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岡山県美作市 津山税務署が鳥獣捕獲奨励金申告漏れ指摘 捕獲の士気削ぐ対応が問題に

 日本全国の農村部で鳥獣被害が深刻化するなか、2012(平成24)年度から農林水産省がシカ、イノシシなど有害鳥獣の駆除に補助金を出し、各地の猟友会などが駆除事業をおこなっている。国の補助に加え単独事業として捕獲奨励金を出す自治体もあり、農業被害の防止に力を注いでいるが、シカ、イノシシ、サルをはじめとする野生動物とのたたかいはいまだ収束をみない。こうしたなか、岡山県美作市の猟友会に対し津山税務署が緊急捕獲活動支援金(国)、捕獲奨励金(市)の申告漏れを指摘、2019、20年の2年分をさかのぼって修正申告することを求めたことが、同市で大きな問題になっている。同様の事例は近年、山口県をはじめ他地域でも発生してきたが、国税庁や農水省から全国統一した注意喚起がおこなわれることはなく、「税務署担当者の判断次第」となっている。地域の農作物を守るため駆除活動にかかわってきた人々をまるで悪いことをしているかのような扱いをして、士気を削ぐものとなっている。

 

 美作市猟友会(和田正美会長)は17日、萩原誠司美作市長に対して要望書を提出した。「美作市猟友会としては、有害鳥獣駆除を行い、農作物等の被害防止に努めてまいりましたが、税務署が捕獲奨励金について確定申告を行う様に説明会が開催された事により、一部の猟友会員からは、『鉄砲を返した』、『税金が掛からない範囲で駆除する』と言った声をお聞きしており、猟師の捕獲意欲が低下し、現在の捕獲頭数が減り、農作物被害が拡大される事が懸念されるところです」と訴え、以下の二項目を要望している。

 

 ①今後も有害鳥獣駆除を行い、農作物等の被害防止に努めていくが、捕獲意欲が低下し、現状維持が困難となるので、美作市として捕獲意欲が向上する政策(捕獲奨励金又は猟友会補助金の嵩上げなど)の検討を要望する。

 

 ②有害鳥獣捕獲については全国で実施されているが、他地域及び他県の捕獲奨励金に対する確定申告の説明、認識が様々であり戸惑うところだ。ゆえにこの度の美作市における捕獲奨励金に伴う確定申告(修正申告含む)の件について、県内及び全国にて統一し、公平な見解、指導、説明を税務署にお願いしていただきたい。

 

一方的な税務署の説明

 

 美作市では、昨年11月に開催された猟友会長会議に津山税務署の担当者がやって来て、この件を指摘したのが始まりだった。話を聞いたメンバーはみな驚き、各部会に持ち帰ることになったという。同年12月23日、津山税務署による説明会を開催することとなり、約250人の会員のうち117人が参加。その場で「2021年分から確定申告をおこなうように」という説明だけでなく、19、20年分についても修正申告をおこなうよう説明がなされた。

 

 この場に参加していた会員から、これまで確定申告のさいなどに「申告しなくていいと聞いている」という意見も複数出たといい、一人一人の勘違いではなく、「この交付金は申告対象ではない」という認識が共有されるような説明なり、出来事があったことがうかがえる。関係者が周辺自治体の猟友会員などに問い合わせたところ、やはり申告対象でないと思っているケースも少なからずあったという。しかし、マイクを握った税務署の担当者は「雑収入は申告することに決まっている」「税法で決まっている」の一点張りで、みなの話に耳を傾けることはなかった。

 

 美作市でも猟友会員約250人の多くが60歳以上であり、国の捕獲事業に従事しているのもそうした高齢者だ。扶養に入っている場合、これまで所得に換算されていなかった捕獲奨励金や緊急捕獲支援の交付金が所得に入ると扶養から外れてしまうケースがあったり、所得税だけでなく市県民税や介護保険料、健康保険料などすべての料金に跳ね返ってくるため、「地域の農業を守ろう」と事業に協力してきた会員は困惑している。

 

 なによりの問題は2年分さかのぼって修正申告するよう求められていることだ。3年前の領収書を保存している人はほとんどいない。本業が農家の場合、サラリーマンの場合などで、経費の考え方は異なるが、領収書がなければ実際の収入より多くみなされる可能性は高い。

 

 津山税務署は、領収書がない場合「経費を2割みる」と説明している。関係者によると、駆除活動で使う燃料費が平均して約20万円だという。たとえば、2019年、20年に奨励金・交付金をあわせて100万円(1年当り)受けとった会員の場合、ちょうど燃料費分が経費とみなされるが、年間60万円しか受けとっていない会員だと「2割」は12万円にしかならず、実際に使った燃料費を下回る。捕獲奨励金・交付金は捕獲した頭数に応じて交付されるが、捕獲頭数が少なくて金額が少ない会員でも、普段から罠の見回りをしたり、犬を飼うなど経費は同じようにかかっている。地道に見回り等をしている人たちの負担が増すような追加徴収は不公平きわまりないが、「経費は2割」とした根拠について、津山税務署は明らかにしていない。

