全国再エネ問題連絡会は4日、東京都世田谷区の烏山区民会館で第1回全国大会を開催した。大会には、北海道の稚内から長崎県五島列島・宇久島まで、全国各地から住民団体や個人約250人が参加した。各登壇者の発言は、再エネ事業者が政府の脱炭素政策というお墨付きを得て、地方をターゲットに法律の不備を突いた悪質な行為をくり返し、FIT(再エネの固定価格買取制度)認定による売電権(ID)が投資商品として売買され、こうした一部の人たちの利益のために住民生活や豊かな自然環境が脅かされていることを明らかにした。大会はそれに規制をかけるための法整備を国に強く求めていくこと、そのためにも地域が一丸となって住民運動を起こし、全国が横につながって大きな世論にしていくことを確認した。
全国再エネ問題連絡会は、熱海で土石流災害が起こった昨年7月に結成され、現在全国40の住民団体が参加している。これまで各省庁への陳情や与野党の国会議員に対する働きかけをおこなってきた。大会ははじめに、同連絡会の共同代表・山口雅之氏(静岡県・函南町のメガソーラーを考える会)が挨拶に立った。
山口氏は「今、全国各地でメガソーラーや風力発電に困っている人たちが反対運動を起こしている。しかし一つの地域の活動には限界があり、この問題を根本的に解決するには国の法改正が必要だ。そこで全国の団体の多くの賛同をえて連絡会を立ち上げた。この間の私たちの運動で、与野党のなかでも現行法には不備があるという意見が広がっている。みなさんの力で法改正をおこない、社会不安のなかで反対運動をしなくていい日本を一日も早くつくっていきたい」とのべた。
はじめに有識者によるパネルトークがおこなわれた。共同代表・室谷悠子氏(日本熊森協会会長)をコーディネーターに、山下紀昭(環境エネルギー政策研究所主席研究員)、鈴木猛康(山梨大学名誉教授)、石川和男(政策アナリスト)、山本節子(調査環境ジャーナリスト)、福島伸享(衆議院議員)、吉川赳(同)、山口雅之の各氏がパネリストとして登壇した。
パネリストは、国の温暖化対策として再エネが進められているが、実際は森林を伐採して土砂災害を引き起こし、地域の安心安全な生活を脅かしていることを問題にした。2012年にFIT制度が始まり、風力や太陽光を発電する事業者に高い買取価格を保証したことから、そこにもうけを優先する事業者が殺到し、住民生活や環境のことをなにも考えず突き進んでいることが原因だと論議された。また、廃棄物の問題も未解決で、処理が難しいレアアースを使うのでリサイクルもできないし、有害物質もずっと残ることを指摘した。
鈴木氏は「明治29、30年に治水三法(河川法、森林法、砂防法)が制定されたときのことを思い出すべきだ。当時、政府が森林開発を推進した結果、森林が伐採され、土石流・河川氾濫が起こり、死者が出たり田んぼや畑が土砂でおおわれた。そこで治水三法ができた。山に降った雨は地面のなかに浸透し、沢に流れ、川が十分な容量を流すことができてはじめて災害が防げる。その基本を忘れてはだめだ」とのべた。
また、「日本には国土利用計画法という法律がある。それにもとづいて各都道府県が条例をつくることができるし、実際にこれを使って太陽光や風力を止めている。山梨県は基本的に太陽光をつくらないという条例をつくった。知事はこれで民間事業者に訴えられても正面からたたかう、判例をつくるといっている」と、地方自治体のたたかいを紹介した。
山本氏は「事業者が地元の意見を金で買う。まともな交渉をしたら反対が出るからと、自治会の数人で検討委員会をつくらせ、彼らに印鑑を押させて、地元住民は後になって知り、手遅れになるという事例をたくさん見てきた。地域の同意をお金で買うことを絶対に許してはならない。再エネ事業に法治が生かされず、金と権力が動いている」と指摘した。
宮城県丸森町 土砂災害後に計画浮上
次に各地からの報告に移った。はじめに、5月の東北大会で大成功をおさめた東北から、耕野の自然と未来を考える会(宮城県丸森町)の義高光氏が以下のようにのべた。
5月22日、宮城県加美町で「東北の山の今と未来を考える」シンポジウムを開催した。なぜ宮城かというと、ここが再エネ事業者に狙われているからだ。宮城の五団体(なるこ温泉郷のくらしとこれからを考える会、加美町の未来を守る会、風力発電を考える色麻の会、太白カントリークラブ・メガソーラー建設に反対する会、耕野の自然と未来を考える会)とProtect Hakkoda八甲田の自然を後世に(青森県)が共催し、400人以上のたくさんの参加者で会場は熱気を帯びた。
