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東日本豪雨災害調査報告 宮城県丸森町の山を歩いてわかったこと 自伐型林業推進協会代表理事 中嶋健造

 宮城県丸森町では2019年10月12日の台風19号で、11人の死者や行方不明者をはじめ、住む家を失った人々など多くの被災者が出た。その後も豪雨による土砂災害、土石流災害は毎年のように全国各地を襲っている。そこで、丸森町の被災の教訓、とりわけ政府の成長型林業にもとづく皆伐の是非を検証し、災害に強い森林づくりをどのようにおこなっていくかを深めるため、7月22日、丸森町で「丸森の山を歩いてわかったこと」と題する調査報告会が開かれた。主催はNPO法人あぶくまの里山を守る会(丸森町)とNPO法人自伐型林業推進協会(東京)。この報告会のなかから、自伐型林業推進協会代表理事・中嶋健造氏の講演を紹介する。

 

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現行の林業。作業道(白い線)を作り、皆伐して、はげ山にしている

 今政府が進めている林業は、標準伐期を50年とし、植えて50年たつと皆伐し再造林して循環させるというものだ。私は林業に就いてから、これについて違和感を持ってきた。

 

 まず、林業は補助金がないとできなくなっている(経済的に破綻している)こと、また生き物である木を大型機械を入れて物を扱うように大量伐採・大量生産していることだ。大規模な伐採によって災害が起きるのではないかという不安もあった。また、日本の木は質がいいのに、50年で伐採すれば今後、良質材が生産できなくなるんじゃないかという思いもあった。

 

 このまま突き進むと日本の森林はおかしくなるのではないか…。その後、災害が全国で本当に起き始めた。そうしたとき丸森町の方から連絡をいただき、とくに被害が大きかった廻倉地区の調査を始めた。これまでに廻倉はほぼ全箇所を歩いた。また、去年7月に豪雨災害が起きた熊本県の球磨川流域も同時進行で調査してきた。

 

土砂災害の要因 皆伐と作業道と真砂土

 

 まず一般論として、土砂災害が発生する原因には①雨(水)、②土地、③開発・森林伐採(人為的な要因)の三つがある。ところが報道も含め、すべてを雨のせいにする場合が多い。丸森町の一つの大きな特徴は、地質がもろく崩れやすい真砂土(まさど)であることだが、それが顧みられることが少ない。

 

 山腹の崩壊地に着目してみた。崩壊の種類は四つに分類できる。まず第一に、皆伐地(再造林地も含む)の斜面崩壊。斜面崩壊というのは、木がなくなると雨滴が地肌を直接打ち、それが谷に集まってくる。すると崩壊する。木がないので、5年以上たつと土を抑える力がなくなるからだ。斜面崩壊は皆伐後5年ぐらいから起こり始める。斜面崩壊が一番多いのは10年から15年の間だ。

 

 第二に皆伐・間伐のための作業道に起因する崩壊。これが最近多い。それは皆伐した直後から起きる。第三に林道や公道起因の崩壊だ。

 


 第四が、雨が降って弱い斜面が自然に崩壊する自然崩壊である。未整備林の崩壊もここに入る。

 

 丸森町の廻倉地区を見てみると、全エリアが真砂土だ。崩壊箇所を黄色い丸(紙面では濃い線)で囲んでみる。これに皆伐された箇所のオレンジの丸(薄い線)を加えるとほぼ重なっている【図①参照】。一方、未整備林・放置林はまったく崩れていない。よく林野庁や学者は未整備林・放置林が崩れるというが、実際はそうではなかった。

 

 そして崩壊した皆伐地を詳しく見てみると、東側の広葉樹皆伐地では、皆伐後約8年がたっている。西側は人工林皆伐地で、再造林後、上は10年以下で下は15年だという。

 

 ここまでで次のことがわかる。崩壊箇所は皆伐地に集中している。スギの人工林か広葉樹林かに関係なく崩壊している。崩壊は皆伐および再造林後15年以下のところで起きている。一方、未整備林および放置林の20年以上の樹木で覆われている森は、同じ真砂土であり、500㍉以上の雨を受けたのに、崩壊がほとんどなかった。

 

 廻倉地区を回って見ると次のことがわかった。廻倉では崩壊が54カ所も起こっているが、そのうち1カ所だけが自然崩壊で、あとは林業起因の崩壊で、それが全体の98%だった【表②参照】。また廻倉では、先日の熱海級の崩壊が2カ所も起こっていた。起きたのはすべて皆伐地だ。

 

 ところが廻倉地区は山が緩やかで、土砂災害の危険地域に指定されていなかった。どういうことかというと、皆伐された瞬間から危険地域に変わってしまったが、それに気づかなかったということだ。

