新型コロナ感染のパンデミックから一年を経過し、ワクチン接種が始まった国もあるが、世界各国のコロナ対策の基本は、症状のある患者ばかりでなく無症状者が感染を拡大するという新型コロナウイルスの特性に対応したPCR検査の拡大だ。早期に無症状の感染者を発見し、隔離・治療することがコロナの感染拡大を防ぎ、重症化率や死亡者数を減らす道として各国が力を入れてとりくんでいる。ところが日本は検査実施数を極度に抑え込んでおり、世界各国に比べ見劣りする状況が鮮明に浮かび上がっている。
イギリス政府は新型コロナ検査拡大の一環として4月9日から、イングランドのすべての市民が週2回のウイルス検査を無償で受けられるようにした。約30分で結果が出る迅速検査で、検査キット(1箱7回分)は検査会場や薬局、郵送で無償で入手できる。迅速検査は症状がない人を対象としたもので、自宅でも実施できる。
ジョンソン首相は「ワクチン接種計画が進んでいるが、これらの努力がむだにならないようにするためには定期的な迅速検査がさらに重要になる」とのべ、保健相も「コロナに感染しても3人に1人は無症状だ。陽性者を迅速に発見し、大規模な感染をくいとめるために定期的な迅速検査は欠かせない」としている。
このほか世界各国の今年1月段階でのPCR検査実施状況を見てみると次のようになっている。
欧州で最初にコロナの感染爆発が起こったイタリアでは、自覚症状がなくてもPCR検査を受けられる。PCR検査は公立病院の検査機関、公立病院や赤十字のドライブイン方式、私立の検査機関などさまざまな場所で受けられる。料金はホームドクターの処方箋があれば無料、そのほかは3000円程度必要だ。PCR検査ののべ実施率は約45%。1日当りの被検査者数は平均で約20万人。人口は日本の約2分の1であり、かなりの数が検査を受けている。
スイスでは、PCR検査と抗原検査を広範囲におこなっている。自覚症状が一つでも出たらPCR検査を無料で受けることができるのと同時に、全国にある多くの薬局で15~30分で検査結果がわかる抗原検査を受けることも可能だ。PCR検査と抗原検査ののべ実施率は44%で国民の半数に迫っている。
8カ国と国境を接するオーストリアでは、全国民を対象にした無料の抗原検査をおこなっている。自覚症状がある場合、および無症状者向けの無料の抗原検査で陽性が出た場合は、PCR検査を無料で受けられる。
首都ウィーンでは大規模検査場が市内数カ所につくられ、ドライブイン方式、ウォークイン方式、コンテナボックス利用など、複数の選択肢がある。濃厚接触者になった場合には、直接自宅まで検体採取に来てもらえる。ほかにも薬局で購入できるキットもあり、検査しやすい環境が整備されている。1日当りの検査数は約2万件で、PCR検査および抗原検査ののべ実施率は約44%だ。
オーストラリアでは、無症状でもほぼ無料で検査が可能だ。本人が少しでも気になる症状があれば「無料」で検査を受けられる。人口は日本の約5分の1で、1日当りの検査数は6万件、PCR検査ののべ実施率は45%だ。オーストラリアは世界的に見てもコロナ感染拡大抑え込みに成功した国の一つだ。徹底した感染防止対策を講じていることに加え、日本に比べてもPCR検査の実施率が高いことが要因としてあがっている。
OECDで最低水準の日本
こららの国々に対して日本の場合は、PCR検査を無料で受けられるのは原則として「医師が必要と判断した場合」に限られる。希望者は症状がなくても費用を払えば民間の検査機関などで受けられるが検査料金は1万~5万円というケースが多い。1日当りの検査数は今年1月で最大約7万6000件。PCR検査の実施率は人口の4・4%でしかない。
日本のPCR検査数の少なさは、OECDが出した昨年4月15日までに人口1000人当り何人がPCR検査を受けたかの報告書でも明らかになっている。
日本はOECD加盟国35カ国のうちでメキシコの0・2人に次いで少ない。日本の検査数は1000人当りわずか1・1人だ。韓国の10・4人に比べると一桁少なく、OECD加盟国平均の15・2人よりはるかに少ない。イタリア18・2人、ドイツ17・0人、アメリカ9・3人、フランス5・1人、イギリス4・5人など、多くの感染者を出している欧米諸国に比べても差が目立っている。
