いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

玄界灘の洋上風力中止を佐賀県に要請 佐賀・長崎・福岡の10漁協 住民生活や環境脅かす巨大風力やメガソーラーの反対運動広がる

 佐賀県が唐津市沖の玄界灘に誘致しようとしている洋上風力発電事業に対して、佐賀・長崎・福岡3県の10漁協でつくる「玄界灘洋上風力発電建設反対協議会」は2日、計画の中止を求める要請書を山口祥義・佐賀県知事と峰達郎・唐津市長に提出した。10漁協の漁業者らは、洋上風力発電建設によって潮の流れや生態系が変化し、水産資源が減少して漁業者の生活を脅かすとして計画に強く抗議している。政府が「地球温暖化阻止」「脱炭素社会の実現」を掲げて風力発電や太陽光発電の導入促進をうち出すなか、国策のお墨付きを得た外資や大企業が全国各地で大規模な事業を展開しようとしており、そこに暮らす住民たちとの大矛盾になっている。地方の現場でなにが起こっているのか、九州を中心に見てみた。

 

 佐賀県唐津市沖は今年9月、政府・経産省によって再エネ海域利用法にもとづく「一定の準備段階に進んでいる区域」に選定された。これは事業者に30年間、一般海域を占用させる「促進区域」の準備段階である。これを受けて佐賀県が五つの離島で住民説明会を開始した。

 

 すでにこの海域では二つの事業者が大規模な洋上風力発電建設に名乗りをあげ、環境アセスを始めている。一つはインフラックス(東京)によるもので、唐津市小川島の東部海域に34~43基(総出力40万8500㌔㍗)と、唐津市馬渡島から長崎県平戸市的山大島までの海域に最大65基(総出力61万7500㌔㍗)を建てる計画だ。もう一つは、アカシア・リニューアブルズ(東京)と大阪ガスが唐津市沿岸の海域を事業実施想定区域とし、8000~1万2000㌔㍗の着床式洋上風車を最大75基建てる計画をうち出している。その他にも多数の計画が動いているという。

 

 この動きに待ったをかけたのが、10漁協の漁業者たちだ。佐賀県の小川島漁協、長崎県の平戸市漁協、大島村漁協、中野漁協、舘浦漁協、志々伎漁協、生月漁協、九十九島漁協、新松浦漁協、福岡県の糸島漁協の10漁協が10月、玄界灘洋上風力発電建設反対協議会を結成し、今回の佐賀県知事と唐津市長に対する要請行動となった。

 

 協議会の漁業者たちは、「玄界灘は九州を代表する好漁場で、県をまたいで多くの漁業者が操業している。洋上風力の建設で被害が出れば、漁業者にとって死活問題だ」と訴えている。若手の漁業者は「補償金がほしいから反対しているのではない。豊かな海を守りたい」とのべている。

 

 同じ唐津市の山側では、脊振山系一帯に大和エネルギー(大阪。大和ハウス工業の子会社)が3200~4200㌔㍗の風車を8~10基建てる計画をうち出したことに対し、唐津市、佐賀市、糸島市の住民たちが「七山・脊振山系の暮らしを守る保安林を守る会」を結成。森林伐採によって土砂災害の危険性が高まることや、低周波音による健康被害のリスクを訴えて反対署名を広げている。9月には佐賀県知事が、この事業は「保安林指定解除の要件に合致していない」と表明した。

 

長崎県 洋上風力計画目白押し

 

各地で計画が浮上する洋上風力発電

 洋上風力発電をめぐっては、長崎県も動きが激しくなっている。

 

 長崎県五島市沖は、長崎県が洋上風力の適地として国に情報提供してきたが、福江島の東2700㌶の海域が「促進区域」に指定され、今年6月、経産省が事業者を「戸田建設、ENEOS、大阪ガス、関西電力、中部電力のコンソーシアム」に選定した。現在、2200㌔㍗の浮体式洋上風車を10基建てる工事を開始しようとしている。

 

 同じく西海市沖は、再エネ海域利用法にもとづく「有望な区域」に指定されている。ここでは、ジャパン・リニューアブル・エナジー(東京。株式は米ゴールドマン・サックスなどが保有していたが、最近全株式をENEOSが取得)が4000~5000㌔㍗の風車を最大50基建てる計画を進めており、ここにドイツのwpd AGグループが資本参加することを発表した。もう一つは住友商事(東京)と電源開発(東京)が進める65基の風車建設計画で、2019年から海底ボーリング調査をおこなっている。

 

 また、五島列島の最北端に位置する宇久島では、日本最大規模のメガソーラー計画と陸上風力発電計画が持ち上がり、住民たちが「将来にわたって安全安心に生活を営むことができない」として反対行動に立ち上がっている。

 

 このメガソーラー計画は、宇久島の面積の4分の1以上にあたる720㌶を事業面積とし、そこに165万枚のソーラーパネルを敷き詰めるもの。総出力は48万㌔㍗で、発電規模は日本一となる。事業者は九電工(福岡市)を中核とする「宇久島みらいエネルギー合同会社」で、京セラ、みずほ銀行、十八親和銀行などが出資を予定している。同時に、3000~4000㌔㍗の風車を31基建てる風力発電計画も動いている。

