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世界を襲う変異株の出現 日本政府はPCR検査を拡大せよ

 新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)と世界保健機関(WHO)が表明してから3月11日で1年が経過した。28日時点で世界の累計感染者数は1億2638万人、死者数は277万人にのぼる。この1年のあいだにワクチン接種が始まり収束の兆しともされていたが、それも束の間、新たに感染力や致死率がより強い変異株の急速な拡大で、収束への道のりはさらに遠ざかっている。WHOによると、変異株は7日時点でイギリス型が111カ国・地域、南アフリカ型が58カ国・地域、ブラジル型が32カ国・地域に拡大している。日本政府は21日に一都三県の緊急事態宣言を解除したが、フランスでは18日にパリなど首都圏を含む16県(約2200万人)のロックダウンを発表した。専門家は「油断するときではない」と警鐘を鳴らし、変異株拡大で感染数や死者数が増加する危険性を強調している。変異株については明らかになっていない部分も多いが、専門家の見解ともあわせて実情を見てみた。

 

 変異した新型コロナウイルスの流行は昨年12月にイギリスで確認された。それ以来、変異株による感染拡大が各国であいついでいる。イギリス型に続いて南アフリカ型やブラジル型など新たな種類が出現している。

 

 ウイルスの変異は珍しくなく、新型コロナは2週間に1回のペースで変異を重ねている。ウイルスは増えるときに一定の割合でゲノム(全遺伝情報)のコピーをくり返すが、その過程で間違えてコピーをすることによって変異株が発生する。新型コロナのゲノムは全部で約3万塩基あり、平均15日に1カ所の頻度で変異する。

 

 一昨年、中国の武漢で見つかった初期型は、昨年春に欧州型の変異株が世界に広まるなかで姿を消した。日本でも昨年春の感染拡大期に欧州型の変異株が約300確認されたが、大半は消えてしまった。

 

 だが、その後イギリスで発見された変異株は新型コロナの感染力にかかわる構造(突起の先端部)が変化し、感染力は従来の最大1・7倍と推計されている。この型の変異株は欧州を中心に約111カ国・地域で確認されている。

 

 イギリスでは昨年12月、変異株の急速な感染拡大に警戒感を強めたジョンソン首相がそれまでの方針を急転換し、大規模なロックダウンに踏み切った。変異株は昨年11月末段階でイングランド南東部で見つかっており、従来のウイルスに対して変異は23カ所と異例の多さであるうえ、変異のいくつかはヒトの細胞に結合する部分で起きており、これによって感染力が高まった可能性があると政府の首席科学顧問が指摘している。従来のウイルスに比べ感染力が最大で七割高い可能性があるとした。

 

 ジョンソン首相は昨年12月19日に「ウイルスが攻撃方法を変えてくるなら、われわれも防御の方法を変えなければならない」「変異株は急速に拡大している。今わかっている情報にもとづいて行動する必要がある」として、ロンドンの全域とそれをとり囲む南東部の大半のロックダウンを宣言した。イギリスの全人口の3分の1にあたる2000万人近くが対象になった。

 

 フランスでは18日にカステックス首相が、パリを含む16県で20日から4週間にわたって3度目のロックダウンを導入すると発表した。対象となったのはおもに北部の県で、2100万人に影響が及ぶ。フランスでは感染の第三波に襲われており、イギリス型の変異株が75%を占める。従来のウイルスより30~70%感染力が強く、とくに子どもがかかりやすい。とりわけパリは深刻で、10万人当りの感染者数が400人を上回り、集中治療室(ICU)の入院患者数は1200人と第2波のピークをこえている。

 

 生活必需品以外を扱う店舗は書店を除き営業禁止。自宅から10㌔㍍以内での移動や運動は許可されるが、他県への移動は禁止。学校は閉めないが、屋内でのスポーツは禁止。児童生徒、教職員を対象に毎週30万人規模で検査を実施している。

 

 また、ロックダウンで休業せざるをえない事業体の従業員には、給与の手取りの約7割を政府が負担する。レストランやカフェに関係する卸売業者や納入業者等のうち、売上が70%以上減少している企業に月20万ユーロを上限に2019年の売上の20%に相当する額を給付する等々、経済的な補償も具体的、重層的な措置が発表された。

 

 イタリアでは15日から国の半分でロックダウンが開始された。生活必需品を扱う店以外の営業が禁止され、学校も閉鎖された。これまでも夜間の外出制限措置がとられてきたが、変異ウイルスの拡大に歯止めがかからず、より強硬な措置をとった。

 

 イタリア保健省が12日に発表したところでは、1日当りの新規感染者は2万6824人で、この1カ月間で急速に増加している。 

 

