7月の静岡県熱海市伊豆山の土石流災害以後、全国各地のメガソーラーや風力発電建設に直面している住民のなかから、「熱海の悲劇をくり返さないために、再エネの乱開発にストップをかけよう」との声が高まっている。全国再エネ問題連絡会共同代表の山口雅之氏は、7日に開かれた内閣府規制改革会議タスクフォースに招かれ、各地の再エネの現場でなにが起こっているのか、国民の暮らしと命を守るためになにをすべきかを訴えた。本紙は山口氏が準備した文書や資料をもとに内容を補足して発言内容を掲載することにした。なお、この日のタスクフォースをオンラインで視聴した各地の住民からは、住民の真剣な訴えを経産省、環境省、林野庁の役人が受け止めようとしていない、タスクフォースの4人の委員も事業者寄りの人物ばかりで公平性に欠ける、など厳しい意見が数多く寄せられている。
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私は再エネ否定論者ではない。しかし再エネの現状を見ると、全国各地でメガソーラーや風力発電の建設に反対する声がわきおこっている。私たちが立ち上げた全国再エネ問題連絡会に、わずか2カ月で全国の30をこえる団体から参加の申し込みをもらっている。おそらく全国で問題をかかえ、苦しんでいる声なき声まで含めれば膨大な数になると思う。なにが原因なのか、全国の事例を説明しながらそれを明らかにし、今後どうすればいいのかをお伝えしたい。
メガソーラー 悪質事業者の違法開発
再エネ政策の陰で国民は被害に怯えている。まず、悪質事業者によるメガソーラー違法開発の実態について見てみたい。
これは山梨県甲斐市の事例だ。地元住民の方の案内のもと、先月視察に行ってきた。山梨県甲斐市菖蒲沢の山では、複数の事業者によってメガソーラー開発が進んでいる。山全体がメガソーラーで覆われている。
これが菖蒲沢の第三太陽光発電所だ。山の尾根の部分から両サイドにソーラーパネルが敷き詰められている【写真①】。東京・赤坂に本社を置くブルーキャピタルマネジメントという会社が山梨県から林地開発許可を取得し、開発を始めた。約10㌶の土地に1万1990㌔㍗の太陽光発電所を建設するというもので、規模は私たちが住んでいる静岡県田方郡函南町のメガソーラー計画の3分の1程度だ。ブルーキャピタルはメガソーラー開発を全国45カ所でおこない、うち稼働中4施設、売却済み16施設、建設中5施設でそのうち3施設が県の中止命令等を受けている。
あとで詳しく説明するが、ブルーキャピタルは調整池の手抜き工事をやっており、それは林地開発の許可条件違反だった。しかし、中部電力の子会社であるトーエネック(名古屋市)がこの許可条件違反の物件の引き渡しを受けて、売電事業を開始した。FIT(再エネの固定価格買取制度)のIDを取得しているのはトーエネックだ。それが山梨県の現場確認によって発覚し、県はブルーキャピタル社に復旧工事を命令している。
現地に行って見てみると、ソーラーパネルの右下に調整池(大雨のさい、水を一時的に貯めて下流部の氾濫を防ぐ)がつくられているが、まったく機能していない【写真②】。調整池はブロックを積んだだけ、しかもブロックがずれた状態で積み上がっており、おまけに基礎部分が崩落を起こしている。使っているのはティーロードというブロックだが、メーカーに確認すると「これは道路の擁壁に使うもので、調整池には絶対に使わない」という回答を得た。しかもソーラーパネルの位置と調整池の位置関係から、調整池に雨水が入らずに流れている痕跡もあった。
すでに現地では、法面崩壊が至るところで発生していた。工事関係者の話では、一万立方㍍の土砂が流出し、残土が谷に放置されているという。
ここで問題だと思うのは、トーエネックとブルーキャピタルが売買契約を結んでいることだ。なぜ請負契約ではないのか、それは行政指導逃れではないのか、と私たちは見ている。FITのIDを持っているトーエネックは、売買契約で太陽光発電所をただ買いとっただけの立場なので、県は林地開発許可を与えたブルーキャピタルは指導できるが、トーエネックを指導できない。
つまり再エネが投資業になっており、現場の仕事はブルーキャピタルなどにやらせ、後にいる中部電力などの大企業やファンドが投資するだけで金もうけをする構図がある。
地域住民から災害時の影響を危惧する意見が出されるなか、8月末に山梨県知事がトーエネックに対して防災対策を含めてすみやかに工事を完了させるよう指導した。県に確認すると「これは法的根拠がない」という。林地開発許可をとったのはブルーキャピタルだからだ。山梨県は昨年10月、現地確認の結果、複数の調整池が申請と異なる不適切な施設だとして申請どおりの工事をするよう指導していたが、事業者は1年もたってようやく9月7日から復旧工事を始めるといっている。
