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メガソーラー、森林伐採…山の乱開発が土砂崩落を誘発 熱海市伊豆山の土石流災害の背景にあるもの

 静岡県熱海市伊豆山で3日午前10時半過ぎから、大規模な土石流災害が発生した。住宅地のそばを突然、真っ黒な濁流が何度も襲い、家々を破壊し、電信柱をなぎ倒し、車を呑み込んで流れていく動画が、全国の人々を驚かせている。この土石流災害の原因について専門家は、森林の水源かん養機能、保水機能を破壊してきた開発の問題を指摘している。なかでも土石流の起点にあった盛り土とその崩落、そこからわずか数百㍍のところにある太陽光発電所とそのための森林伐採があわさって、市街地を襲う土石流の原因になったとのべている。また各地でメガソーラー計画に直面する人たちは、山の尾根を削り、その土砂で谷を埋めてソーラーパネルを敷き詰める計画そのものの危険性を問題にし始めた。本紙は専門家に意見を求め、今回の土石流災害の背景を調べてみた。

 

 今、熱海市伊豆山では、梅雨前線による雨が断続的に降り続いているが、二次災害の恐れも指摘されるなか、土石流が発生した逢初(あいぞめ)川上流から土砂が堆積する下流にかけて、懸命な捜索・救助活動が続けられている。6日午後11時段階で7人の死亡が確認され、住民五62人が市内のホテルに避難しているが、まだ安否が不明な人も多い。また、伊豆山地区は広範囲に断水しており、熱海市が住民に給水をおこなっている。

 

土砂で埋まった熱海市伊豆山の市街地(4日・高田宏臣氏撮影)

 静岡県は、今回の土石流の起点を、逢初川の河口から西へ約2㌔の山中だと発表した。土石流の最大幅は約120㍍で、面積は約12万平方㍍に及び、「時速40㌔」ともいわれる猛スピードで家々を呑み込みながら海に流れ込んだ。被害家屋は130棟以上におよぶ。

 

 熱海市では1日から断続的に雨が降っており、土石流が起こる3日午前10時までの48時間雨量は300㍉近くになり、平年の7月1カ月間の総雨量を48時間でこえた。ただ、1時間に30㍉以上の激しい雨は観測されておらず、強弱ありながら長時間降り続けた。また、熱海市周辺の土壌は箱根山などの火山灰や溶岩でできており、海岸近くまで山が迫り、その斜面に住宅やホテルが林立していた。静岡県は現場周辺を土砂災害警戒区域に指定していた。

 

 しかし、他にも土砂災害の危険地域に指定された場所がたくさんありながら、なぜ今回ここだけに大規模な土石流が発生したのか。しかも今回土砂災害が起こった起点付近は、土砂災害警戒区域には指定されていなかった。

 

 これについて幾人かの専門家は、ただでさえ近年の降雨量は尋常ではなく、現地の土壌も脆弱であったうえに、この場所では山の水源かん養機能を破壊する開発がおこなわれており、それによって今回の土石流災害が引き起こされたと指摘している。そして、崩落現場にあった盛り土の崩壊が土石流の引き金になっていること、そのそばに太陽光発電所があるが、そのために森林を広範囲に伐採したことでその崩壊を加速したことをあげ、そうした複合的な要因があるとのべている。静岡県の川勝知事は、「利権がらみの開発に厳しい目を向けなければならない」と、現地を調査し検証する方針を明らかにしている。

 

 静岡県や熱海市によると、土石流の起点は幅約100㍍、長さ約100㍍、深さ約10㍍にわたってえぐりとられており、そこにあった開発行為による盛り土約5万4000立方㍍のすべてが土石流とともに流出して甚大な被害をもたらした。崩落土の総量は10万立方㍍になると予測される。

 

 この盛り土周辺は、神奈川県の不動産会社が2007年頃から宅地開発のための森林伐採を開始し、もともと谷だったところに残土や産業廃棄物を捨て始めた。その後、この会社が事業から撤退すると、2011年頃に東京都の持ち株会社がこの土地を取得し、残土を固めて盛り土にした。また崩落現場からすぐ南の尾根筋に、この持ち株会社が太陽光発電所をつくっている。この太陽光発電所は国のFIT(固定価格買取制度)認定を受けていた。

 

盛り土崩壊が土石流の起点  徹底的調査・検証を

 

