2018年10月11日に新しい豊洲市場(とよすいちば)が開場してからあっという間に3年が過ぎました。
開場時は、従来の買出人にとっては「立地条件が不便」ということもありましたが「首都圏の市場」という役割もあったので元気にスタートが出来た様に思っていました。しかし、新型コロナウイルスが切っ掛けで隠れていた諸問題が表面化してきました。
コロナ禍で魚価の安値が続く
豊洲市場におけるコロナ禍での国内産の魚価は2021年8月頃までは安値状態が続いてしまいました。高級魚ほど驚くほどの低価格のままでした。コロナ禍における人の移動規制や街中の飲食店等への顧客減少などによって売れ口が大変悪くなっていた事も低価格の長期化の原因だったことは皆さんがご理解くださると思います。
逆風が吹き始めている
一方で、東京オリンピック・パラリンピックが終了した頃からは徐々に逆風が吹き始めました。
例えば、すでに異常気象の悪影響や温暖化による潮流の変化などによって世界的な魚介類の減少傾向が徐々に目立ち始め、同時に世界的な魚介類への需要が増えている事も日本にとっては大きな逆風になっています。そして、沖縄や伊豆諸島への軽石問題などの様な自然環境悪化課題もこれから様々な型で深刻になるでしょう。更に、為替の円安や石油・ガソリンなどの高値も原因となり輸入魚が高値傾向に入っております。
国内の魚においても同様の逆風が起きています。2021年10月以降になってからは例えば鮮魚のキンメの魚価が急騰し高値で日々取引されています。又、2021年度の北海道の魚介類(イカ、鮭、いくら、シシャモ、ウニ、昆布、他)が歴史的な不漁となり、その影響は他の魚価に対しても高値の影響を及ぼし続けております。
この様な高値が続けば街中の殆どの飲食店等が天然の魚介類を扱い続けられなくなり「輸入冷凍魚と養殖魚」に頼る時代に入ってしまうのではないでしょうか。そうなれば「問答無用に美味しい天然魚の自然の味」が判る世代がいなくなります。「日本の食文化」が壊れてしまいます。
天然魚を守るためにできること
日本の食文化を守る為には「魚介類の説明や捌き方等」を「対面販売」で消費者側へ伝えられる飲食店や小売店そして、市場の仲卸業者を守る事が必要です。
そして、沿岸魚介類が普段から沢山獲れる様に陸地の自然環境を復活させる事、即ち、「自然由来の栄養源を有する自然循環型に戻す事」が必要不可欠です。コンクリートで固めてフタをしてしまった「海岸線や沿岸線」を出来る限り「自然由来型」の状態に戻して自然を復活させる事も大切なのです。同時に、山林にも田畑にもゴルフ場の芝生にも「無農薬での栄養供与」をして頂きたい。
豊洲市場の機能と実態
市場には「セリ人がいる大卸会社(荷受け会社)」と「目利き人がいる仲卸業者(仲買人)」の二つの業種があります。
そして豊洲市場には「大卸会社7社」と「仲卸業者473社」が現在あります。飲食店や小売店等の場外業者は「仲卸業者の店舗」で仕入れをします。
又、築地市場時代と違って豊洲市場は「競り場」や「仲卸店舗」、そして、新しく用意された「加工パッケージセンター」のそれぞれの建物が「入口から出口までの全部が低温温度管理されているコールドチェーン施設」として設計され作られている市場です。
即ち、豊洲市場は2021年6月1日から全ての食品関連業者に完全義務化された「HACCP(ハサップ)」という食品安全法の衛生管理対応を「市場の設計の段階」で既に実施していた事になります。それ故に「HACCP対応製品しか輸入できない米国向けの製品作りや輸出」も豊洲市場では可能なのです。
市場の機能は「大卸会社の魚を集荷する機能」と「仲卸業者の小分け(こわけ)機能」があります。「小分け機能」とは飲食店や小売店の買出人が仕入をしやすい様に「仲卸業者が品質を見極めながら数量を小分けして買出人へ卸売すること」です。
そして大卸会社と仲卸業者の両者が「競り場」でぶつかり合って「競り」や「入札」で、あるいは「相対」で魚種毎の値段を日々樹立します。これを「建値機能」と言います。豊洲市場で決まった値段は直ぐに日本全国と世界中へ発信されます。その日々発信される豊洲市場の値段を参考にして、例えばノルウェーの港で漁師と加工屋さんとの間で値段の交渉が行われる、という次第です。
それ程、豊洲市場で決まった値段は全国でも世界的にも信用されております。なぜ信用されているのでしょうか。