大分県杵築市でも、同じブルーキャピタルがメガソーラー開発を進め、地域でたいへんな問題が起こっている。同社の大分杵築第一発電所の工事の影響では、八坂川に濁水が出ていると地元山香町の水利組合から県に通報があり、県が調べてみると、申請内容に反して残置森林を9000立方㍍以上勝手に伐採していたこと、またそこに産業廃棄物を投棄していたことがわかった。それで大分県は、林地開発許可条件違反でメガソーラー開発の中止と、土砂流出が発生しないようただちに応急措置工事をおこなえと指導した。
また、大分杵築第二発電所の工事でも、地元の農民から「水田に土砂が流入した。工事を止めてもらいたい」と苦情があり、県が現地確認をすると、すべての調整池が未完成だった。それで大分県は林地開発違反行為として中止指示を出した。
静岡県函南町 土石流災害招く危険性
次に、静岡県函南町の軽井沢メガソーラー建設計画に私たちが反対する理由についてのべる。
静岡県のハザードマップで見ると、伊豆半島全域は海底火山が隆起した山で、火山灰でできている土地なので、とても雨に弱い。土石流危険渓流や急傾斜地崩壊危険箇所などに指定されている場所も多い。函南町の軽井沢メガソーラー計画予定地から東に約4㌔行くと熱海市伊豆山で、ここで7月に土石流災害が発生した。函南町と伊豆山は地形、地質が酷似している。そのような場所の約65㌶(東京ドーム13個分)に、ブルーキャピタル・トーエネックが10万枚以上のソーラーパネルを敷き詰めて売電しようとしている。
深刻なのは、山の中腹に2万4000㌧容量(中学校のプール約66杯分)の調整池をつくろうとしていることだ【写真③】。その直下に丹那沢の砂防指定地がある。そしてその下には丹那小学校や幼稚園、集落がある。ここが2万4000㌧の調整池が崩れ落ちたときにいったいどうなるかは、いわずもがなだ。
そしてこの調整池の直下には活断層が走っていることを、国土地理院の断層地図で確認できる。地質学者の塩坂邦雄先生にも複数回、現地調査をしてもらって、「直下には間違いなく活断層があり、こういうところに巨大な建造物をつくることなど論外だ」といわれた。
計画予定地のそばでは、2019年10月の台風19号で数カ所の太陽光発電所が崩落事故を起こしている。軽井沢メガソーラー予定地から西方1650㍍のところに丹那奥中野ソーラー発電所(約1000㌔㍗)があるが、それが土砂崩れによって崩落した。軽井沢メガソーラーはその100倍の面積だ。
各地で崩落や火災 152市町村で規制条例
全国でもメガソーラーにかかわってさまざまな問題が起こっている。
鹿児島県霧島市霧島町では、2019年の九州南部豪雨でメガソーラーが崩壊した。この年、九州南部は記録的な豪雨に見舞われ、6月28日の降り始めからの総雨量は最大で1000㍉をこえた。各地で河川の氾濫や土砂崩れが起き、9市2町の約50万世帯100万人に避難指示が発令された。
霧島町にあるメガソーラー(出力約4万1000㌔㍗)は、シラス台地の上に建設されていたが、この豪雨によって敷地内の地盤が浸食され、陥没や法面の崩壊を起こした。林地開発許可を取得し、法令の安全基準にしたがって施工したはずが、大規模な崩落となり、もし建設地の直下に民家があったら大惨事になっていたと語られている。地域住民は今回のような災害が起こることを心配して、メガソーラー建設に反対していた。同発電所の設計・施工と運営・保守は東京エネシスが担当している。
兵庫県姫路市林田町では、2018年7月の西日本豪雨のさい、傾斜地に設置されたソーラーパネルが約3600平方㍍にわたって崩壊した【写真④】。大雨で地盤が幅約60㍍、長さ約60㍍にわたって崩れた。真下には通勤通学で使われている国道29号線が走っている。事業者はグッドフェローズ(東京)。
山林火災となった事例もある。山梨県北杜(ほくと)市では昨年12月15日午後1時半ごろ、住民から消防に「太陽光パネルの下の草が燃えている」と通報があった。火はおりからの強風にあおられて山林に延焼、200世帯に避難勧告が出されるまでになった。栃木県足利市では今年2月、山火事のなかでもソーラーパネルが発電を続け、感電の恐れがあるため消火活動は困難をきわめた【写真⑤】。
これは最近の事例だが、熊本県玉名郡南関町では8月の大雨によってメガソーラーの建設現場から大量の土砂が農地や用水路、河川に流れ込み、大きな被害を出した。南関町や和水町の少なくとも60カ所で水田が埋まるなどし、収穫間近のコメにも影響が出ている。