 千葉県で造園設計事務所を経営し、『土中環境』(建築資料研究社)などの著書のある高田宏臣氏は、本紙の取材に対して次のように答えている。

 

 「健康な山は、山頂部に雨が降ると木々が根を張る土壌に水が浸透し、それが伏流水となってゆっくり移動し、谷底から湧き水としてわき出て、それが川になり海に到達して豊かな漁場をつくる。そうした山と川が一体になった循環がある。だから尾根筋(山の一番高い部分の連なり)を削るということは歴史的にやってこなかった」。

 

 「ところが尾根筋の木々を伐採して平坦な土地にし、そこに太陽光発電や風力発電をつくると、雨が降っても平坦な土地にはしみ込まず、泥水になって回りの斜面を痛めつつ谷に流れ込む。そしてその細かな泥が谷底の表層に堆積して土の中の水脈を塞ぐ泥づまりを起こすと考えられる。山の水源かん養機能、保水機能は失われていく」。

 

 「とくに今回の場合、盛り土の崩壊が土石流の引き金になったと考えられるが、そこから数百㍍のところにある太陽光発電所付近から泥水が盛り土部分に流入していた様子がうかがえる。こうして数年間にわたって大地の水循環を壊して危険な状態にしてきたことが、今回の大規模な土石流につながったと見ることができる。」

 

 また、土石流の起点である崩落場所のそばには太陽光発電所のための作業道がつくられているが、作業道は排水対策などなしに安易につけられるうえ、大型トラックが行き来することで土地を痛めた可能性もある、と指摘した。

 

 地元の住民によると、この太陽光発電所は500㌔㍗程度といわれ、周辺のものをあわせて1000㌔㍗程度ではないかという。それでもこのような深刻な影響をもたらすのだから、今全国で計画段階及び稼働中の数万㌔㍗~20数万㌔㍗規模のメガソーラーだとどうなるか。しかもそれは、今回と同じく山の尾根筋の森林をさらに大規模に伐採し、平地にして太陽光パネルを敷き詰めるものだ。

 

 今回の土石流災害について、森林の伐採・造成と災害との関係を徹底的に調査・検証し、二度とこのような悲惨な災害をおこさないようにせよ、との声がわき上がっている。

 

メガソーラー計画次々浮上  伊豆半島の住民反対

 

 今回の災害現場に近い伊豆半島では、伊東市や函南町、下田市、伊豆市、河津町などであいついでメガソーラー計画が持ち上がり、各地で住民たちが反対運動に立ち上がっている。

 

 熱海市の西隣にある函南町では、軽井沢の山間部約65㌶(東京ドーム13個分)に10万枚以上のソーラーパネルを敷き詰めるメガソーラー計画を東京の事業者が進めている。6月30日には、函南町軽井沢メガソーラーに反対する会、同考える会、軽井沢区長会など四団体が川勝知事と面会し、環境アセスが終わっても工事を強行しないよう事業者を指導することを求めた。

 

 反対する会によると、この計画には以下の問題点がある。

 

 ・建設予定地は「特別警戒区域・急傾斜地の崩壊区域」「土石流危険区域」に近接している。

 ・地質は火山灰のため、保水力が弱く、雨水の影響で崩れやすく、土石流になりやすい。

 ・過去に何度も土砂崩れや土石流が発生し、住民の尊い命が奪われてきた。

 ・建設予定地の真下には丹那小学校や多数の住宅があり、また真正面には1000世帯の住民が暮らす南箱根ダイヤランド分譲地がある。もし土砂崩れや土石流が発生すれば、多数の人命が奪われる恐れがある。

 ・計画では、地元で山へ行く道として使っていたその道沿いに管を埋めて排水路として使うこと、集落内の水路も排水経路として使うこととなっており、それを住民の了承なく決めている。

 

 事業者はブルーキャピタルマネジメント(東京)で、売電は中部電力グループのトーエネックがおこなうという。事業者は「地元の同意は必要ない」「従って許可は必ず出て、事業は始める」といい、説明会は地域を限定し、多くの住民には知らせないまま事業を進めている。住民たちはこれまでに約2万筆集まった反対署名をさらに広げ、計画の中止を求めて行動している。

 

 また、熱海市の南隣にある伊東市では、伊豆高原の104・9㌶を事業地とし、そのうち43㌶の森林を伐採して、約12万枚のソーラーパネルを敷き詰めるメガソーラー計画が動いており、住民たちが伊豆高原メガソーラー訴訟を支援する会を結成して運動を広げている。事業者は伊豆メガソーラーパーク合同会社(東京)で、事業主体はハンファエナジージャパンである。