 ドイツでは3月に入り昨年11月から続いているロックダウンが一部緩和されたものの、2月中旬に底を打っていた新規感染者数が増加に転じている。イギリス型の変異株は1月中旬は全体の5・6%だったが、3月初めには72%に急増した。またドイツでは、イギリスや南アフリカのものとは異なる変異株も見つかっている。

 

ブラジル型

 

 ブラジルでは10日、新型コロナウイルスによる1日当りの死者数が初めて2000人をこえて2286人となり、過去最多を記録した。感染率も急上昇している。感染者の合計は26万8370人となり、アメリカに次いで世界で2番目に多い。同日の新規感染者は7万9876人で、1日当りの人数としては3番目に多かった。

 

 専門家は、アマゾン地域の都市マナウスで発生したと考えられる感染力が強い変異株によって、ブラジル国内の感染率が上がっていると警告している。

 

 ブラジル型の変異株は、従来型より感染力が最大で2倍ほど強い可能性がある。また、従来型への感染によってつくられた免疫から逃れる性質を持っているとも見られている。従来型に感染した人がブラジル型変異株に感染する確率は25~60%とされる。

 

 WHOのテドロス事務局長はブラジル型変異株が拡大する恐れがあると警告している。

 

南アフリカ型

 

 南アフリカでは昨年10月ごろに変異株が最初に確認され、昨年12月に入り感染者が急増した。昨年12月3日の新規感染者数は約4400人だったが、同31日には約1万8000人と4倍をこえた。累計感染者数は同27日にアフリカで初めて100万人を上回った。

 

 南アフリカ型の変異株はウイルスを攻撃する抗体から逃れる「逃避変異」と呼ばれる変異を持っており、過去の感染によってできた免疫やワクチン接種によってできた免疫から逃れる可能性がある。すでにコロナに感染した患者の血液中の抗体を使い科学者らが検査したところ、サンプルの半分で変異したウイルスを中和する働きがまったく見られず、再感染から守られない可能性が明らかになった。

 

 従来のウイルスより50%感染しやすく、ワクチンの有効性も低下する可能性が高い。ファイザーのワクチンは南アフリカ型に対し防御効果が下がるとの実験結果が出ており、アストラゼネカ製も軽症者への効果は従来型に比べて限定的と判明した。このためアストラゼネカは南アフリカ型に対応するワクチンを今年秋までに準備したいとの意向を表明した。モデルナも南アフリカ型の変異株に対抗するワクチンを開発し、臨床試験を開始した。ファイザーは通常より1回多い3回の接種で既存のワクチンが変異株への有効性を高められるかどうかを調べる治験を開始した。だがウイルスは今後も変異をくり返し、新たなワクチンを開発しても効果がなくなる可能性が高く、収束するまでワクチン開発を続けなければならない。

 

 南アフリカ型変異株は現在は世界中に拡大しており、7日時点で58カ国で確認されている。

 

研究者らの報告から

 

 ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の研究者らのチームは15日、科学誌『ネイチャー』で、イギリスで発見された変異株はほかの変異株よりも感染力が強いだけでなく、致死率も高いことが明らかになったと発表した。

 

 イギリス型の変異株は昨年秋にイギリスで初めて確認され、12月までにアメリカなど数カ国で見つかった。昨年末にはイギリスで支配的な変異株になり、感染拡大の第二波をもたらし、イギリスは人口10万人当りの死者数が世界で2番目に多くなった。

 

 研究ではイギリスで新型コロナで死亡した5000人近くのウイルスの遺伝データを調査し、3分の2に変異株の感染が確認された。その結果、変異株感染者は検査で陽性反応が出てから28日以内に死亡するリスクが、ほかの変異株への感染者より55%高いことがわかった。

 

 同大学院の助教授は「イギリスでは今年1月と2月だけで新型コロナの死者は4万2000人に達した」「治療面で大きな進歩があったにもかかわらず、2021年の死者数はすでに2020年のパンデミック開始後8カ月間よりも多くなっている」とのべている。

 

 イギリスのエクセター大学などの研究チームも10日、昨年10月から今年1月までの期間に病院以外の検査所や自宅で新型コロナウイルス検査を受けて陽性になった約5万5000人について追跡調査をおこなったデータを発表した。

 

 それによるとイギリスで確認された変異株の致死率は1000人当り4・1人で、従来株の1000人当り2・5人と比べ64%高かった。研究チームはイギリス変異株が従来株に比べ「相当の追加死者を生む可能性がある」としている。

 

 アメリカのワシントン大学保健指標評価研究所のクリス・マーレイ所長は3日、最近まで有効なワクチンの発見が集団免疫の達成を助ける可能性があることに希望を抱いていたが、感染力の強い変異株がワクチンの効果を弱める可能性があるだけでなく、感染したことのあるヒトの自然免疫をもくぐり抜ける恐れがあり、当初の仮設を修正せざるをえないことを明らかにした。