 

 次に熊本県の球磨川を見てみると、球磨村のなかには崩壊箇所が183カ所あり、そのうち皆伐地の斜面崩壊82カ所、作業道起因の崩壊80カ所、林業・公道起因の崩壊10カ所で、これをあわせると94%だった。そのなかで熱海級の崩壊は20カ所あった。

 

 熊本県の八代も調べたが、崩壊箇所の53カ所中、皆伐地の斜面崩壊13カ所、作業道起因の崩壊28カ所、林道・公道起因の崩壊10カ所で、あわせると96%。ほぼ同じ結果だった。

 

 だから、最近の災害は「林業災害」といっても過言ではない状況になっている。豪雨というよりは、人為的な要因の方が大きい。丸森町の場合、真砂土と皆伐と幅広作業道の三つの要素が土砂災害を激甚化させた。球磨川もそうだ。逆にいえば、真砂土でも「皆伐しない林業」「壊れない道づくり」に転換すれば土砂災害を防げる可能性大だということだ。

 

災害防止する林業  大量生産から多間伐へ

 

 したがって土砂災害を防止するには、①20年以上の成木が維持される林業(多間伐施業)、②使い続けられる「壊れない作業道」を敷設する林業――が必要だ。この二つを担保する林業こそ自伐型林業である。

 

 最近、自伐型林業をおこなっている地域が西日本豪雨にあった。鳥取県智頭町は500㍉の豪雨だった。20数人の自伐型林業者がいたが、彼らの現場は1カ所も崩壊がなかった。高知県佐川町では1100㍉の雨が降ったが、30人の自伐型林業者の現場も崩壊なしだった。

 

 現行の林業は、生産量重視型、大規模集約型、短伐期皆伐施業で大量に伐採するものだ。一方、自伐型林業は、環境保全型、小規模分散型、長伐期多間伐施業だ。残念ながら国は自伐型林業に予算を出さないが、県や市町村に補助金を創設してもらいながら各地に広げている。

 

 自伐型林業とは、森林経営・管理・施業を山林所有者みずからがおこなう。1人50㌶程度の山を持ち、年間5㌶間伐し、10年周期で長期にわたり間伐をくり返す。これができると、毎年300~500万円の収入を得ることができる。良好な森、崩れない森でないと収入が上がらないので、環境保全を担保できる持続的・永続的な経営だといえる。

 

 現在、政府や林野庁が推奨している林業は標準伐期50年で、50年で皆伐し再造林するというものだ。しかし、これでは50年待たないと伐採できない。私は林業の継続ではなく分断だといっている。しかも生産量重視で大量生産をめざし、大型高性能林業機械を導入するため幅広の作業道が敷設される。この方向に舵を切ったのが、平成20年、民主党政権のときだ。

 

 このやり方は、まず大きな機械を入れて大量に間伐する。間伐でも生産量が多い。そして10年後には作業道をつくり、皆伐して禿げ山にしている。

 

 一方自伐型林業は、植えてからずっと間伐する。奈良県吉野地区では、若木を植えてから200年以上も間伐を続けている。面積当たりの質(良質材)と量を持続的に増大させることを重視した、長期視点の多間伐施業を実施している。

 

 自伐型の作業道は幅2・5㍍以下で、使い続けられる道だ(現在の作業道は一回しか使わない)。なぜ狭いかというと、大きい作業道をつくると風が入り、風倒木の原因になるからだ。また伐りすぎて光が入りすぎると土壌が乾燥し、木が生長しなくなるし、大きい道は土砂崩壊の危険度も高めるからだ。

 

 そして自伐型の場合、間伐しても木がたくさん残っている。だから、皆伐を前提にした間伐と、間伐をくり返す多間伐施業の間伐はまったく別物だ。道の入れ方も違うし、伐り方も選木の仕方も違う。徳島県には、6回の間伐がくり返された後も1㌶当たり1100立方㍍の蓄積量を持つ約80年の森がある。今の普通の森の蓄積量は、1㌶当たり300~400立方㍍だ。

 

 現行の林業(標準伐期50年の皆伐・再造林施業)はすでに破綻した林業だ。このやり方は昭和40年頃に確立した。当時は材価が高く、スギ原木が1立方㍍当たり4万円(1980年当時)もしてもうかった。ところが現在は4分の1に下がり、伐出コストも出なくなっている。

 

 しかし林野庁は「50年皆伐・再造林」の手法は変えず、大規模化・生産性向上による成長型林業で対処しようとした。だが4分の1に下落したもとでは焼け石に水で、生産量が低いうえに大型機械のコストがかさむため、補助金を上げていくことしかできなくなった。おまけに災害が頻発し始めた。

