「香害」によって空気が汚染され、健康被害が広がっている。そんな現状に対して、被害者たちが「香害は公害だ」と声をあげた。深刻な空気汚染への理解を深め、更なる被害を食い止めたいと、全国組織の〈カナリア・ネットワーク全国〉を結成した。
回答者の8割が頭痛、吐き気などの健康被害
「香害」とは、柔軟剤や香り付き合成洗剤、除菌・消臭剤などに含まれる化学物質によって引き起こされる健康被害のこと。その症状は、頭痛、吐き気、呼吸困難など多岐にわたる。
2019年12月下旬~2020年3月31日までの3カ月間、「香害をなくす連絡会」(日本消費者連盟など7団体)が「香り被害についてのアンケート」(Web版と紙版)を行った。すると、回収数は9030人に上り、回答者の約8割(7000人以上)が、頭痛や吐き気などの健康被害を受けていることがわかった。
女性は85%(6898人)、男性は56%(1317人)。特に若い世代の被害者が多く、30代が87%、40代が83%、60代以上が66%だった。
「原因となった家庭用品」(複数回答)は、柔軟剤(86%)、香り付き合成洗剤(74%)、香水(67%)、除菌・消臭剤(57%)、制汗剤(43%)、アロマ(28%)。
「具体的な症状」は、頭痛(67%)、吐き気(64%)、思考力低下(33%)、咳(32%)、疲労感(28%)、めまい(25%)。
「被害をうけた場所」は、乗り物の中(73%)、店(62%)、公共施設(53%)、隣家から洗濯物のにおい(47%)、職場(44%)。
香害で「退職・休職・不登校」の経験がある人は約2割(19%)にも上っていた。
最近の柔軟剤などは、より香りを長持ちさせるために香料をマイクロカプセル(一個は花粉位の大きさで、壊れるとPM2・5サイズ)に閉じ込めた商品も多い。マイクロカプセルは残滓がマイクロプラスチックとなって空中をさまよい、海中にも体積する。環境汚染分野で、今後注目すべき問題ともなっている。
全国的な『かたまり』としてつながりあい、情報を共有する場を
これらの現状を変えたいと、香害被害者によって結成されたのが全国組織〈カナリア・ネットワーク全国〉だ。共同代表は、青山和子さんと斉藤吉広さん。
青山さんは、2000年にシックハウス症候群から化学物質過敏症(CS)を発症した人で、2016年から「CS憩いの仲間」を主宰している。
斉藤さんは社会学者で、元稚内北星学園大学学長。2021年に行った学長最終講義『公害としての「香害」』は被害者から大きな反響を呼んだ。
青山さんは、「2015年あたりから発症者が低年齢化、かつ増加のスピードが速くなっている。全国に点在している被害者・発症者をつないで、その声が面になることで、市井の研究者・医学者にその現実を周知していただくようお力添えいただきたい」。
斉藤さんは、「重篤な症状を抱えている人ほど、表に出られなくて公に事実を訴えることが難しい。まず全国的な『かたまり』としてつながりあい、情報を共有する場をつくる。私たちの存在と訴えを広く国民に訴え、『常識』や『日常』への反省を促したい」という。
空気の番人を集め、すべての人の空気環境を守るために努めたい
人間の一日の摂取量は大体、食料が2㌔㌘、水は2㍑。それに対して空気は15㌔だ。食料は食べなくても大体一週間は生きられる。水も約3日(72時間)飲まないでも生きられると言われている。しかし、空気は10分吸わないでいれば生きられない。それほど、空気は生存にとって大事なものだ。
「空気の番人を集めて、すべての人の空気環境を守るために努めたい」と、同会は訴えている。
賛同者には長年、化学物質過敏症患者を診てきた宮田幹夫さん(そよ風クリニック院長、北里大学名誉教授)や渡辺一彦さん(渡辺一彦小児科医院理事長)らが名を連ねる。その他、「マイクロプラスチックによる海洋汚染」研究の第一人者である高田秀重さん(東京農工大学農学研究院)など、各界の多彩な専門家たちが多数賛同し、応援メッセージを寄せている。
渡辺一彦さんのメッセージは次のようなものだ。
「香害による健康被害『香害』は、水俣病、アスベスト、塵肺以上に、国民全体に及ぶ『公害』であり、しかも深刻な例が集積しています。行政や企業の動向を見ていると早急な解決のためには、患者さんの生存権、健康権、就労権、就学権をかけた集団訴訟しかないと考えています」
同会では、9月30日まで、ホームページ作成などの活動資金をクラウドファンディングで募っている(クラウドファンディングサイトはこちら)。
こしょう・ひろえ (著書に『マイクロカプセル香害』(ジャパンマシニスト社)、『香害から身を守る』(鳥影社)、『ALSが治っている』(鳥影社)など)