丸森町は宮城県の最南端にあり、そのうち耕野地区は西の端にあるが、特徴は全戸が井戸水生活であることだ。山と川に囲まれた美しい中山間地だ。2019年の台風19号被害で街の中が水没し、各所で道路は寸断され、まだ復興の途上にある。
そこに東京ドーム25個分、開発区域115㌶、パネル12万枚、総事業費110億円という巨大なメガソーラー計画が持ち上がった。あれだけ土砂崩れが起きたところで山の形を大きく変える造成をやるという。山を削るので保水能力がなくなるため防災調整池をつくるが、その総量は9万8700立方㍍。プール165杯分。ダムのようなものが山の中腹につくられる。調整池の放流量は台風一九号並の雨量の場合、毎秒13㌧で、それが地区内の小さな川を駆け下る。そもそも災害に脆弱な地域で、これで災害が起きないわけはない。開発で地区内の井戸が枯渇した実例もある。
しかし宮城県は林地開発許可を出した。われわれは何度も抗議したが、知事のいうことは聞くが県民のいうことは聞かないというのが宮城県の実情だ。環境アセスでは、事業者は事業区を二つに割り、恣意的な分割申請をするという脱法行為をおこなった。事業者といっても資本金1000円のペーパーカンパニー。アセス逃れはダメと経産省は重い腰を上げたが、FIT申請の出し直しはしないままだ。FIT法の認定条件は法令遵守だが、この事業者は贈賄(2020年)をやって2人が罰金刑になったのに、国会での三度の質疑をへて、経産省はいまだになんの処分もしない。違法行為でもなんでも事業者のやりたい放題、これが再エネの実情だ。参加されている国会議員のみなさんはどう思うか。
私たちは今まで全力でより早く、より遠くへと走り続けてきた。経済は常に成長し続けなければ日本はつぶれる…果たして本当にそうだろうか。私たちが後世に残したいもの、それは大量の産業廃棄物とたくさんの後悔ではなく、すばらしい自然と少しの誇りだ。
北海道稚内市 管内に900基の風車
次に北海道稚内市から、風力発電の真実を知る会の佐々木邦夫氏(風力発電を地域から考える全国協議会共同代表)が以下のように発言した。
日本最北端の稚内市は年平均7㍍と風況が非常によく、以前私は風力発電はいいものだと思っていた。ところが私の家から220㍍のところに小型風車が建ち、夜になるとうるさくて眠れない。冬の猛吹雪のなか、車で10㌔ぐらい移動して寝袋で寝るという生活を続けた。そこから私は、風力発電とは本当に地球に、人間に優しいものなのか疑問を持ち、調べるようになった。
今北海道内で風力発電は324基が稼働しており、アセスが進められている計画中の風力発電が1686基ある。全部できあがると2000基をこえる。
そのうち稚内市を含む宗谷管内(京都府と同じ面積)では、118基の風力発電が稼働しており、さらに計画中のものをあわせると、ここに880基の風車が建つことになる。
ここは国立公園であり、ラムサール条約湿地であり、サハリンに渡る希少な鳥類の飛翔ルートにも当たる、生物多様性に富んだ貴重な場所だ。なぜその宗谷管内に風力発電が集中するのか。それは2013年に経産省主導で北海道の北部地域を「特定風力集中整備地区」に指定したからだ。
そして、稚内市から約80㌔離れた北海道電力の変電設備まで専用の高圧線を敷設し、北海道の北部に建てるすべての風力発電の電力をこの専用線に乗せて運ぶ計画が出された。さらに天塩郡豊富町に世界最大級の蓄電池を総事業費1000億円かけてつくる計画も出ている。といっても9万5000世帯の一日分しか蓄電できない。しかも地元には1㍗たりとも電気は配分されない。
風力発電の影響としては、天然記念物の希少な鳥類のバードストライクが多数起こっている。石狩湾では北海道大学の先生が低周波音の健康被害(頭痛やめまい)を予測している。計画地では、神奈川県から移住してきた新規就農者が風力発電をつくってほしくないと訴えている。これから日本全国でこういう問題が起こり続ける。住民が安全安心の生活が送れるように法改正が必要だ。
岩手県大船渡市 違法行為やルール違反も
岩手県大船渡市からは、荒金山・大窪山太陽光発電所建設に反対する会の山下裕一氏が次のように発言した。
岩手県沿岸南部の大船渡市吉浜地区にメガソーラーの計画が持ち上がった。ここはリアス式海岸で、吉浜湾ではワカメやホタテの養殖がおこなわれ、ウニやアワビなどをとる漁場でもある。キッピンアワビは世界的に有名なブランドだ。
メガソーラーが計画されているのは湾の西側にある大窪山で、私有地の95㌶が開発区域だ。山と海はつながっているので、漁業と生活への影響の懸念は大きいものがある。積雪があまりなく地表面が荒れやすいので災害の懸念がある場所なのに、そこに7万枚以上のパネルを敷き詰めるのは無謀としかいいようがない。パネルを張れば山の保水力は低下するし、工事によって濁った水が出てくる。しかし事業者は「土地造成をしないので現状のままだ」など、ありえない説明を真顔でいっている。
