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米国隷属が招く食の危機 食政策センター・ビジョン21 安田節子

 日本の農家戸数は1955年604・3万戸から2015年に115・5万戸と約3分の1に、農家人口は1955年3635万人から2018年418・6万人と約9分の1に減少した。その結果、耕作放棄地や手入れが行き届かない森林の増加、藪や竹林の拡大、水路やため池の荒廃が進行し、日本の衰退を象徴する風景が全国に広がっている。

 

 政治家や有識者と呼ばれる人々は「日米同盟」が虚構であると知っていながら「日米同盟が基軸」とお題目を唱え続けている。日米地位協定に見る通り実体は米国支配下の植民地なのだ。米国は先の世界大戦の戦利品である日本を手放さず、徹底的に米国の利益のために利用している。食料自給率が下がり続けているのは米国の要請で貿易自由化を進め、政策的に食料輸入を拡大して日本農業を弱体化させてきたからだ。

 

 食料自給率は1965年73%あったが、2020年は37%だ。穀物自給率に至っては1961年75%だったのが2018年28%にまで落ち込んでいる。人口1億人以上の国では最低だ。自給力を失わせ食料を米国に依存せざるを得なくすれば、米国への完全隷属が達成される。それがあと一息のところまで来ているのだ。主要農作物種子法廃止など主食の米を重視する政策が消え、現下の米価暴落に有効な対策をとらず、耕作放棄地が増え続けるにまかせている。合わせて輸入食料受け入れのため食の安全規制の大幅な規制緩和を進めてきた【グラフ1】。

 

 米国は1986年から始まったGATTウルグアイ・ラウンドで、それまで食料安全保障の観点から自由化の例外であった農業分野を自由化対象にし、日本に農産物の輸入拡大を迫るようになった。そして日本の厳しい食品安全規制を貿易障壁とし規制緩和を要求するようになった。日本の財界は自動車等の輸出拡大による貿易黒字の非難を避けるため農産物輸入促進と規制緩和が必要と大合唱をした。

 

 農業分野の自由化を主導した米国は自国については自由化義務免除の特権を認めさせ、大豆、小麦、トウモロコシなど強いセクターの生産過剰を輸出補助を行って生産費よりも安く輸出して調整し、砂糖、酪農、綿花など弱いセクターでは、輸入制限を認めさせて国内の自由な生産を展開した。

 

 米国の大豆、トウモロコシ、小麦の輸出先として日本はターゲットになった。大豆はいち早く自由化され、ガット加盟の1955年38・5万㌶あった作付け面積は関税撤廃された1972年には8・9万㌶にまで落ちた。その後米の減反による転作作物として奨励され、2016年は15・0万㌶となっている。それでも自給率は7%(2017年度)でお寒い限りだ。

 

 トウモロコシ(飼料用、加工用)は今では、日本は世界最大の輸入国だ。

 

 小麦は大量の輸入急増と並行して国内生産の減少が加速し、自給率の低下が劇的に進んだ。現在小麦の自給率は16%(2019年度)しかない。

 

 「減反政策が始まったのは1970年で77年に「第二次生産調整」として強化された。農水省の示した減反計画は40万㌶。この面積は当時の九州の全水田面積に匹敵する。減反すれば奨励金を出すが、届かなかった場合はその分の罰則を科すというものだった。政策の背景には食管制度の廃止とコメへの市場経済の導入、併せて米の生産抑制、アメリカ小麦への日本市場の提供を意図する狙いもあったと思う」と菅野芳秀氏が『七転八倒百姓記』で記している。米国産小麦を消費するため米の生産抑制が政策的に図られた面がある。

 

 飼料自給率は25%(2020年度)だ。このうち、濃厚飼料の自給率は12%。濃厚飼料のほとんどを占めるトウモロコシ、大豆は米国産だ。飼料は米国に握られてしまったと言える。しかもそれらは9割近くを遺伝子組み換え種が占めているのだ。

 