 

 一方、自伐型林業・多間伐施業は木の成長量をこえない間伐生産(毎年2割以下の間伐)だから、100年、200年先には蓄積量は上がっていく。50年で皆伐する場合は生産量が1㌶当たり400立方㍍だが、奈良県吉野地区の多間伐施業をおこなっている200年の森では、1㌶当たり約1500立方㍍(100~120本)の蓄積量があり、その1本が2年前に600万円で売れた。木の質が高い(A材は70年以降)ので単価も高い。補助金に頼らない完全自立経営に移行できる可能性がある。

 

全国で土砂災害多発  成長型林業が生む弊害

 

 最後に、生産量重視の皆伐はなぜ土砂災害を招くかについてのべる。

 

 皆伐すると100%の雨が地肌を打ち、斜面崩壊が起こる。最近では作業道の崩壊が頻繁に起こっている。丸森町も崩壊したのは皆伐地だったし、2016年の岩手県岩泉の豪雨災害のときもそうだった。

 

 2017年の九州北部豪雨にあった福岡県朝倉市を調査したが、崩壊箇所の2割が皆伐地の斜面崩壊で、8割が皆伐するための作業道起因の崩壊だった。

 

 鬼怒川決壊も、栃木県が毎年800㌶も皆伐するといい出して、皆伐を始めた直後に起こったそうだ。2019年の台風19号では、関東平野の皆伐が多かった場所、とくに久慈川や那珂川の流域で災害がひどかった。

 

 脆弱な土質や地質地帯での皆伐は、確実に土砂災害を招く。中央構造線の北側には真砂土の多い脆弱な土質がよく見られる。丸森町も岩手県岩泉もそうだが、真砂土エリアでは皆伐と幅広作業道づくりをやってはいけない、そうでない施業に切り替えるべきだと思っている。

 

 また、上流域で皆伐が多いと、下流の河床が上昇する。河床が上がると堤防が低くなったのと同じで、洪水時に越水しやすくなり大災害に直結する。西日本豪雨災害後、鳥取県智頭町では河床が2㍍以上上がったという。ここも真砂土だった。


 さらに、皆伐後に再造林しても土砂流出は起こる。「植林すれば土砂流出は起きない」というのはウソだ。20年以上の木がないとだめなのだ。

 

 次に現行林業の作業道崩壊について【図3参照】。要因の一つは法面崩壊だ。作業道は山側を切って(切り土)路肩に盛る(盛り土)。これまでの例では、道幅が広いために切り土が高くなり、土圧に絶えられなくなって崩壊が頻繁に起こっている。切り土面崩壊が大きいと車道までなくなる場合がある。

 

 第二に路肩(盛り土)崩壊。雨が降ると盛り土が重くなり亀裂が入る。そこに路肩から流れてきた水が入り込み、地山の一部を削りながら盛り土が崩壊する。

 

 第三に、谷を渡る作業道の崩壊。作業道や林道が谷を渡るさいの一般的な工法は、道が勾配を変えずに上り勾配のまま谷を通過するようにするため、道の下にヒューム管を埋設し、谷の水を下に流す。この場合、谷は盛り土状態になる。ここに大雨が降ると、土石流が起こってヒューム管が詰まり、土石が上にどんどん堆積し、そして崩壊が起きる。谷を渡る作業道は時限爆弾を仕掛けたようなものだ。熱海がそうだった。九州北部豪雨でもそれが至るところで起きている。

 

 では、自伐型林業はこれをどう防いでいるか。
 まず作業道の道幅が狭く、切り土盛り土の量が少ない。急傾斜は木組みをし、土止めをして、ユンボで固めている。
 作業道が谷を渡るさいには、谷を中心に勾配を下げて上げる。そして道の上を谷の水を流すように石組みや木組みで堰をつくる。道が水の勢いを止め、土石流を止める。道が砂防機能を果たしているわけだ。

 

 また、幹線作業道から山腹に敷設される枝道が階段状につくられており(高密度路網)、これが水の流れを止める治山の役割や水源かん養機能を果たしている。棚田と同じ原理である。

 

 経済的に成り立ち、土砂災害も防ぎ、道で砂防効果を発揮するこういう自伐型林業を、高知県佐川町では6年前から始めて、6年間で新規就業者が50人をこえ、うち移住者が32人(家族を含めると100人程度)となっている。島根県津和野町や鳥取県智頭町でもその方向を追求している。これは新たな地方創生事業のモデルになるのではないか。それによって土砂災害から人々の生活を守る郷土づくりができると思う。

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