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阿鼻叫喚のワクチン争奪戦 ネット予約は5分で終了 医療機関には行列が… 下関の実情に見る

 新型コロナワクチンの高齢者向け優先接種(集団接種)の第1回目の受付が10日、下関市でも始まった。接種券は3月末から4月上旬にかけて各家庭に届いているのに、なかなか申し込みが始まらない状態が続いてきたため、初日に申し込みが殺到し、受付を開始した午前9時から、Web予約はわずか5分後に、コールセンターの受付は1時間50分後に締め切られた。朝からコールセンターに電話をかけ続けたが、つながらない人が続出し、市役所にも問い合わせや苦情の電話が殺到した。医療機関での個別接種の受付は17日に始まる予定だが、そこにも予約の連絡をする人があいつぎ、すでに「枠がいっぱいになった」と通知する医療機関も出始めるなど、混乱をきわめている。どの自治体も似たような騒乱状況になっている。

 

 今回、下関市が受付したのは、下関市体育館でおこなわれる集団接種の予約だ。接種日は1回目が5月25~28日、2回目が6月15~18日のそれぞれ4日間で、定員は1128人(1日当り282人)だ。

 

 ある女性はこの日、1日中電話する構えで、午前9時の受付開始に備えて待機した。固定電話と携帯電話の両方を使い、コールセンターに電話をかけ続けたが、「ただいま電話が混みあっております」というアナウンスばかりでなかなかつながらない。そうしていると、市のホームページを見た娘から「もう予約がいっぱいになったから、電話しても無駄よ」という連絡があったので、電話するのをやめたのだという。コールセンターに電話しても、予約がいっぱいになったという案内はない。もし娘から連絡がなければ、1日中かけ続けていたという。

 

 別の70代の女性も、午前9時ちょうどにコールセンターに電話をかけたが、すでに電話が混みあっていてつながらなかった。10回かけたが結局一度もつながらないまま、用事があるので申し込みをあきらめたという。なかには高齢の両親の予約をするため、早くから10日に休暇をとり、電話の前に構えていたという人もいる。

 

 対象となる高齢者(2021年度中に65歳以上となる人)は下関市内で約9万5000人いる。そのうち施設入所者が約6500人なので、今回の申し込みの対象になる人はおよそ8万8500人。倍率にして78倍だ。初日に全員が申し込んだわけではないだろうが、それだけの規模が1128人の枠に殺到したのだから、20台しか電話のないコールセンターがパンクするもの当然だ。

 

 ある女性はコールセンターにつながらなかったので、市役所に電話したが、それもつながらない。何度目かにようやくつながったものの、「なにもわからない」という対応だったという。「せめて今日、何人受けつけたのかなどの説明がほしかった。受付だけでこれだけ混乱するのだったら、体育館での接種はもっと混みあうのではないかと心配になった」と話した。

 

 市役所には10日、こうした人たちの問い合わせが殺到し、電話が鳴りやまない状態が続いていた。直接市役所を訪れる人も多く、市保健部は市役所1階のロビーに「新型コロナワクチン接種について市役所では予約を受け付けていません」という貼り紙をした机を置いて職員が待機し、ワクチン関連で市役所を訪れる高齢者に、今後の予約の日程や医療機関での個別接種の予定の説明をおこなっていた。

 

予約の問い合わせに来た市民に説明する市職員

市役所入り口の貼り紙

 

 なお、コールセンターへのナビダイヤルは「有料」と記されているので、電話代を気にしながらかけ続けた人も少なくない。その点について市保健部に聞くと、「ただいま電話が混みあっております」というアナウンスのあいだは料金は発生せず、「20秒で10円かかります」というアナウンスの後から料金が発生するようになっているという。つながらなかった人に電話代は発生しないそうだ。

 

今後の集団接種 毎週月曜日に予約受付

 

 市は今後、高齢者向けの集団接種について、毎週月曜日に2週間後の予約を受けつける予定としている。受付数は調整中だが、おおむね接種日1日当り282人を想定している。日程は以下の通り。

 

 受付日…5月17日(月)~/接種日…6月2日(水)~4日(金)
 受付日…5月24日(月)~/接種日…6月7日(月)午後~6月11日(金)
 受付日…5月31日(月)~/接種日…6月14日(月)午後~6月18日(金)

 

 現在、市は集団接種の体制を煮詰めており、開業医などが輪番で2人ずつついて、接種を看護師3人体制でおこなう予定で動いているという。そのほかに、会場でワクチンを希釈して注射器に充填する作業や、事務作業をするスタッフなどが必要だ。

 

個別接種は100超の医療機関で可能

 

 同時に17日には、医療機関でおこなう個別接種の受付が始まる。市内では100をこえる医療機関で接種が可能となっている。

 

