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燃料費高騰が運送業の経営圧迫 事業者への補助急務 下関では破産第1号発生

 ウクライナ情勢や円安の影響で燃料油価格の上昇が続いている。とくに燃料がコストの大半を占める運送業界では、経費の急騰が経営を圧迫し、下関市内でも「第一号」といわれる破産が発生した。政府は「燃料油価格高騰対策」として、石油元売りに補助金を支出し、「価格高騰が抑制されている」としているが、コロナ以前と比較して燃油価格は高い水準のままであり、末端事業者の契約価格は上昇を続けている。国内物流の八割を担うトラック運送事業者の現場では「支援策になっていない」「このまま経費の増加が続くと、夏ごろまでに零細事業者がばたばた倒れることになりかねない」と危機感をもって語られている。

 

 もともとトラックが使う軽油は「1㍑100円以下」といわれてきたが、資源エネルギー庁の価格調査を見ると、現金価格で1㍑100円を切っていたのは2016年初旬までだ。それ以降100円をこえて推移しているが、とくに今年に入り急上昇している【グラフ参照】。運送事業者のほとんどがスタンドと契約を結んでいるので、大口契約では若干の値引きがある場合もあるが、大半が零細事業者という事情から、「どちらかというと店頭価格に近い水準で契約しているケースが大半」といわれている。

 

 

 コロナ禍で比較的大手事業者が占めている宅配は多忙を極めたが、食品や工業など産業系の物流を担う業界は、自動車など製造メーカーの生産調整、飲食店の休業による需要減、物流の停滞などの影響を受け、厳しい状況に置かれている。そのなかでの急激な燃料高騰は経営を圧迫し、下関市内だけでなく山口県内でも運送事業者が破産するケースが出始めている。

 

 こうした状況を受け6月7日、山口県トラック協会の喜多村会長と毛利光専務理事が山口県庁を訪れて燃油高騰への支援を要請した。物流業界を管轄する国交省も、各運輸局に対し、自治体にトラック事業者への支援要請をするよう通達。中国運輸局山口運輸支局は5月下旬に山口県と県内市町に対し、メールにてコロナ臨時交付金を活用したトラック事業者への支援を要請した。同支局によると、検討したいという声もちらほら寄せられているという。

 

 しかし、政府の物流業界に対する基本姿勢が「運賃に転嫁するよう荷主に働きかけることで支援する」というものであり、燃料費の補助や、軽油引取税・消費税の減税など、事業者が切実に要望している政策は現在のところ検討されていない。4月26日に原油価格・物価高騰等に関する関係閣僚会議が出した「コロナ禍における『原油価格・物価高騰等総合緊急対策』」では、物流の各分野(貨物自動車運送業、内航海運業、倉庫業など)について、「燃料等の価格上昇分が適正に運賃・料金に反映されるよう、荷主等への周知及び法令に基づく働きかけ等を徹底して実施し、安定的な経営を支援する」とされている。

 

 この関係閣僚会議をへて、4月30日に新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金に「コロナ禍における原油価格・物価高騰等対応分」(計1兆円)が創設され、山口県、下関市ともに6月補正予算に各産業への支援策を盛り込んだ。しかし物流業界については県も市も政府のスタンスを踏襲しており、燃料高騰に対する支援策はなきに等しい現状にある。

 

山口県や下関市 効果的な支援策とはいえず

 

 県トラック協会の要請に対応した山口県観光スポーツ文化部交通政策課は、「6月補正予算で公共交通への支援を決めたが、それは地域生活に必要不可欠な公共交通を支援するもの。物流業界については中小企業対策でメニューがあることを案内させていただいた」と説明する。

 

