東日本大震災で被災した福島、宮城、岩手県で、災害復旧にあたっている基礎自治体の困難さが増している。とめどもなく地方債を発行しなければ、がれき処理にしても動かず、避難所対応すらままならない実態が浮き彫りになっている。国がどう対応するかはっきりせず、もたもたしているなかで、天文学的な数値の借金だけが市町村の肩にのしかかり、現場の行政や首長の判断が運命を決定づけるものになっている。また、震災という極限状態に直面して明らかになったのは、「平成の大合併」がもたらした犯罪性だった。
宮城県石巻市と合併した牡鹿町は震災から8日間、県道がえぐられて遮断されたため、食料が届かない日日を過ごした。1市六6町が合併した後に牡鹿総合支所(旧牡鹿町役場)がおかれ、半島の先端に位置している鮎川浜も孤立した部落の一つだった。電気、通信も途絶えた状況のなかで、本庁とつながる防災無線が唯一の連絡手段となった。食料がないことなど伝達したものの、道路がないために届かなかったことが語られていた。
支所職員の男性は「旧牡鹿町の時代には、この庁舎には80人の町職員が勤務していた。出先も含めると120人体制で牡鹿半島の行政区域をカバーしていた。それが合併で40人を下回るまで削減され、総務課、建設課、観光振興課が一つの課に集約されるなど、行政改革が進行していた。震災後、携帯電話すらつながらないなかで、三十数人で牡鹿半島全域の状況をつかむのは困難を極めた」と振り返った。
高台にあった支所の入り口はがれきの山となって身動きがつかなかった。避難してくる高齢者のなかには持病を抱えている人も含まれ、常備薬などなにもない状態だった。「このままでは体調を崩す」と判断し、職員が切り立った山のなかを道なき道をかき分けて、旧町立病院まで薬を取りに行ったり、懸命に住民を守ろうとしてきたことが語られていた。「いざというとき、行政こそが住民の拠り所になることをこれほど痛感したことはなかった」と話されていた。
震災後、総合支所には震災対応の特別チームが発足した。ところが職員補填があるわけではないので、三十数人のなかから対応職員を送り出し、従来なら5~6人で回していた部署がさらに3~4人になるなど、ギリギリの業務が続いていることを別の職員は明かしていた。
地方にのしかかる経費 税収減の中予算4倍
被災自治体の困難さは、避難民の対応だけにとどまらず、財政面においても大きなものになっている。
石巻市は通年であれば一般会計予算は600億円程度で推移してきた。今年度の当初予算は617億5000万円でスタートした。しかし震災後に爆発的に必要経費が膨らんだため、7月補正予算まできて一般会計だけで2119億円にまで、ほぼ3~4倍近く跳ね上がっている。特別会計も含めると2624億7000万円という、とてつもない規模になった。
がれき処理(980億円)や、避難所の食料、運営にかかる災害救助費(198億円)、さらに崩れた道路に砂利を詰めるなどの応急処置、ライフラインの復旧や学校整備など、臨時的な措置を講じるだけでも莫大な経費が地方自治体の肩にのしかかっている。災害関連だけでも1540億円にのぼる。9月、12月補正予算を経て本格復旧に着手しはじめると、さらに拡大することが避けられない。一つの自治体だけではとても対応できない金額になっている。
がれき処理は基礎自治体の責任において実行する業務とされ、国庫補助率は自治体ごとの財政状況、税収の見込額に応じて50~90%と変化する仕組みになっている。しかし実際には国が九割負担しようと八割負担しようと、基礎自治体には資金がないために、足りない負担部分は地方債を発行して、借金でまかなっている。
石巻市の地方債残高は23年度末の見込額として当初は682億円を想定していたが、7月補正予算まできて974億円を見込むまでに膨らんでいる。
一方で税収は企業が壊滅し、市民生活が成り立たないために激減することが避けられない。通常なら170億円で推移していたのが70億円にまで減ると予想し、足りない部分は、これも地方債発行によってまかなう格好になっている。今年度だけ100億円減ならまだしも、来年度、その次の年度に増えていくかどうかも見通せず、自治体が機能していくための収入が見込めない状況が何年にもわたって続くことが、自治体職員のなかでは危惧されていた。
石巻市職員の男性は「国から地方自治体に交付される地方交付税の総枠は決まっているため、今回の復興にかかる経費が交付税措置で返ってきたとしても、その他の消防経費や教育・福祉にかかる交付税が削られるのではたまらない…。地方交付税の枠そのものを増やしてもらわないことには被災自治体はやっていけない。個別の法制度が云々というより、国が全面的に被災地の復興に責任を負うという姿勢があれば、もっと気持ちは楽になるのに…」と本音を吐露していた。
合併による算定替えで現在は1市6町分の地方交付税(人口比率や行政区の面積からして30億~33億円多い)が特別に支給されている。ところが平成28年度から32年度にかけて1割、3割、5割、7割、9割と段階的に減る予定になっている。このままでは33年度からは約30億円もの地方交付税減額が確実視されていることも心配されていた。「予定通り減額となった場合、石巻は首が回らなくなる。どの被災自治体も同じだろうが、地方交付税や従来の枠組みでは対応できない」と語られていた。
基幹産業の漁業も復興のメドがなかなか立たない。12日に部分的に石巻魚市場を再開することが決まったものの、後背地の水産加工団地にある製氷、製函、運搬などの企業は復活の見込みが立っていないことから、受け入れる船は小型漁船や定置網に限られている。本格復興はまだまだ先のことだとだれもが見なしている。広大な水産加工団地では、ようやく一部で水道が復旧しているほかは、電気も通っていない状態が続いている。3月11日に被災して以後、がれき撤去どころか、なんら手つかずの状態に置かれている企業も少なくない。
漁港周辺に打ち上げられた船を修理していた男性は、「みんなで立ち上がらないと息ができないんだ。石巻は心肺停止している。知事が漁港を3分の1に集約するとか、漁業権の民間開放といって物議を醸しているが、政治家ならみんなの復興意欲を掻き立てるようなことを発言しろといいたい。僕ちゃんみたいな顔をして、みなの出鼻を挫くようなことばかりいうから苛立って仕方ない」と憤っていた。