 輸入飼料で育ったものを除外すると自給率は牛肉10%、豚肉6%、鶏肉8%、鶏卵12%、牛乳・乳製品12%に低下する【表1】。

 

 いまやまともに自給できているのは米だけとなった。しかし、米価は近年下がり続け今年は全国的に大幅下落に見舞われている。2021年産米の農協から農家に支払われる仮払金や買い取り価格が前年比で2割~4割も下落し、再生産費が1万5000円といわれるなか、軒並みこれを下回る金額で離農に拍車をかける水準となっている。出荷量が多い大規模な農家ほど打撃は大きい。

 

 暴落の原因は、コロナ禍で飲食業の休業・営業自粛による大幅な需要減少がある。2021年7月末の民間在庫は138万㌧で前年比19万㌧増だ。過去最大規模の在庫だぶつきに見舞われているところもある。

 

 在庫だぶつきのもう一つの要因が毎年77万㌧輸入するミニマムアクセス(MA)米だ。

 

 1993年、GATTウルグアイ・ラウンド農業交渉の合意で米は高関税を課して輸入を制限する代わりに、最低限の輸入機会(ミニマム・アクセス機会)の提供を行うこととなった。ミニマム・アクセス枠全量の輸入は義務ではないのにMA米の枠77万㌧(このうち米国産は36万㌧)を全量輸入し続けている。この量は年間消費量700万㌧弱の1割以上もの大量の米だ。政府が米価下落対策にMA米に言及しないのは米国隷属の証左だ。

 

 国内農業を衰退させ米国の食料に依存するようになったとして、米国が将来にわたって食料を輸出し続ける保証はない。気候変動やパンデミックなど不測の事態が生じれば、今回のコロナパンデミックで体験したように輸出国での生産が労働者の不足などで減じれば、国内優先で輸出量は減って価格は高騰する。また国際物流が麻痺、寸断されれば供給は途絶する。それに経済力が低下する日本が輸出国から将来にわたって買える保証はない。

 

 もうひとつの面として、食品安全規制の大幅な後退がある。日本は世界的に見て食品安全規制の厳しい国だったが、米国からの輸入食料受け入れのため規制緩和を続けてきた。その結果今では日本はジャンクフードの吹き溜まりになってしまった。

 

 増大する輸入食品の安全をチェックする検疫検査も形骸化した。1985年中曽根内閣は「市場アクセス改善のためのアクション・プログラム」を発表し、検疫検査の迅速化、簡便化が図られた。直接の物品検査に代わって事前に提出された届出書の審査だけで大半の貨物は通関している。要検査の判断が出た貨物でも違反の可能性の高い貨物以外はモニタリング検査だ。モニタリング検査は結果判明を待たずに通関するため、不合格の結果が出てもすでに市中に出回った後なのだ。

 

 収穫後の農産物に使用する殺虫剤、殺菌剤などのポストハーベスト(PH)農薬は食品残留が多くなるため日本は禁止だが米国は認めている。日本は米国産農産物を輸入するためにPH農薬を実質認めるようになった。きっかけは輸入された米国産柑橘類に防カビ用の殺菌剤が検出され、違法なPHとして積戻しにしたところ、米国が激怒し自動車に報復関税を掛けると脅された。そこでPHの殺菌剤を食品添加物の保存料とする方便を取ることで今に至っている。いま、米国は表示が必要な食品添加物扱いではなく日本がPHを認めることを要求している。

 

 TPP協定における日米二国間合意(2015年)で米国は食の安全基準の緩和など米国の要求に応じることを日本に確約させた。

 

 未指定の添加物使用の食品は輸入禁止のため、日本政府は輸入食品に使用される添加物を片っ端から指定するようになった。それで食品添加物は増大し続けている。輸入国の基準に合わせて輸出するのが貿易の原則だが日本の対応はさかさまなのだ。

 