千葉大学大学院の研究グループは、新型コロナで死亡者数を減らすためにはPCR検査の陽性率を低下させることが必要であり、そのためにはPCR検査数を幅広く拡充させることが急務だとの研究結果を発表した。
PCR検査の陽性者が増加して数日経過してから死亡者の増加が始まるが、この死亡者数の増加が始まるまでの期間とPCR検査の陽性率が反比例していることを研究グループが発見した。陽性者が確認されて直ちに死亡者が増加した国は、PCR検査が不十分で症状が出る前の早期感染者を見落としている、あるいは重症者の入院が手遅れになった可能性が高い。
十分なPCR検査をする国では1日当りの死亡者数は少なくなっている。陽性率2%以下の国では、1日の死亡者の減少傾向が見られる。たとえばオーストラリア、台湾、中国、韓国など。陽性率7%未満の国の死亡者数は陽性率がそれ以上の国の15%にすぎず、陽性率7%未満を保つことが死亡者数の抑制にとって重要としている。日本は東京や大阪などで陽性率7%を上回る状況が続いている。同研究グループはPCR検査を拡大することが急務としている。
ワクチン接種は世界で格差 遅れる発展途上国
新型コロナワクチンの接種は4月30日現在で昨年12月上旬のイギリスを皮切りに世界185カ国・地域で始まっている。4月29日までに世界全体の累計接種回数は10億8528万回をこえた。国・地域別ではアメリカ、中国の接種回数が突出し、両国で全体の44・1%を占めている。接種完了人数で見ると、人口100人当りではイスラエルが56・1人で、すでに2人に1人以上が接種を終えた計算になる。
ワクチン接種を終えた人数が人口の7割をこすと感染拡大を抑止しやすい「集団免疫」に近づくとされている。現状の接種ペースが続けば、アメリカやイギリスは今夏~秋にも「集団免疫」に達するみこみだ。
ワクチン争奪戦を有利に進めているのが先進国だ。EUは18・4億回分のワクチンを契約済みで、アメリカは1カ国で12・1億回分を押さえた。日本は3・13億回分を確保したとされる。接種可能性が多いのはカナダで、国民1人当り4・3回の接種ができるワクチンを契約済みだ。
一部の先進国が巨費を投じてワクチンを一人占めする一方で、経済力に劣る発展途上国での接種は遅れている。とりわけアフリカではまだ一部の国でしか始まっていない。
日本では4月20日時点で少なくとも一回接種した人は約139万人で、全人口に対する接種率は1・1%で、先進国では極端に低い水準だ。最大の要因はワクチンの供給不足で、国内で使用できるワクチンはいまだに米ファイザー製のみ。生産工場がある欧州からの輸入に頼らざるをえず、欧州連合(EU)の輸出規制の壁も立ちはだかる。
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は4月16日、「一つの国、一つの地域だけで一度にうち勝つことはできない」とのべた。テドロス氏は「8億3200万回分のワクチンのうち82%が中高所得の国に集中し、低所得国へは0・2%しか配分されていない。ワクチン接種を済ませた人は、高所得国では4人に1人だが、貧困国では500人に1人だ」と指摘した。
また、安保理会合で2月16日、メキシコ代表団がワクチンの分配が「不公平」だと問題提起した。ワクチンの生産国に比べ、中南米・カリブ海諸国の接種率ははるかに低いと指摘した。メキシコは複数の契約により、最終的に計2億3000万回分余りのワクチンを調達する予定だが、2月までに接種できたのは75万回にとどまっている。ワクチンの供給がひっ迫するなか、一部の国による買い占めを批判する声はメキシコだけでなく、多くの国から上がっている。
WHOのテドロス事務局長は1月、ワクチンが貧富の差を固定する壁の一部になるとの懸念を示した。WHOがもうけた共同購入の国際的枠組み「COVAX(コバックス)」は、今年末までに貧困国などへ約20億回分を供給するとの目標を掲げている。COVAXを通した分配計画では、中南米・カリブ海諸国には六月末までに最低3500万回が供給される。それでも、この地域で感染拡大を抑えるのに必要とされる五億人への接種には、まだ程遠い。