 しかし、その「中小企業原油価格・物価高騰等対策事業」は、「省エネや生産性向上に資する設備等の導入支援」(15億4999万3000円)で、燃料高騰に対して直接支援するものではない。事業を担当する県経営金融課によると、原油価格や物価高騰などで売上や利益が減少している事業者が、新たに固定費削減につながる設備を導入するさいに、設備投資の4分の3を補助する事業だ。「省エネタイプ」は調光制御設備や高効率の空調設備、人感センサーといった省エネにつながる設備を想定しており、「生産性向上タイプ」は、全自動の食品下処理機や3Dフリーザー、NC加工機などを想定しているという。設備投資する余力がある事業者でなければ利用は不可能だ。

 

 そのほかに物流事業者も利用できるメニューといえば、制度融資(融資枠30億円、融資上限8000万円、融資期間10年・据え置き2年)、保証料の低減の二事業で、融資以外に今の局面を乗り切るための支援策は見当たらない。

 

 下関市も国の方針を踏襲し、「燃料等の価格上昇分が適正に運賃・料金に反映されるよう荷主等への周知、法令等にもとづく働きかけを徹底して実施し、安定的な経営を支援する」(6月議会答弁)としている。「トラック運輸業者には燃料価格上昇・下落によるコストの増減分を別立ての運賃として設定する燃料サーチャージ制度があり、燃料の値上がり分を輸送価格に転嫁することが可能なため」だという。ただ、荷主の下請となっていること、運送業界内の下請構造もあり、価格転嫁が現実的に厳しいものと認識はしているとのことで、国・県の動向を見つつ、必要に応じて検討していくとしている。

 

 産業振興部は、「国の方が“まずは価格転嫁を”としている。価格転嫁が難しいという状況を見極めながら対応を検討していくが、どのような状況になれば支援するのかという判断基準は示しにくい。業界からの声も一つの判断材料だ」と話している。

 

「燃料サーチャージ」2年かけても実現せぬ現状

 

 政府のいう「燃料サーチャージ制度を活用した運賃への価格転嫁」は、この2年来、業界あげてとりくんできたが、実現していないのが実際だ。

 

 トラック業界のなかでも「積み合わせ貨物」と呼ばれる業態(いわゆる宅配)は、複数の顧客の荷物を積んで全国各地に配送するネットワークが必要なため、大手事業者(大和運輸や佐川急便、福山通運、日本郵便など)が多い。そのため価格転嫁力が強く、こちらは値上げに成功してきたといわれている。だがそうした事業者は山口県内でも約1割に過ぎない。

 

 厳しいのは「貸切貨物」と呼ばれる一般貨物だ。こちらはトラックの保有台数が10台以上の事業者は1割程度。9割が10台以下の小・零細企業だ。これまでも燃料や諸物価の高騰、低賃金が要因となった人手不足などを解消するため、コストに見合う運賃を求めてきたものの、零細企業であるうえに事業者数が多いことから「料金改定をお願いすると、“運送業者はほかにもあるから”といわれて断わられる」状況が続いてきた。トラック運転手の不足が危機的な状況にあることから、2020年4月に国交省がドライバーの賃金を1・5倍にすることを目指して「標準的な運賃」を定めており、これが業者が荷主と交渉するさいの後ろ盾になるはずだったが、2年をへた今も状況は改善されていない。

 

 業界関係者は、「昨今の商品値上げのさい、メーカーは値上げ理由に“原材料費や物流費の高騰”をあげている。しかし、この“物流費の高騰”は、海外から原材料を仕入れるさいにかかる物流費のことで、完成した商品を国内配送する物流費はまったく考慮されていないのが実際だ。国内物流の八割をトラックが担っているが、その社会的地位は非常に低く、価格転嫁ができない状態にある」と話す。

 

 2年かけて実現していない政策を緊急時の「支援策」とすることは、支援しないといっているに等しい。山口県内には1万5738台(2021年3月31日現在)の緑ナンバーがいるが、資金繰りに行き詰まる事業者が続出すれば、県内・国内の物流網は維持できなくなる。コロナ禍から続く危機的な状況であり、早急な対応が求められている。

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