事業者は南関ソーラーファーム(福岡県飯塚市)で、南関町小原の約40㌶の土地に出力4万㌔㍗のメガソーラーを計画し、県から林地開発許可を得た後、去年9月に着工した。
この工事をめぐっても、事業者の違法行為がたびたび明らかになっている。南関ソーラーファームは昨年5月、着手届けを提出しないまま造成工事を始め、県が中止を指導した。今年7月にも調整池を設置する防災工事をする前に本体工事を始めたことから、県が本体工事の中止を指導していた。そのさなかの8月の大雨による土砂災害となった。県は1年3カ月の間に17回もの行政指導をおこなっている。
こうした被害があいついでいることから、自治体がメガソーラー規制条例を制定し始めた。今年7月の時点で、4都道府県と152市町村で規制条例がつくられている。そのことは、今の国の法律がいかに不備であるかを示していると思う。
悪質業者に資金流入 法改正による規制必須
以上からわかる再エネ事業者の実態だが、田舎はご存じのとおり高齢化が進み、後継ぎもおらず、田畑や山を持っていること自体を負担に感じている方も多くいる。事業者は、地主さえ土地を手放すことに同意してもらえれば、他の住民は地主に気遣いをして「反対の声を出しづらくなる」ことを熟知している。地域の住民には、計画が相当進んだ段階になってから説明会を開催し、事業はもう止めることはできない段階にあると思いこませ、住民にあきらめを抱かせる手口をとっている。
一方、事業者は縦割り行政の限界を熟知し、巧妙な話術や事実と異なる虚偽の文書を使い、きわめて狡猾に行政の担当職員をだます。たとえば奈良県平群町のメガソーラー建設をめぐって林地開発許可申請に虚偽があったことを、奈良県知事も「業者に職員がだまされた」といっている。
また事業者は、反対する住民運動の代表者を狙って誹謗中傷をおこなったり、脅迫をしたり、反対運動に対してスラップ訴訟を起こしたりしている。私自身も事業者から脅迫されている。
昔、「サラ金地獄」といわれた時代があったが、今は「再エネ地獄」といえるのではないかと思っている。その構図が酷似している。いずれも法や制度の不備を突き、悪質な事業者が次々生まれ、国民に多くの被害をもたらすが、その背景にメガバンクや大企業、ファンドなどからの資金が悪質事業者に流れている。
このような現状を改善するためには、少なくとも以下の法改正によって規制を強化する必要があると思う。
第一に、森林法第一〇条の二の改正。林地開発許可そのものに問題がある。同条では許可条件として、「土砂災害のおそれ」「水害のおそれ」「水源かん養への支障」「環境を著しく悪化させるおそれ」のいずれにも該当しないと認めるときは、これを許可しなければならない(義務規定)となっているところに問題がある。さらに許可要件を審査する基準が森林法だけの視点でつくられており、土砂災害等の防止を目的とする砂防法、地滑り法、急傾斜地法などにもとづく危険情報が審査基準に反映されていない。
また、巨大台風や記録的豪雨が毎年のように発生しているが、この気象に審査基準が即していない。
加えて同法には、許可の取り消し規定(条文)がなく、事業者は「許可さえとれればこちらのもの」となり、違法開発を誘発している。許可の取り消し条文をつくっていただきたい。
第二に、環境アセス法の問題点。同法には事業者に対する行政罰も刑事罰もなく、セレモニーのような法令でしかない。その点を事業者は熟知している。同法に実効性を持たせるよう、罰則等の検討をお願いしたい。
第三に、FIT法の問題点。この制度は、私たちの賦課金で成り立つ国の制度であるにもかかわらず、投機の対象として、高額転売が横行している。それが悪質事業者を生み育てる温床になっているのではないか。売電権の転売を制限し、また一日も早く高額買取制度を廃止して、再エネ地獄から国民の命と財産を守っていただきたい。
もう一つは、被害者救済制度について。現在の法律では民法以外に、被害者保護の観点から、自賠責法、原子力損害賠償法、犯罪被害者等基本法など、救済制度が法的に定められている。しかし、森林開発に関しては、熱海市伊豆山で見られたように甚大な被害が住民に及んだ場合でも、現行法では国や自治体が法的救済に対処できないのが実情だ。法整備をお願いしたい。
最後に、国民への情報公開がもっと徹底されるようにしてほしい。二酸化炭素を吸収する森林を大規模に破壊する事業は、地球温暖化防止、カーボンニュートラルに逆行するものと思う。国民の命と安全を守るために、以上の点をぜひ検討していただきたい。