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コロナ余波で米価の大暴落 採算ラインの1俵2万円割り1万円前後に 政府による生産者支援は不可欠

 新米の収穫時期を迎え、2021年産米の価格暴落が全国的な問題となっている。新型コロナウイルスの影響で民間在庫、とくに外食向けなどの業務用米が過剰となっていることから、概算金の支払いが下落しており、離農者の増加に拍車をかけることが懸念されている。2014年産以来の暴落となった地域も多く、食料自給率が40%を切るなかで唯一高い自給率を維持してきた主食のコメ生産すら維持できなくなるとの危機感が全国的に高まっている。支援策を検討する自治体も出ているが、なにより過剰分の買い上げなど、政府による価格暴落防止策を求める声が上がっている。

 

脅かされる国の食糧安保

 

 中山間地域の多い山口県は、後継者不足で農家の減少が止まらないことから、もともと主食用米が不足している。昨年はウンカ被害で収穫量が少なかったため、今年6月末の民間在庫量は7万8000㌧(玄米)と、対前年同月比で45・2%マイナスとなっており、県内で考えた場合、むしろ供給不足が続いている。しかし全国的な米価下落を受けて概算金はどの銘柄も前年比でマイナスとなった。

 

 「ひとめぼれ」「ヒノヒカリ」「きぬむすめ」「晴るる」「恋の予感」は一等米が60㌔㌘当り1万20円(前年産1万1940円)と1920円のマイナスとなった。概算金が発表される前には「今年は1万円を割り込むのではないか」との予測も流れたが、一等米についてはぎりぎり1万円をこえる価格となった。二等米は8880円(同1万1160円)と前年比で2280円減、三等米は7860円(同1万140円)で同じく2280円の引き下げとなっている。「コシヒカリ」は若干高いものの、一等米のなかでももっとも価格が高いタンパク7.0%未満が1万1340円で、前年の1万3620円から2280円のマイナスとなっている。

 

 全国的に見ると、米どころの東北地方や業務用米の出荷が多い地域などでの下落幅の大きさが目立っている。

 

 北海道では主力の「ななつぼし」が前年比2200円減の60㌔当り1万1000円と約2割引き下げとなり、米価が暴落した2014年(1万円)並の低水準となった。青森県は「つがるロマン」や「まっしぐら」の一等米60㌔当りで前年を3400円下回る過去最大の下げ幅が示されている。岩手県は作付面積の65%を占める主力の「ひとめぼれ」が2300円引き下げとなり1万円に。秋田県も2年連続の引き下げとなり、主力の「あきたこまち」は過去10年で3番目に安い1万600円になった。

 

 宮城県は主力の「ひとめぼれ」一等米が前年より3100円(24・6%)低い9500円と1万円を割り込んだほか、主力の全5品種が下落し、デビューして4年目となるブランド米「だて正夢」は前年より4300円(30・6%)の引き下げとなっている。福島県では主要銘柄で2600~3200円の減額となり、会津産コシヒカリを除く各銘柄が1万円割れとなっている。山形県も主力の「はえぬき」一等米が2200円低い1万円となっている。

 

 全農が集荷する主食用米のうち7~8割が外食産業やコンビニ向けの業務用として出荷している栃木県は影響が大きく、コシヒカリの一等米が60㌔9000円と前年比27%(3400円)下落したほか、JAが売り出している「とちぎの星」が41%、「あさひの夢」が40%下落し、ともに7000円となるなど、深刻な影響となっている。

 

消費減り在庫過剰に  備蓄米として買上げを

 

 今年産米の概算金の暴落の原因は、コロナ禍の影響による「在庫過剰」だ。農林水産省の統計によると、国内の主食用米の需要量は20年6月までの1年間で前年より21万㌧減って714万㌧となり、21年6月までの1年間ではさらに10万㌧減って704万㌧となっている。6月末時点の主食用米の民間在庫は前年同期比で6%増の219万㌧となり、米価に影響を与えるといわれる200万㌧をこえた。

 

 また、全国農業協同組合中央会(JA全中)は今年3月末、来年6月末にはコメの民間在庫量が253万㌧にのぼると試算している。昨年から新型コロナパンデミックによる外出自粛やインバウンドの減少がコメ消費に大きな影響を及ぼすことが指摘され、各地方議会から国会に対し、米価下落に歯止めをかける施策を求める意見書などがあいついで提出されてきた。政府が備蓄米として買い上げ、子ども食堂や生活困窮者、学生などの食料支援に回すことで生産農家を支援する提案をする意見書も提出されている。