大船渡市長は事業に大変乗り気で、住民の反対意見はそっちのけ。事業者と一体となって計画を進めている。計画地は第一種農地で農地転用できないはずが、市長が自分で市の土地を非農地申請して、ここは後背地ですよといって農業委員会に認めさせ、農振計画からはずすことができる。県立自然公園の指定区域だが、これも権限移譲で市長権限ではずすことができる。
当初、事業者と市の間で土地契約をしたとき、「住民の同意を得て進める」という約束があったが、その後事業者は市と協議をして「住民の同意をとると事業ができなくなってしまうので、とらないことにした」といっている。
また、当初認定を受けた場所と発電する場所とが違う「飛び地」になっていた(FIT法のルール違反)が、その後、事業者が間の土地を細長く買って解消し、最初の高い買取価格が維持された。また事業計画から事業実施まで土地契約が連続しなければならないルールがあるため、市が日付けをさかのぼって決裁文書をつくる有印公文書偽造をおこなったことも発覚している。こうしたルール違反行為をしても事業が進んでしまうことに納得ができない思いだ。今日は法整備がテーマだが、今ある法律すら守らなくてどうするんだと思う。
埼玉県飯能市 子どもたちの未来のため
続いて埼玉県飯能市から、加治丘陵の自然を考える会・飯能の長谷川順子氏が登壇し、次のようにのべた。
私たちは2020年3月に会を立ち上げ、森林伐採をともなうメガソーラー事業の中止を求め、活動を開始した。
飯能市は東京から1時間のところにある。加治丘陵の阿須山中の森は以前から自然保全に努めているところで、市民が気軽に楽しめる散策路であり、野生動植物の楽園だった。広葉樹と針葉樹の混交林であり、荒川水系となる唐沢川の源流域で、緑のダムによって急激に増水する心配のない水源かん養の役割を果たしてきた。
飯能市のメガソーラー計画は、この飯能市の市有林17㌶を、市が事業者にとても安い賃貸料(月10万円)で貸し出すものだ。市民は反対署名を提出したが、2020年4月に林地開発許可がおり、10月に森林伐採が始まった。山は伐られ谷は埋められ、たくさんのソーラーパネルが建ち始めて、今ではまるで人工的な砂漠のようになっている。
「森林文化都市」を宣言している飯能市が、市有林を破壊してまでおこなうこの事業は、市議会にはかられることもなく進められた。飯能市は民間事業者を公募・選定し、メガソーラーの売電収入でサッカークラブを運用するという。防災調整池の底にサッカー場をつくることになり、雨が降れば池になる。
昨年の熱海の土石流災害の直後に市長選があり、現職は落選。「事業の検証が必要だ」とする新市長が誕生した。しかし、その後の検証は市民の願いを裏切るものとなっている。だが、6月市議会には中学2年生が「太陽光発電建設の条例制定」を求める請願を提出した。私たちはこの若者の声に耳を傾け、行動をともにすることで未来は開けると確信する。自然は一度壊したら元には戻らない。子どもたちにもっと豊かな未来を残していこう。
長崎県宇久島 FIT認定投資商品に
最後に長崎県佐世保市から、宇久島の生活を守る会会長の佐々木浄榮氏が以下のように発言した。
宇久島は五島列島最北端の、人口2000人にも満たない小さな離島だ。豊かで美しい海と離島ならではの貴重な環境に恵まれ、手つかずの森林と海岸線一帯には多種多様な動植物が共生している。
そんな宇久島に、九電工や京セラが出資してつくった宇久島みらいエネルギー合同会社によるメガソーラー計画が持ち上がった。総事業費2000億円、島の4分の1の面積におよぶ720㌶を35年間借り上げ、パネル165万枚を設置するという、完成したら日本一の規模となるメガソーラー事業だ。
この計画は2013年頃突然浮上し、区長に説明会をおこない、2カ月後には島の人間に賛否を問わないままFIT認定申請・取得し、現在強引に工事着工している。長崎大の調査では、回答した島の人のほとんどが反対。漁協も計画反対を表明し、海底ケーブルの敷設許可を受けていないにもかかわらず、事業者は来年度の運転開始を宣言している。
FIT認定申請をおこなった時点で、事業者は土地をすべて取得できていなかったが、それでも認定が下りている。とりあえず買取価格が1円でも高いうちに認定だけとっておき、あとから内容は変更すればいいという考えが見てとれる。事実、これまで何度も認定内容の変更申請がおこなわれた。
