きください。
奈良県平群町の自然を破壊するメガソーラーは要らない
https://www.youtube.com/watch?v=s1blQnvDi0M
残念ながら、風車音の周波数スペクトルが示されていない。
f=RZ/60=0.8Hz としたときに、
音圧が最も高いのは、0Hz~8Hzのグループで、マクローリン展開の係数に対応して大きさが変化している。
10Hz~100Hz辺りの成分は、音圧が少し高く、発電機などの機械音とみられる。
200Hz~20kHzの成分は、ブレードの先端で発生する周波数の高い音です。これは音響カメラの映像としても確認できる。音圧は極めて低い。
0~8Hzの部分は、風がマイクに当たって発生する風雑音と環境省は言っているが、騒音計に風が当たらないようにしても、風車の近くでは必ず計測される。特殊な音です。
マイクに風が当たらないようにしても計測されることをカナダ政府は知っていますので、
カナダ政府は、少し上手に嘘をつきます。”疑似音”と説明していますが、少し考えれば、風車の運動で発生している超低周波音だと分かります。
ぜひ、実際の風車音の周波数スペクトルを掲載して、それを見ながら考察していただきたい。
計測は、最新の精密騒音計(SA-A1か、NL-63)を使って、サンプリングレートを48kHz以上にして計測してください、