 

 住民たちが問題にしているのは、事業者の独善的で住民無視の姿勢だ。事業者は住民全体に説明をしないまま、地権者との間に35年間の地上権賃借契約を締結。2018年2月には、事業者が当時の区長23人分の署名押印のある事業推進要望書を市に提出したが、その後、地区総会を開かせないまま区長の押印をせかしたこと、要望書を「地元同意」の根拠に使っていることがわかり、区長19人が撤回を表明した。

 

 また、事業者は自分たちで事業の早期着工を願い出る嘆願書をつくり、住民に署名を迫って市長や県北漁業協同組合宛に提出した。ところが、一世帯一票とし「住民の7割が賛同」としたこの署名のなかに、現地に住む多数の作業員が入っているなどの疑惑が浮上して住民が精査を要求したが、事業者は拒否。住民は「民意のねつ造」だといっている。

 

 こうしたなかで、観光協会はメガソーラーによって観光が大打撃を受けると声を上げ、畜産農家の牛部会は畑地がメガソーラーに奪われて牧草を育てることができないと計画反対を表明した。地権者で組織する推進協議会も、事態の推移のなかで地域活性化につながらないことがわかって異議を提出している。

 

 「宇久島の生活を守る会」は事業者に対して「今すぐ森林伐採工事を中断し、住民への説明を」と訴えている。

 

熊本県 水俣で住民が反対行動

 

 陸上風力発電については、熊本県でも住民たちの建設反対の行動が始まっている。

 

 戦後、チッソの有機水銀たれ流しによる水俣病を経験し、いまだに最終的な解決を見ない水俣市では、山の尾根を削り森林を伐採しておこなわれる大規模な陸上風力発電建設に対し、住民たちが「ちょっと待った! 水俣風力発電」をつくって署名運動や市や県への要請行動をおこなっている。

 

 持ち上がっている計画の一つは電源開発によるもので、水俣市の亀嶺高原から鬼岳周辺を経て県境の上場高原に続く尾根と、県境の矢筈岳東側から鹿児島県出水市にかけての尾根の2カ所に、4300㌔㍗の風車を最大30基建てるもの。そのほか日本風力サービス(東京)が矢筈岳東側の尾根に19基の風車を建てようとしており、ジャパン・リニューアブル・エナジーも水俣市と芦北町、球磨村にまたがる大関山を中心とした尾根に15基の建設を予定している。

 3社合計で64基、総出力26万400㌔㍗という、国内の陸上風力では大規模な事業となっている。

 

 水俣市を流れる河川は、これら計画地の山々から発し山間部や市街地をへて海へ流れており、地域の豊かな水を育む水源地での大規模開発であることから、住民たちは水質の悪化や湧き水、井戸水への影響を心配している。また、昨年は近隣の人吉市や球磨村が球磨川の氾濫によって大きな被害を出しており、豪雨災害が頻発するなか、乱開発によって土砂災害が誘発されることを懸念している。頭痛やめまい、睡眠障害を引き起こす風力発電の低周波音被害についても、警鐘を鳴らす人は多い。

 

 住民たちは「私たちが悲惨な水俣病から学んだ教訓は、公害の予防原則だ」とし、「環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす恐れがあれば、因果関係が十分に証明されていなくても、事前に規制措置をとるべきだ」と訴えている。

 

鹿児島県 各地で土砂災害を懸念

 

 この水俣市よりももっと大規模な陸上風力発電が計画されているのが、お隣の鹿児島県北薩地域、紫尾山系だ。

 

 薩摩川内、出水、阿久根、さつまの3市1町にまたがる紫尾山系には、電源開発が巨大風車を50基建て、最大総出力を21万5000㌔㍗と見込む。またユーラスエナジーホールディングス(東京)も、25基の風車を建て、総出力10万㌔㍗を見込んでいる。当初はジャパンウインドエンジニアリング(東京)も55基、23万6500㌔㍗の計画を持っていたが、昨年撤退した。

 

 この北薩地域には、紫尾山系の他にも多くの事業者が計画をうち出しているようで、ここでは書き切れない。

 

 紫尾山系の巨大風力発電計画には、周辺の住民が、低周波音による健康被害や、土砂災害を懸念する声をあげている。紫尾山系はその表面を花崗岩が風化した真砂土で広範囲に覆われており、大雨による土砂崩れがこれまでも頻繁に起こってきたからだ。

 

 薩摩川内市の藤川地区コミュニティ協議会は、騒音・低周波音による健康被害や、藤川天神の景観への影響を危惧して、風車の建設中止を求める陳情書を市議会に提出した。地元住民でつくる「紫尾山系の巨大風力発電計画を考える会」は、日本科学者会議鹿児島支部などの協力で4回にわたってシンポジウムを開催し、計画見直しや十分な説明を求める県知事への要請書、県議会への陳情を提出している。

 