 

 今年の申告は2月、修正申告については6月ごろを目途に申告期限が設定されるとのことだ。

 

シカを駆除する捕獲隊メンバー(下関市)

 

鳥獣被害防止への影響に懸念

 

 問題になっている補助金は、農林水産省の「鳥獣被害防止総合対策交付金」のなかの「緊急捕獲支援事業」だ。その性格は「捕獲に要した費用の補助」となっている。同省は鳥獣被害防止総合対策として、農作物被害を及ぼすシカ、イノシシ、サルの対策を強化し、2023(令和5)年度までに生息頭数を2011年と比べて半減させる(シカ、イノシシで約200万頭)こと、2025(令和7)年度までにジビエ利用量を2019(令和元)年度に比べて倍増させる(4000㌧)ことを掲げている。防護柵と同時に重要なのが捕獲事業だが、これに従事できるのは、猟銃免許または箱罠免許を持った猟友会の会員だけだ。

 

 全国的に深刻化する農作物への鳥獣被害を防止するため、農水省からの要請を受けて各自治体が年間の捕獲目標などを設定し、猟友会に依頼して有害鳥獣の駆除事業をおこなっている。美作市の場合、緊急捕獲支援事業の対象は、ニホンジカ、イノシシ、ニホンザル、アナグマ、ヌートリア、ハクビシン、アライグマの7種。国からの補助に加え、県が1頭4000円を補助しており、市独自で猟期以外はイノシシ1頭5000円、ニホンジカ1頭1万2000円、猟期はニホンジカ1頭1万円の捕獲奨励金を交付している。現在、猟友会の協力でもっとも被害の大きいニホンジカは年間5000頭捕獲しているという。被害面積は33・77㌶、被害額は1547万7000円だ。

 

 被害額が1億円規模にのぼる下関市のニホンジカの年間捕獲頭数が1500頭前後であることを考えると、精力的な駆除活動を展開することで被害防止につながっていることがうかがえる。猟友会員が税務署の対応によってやる気を削がれ、駆除活動が縮小した場合、事業自体に悪影響を及ぼしかねない。実際に説明会を受けて「猟銃を返した」という会員も出ているという。

 

 猟友会のメンバーは「だれも納税しないといっているわけではない」と話している。ただ、この事業は国策として全国で同様におこなわれているものだ。全国一斉に「申告するように」とアナウンスがおこなわれるならまだしも、突如として県北の一部地域のみが申告漏れを指摘されており、県内でも対応に格差が生じている状態だ。「広島で捕獲事業の税務調査をした担当者が異動で来たらしい」という話もかわされており、赴任した税務官の判断次第で課税される地域があったりなかったり、という不平等な対応に納得がいかない思いが語られている。

 

国税庁はなぜ納税の通知しないか

 

 この交付金をめぐっては、2017年に山口県下関市の有害鳥獣捕獲隊員に税務調査が入り、山口県下全体で大きな問題となってから、すでに四年以上経過している。この間に、国税庁なり農水省なりから注意喚起がなされなかったのか?

 

 中国四国農政局に尋ねると、「一般的に交付金は収入なので、課税対象ということは認識している。しかし、有害鳥獣駆除事業を個々で考えると、ハンターがどのように狩猟をやられているか、個々に事例が違うので、なにが必要経費として認められるかは農水省からいえないところで、税務署の判断になる。税務署に問い合わせ、納税が必要であれば申告・納税をしてほしい」とのことで、農水省から税の納め方について周知等はおこなっていないとのことだった。

 

 国税庁個人課税課は、補助金は他にも数多くあり、「一般的なことについてはホームページ等で示しているが、個別の補助金について取り扱いを示すことはない」と説明する。仮想通貨など広く対象がある事例については注意喚起等をおこなう場合もあるが、個別性が強い場合、申告漏れがあった個人が特定される問題もあるため、周知等をすることは難しいとのことだった。また、税務調査はそれぞれの税務署で優先順位をつけておこなっており、マンパワーの関係もあって全国統一でやることはないとの説明だった。

 

 この対応のままであれば、「申告対象ではない」と認識している他の地域でも、突然税務調査が入り、猟友会メンバーのやる気を削ぐ事例がくり返されることは明らかだ。国策として協力を依頼している公益性の高い事業で起こっている事例であり、まずは自治体等を通じてアナウンスするなりの対応をとること、さかのぼっての修正申告はやめるべきといえる。

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