 自治会等を通じて配布される「個別接種のお知らせ」のチラシに掲載されているのは39医療機関だが、公表していない医療機関の方が多いということだ。かかりつけ医や最寄りの医療機関に問い合わせるのがもっとも早いと思われる。実際にかかりつけ医から声がかかり、安心している高齢者もいる。

 

 

 しかし、市は「チラシやホームページに掲載のない医療機関への問い合わせは控えるように」と告知しており、普段病院に行かない市民は路頭に迷う状態となっている。

 

 また、すでに10日には集団接種の予約ができなかった人たちが医療機関に殺到している。ある医療機関ではこの日、開業前から高齢者が列をなし、開院後も入りきれず外に並んで待つ状態になっていた。なかには「ここで予約ができる」という話を聞き、探してきた人もいた。この病院では通院している患者に限定して予約を受けつけたところ、予約患者で待合室がいっぱいになって通常診療ができないほどの状況になり、「パンクしそうだ」と予約をうち切ったという。

 

 またある地域では、自治会が「地域内の医療機関で17日から予約ができる」と地域住民に知らせたところ、10日朝から医療機関に予約が殺到し、午後4時の時点で「7月末までの予約が埋まったので、締め切りました」という連絡が関係者に入ったという。

 

 医療機関の場合、それぞれ通常診療をおこないながら、曜日や時間帯を決めてワクチン接種の日程を組んでいる。時間やスタッフの数などに制約があるため、接種数には限界がある。予約をうち切っている医療機関も少なくないとみられ、チラシに掲載されている医療機関に17日の予約開始時に連絡しても、予約できない可能性がある。

 

 ある開業医は、「10日も100件近く電話がかかってきたが、今のところ“うちは予約を受け付けていない”と断っている。市から説明があり、接種する予定にしているのだが、ワクチンがどの程度入ってくるのか確約がとれていない。予約を受けてワクチンがないという状態になると、患者さんがどうなるのか心配なので…」と話した。医師たちも全体像が見えないといい、早すぎる接種券の郵送をはじめ、高齢者に対するワクチン接種が見切り発車で走っていることが大混乱を招いていると指摘していた。

 

ワクチンは届くのか 「65歳以上分は確保」

 

 医療関係者らが心配しているのは「本当にワクチンが届くのか?」ということだ。医療従事者への先行接種、優先接種、高齢者への先行接種(施設入所者)がおこなわれてきたが、これまでの「来週に何本」といった形の連絡では長期の見通しが立たず、市もワクチンが入る量を見ながら接種計画を立てざるを得なかった。

 

 市保健部に今後の見込みを聞いたところ、4月30日の厚生労働省からの通知で、今後は2週間分ずつまとめて箱単位で届くことがわかり、ようやく65歳以上の高齢者に2回接種できる量を確保できる見通しが立ったという。

 

 下関市の場合、5月10日からの週、5月17日からの週の2週間分で34箱(1箱195バイアル入り)が、6回分とれる針とシリンジと一緒に届くことになっている。1箱で1170回分なので、34箱では3万9780回分。次の2週間分も同程度届くことになっていて、この通知があったことで、ようやく65歳以上の高齢者に「安心してお待ちください」と呼びかけることができるようになったという。

 

 また、市に届いているワクチン保管用のディープフリーザーは2台(そのほか、いくつかの医療機関が保有している)なので、ワクチンとともに追加でもう2台、国から届く予定になっている。これらのディープフリーザーでワクチンを保管しつつ、各医療機関や集団接種会場にワクチンを届けるようにする予定だ。

 

 国が高齢者に対する接種を7月末までに終わらせるといっているため、現場は「終わらせるよう頑張るしかない」という。ただ、まだ接種すべき人は残っている。今、医療従事者向け優先接種の第3段階目の人が2回目の接種をおこなっているところだ。5月末に第4段階目の医療従事者が1回目の接種をおこなう予定となっており、これらの人が6月に2回目を接種して、ようやく医療従事者への接種がおおむね終了する。

 

 4月15日に始まった施設に入所している高齢者への先行接種は、約6500人(約200施設)のうち、5月8日時点で1回目の接種が終わったのは7施設・約800人に過ぎず、まだ6000人近い対象者が残っている。ここへの接種が、集団接種・個別接種と同時並行で進むことになる。

 

 インフルエンザワクチンと違い、接種後30分間の経過観察が必要なことや、スタッフの確保などを考えると、「本当に7月末で終了できるのか」という疑問は拭えないものとなっている。

 

 なお、高齢者向けのワクチンは確保できる見通しが立ったものの、8月以降の供給量は未定だ。65歳未満の人に対する接種は、基礎疾患がある人、高齢者施設従事者など優先順位が決まっており、市は今後日程が決まり次第、公表するとしている。

 

 後手後手の政府対応に、市町村は振り回され続けている。「7月末までに高齢者に接種する」など口でいうだけでなく、希望する国民にワクチンが行きわたるよう、スタッフが確保できるように国が動かなければ、この騒乱は収まらない。

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