宇久島の計画は、当初はドイツの企業がFIT認定による売電権(ID)を取得し、途中で実現にはコストがかかりすぎるとして売り抜けて手堅く利益だけを得るため、IDをすべて転売して現在に至っている。事業者は事業が実現できなくても、外資が入り乱れた市場でIDを投資目的の商品として売買することができる。他のところではIDが4万㌔㍗当り10億円で売買されていた例があり、十数回転売がくり返された例もある。
長期にわたる事業に対して責任の所在が存在しない。ずさんな法律の立て付けといわざるをえない。これらの費用はすべて再エネ賦課金として国民が負担することになる。FIT法のしくみを知る者たちにとっては、濡れ手に粟のもうけ話だ。
平成25年以降、経産省は未稼働案件対策をおこない、全国の事業者に報告聴取をおこなってきたが、この計画はそれをすべてクリアし、今日まで平成24年度の固定価格=1㌔㍗当たり40円+消費税という高額な売電価格を維持している。これは未稼働案件対策が機能していないことのあらわれだ。
また、宇久島には日本風力開発がおこなう陸上風力計画がある。総出力10万㌔㍗、150㍍ごえの風車を島のあちこちに31基設置し、発電した電気を本土に売電する計画だ。これまでの環境アセスでは国や県から事業の白紙撤回や大幅な計画変更を求める厳しい提言が出されたが、事業者は問題解決をはからないばかりか、2020年暮れには住民になにも知らせないまま売電用の本土への海底ケーブルを突然敷設した。近隣の北松浦郡小値賀島は町議会で反対決議をあげている。だが、事業者はまもなく環境アセスの最終段階、評価書の提出をおこない、工事に着手するといっている。
住民の生命や財産を守るべき佐世保市は「民と民とで話しあえ」の一点張りで、責任放棄といわざるをえない。行政は住民の必死の訴えを無視しながら、年間数十億円の固定資産税や法人税を持ち去るのだ。地方創生、持続可能な社会とはいったいなんのことだろうか。最終的に島中に大量のパネルや巨大な風車を押しつけ、まるで植民地のようにして、なにもできませんというのはどう考えても理解できない。
参院選に向けて 各政党に対し態度問う
こうした問題をどう解決していくのかをめぐって論議が深められた。
日弁連の小島智史弁護士は、日弁連の公害環境委員会のなかにメガソーラー問題検討プロジェクトチームを立ち上げたと報告した。法律がなぜ機能していないか検証し、意見書として法改正を提言していくためだ。
とくに森林法では住民同意のしくみがないことや悪質業者の許可取り消しの項目がないことの改正、FIT法では売電権の転売の規制をもうけること、環境アセス法では事業者に対する強制力がなく、罰則をもうけることなどを検討しているとのべた。
続いて室谷共同代表が今後のとりくみについて発言した。室谷氏は、「そもそも現在、乱開発を止める法律がない。法律の手続きを踏めば大規模開発が進んでしまう現実がある。もちろん違法行為や脱法行為もたくさんあって、国や自治体の規制が効いていないという問題もある。しかし、だからといって再エネは絶対止められないというわけではない。地域で声を上げ、声を地域に広め、自治体や議員と一緒になって一丸として反対の声を上げたところで大規模事業をストップさせている事例がたくさんある。法改正だけでなく、乱開発を地域を挙げて止めていくということにも連絡会は力を注いでいきたい。いろんな団体の経験が集まり、それを各地が共有することで大きな力になる。開発を止めたいと思っている地域を一つももらさない。反対の意志表示をする声が各地で広がっていき、国民の総意になるまで頑張ってやりきりたい」とのべた。
今後のとりくみとして、「6日には経産・環境・農水・国交四省庁の“再エネ導入に関する検討会”に山口共同代表が参加して意見をのべる。8日には自民党の“真の地産地消を構築する議員連盟”の総会に参加して意見をのべる。また、再エネ問題を今月の参院選の争点の一つにするよう、各政党に対する働きかけやアンケートも進めていきたい」とのべた。
最後に大会アピールを確認して終えた。大会アピールはこう謳っている。
「今日、地球温暖化対策の大義名分のもとに、大規模自然破壊兵器と化したメガソーラーや風力発電が、地域住民の健康やこれまでどおりの安心安全な生活を脅かしている。投資家や事業者の財産権や営業の自由ばかりが重視され、この国が持つ宝でありこれまで守り続けてきた多くの希少な資源を無残にも失い、そこに住む住民の生存権が軽視されている。外資系による巨大プロジェクトには、日本の経済安全保障にかかわる脅威が存在する。本日発表されたものはごく一部であり、すでにとり返しのつかない乱開発は全国各地でおこっている。国民が一致団結し、これらの問題を一日も早く解決しなければならない」