それは「集荷される地域」と「魚の種類と数量」が他の市場と比べて圧倒的に多く、そして「市場へ買い出しに来る顧客の員数や客層」等も圧倒的に多くて厚い事です。だから「豊洲市場には客観力がある公平な価格形成機能がある」と信用されているのです。更に、市場が年間に扱う約480魚種の「専門家」や「目利き人」が沢山おられるという事も生産者や飲食店・小売店さん達に信用されている理由です。けれども日本沿岸で獲れる魚介類は約1000種類もあるのでまだまだ未利用の魚介類が沢山あります。
大卸の役割は「生産者側の立場」で、一方の仲卸業者の役割は小売店と飲食店を含む「消費者側の立場」で仕事をする事です。
日々変化する「生産者側と消費者側の都合と実情」が「魚」を介して競り人と仲買人とで日々ぶつかり合います。そうして適正な魚価が日々樹立されるのです。
世界規模の「食」の危機と新しいニーズ
人間にとっては最も大切な「食」が世界規模の「食の危機」に遭遇する様な悪環境に囲まれ始めているのを感じます。人類は今後、この様な新たなる危機が起きた時にこれ等を乗り越えて行けるのでしょうか。
一方で日本でのコロナ禍の規制緩和がされた令和3年11月1日以降からは豊洲市場への買出人も少しずつ戻り始め市場の元気も戻り始めていますが、以前よりも電話注文が多くなって飲食店や小売店の店舗にまで出向いて配達する仲買さんが増えています。
実は、そのニーズは今までずっと眠っていたのだと思われるのですが、それがコロナ禍で一気に表面化したものと思われます。
即ち、飲食店や小売店側の要望に沿った加工、例えば丸魚の内臓を除去して保冷状態のままで納品して欲しいとする様なニーズが一気に表面化し始めたのだと思います。それによって新たな顧客の開拓や営業を始めた仲買さんもいます。
そして、以前よりも海外輸出に注力され実行されている仲買さんも増えています。豊洲市場にある2万㌧台の二つの大型冷蔵倉庫が「保税倉庫」である事と「加工パッケージセンター」が市場内にある事もその輸出仕事に利便性をもたらしていると思えます。
日本の「食」の未来はどこへ
個人も、家庭も、国も、世界も、とにかく「食」さえ充実すれば何とかなる、やり直しも効きます。いつでも良い時代に向って歩み出すことができます。
しかしながら、新たなる変異株オミクロンが登場し始めている等の「新たなる不安」や「人類の危機」とも言える未来が近々あるのではないかと心配する方々が意外にも大勢いらっしゃいます。
そうしたなかで日本の食糧自給率はずっと低いままです。
食糧の質についても実質的に良くない状態が続いております。特に農産物の農薬使用や化学調味料使用の加工品の多発が心配でなりません。プラスチックゴミ等も同様です。ゴミという文字が不要な江戸時代に学ぶ事も大切です。一番の心配は「地球温暖化」です。
豊洲市場での「量販店対応の商いをしている仲買さん」は「まあまあ」な具合ですが「飲食店や小売店」に対応している仲買さん達はまだ非常に困っている状態でした。けれども令和3年11月頃からは少しずつ顧客が戻り始めている様です。
しかしながら、日本にも前代未聞の魚不足時代がくると思われます。「大切な魚介類を、日本国民が順調に食せない日」が刻々と迫っていると言っても過言ではない厳しい魚事情を見ておきましょう。
・日本近海の資源問題。陸と海の栄養と相互の連鎖関係などが順調でなく、前浜や沿岸の魚介類が減少している。
・日本の自給率低下問題。国策として自給率を上げようと決定しているが、現状は大量に獲れば獲る程、豊漁貧乏になる矛盾構造もある。これらが間接的な漁師の後継者不足の一因にもなっている。その他さまざまな要因も重なって、水産物の自給率は38%(カロリーベース/2017年度)に留まる。
・日本の漁船の老朽化問題。漁船の買い替え時期がきても資源問題や後継者問題など不安材料が多い。又、漁船が高額なので買い替えできる漁師は少ない。
・日本の漁業者の高齢化問題と減少問題。
・日本の遊漁者問題。地域によっては高級魚漁獲量がすでに漁業者より多くなっている。
・「日本人の魚離れ」と「魚介類の国際価格の高騰傾向」があり、先進国を中心に魚介類の需要が高まっているので、日本国内で魚介類の普及や需要を高める事が急務。
・地球温暖化問題。温暖化で寒いエリアに多かった植物プランクトンが減少すれば、魚の食物連鎖に異常が起きるなど、様々な問題が広がっていく。
・世界のクジラ問題。全人類が漁獲する3~5倍の魚介類を食べてしまう。国際協定による捕獲禁止があるため増加し続けている。
・ひとつだけ良いニュースは、昆布養殖が植林事業よりもCO2対策として大きな効果が有る、という有力な情報があります。
以上の沢山の国内外の事情があります。これらを多くの方々の知恵と努力によって「日本の食文化」を守っていかなくてはなりません。
(NPO法人21世紀の水産を考える会・代表理事〈代行〉)