 肥育ホルモン使用牛肉はEUなど世界的に輸入禁止だが、米国と豪州が使用している。日本国内では使用禁止だが輸入の検疫検査はモニタリング検査のため尻抜けなのだ。ロシアのように不使用証明のあるもののみ輸入とすべきだ。

 

 食肉中の肥育ホルモン調査(2009年日本癌治療学会発表)によれば、米国産牛肉の脂身は日本産の140倍、赤身では600倍もの残留だった。1991年の牛肉自由化後輸入牛肉の消費量増加と並行して乳癌、前立腺癌は急増している。

 

 遺伝子組み換え(GM)作物はリスクを示す研究が多く示され、厳しい規制で輸入を阻止する国々が多い。米国を中心に生産されるGM大豆やトウモロコシなどは日本が一番輸入し、認可数でも世界一だ。GM作物は主に除草剤グリホサート耐性であるためグリホサートも残留し、GMとグリホサートのダブルのリスクがある。

 

 小麦は、米国、カナダからの輸入に依存している。これらの国では小麦の収穫直前に除草剤グリホサートを散布して枯らす処理をしている。農水省は毎年輸入小麦のグリホサートの残留調査を行っており、米国やカナダ産の輸入小麦からはほぼ100%検出されている。

 

 輸入小麦使用の小麦製品は多岐にわたるが、民間の検査機関によって検査された市販の食パンや学校給食のパン【表2】からは、おしなべて検出されている。

 

 日本政府は2017年に輸出国の使用実態に合わせグリホサートの残留基準値を大幅に緩和した。小麦は6倍に緩和された。政府は自給率が低いものは輸入が滞っては困るからと説明する。

 

 2015年世界保健機構(WHO)の国際がん研究所はグリホサートをヒトに発がん性が疑われる2Aランクに引き上げた。がんに加え環境ホルモン作用、出生異常、脂肪肝、子どもの神経への作用が明らかになっている。2019年国際産婦人科連合は、胎盤を通過し、胎児に蓄積する可能性があり、予防原則に立ち世界規模でのグリホサート禁止を勧告した。


 国産小麦や米粉使用のパンからはグリホサートは非検出であり、自給率を上げることが強く求められる。

 

種子法廃止も米国からの要求

 

 気候変動のもと食料安全保障が一層強く求められるが、自給を危うくする、主要農作物種子法(種子法)の廃止がなされた。種子法は日本の食料安全保障の土台を支える法律だった。種子法により米、麦、大豆は農業試験場など公的機関が品種開発し、遺伝子資源を保全・育成し、優良品種を低価格で農家に供給してきた。しかし「規制改革推進会議」の提言により、2018年3月廃止された。

 

 「規制改革推進会議」はTPP協定の日米合意にもとづき内閣府に設置された。合意文書には「日本国政府は……外国投資家その他利害関係者から意見および提言を求める。意見及び提言は、……定期的に規制改革会議に付託する。日本国政府は規制改革会議の提言に従って必要な措置をとる」とあり、米国(多国籍企業群)の要求を直接受け入れる売国窓口なのだ。

 

 関連して2017年施行された農業競争力強化支援法では国や都道府県が持つ育種素材や施設、技術を民間に提供し、民間の品種開発を手助けし促進することや既存の多数の銘柄を集約することになった。こうして米など穀物種子は民へ払下げとなった。主食穀物まで企業に明け渡す国は日本だけだ。政府は食料安全保障を放棄したと言える。

 

 一握りのGMや農薬の巨大アグリビジネスは現在種子市場の80%を占有している。野菜種子は種取ができないF1(ハイブリッド)となり、次の標的は穀物だ。公的種子をなくし、農家の種取を禁止して、かれら企業の種子に置き換える戦略が進められている。

 

 彼らは種子にかけた特許や品種登録の知的所有権を盾にして種取り禁止、種の交換禁止、種籾の保存禁止とし、種は企業から毎年買うしかない世界を作ろうとしている。

 