 

 9月24日に農林水産省前で過剰米の政府買い上げなどコメ対策を求めるオンライン集会を開催した農民運動全国連合会(農民連)は、2020年のコメの年間消費量は一人当り2・5㌔減少したが、1年間に2㌔以上減少したのはリーマン・ショック時の2・4㌔以来なく、「コロナ禍で職を失い食べるに食べられない人々が広範に生まれているこの矛盾は一刻も放置できない課題」とし、過剰在庫の政府買いとり、買い上げたコメを生活困窮者や学生などへの食料支援で活用すること、国内消費に必要のないミニマム・アクセス米の輸入停止、国産米の需給状況に応じた数量調整の実施を要請している。

 

のしかかる生産費 苦しさ増す小規模農家

 

 山口県内の農家の一人は、「農薬や肥料代がかかるほか、法人化していない個人の農家の場合、機械代がかかる。うちの場合は籾摺(もみす)りを委託しているので、その経費もかかる。一俵1万2000円でも赤字なので、さらに2000円程度下がると、農協への出荷だけでコメづくりを維持するのは難しい」と話す。直接取引の場合、一俵1万5000~1万6000円で販売する場合が多いが、米価全体が下がると、やはり同じ価格で売っていいものか迷うという。

 

 大規模化や農地集約が進行しているとはいえ、農家一戸当りの経営耕地面積は全国平均で1・5㌶ほどだ。農水省が公表している60㌔㌘当りの生産費(令和元年産)を見ると、平均に近い1・7㌶の場合、1万6221円かかっている【グラフ参照】。2019年におこなわれた農業経営統計調査では、中山間地域の多い中国地方の一俵(60㌔㌘)当りの生産費は他の地域より高い2万709円だ。そもそもが生産費に見合わない価格なのである。

 

 主食の生産を国の施策として保護することは、もっとも重要な安全保障だ。日本も戦後は食糧管理法(食管法)にもとづき、国が生産者から生産に見合う米価で買い上げ、消費者には安い価格で販売するという仕組みをとり、生産者には生産費に見合う一俵2万円が支払われてきた。だが、政府は財政負担を削減するために生産者米価を切り下げることに奔走し、1万8000円台まで引き下げてきた経緯がある。

 

 それが急落を始めたのは93年の「冷夏による凶作」を理由にした韓国やタイからの緊急輸入、同年にガット・ウルグアイラウンドでコメの輸入自由化を認め、その2年後に食管法を廃止し、米価に市場原理を導入したことだった。

 

 農協が農家のコメを集荷し、業者に販売する制度にかわり、米価はスーパーの店頭価格や量販店、外食産業との相対取引価格が基準となった。瞬く間に米価は下落し、一俵1万5000円台となり、現状では一俵1万2000~1万3000円が相場となっている。近年はコメ余りが叫ばれ、減反政策がとられてきたが、2018年には減反政策も廃止し、国が需給調整からも手を引いて農協任せ、民間任せの体制へと移行している。

 

 このなかで、山口県内や下関市内でも生産者の減少が続き、近年は減反政策(生産目標数量)以上に農業をやめる人が後を絶たず、水田の減少と耕作放棄地の増加が深刻化してきた。目前は「過剰」が問題となっているが、今年の米価暴落が小規模農家の撤退に拍車をかけるだけでなく、国の政策に従って大規模化してきた農家にもっとも打撃を与えることが指摘されており、長い目で見たときにはコメ不足となることが、現実的な問題として指摘され始めている。

 

輸入依存国の脆弱さ 生産者減れば食料危機に

 

 世界的に見ると、コロナ禍の影響によって昨年末ごろから食料品価格の急激な上昇が問題となっており、食肉、乳製品、穀物、油脂、砂糖のいずれの品目でも大きく上昇している。悪天候や各国政府の供給量確保などの動きが農産物の価格を押し上げているといわれ、なかでも油脂はマレーシアで生産量が減少するとの懸念や、菜種油の供給ひっ迫にEUでの需要活性化が加わって大幅に値上がりし、その他の価格にも影響を及ぼしている。「食料は輸入すればいい」という時代はすでに過ぎている。このなかで、主食までも他国に依存した国は、生産国の不作や紛争などの情勢によって、食糧不足、高騰、さらには飢餓に直面する危険性が高まる。唯一、自給可能なコメの危機に対し、政府に抜本的な政策の転換を求める声が高まっている。

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