 

 マーレイ所長はまた、南アフリカ型や同様の変異株が急速に広がり続けた場合、次の冬のコロナ感染による入院数や死亡数はインフルエンザ流行の4倍に高まる可能性があるとしている。これは有効性65%のワクチンが国民の半数に接種されたと仮定したうえでの見通しだ。マーレイ氏の研究所が出している今年6月1日までの予測では、コロナ死者はアメリカでさらに6万2000人、世界でさらに6万9000人増えるとしている。

 

 イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンの感染症疫学専門家であるアズラ・ガーニ氏は「昨年のクリスマス時点では、ワクチン登場を極めて楽観的に受けとめた」としたが、しかし「12月末にはイギリスで感染力の強い新たな変異株が見つかった」と警告した。イギリス国内ではこの変異株が感染の主流になり、ほぼ同じころ南アフリカとブラジルで感染力がさらに強い変異株が流行し始めた。

 

 アメリカのラホヤ免疫研究所のウイルス学者・シェーン・クロッティー氏は「昨年12月の時点ではコロナウイルスをはしかウイルスのように機能的に根絶することは可能だ」としていたが、その後の変異株の出現に警戒心を高める必要性があるとしている。

 

 また、新型コロナウイルスの流行抑制にとりくんできた他の専門家も昨年末にワクチンが登場したことで「はしか」のようにおおむね抑制できると希望をもったが、新たな変異株の発生がそうした楽観的な見方を打ち砕いたとのべている。

 

 変異株は従来のウイルスより感染者が増えやすく、ワクチンの効果の低下が懸念されている。たとえば変異株の感染力が50%強くなったと仮定すると、従来のウイルスの基本再生産数を2とし、変異株の基本再生産数を3とした場合、従来のウイルスは潜伏期5日ごとに2倍ずつに増え、変異株は5日ごとに3倍ずつ増える。20日後には従来のウイルスの感染者は16倍だが、変異株では81倍になる。

 

早期検査と隔離が必須

 

 変異株の拡大を防ぐために専門家は「早期検出(検査)」「隔離」「接触者調査」が重要としている。

 

 日本の現状では、新型コロナウイルスが検出された症例のうち5~10%程度に変異株かどうかを調べるPCR検査をおこない、陽性の場合にゲノム解析をおこなっている。従来のウイルスのPCR検査数も世界的に見てきわめて少ない日本で、はたしてこのような検査体制で変異株の拡大に対応できるかは疑問だ。

 

 たとえば中国・北京では今年1月、変異した新型コロナウイルス感染者が確認されたため、感染者が住んでいる地域で約155万人を対象にPCR検査を実施した。中国では今年1月に入って感染者が増加傾向にあり、首都北京南部の大興区では17日から11人の感染者が確認され、このうち2人はイギリス型の変異株に感染していた。これを受けて地元当局は、感染者が確認された地域の一部を封鎖し、住民2万4000人を自宅待機させたほか、大興区に住む約155万人を対象にPCR検査を実施した。

 

 また、今年に入り約500人の感染が確認された河北省の省都・石家荘市(人口約1100万人)では全市民を対象にPCR検査がおこなわれた。感染者が出た村は封鎖され、2万人以上の住民全員がホテルなどの隔離先に移された。瀋陽市では昨年12月に約40人の感染が確認されたが、約740万人の住民がそれぞれ2回以上のPCR検査を受けた。

 

 こうした徹底したPCR検査や隔離政策をとり、中国では新型コロナウイルスや変異株の大発生を抑え込んでいる。23日時点で感染者数は9万人、死者数は4600人となっている。

 

 日本の感染状況を見てみると、23日時点で感染者数45万8000人、死者数8800人となっている。今年1月1日~12日の新規感染者数は3000~7000人台で、1日当りの検査数は最大で約7万6000件、12日間平均で約4万7000件ときわめて少ない。PCR検査の総実施件数は553万1305件で、のべ実施率は人口のわずか4・4%だ。

 

 世界各国と比べて見ると、オーストラリアが約45%、イタリアも約45%、スイス約44%、オーストリア約44%、マレーシア約11%、フィリピン約6・5%、グアテマラ約3・6%となっている。先進国が軒並み40%以上の実施率で感染の実態把握に努めているなかで、1人当りのGDPが193カ国中113位のグアテマラと僅差で下位争いをするという貧相な実態だ。

 

 日本感染症学会によると、感染者の最大6割が無症状の可能性があるといい、検査をしなければ感染者を野放しにすることになりかねない。しかも、従来のウイルス以上に感染力が強く、ワクチンの効果も低い変異株の感染拡大が世界中で広がっているなかで、広範囲にPCR検査をおこない、まず実態を把握することが新型コロナウイルスの収束に向けてのとりくみの要となっている。

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