 一方、同じ鹿児島県の霧島市では、霧島錦江湾国立公園のど真ん中に山々を切り崩す巨大なメガソーラー計画が持ち上がり、住民たちが反対に立ち上がっている。霧島市議会は2019年、メガソーラー反対の陳情を全会一致で採択した。また同年、霧島神宮、水利組合、自治会、医療施設、介護施設、漁協などが反対の意思表示書を県知事と市長に提出した。

 

 このメガソーラー計画は、霧島神宮に隣接する高低差が250㍍もある広大な急傾斜地に建設するもの。その急傾斜地の135㌶を事業実施区域とし、そのうち七三㌶の森林を伐採し、切り土・盛り土をし平坦地にして約25万枚のソーラーパネルを設置するという。事業者はシフトエナジージャパン(福岡市)で、アメリカの投資会社が親会社だと見られている。

 

 ところが予定地は、急傾斜地であるうえにシラスが上から下に帯状にあるところで、多くが崩壊土砂流出危険地区になっている。

 

 しかも霧島山麓は雨量が非常に多く、霧島川水系はこれまで何度も氾濫を起こしてきた。したがって住民たちは、山を切り崩すことによって高まる土砂災害の危険性(直下に小学校や老人ホームがある)、霧島川の水質が悪化する可能性、霧島神宮を中心とした観光業への打撃などを指摘している。

 

 現在、「霧島のいのちと自然文化を守る会」は、塩田康一・鹿児島県知事に宛てて、事業者から林地開発許可申請が出ても許可しないことを求める署名運動をおこなっている。

 

大分県  地元観光業にも大打撃

 

大分市志生木町のメガソーラー

 こうしたメガソーラーによる自然と生活の破壊に反対する運動は、大分県でも起こっている。

 

 大分県由布市湯布院町の奥座敷、塚原高原は標高700㍍のところにある自然の恵み豊かな高原で、かつて和牛の全国品評会がおこなわれた共進会跡地は20万平方㍍に及ぶ大草原になっている。美しい風景と温泉を求めて国内外から観光客がたくさん訪れるところだ。この大草原にメガソーラー計画が持ち上がった。

 

 事業者は投資会社のファンドクリエーション(東京)。塚原高原の市有地約20万平方㍍と民有地約30万平方㍍を事業実施区域とし、そこに約20万枚のソーラーパネルを敷き詰めるという。

 

 この市有地は、かつて地元の農民が入会地として共同利用してきたが、権利者の高齢化で維持が困難になり、由布市が売却先を探していた。そこにFIT(再エネの固定価格買取制度)ができ、ファンドクリエーションが手を挙げ、市議会は売却案を可決。ところがメガソーラー建設を知った観光業者や住民が猛反対するなか、市は同社に契約解除を求めたが、同社が逆に契約履行を求めて市を提訴すると、市は一転して契約解除を撤回したという経緯がある。

 

 今年3月、同社はメガソーラー建設に着工した。しかしその後、当初の説明とは異なる迷惑な事態が次々に発覚。湯布院塚原高原観光協会など地元の3団体は、建設にともなって災害のリスクが高まるとして、県に現場の地盤や排水施設などを精査するよう求める要望書を提出している。また、住民の有志約30人が建設の差し止めを求める訴えを大分地裁に起こした。

 

 そして、熱海市伊豆山の土石流災害のように、住民たちが危惧する土砂災害が各地で現実のものになっている。

 

 熊本県玉名郡南関町では、8月の大雨によってメガソーラーの建設現場から大量の土砂が農地や用水路、河川に流れ込んで大きな被害を出した。同町や和水町の少なくとも60カ所で水田が埋まるなどし、収穫間近のコメにも影響が出ている。菊池川漁協(山鹿市)は、モズクガニやアユなどが生息する菊池川一帯が数㌔にわたって濁ったとして、県に調査を求めた。

 

 事業者はティーティーエス企画(福岡県飯塚市)とサザンゲート(東京)が設立した南関ソーラーファームで、約40㌶の敷地に出力4万㌔㍗のメガソーラーを計画。県から林地開発許可を得た後、昨年5月に着工した。だがその後も、調整池を設置する防災工事を実施する前に本体工事を始めて県から中止を指導されるなど、1年3カ月の間に県から17回も行政指導を受ける悪質さが暴露された。そのなかで今回の土砂災害が起きた。

 


 大分県大分市志生木町にあるブルーキャピタルマネジメントのBlue Power Oita Shuki発電所(2万6000㌔㍗)でも、ソーラーパネルが山の斜面に大量に配置されているが、雨が地面をえぐって土砂流出が起こっていると調査した人が報告している。

 

 メディアが報道しないなか、住民はバラバラな状態に置かれて全体像はまだわからないが、ここで紹介できなかった地域でも同じ問題に直面した住民たちの行動がたくさん起こっていると予想される。地域や県をこえて結びつき、大規模な住民運動に発展する条件は成熟している。住民生活も自然環境も脅かす巨大風力やメガソーラーの乱開発にストップをかけ、人間にも環境にも優しい小水力発電や地熱発電の導入を検討すべきだし、そもそも電力を大量に浪費する大量生産・大量消費の経済システムそのものを見直すべきだと、活発な論議が起こっている。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。