 

 支援する会によると、建設予定地は天城火山から流れ出た溶岩台地の上に、伊豆東部火山群等の岩砕や軽石などが降り積もった吸水性と透水性が高い地質の山地。ここで森林が大規模に伐採され、造成工事とパネルの敷設で山の保水力が失われれば、大規模な土砂災害を引き起こす可能性が非常に高い。また、事業者の計画では、山に自然に浸透している水を人工的に山の上に建設する巨大調整池に集め、小さな八幡野川へ排水するとなっており、それは川の氾濫や調整池そのものの決壊など災害発生のリスクを高め、下流域に住む住民の生命や財産を脅かす。

 

 しかし、事業者は住民にまともな説明をしないまま、2018年8月に工事着工。伊東市が、メガソーラーを規制する条例違反として工事中止を求めたが、聞く耳を持たず、逆に市会議員に対し「事業の遂行が不能になった場合の損害額は総額400億円」と説明した。そして伊東市が河川占用不許可処分を出すと、その取消を求めて伊東市を提訴した。これに対してメガソーラーによる災害のリスクで脅かされる住民たちが、事業者に工事差し止めの仮処分命令を申し立てる民事訴訟を提起、1万4000筆を上回る緊急署名もあわせて提出した。

 

 支援する会は現在、工事差し止め訴訟と、伊東市の出した宅地造成等規制法の許可の取消を求める行政訴訟をおこなっており、住民の力で計画を白紙撤回させることをめざしている。「伊豆高原のメガソーラーは、山の尾根を削り、その土砂で谷を埋めて、そこにソーラーパネルを敷き詰める計画だ。今回、熱海では盛り土の崩落から大規模な災害になっており、その危険性は明らか。再エネを進める国に対しても意見をあげていかなくてはと話し合っている」とのべている。

 

 「自然エネルギー」を標榜する太陽光や風力などの再エネだが、実際には自然にも人間にも優しくないことが暴露されている。これまでも全国各地のメガソーラーや風力発電建設計画に対し、住民たちが土砂災害の危険性を声を大にして訴えてきた。今回の熱海の土石流災害は、とり返しのつかぬ犠牲をともなって、外資を含む大企業や投資会社がもうけのために進める大規模再エネ事業に警鐘を乱打するものとなっている。

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この記事へのコメント

  1. 山口雅之 says:

    はじめまして

    函南町 軽井沢のメガソーラーを考える会
        共同代表の山口です。

    私達は、2年前に住民の知らないところでメガソーラー計画が進んでいることを知り、調べれば調べれるほど土石流の被害に遭うおそれが高く、住民の命や暮らしを守るため有志で反対運動を立ち上げました。

    知事にメガソーラーの危険性を直接お伝えするのに2年掛かりました。

    まさか、3日後、私達が懸念していた最悪の事態が熱海市伊豆山で起こったことは、ご承知のとおりです。

    私達は、森林法や林地開発許可の審査基準に問題があることに気付きました。

    今後、静岡県だけで動いていても国の政策に影響を及ぼすことは困難と判断し、全国でメガソーラーや風力発電建設に反対運動されている団体と全国組織を立ち上げることにしました。

    今後の予定

    7月18日(日)
    午後1時30分から全国の皆様方とZOOM会議を開催し、そこで全国会議を立ち上げる予定です。

    1 会議名
    仮称、
    全国再エネ問題
    連絡会議

    2 立ち上げメンバー
    ① 静岡県
    ② 兵庫県
    ③ 奈良県
    ④ 和歌山県
    ⑤ 宮城県
    ⑥ 青森県
    ⑦ 滋賀県
    ⑧ 京都
    ⑨ 長崎県
    の計9県です。(まだ増える予定)

    3 結成の目的
     全国各地でメガソーラー問題や大規模風力発電問題に取り組む団体などがネットワークをつくり、自然環境の保全や地域住民の安全安心な生活と両立する再生可能エネルギーの推進を実現できる制度をめざし、国民の声を届けることを目的に結成するものです。

    ※ 私達は、政治的背景は一切ありません。
      全国の有志とともに国に働き掛けを行ってまいり 
      ます。
      ご理解頂き、お力添えを頂ければ幸いです。
      よろしくお願い致します。

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