 そして現在彼らがこぞって傾注するのはゲノム編集だ。
 ゲノム編集はDNAの狙った塩基配列をピンポイントで切断することで変異を起こさせる遺伝子改変技術だ。米国政府はこれらの企業の為にゲノム編集作物の栽培は規制せず表示なしとし応用化を後押ししている。

 

 ゲノム編集作物は自然の突然変異と同じと開発者らは主張するが、作出過程で遺伝子組み換え技術を使用し、明確に遺伝子操作作物なのだ。そのため欧州司法裁判所はGM同様の規制適用を裁定し、EUでは安全性評価、環境影響評価、トレサビリティ、表示が必要とされた。NZもドイツも同様の決定をした。

 

 ゲノム編集が抱える根源的課題は、標的部位と類似の標的外のたくさんの部位でDNAを切断する「オフ・ターゲット変異」が避けられないことだ。また標的箇所において切断後のDNAの自然修復のプロセスにおいて染色体の破砕が起こる決定的リスクが最近の研究で明らかになった。

 

 ゲノム編集食品は安全確認がされていない。GMの歴史は20年程度、ゲノム編集はさらに新しいバイオテクノロジーで、リスクはまだ定まっていない。動物に食べさせての安全性評価はされておらず、いまだ統一された評価法もないのだ。

 

 2019年にトランプ前大統領がGM市場拡大のための戦略策定を求める大統領令に署名し、「ゲノム編集作物製品の障壁を取り除くための措置を講じる」ことを求めた。日本は即、米国に追随し、任意の届出で流通を認め、表示不要を発表。そして2020年12月にサナティックシード社のGABA高蓄トマトの届出を受理した。これは米国のゲノム編集大豆油に続く世界で2番目の応用化だ。すでに苗が一般消費者4000人に配布された。また青果のトマトのインターネット販売が始まっている。開発者の筑波大学の江面浩教授が技術担当取締役に就任したサナティックシード社はHPで2020年8月に米国農務省によって外来遺伝子を含まず規制の対象とならないと判断されたと記載。米国のお墨付きを得た後、政府との非公開の会合を経て12月11日に国への届出が受理された。日本で開発し、国内流通のものが、なぜ米国にお伺いを立てる必要があったのか。

 

 応用化するには高額の特許料支払いが必要で、ハードルが高い。デュポンとダウの合併で創られたコルテバ社はゲノム編集技術(CRISPR)に関するほとんどの特許を管理しほぼ独占的に管理している。米国はコルテバが持つゲノム編集の特許について便宜を図り日本での応用化を後押ししたのではないだろうか。米国で開発が進むゲノム編集作物の輸出のために、まず国産のゲノム編集トマトを流通させ、日本の消費者がゲノム編集食品を受容する環境を整えたいとの思惑が働いていると感じる。

 

 この思惑に応えるかのように日本政府は矢継ぎ早にゲノム編集の肉厚マダイ、早く太るトラフグも届け出受理した。世界で突出してゲノム編集食品の応用化を進める日本はゲノム編集食品の人体実験場になろうとしている。

 

 アグリビジネスは緑の革命以来、自給的農業から外部資材(企業)依存の農業への転換を促す戦略を展開してきた。現在彼らは知財を利益の源泉として重視する。バイテク種子は知財で固められ、AI化などテクノロジー依存の農業が推進されているが、それらもまた知財で農業を囲い込む。

 

日本が目指すべきは有機自給国家

 

 日本はアグリビジネスの利益のために国民の健康や国内農業を差し出し、犠牲にしてきた。食の汚染が子どもたちのアレルギー、発達障害などの疾病を増大させている。

 

 アグリビジネスの浸食を許さない真の独立国になるためには食料自給が必須だ。めざすべきは有機自給国家だ。有機農業による地域自給圏を全国に作り上げること。学校給食が突破口となる。自治体が公共政策として地元の有機農産物を買い上げ給食に使うことで、子どもたちの健康に寄与し、有機農家が増えて有機面積が拡大し環境が回復する。有機自給国家こそ日本自立の要と思う。

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